軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第901話 街を出ようとしたのに

さすがのネドリさんも、代官を相手にするのに疲れたらしい。エイデンが戻ってきてまもなく、ガズゥと一緒に戻ってきた。

疲れ果てた彼らを見たら、冒険者としての義理は果たしたでしょ、と、翌日には街を出ることにした。

「ここでいいかな」

街から魔の森のほうへと向かう道から少し離れた場所。周囲には人影は見当たらない。

私はタブレットの『収納』から魔道具の馬車を取り出した。ここからエイデンが運んだら一時間もかからずに到着するはずだ。

今回はガイシャさんとテオも一緒に村に戻る。うちの村の者でケセラノの街に残る者はいない。

「さぁ、乗ってちょう……」

と、私が言い切る前に。

「ネドリ殿ぉぉぉぉっ!」

遠くから野太い男の人の声が聞こえてきた。

「え、誰?」

「何?」

私とガズゥが周りを見回すと、街のほうから物凄い土煙が上がっている。

「……この声は、アブレウ殿か?」

「アブレウ? 誰、それ」

ネドリさんが困惑した顔で土煙のほうへ目を向けていたので、思わず問いかける。

「ケセラノの街を含めたこの辺りは、アブレウ伯爵家が治めているのです。おそらく、この声は次男のチェスター・アブレウ殿ではないかと」

「え、知り合い?」

「まぁ……彼は若い頃、冒険者をやってまして」

「貴族なのに?」

「まぁ、若気に至りというヤツだと思うのですが」

ほうほう、とその先を聞こうとした時に。

「ネドリ殿ぉぉぉぉ、お待ちくださいぃぃぃぃ」

「うわっ」

声が近くなって、私の耳が痛くなるほど。思わず耳を塞いで、しゃがみこむ。

「チッ、ヤツめ、『咆哮』を使いおったなっ」

そばにいたエイデンが何か言ってたけれど、耳を塞いだ私には聞き取れない。

「ぶべっ!?」

ドタンッ

トントンと肩を叩かれ顔を上げると、エイデンが心配そうな顔。

「五月、大丈夫か?」

「ん? いや、なんか、ぼわぼわする」

なんとか聞き取れたけれど、まだイマイチな感じだ。

差し出された手をとり立ち上がると、馬車の少し手前で地面で寝ている男の人の姿。

「あ、あれ? あの人」

「五月は気にするな。馬車に乗って待ってろ」

「え、あ、うん」

エイデンが笑顔なのに不機嫌そうなオーラを醸している。

なんとなく、これは言うことを聞いた方がいいかな、と思ったので素直に馬車に乗り込むことにした。

チラリと地面に寝ている人の方に目を向けると、ガズゥが男の人の頭をツンツンとつついている。

――だ、大丈夫よね?

私はそのまま馬車へと乗り込んだ。

* * * * *

チェスター・アブレウは、なんとしてもネドリを引き止めなければならなかった。

彼は精霊の声が聞こえるという、まだ幼い末の弟、シリルから、精霊たちがネドリや古龍、精霊王たちが怒っているという話を聞いたと教えられた。

普段は精霊の言葉を伝えることなどない弟が、びくびくしながらチェスターに伝えに来たのだ。

その話を聞いたと時を同じくして、ケセラノの街の冒険者ギルドから、領都の冒険者ギルドにもアースドラゴンと、犬獣人の村の話が伝わり、すぐさま伯爵家にも届いた。

――これか!

領主であるアブレウ伯爵と嫡男は、王都に行っていて間もなく戻ってくる予定だった。次男は身体が弱く、療養中。

「俺が行く!」

詳しい話をきちんと聞かねばならない。

伯爵家で動けるのは彼しかいなかったし、顔見知りでもある自分が向かうのが一番だ、と思ったチェスター。

「チェ、チェスター様、馬車を」

「いらん、走ったほうが早いっ!」

「せ、せめて、馬でっ」

「馬じゃ遅いっ!」

そう言って領都を走り出たチェスター・アブレウ。元冒険者、豹獣人。28歳。

ケセラノの街に到着して早々、エイデンに魔力で潰されるまで、あと一日。