軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

80.大天使ステラちゃん、炎獄の兎

アリスのドレスを選び終わった私たちは(一着ずつ丁寧にご説明されるのにヤキモキしたアリスが『ここからここまでいただきますわぁ!』って言ってすぐ終わった)、アリスのお部屋に案内してもらってみんなで遊び始めた。

私もレミもポーギーも五歳で、ダニーは七歳、アリスは九歳だから、ここにいるみんなの中でアリスはちょっとだけお姉さんだ。

アリスのお部屋には壁一面に本棚が並んでいて、そのほとんどが色とりどりのご本で埋まってる。

私の読むような絵本もあれば、お姉さん向けの字がたくさんの物語のご本なんかもいっぱいあるみたい。

「ステラに教えていただいた賢者さんがいっぱい出てくる物語、とぉっても面白かったですわ」

「虎さんのご本、もう読んでくれたんだ! わ、本当だ、棚に並べてくれてるんだねぇ」

「ええ。“虎の本”ではすぐ見つかりませんでしたが、ばあやがステラから聞いていた物語の内容にピンと来て、取り寄せてくれたんですことよ。普段読まない系統の物語で、わくわくしながら一気に読んでしまいましたわ」

「そうだよねえ、そうだよねえ」

「まさかあんな展開になるなんて……。続きが出たら絶対読みますわ」

「読むよね」

私とアリスはしっかりと頷き合った。

私の大好きな虎さんのご本をアリスも気に入ってくれたみたいで、とっても嬉しい。

虎さんのご本は続きがいつ出るのか分からないから、また本屋さんを覗きにいかないとだ。

前回六巻の最後では、一巻で虎さんが助けてからずっと一緒に旅をしてきた一番の仲間であるうさぎさんが、意味深な一言を放って終わってしまった。

“ 隠(かく) された 第八(だいはち) の 魔王(まおう) の 腹心(ふくしん) たる 炎獄(えんごく) の 兎(うさぎ) が 告(つ) ぐ。 閉ざされた扉を開けよ(ウヴリル・ラ・ポルテ) ”

怪しげな扉の前で、一人 佇(たたず) むうさぎさん。

あれは、一体何だったのか……。

私はやっぱり虎さんのご本の続きが楽しみすぎるんだ……!(キリッ)

そうして思いふけっていた私はふと思い至り、じっとダニーとポーギーを見た。

「どうしたの、ステラ?」

「……もしかしたらポーギーも、“隠された第八の魔王の腹心”……」

「え!? 何!? なに、ステラ!?」

私の視線とつぶやきを拾ったポーギーが、にわかに取り乱し、私が言った言葉を聞き返して来た。

私はそれに答えず、じっとポーギーを見続ける。

いつもかわいくて優しいポーギー。

それが、なんだか逆に怪しい気がしてきた。

「ねえアリス……どう思う……?」

「 あ(・) の(・) う(・) さ(・) ぎ(・) さ(・) ん(・) で(・) も(・) 、だったのでしょう?」

「うさぎさんが“黒”かどうかは、まだ分かんないよぅ」

「そうですけれど………ねぇ?」

私とアリスは、二人でポーギーを見る。

二人にじっと見られて、ポーギーはタジタジだ。

不穏な空気を感じたのか、それを見ていたダニーが状況が分からないながらもさり気なく一歩、ポーギーの前に出て二人からの視線を遮った。

ダニーはお口を尖らせて私を責めるみたいに見るけれど、お嬢様なアリスも一緒になってやっているからか、何を言うわけでもない。

でも、視線で『それ以上ポーギー困らせんなよ』って言ってるみたいだった。

「ダニーはやっぱり、うさぎさんを守る虎さんみたいだよねぇ」

私がそんなダニーを見て笑って言うと、それを聞き取ったアリスが「ダニーは虎さんみたいなんですの?」って興味を持ってくれたみたいに聞いてくる。

私は、私のはじめてのお友達のダニーのすごいところを自慢するチャンスだって思って、アリスにダニーのことをたくさん教えてあげることにした。

初めて会ったとき、まだ五歳くらいだったダニーが大人の男の人からポーギーを守ろうとしていたこと、読み書きも計算もかいぼうがくも、私よりもずっと早くできるようになったこと、ルイもすぐにダニーのことが大好きになっちゃったこと、怪我をした白猫のリリーを保護したとき、不安な私の手をずっと握っていてくれたこと、お医者の先生を私が泣かせちゃったとき怒ったこと、字が綺麗で、お野菜作りが得意で、ヤギさんのお世話の仕方を知っていて、お医者の先生とむつかしいお仕事をしていて───。

