軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

7.ゲームでは見習い騎士のマルクス(マルクス視点)

強くならなきゃって思ってた。

父ちゃんみたいな騎士になるために。

強く、強くならなくちゃって。

オレの父ちゃんは国で一番強い騎士。

騎士隊長のフリューゲル・ミラーがオレの父ちゃんだ。

オレはそれがすごく誇らしくて、父ちゃんのことが大好きだ。

オレは今七歳。

オレの一番古い記憶は三歳の時母ちゃんに連れてってもらったお祭りで、もう日も落ちた時間に、大通りを進む綺羅びやかに装飾されたでかい軍馬とでかくて豪華な馬車、それを取り囲むごつごつと装飾の付いた式典用の騎士服を着た大勢の騎士達。

そして、先頭のひときわ大きい馬車の上に据え付けられたお立ち台に立って号令を飛ばしている父ちゃんの姿。

点々と明かりが灯された薄暗い大通りを、灯りを持って進む騎士達の服や馬車の装飾がシャンシャンと涼やかに鳴っていて、ぼんやりと光るようなでかい馬車の迫力がすごくて、道端に集まった行進を見に来た人々のざわめきと、その中でも遠く響く力強い父ちゃんの号令の声。

薄暗い中なのに、父ちゃんの特別な白い騎士服が赤い灯りを反射するようで眩しくて、父ちゃんの騎士服についた武勲を示す幾つもの褒章が、号令を飛ばすたびにその胸で暴れる様を、オレはきっと一生忘れないだろうなと思う。

その時からオレは、自分も父ちゃんみたいな騎士に絶対なるんだって決めたんだ。

+ + +

「なんで母ちゃんは分かってくれないんだよ!」

「マルクス!」

今日も母ちゃんと喧嘩してしまった。

母ちゃんは、最近あまり父ちゃんの仕事をよく思っていない気がする。

父ちゃんは騎士隊長の仕事が忙しくて、オレに訓練をつけてくれるのも週に一度あるかないか。

それも朝の食事の前に少しだけだ。

忙しくて帰ってこれない日もあるし、休みの日に突然仕事に行かないといけなくなることもある。

それだって構わない。

強くなるためには毎日訓練して、鍛錬しなければいけない。

同年と比べれば体の大きいオレだって、まだ七歳の子どもだ。

体を作って技を身に付けるためには、父ちゃんに訓練をつけてもらう以外にもできることはたくさんある。

母ちゃんは最近は毎日のように勉強もしたほうがいいだとか、休むことも友達と遊ぶことも大切だって言ってくるけれど、母ちゃんはオレが父ちゃんと同じ騎士になるのに反対なんじゃないかと思ってしまう。

母ちゃんは、父ちゃんが訓練をつけてくれる時でさえ「もっとマルクスには剣術より他に伝えなければいけないことがある」って、父ちゃんに文句を言うことが増えてきた。

昔は、母ちゃんはいつもオレに父ちゃんの格好いいところを話してくれていたはずなのに、最近はオレも母ちゃんを避けてしまっているからか家族全体がギクシャクしているような居心地の悪さを感じていた。

「今日も剣の訓練をしよう」

「またかよ!?」

オレが、模擬剣を持って噴水広場に着いてそう言うと、そこに集まっていた友達全員が嫌そうな顔をする。

「お前、訓練って言っていつも俺達を叩きのめすばっかりじゃないか」

「だいたい剣ばっかり毎日毎日、飽きたんだよ」

こいつらも、昔は騎士になりたいって言って集まって仲良くなったやつらだったのに、最近はすぐに訓練も鍛錬も嫌がって逃げ出してしまう。

「強くならなきゃ騎士になれないんだぞ!」

「そりゃそうかもしれないけどな! 俺達はお前と違って父ちゃんに訓練なんかつけてもらってないんだよ!」

一人が言った言葉にカチンと来る。

オレの父ちゃんは騎士隊長だけど、努力してるのはオレ自身だし、訓練だってたまにしか付けてもらっていない。

だいたい父ちゃんは無口なほうで、たまに夕食の時間に間に合ってもオレが一方的に話をするばかりになることが多いのに。

「お前らが訓練も鍛錬もサボっているだけじゃないか!」

「騎士騎士って! お前は体鍛えてるだけじゃないか!」

言い争いがしたいわけじゃないのに、一緒に騎士を目指したいだけなのに、最近はいつもこうなってしまう。

「お前が訓練だって言って俺達にやってるのなんてなあ! そんなの弱い者いじめだぞ!」

「そうだ!」

「そうだ!」

愕然とする。

『騎士』と『弱い者いじめ』なんて、対極にあるような言葉を吐かれ衝撃に一瞬固まってしまう。

違う、オレは、オレたちは騎士になりたかったんじゃないのか