私は、ダニーが悪いことは悪いって、ちゃんとポーギーのことを守ってくれて、誰かが困っていたら助けてくれる、そんな、強く・気高く・賢い絵本の虎さんみたいな男の子なんだよって教えてあげた。

「………す、」

「す?」

「す、す、素敵ですわぁっ!!」

「うわぁ」

アリスが上げた声に、びっくりしちゃう。

私のお話をあわあわしながら聞いて、最後は頭から湯気を出してお顔を覆っていたダニーも、それをニヤニヤ見てたポーギーも、これにはびっくりしたみたいでお目目をまん丸にした。

叫んだアリスのほっぺはみるみる紅潮していって、そのほっぺを両手で挟むように包んだアリスはもだもだ見悶えてる。

お顔を耳まで真っ赤にしたアリスは、動きに合わせて揺れるウェーブがかった赤い髪も相まって、沸騰しちゃったみたいに茹だって見えた。

「ダニー 様(・) 、って、王子様みたいですのね……!」

「王子様?」

「ええ、物語に出てくる王子様みたいですわ」

興奮した様子でそう言うアリスにダニーがぎょっとし、私が不思議に思っていると、アリスは何か思いついたようにパッとお顔を上げて、ベッドのほうへと駆けていく。

大きくて広いお部屋によく似合った大きな天蓋付きのベッドのそば、そこにある他と比べて小ぶりな本棚にアリスは一直線に向かって行った。

アリスの腰くらいまでの高さしかない本棚はキャスターと扉が付いていて、そこには、アリスが寝る前によく読むようなお気に入りのご本たちがしまわれているみたい。

慣れた様子でその本棚の扉を開けたアリスは、そこから数冊の本を取り出して、胸に抱えて戻ってきた。

『じゃん!』と、自慢げにそれらを私たちの前へ並べて見せてくれる。

並べられたご本は同じ装丁で作られていて、同じに見えるタイトルの横には1・2・3って数字が振ってあるのが分かった。

そのタイトルには難しい字も混ざっていて、私にはまだ読めない。

そう思って私が本の表紙に描かれた模様のような絵を見ていると、横からひょいっと顔を出したダニーが何の気なしに言った。

「『迷いの森と、赤のお姫様』?」

「すごい! ダニー様は本当にもう漢字もお読みになれるのね! わたくし、漢字はまだお勉強中で、全部は読めませんの。ねえ、ダニー様はこの本は読んだことがあって?」

「えっと、字は読める、ます。だけど小説とかはまだあんまり読んだことなくて……」

「そうですのね、残念ですわ。とっても素敵なお話ですのよ。機会があれば、ダニー様もぜひお読みになってみて」

「はい、ぜひ。えっと、“様”はやめてくだ……さい。俺、平民なんで」

嬉しそうに話すアリスは、ダニーをチラチラと見てはポッとまた頬を赤らめた。

ダニーはそんなアリスにどう対応していいのか分からないみたいで、目を泳がせてそわそわ、困っているみたい。

「ねえステラも見て。このシリーズに出てくる……ほら、この挿絵のページ。この挿絵の王子様に、ダニー様が似ているって思いませんこと? 今日会ったときは雰囲気が似てるって、それだけでしたけれど、さっきのエピソードを聞いたらもう、この物語の王子様にそっくりな殿方なのだわって思いましたの!」

「わあ。素敵な絵だねえ。えっと、髪のお色やお目目のお色、それから優しそうなお顔とキリッとした眉は、ダニーと似ている気がするかもしれないなあ」

「でしょう!? でも、それだけじゃありませんわ! この王子様は剣も扱えてお強くて、高潔な御心をお持ちで、それに、機転が利いて頭脳明晰な、とても聡明な御方なのですわ! 妹の姫殿下を守るお話なんかは、ダニー様のお話とそっくり!」

私はフンフンって鼻息荒く前のめりで語るアリスのお話を聞きながら、ダニーとその王子様が似ているのかは分からないけれど、強く・気高く・賢い絵本の虎さんと王子様は似てるかもなあと思った。

アリスがその後も興奮が収まらず、ポーギーからもダニーの話を聞こうとして、ダニーがそれをなんとか止めさせようとしていると、私の服を後ろからくいくい引く感触がしたんだ。

「────テラ、ステラっ!」

「レミ?」

こしょこしょお声のレミだ。

どうしたのかな、内緒のお話を思い出したのかな?

「ステラ、ちょっと、この状況、まずいのよ……! 私、思い出したわ。ちょっと、話の方向を修正したいから手を貸してっ」

「そうなんだ。あ、レミの記憶のやつだ」

「そうよ、あのね……」

「あ! 待ってレミ」

「何よ」

「うさぎさんみたいに言って」

「は?」

「うさぎさんみたいに言って」

私は、レミが内緒話をするとき、六巻の最後のうさぎさんみたいに言ってから話したら格好いいんじゃないかなって、思いついたんだ。

自分でもすごくいいアイデアだなって思う。

私がそれを説明して求めると、レミは眉間に皺を寄せて完全に呆れたお顔になったけど、何か一つ飲み込むみたいにぎゅっと目をつぶり、それから「わかったわ」とため息交じりに言った。

一つ咳払いをして、より一層お顔を私に近づけてから、こしょこしょ声で言う。

「ぜ、“ 前世(ぜんせ) 持(も) ちたる 蘇(よみがえ) りし 乙女(おとめ) が 告(つ) ぐ。 平行世界線からの伝言(アナザー・ワールド・ノッティス) ”」

「キャッキャッ」

「“鶏とひよこ”で絶好調だったとき以来のはしゃぎっぷりじゃない……。恥ずかしかったけど、それだけ喜んでくれたらやった甲斐があるわ……。って! そうじゃなくて! 今の状況、私の知ってる良くない未来と似てるのよ、マズイわ」

「キャッキャッ」

「聞いて」

「はあい」

私は嬉しくて床でゴロゴロ転がり回っていたのを止めて、レミのお話を聞くために立ち上がる。

レミがワンピースについた汚れがないか、服やおしりをパンパンって叩いて払ってくれた。

レミが教えてくれたお話によると、アリスがダニーのことを大好きになっちゃうのが良くないみたい。

アリスが『すとーか』? っていうのになっちゃうかもしれないんだって。

「権力者からの一方的なアプローチは、平民には選択の余地がないもの」

レミのお話の仕方はやっぱり大人の人みたいで、意味は分からなかったけれど、あんまり良くないことなんだなってことはレミのお顔を見ていたら私にも分かった。

「どうしたらいいかな?」

「そうね、うーん、ダニーの悪いところをアリスに言ってみるとか……? そうしたら、プラスとマイナスで印象を相殺できるかも」

「ダニーに悪いとこなんかないよぅ」

「こ・れ・だ・か・ら、ステラは……!」

レミは感情を押し込めるみたいに抑えた声量でそう言ったあと、「でも、たしかにさっきの長所を全部打ち消すような短所って結構なものよね……」とまた悩み始めたみたい。

私は、何かできることはあるかなって思って、アリスやダニーやポーギーが今どうしてるかなって、三人のいるほうを見てみた。

すると、タジタジだったダニーと興奮気味だったアリスの間に、すっと、背筋を伸ばしたポーギーが入っていくのが見える。

ポーギーは、いつもの可愛い笑顔を浮かべた使用人さんモードで、アリスと真っ直ぐ対面するように位置取った。

「ワンダー侯爵令嬢様は、ステラお嬢様とはどういった出会いをされたんですか?」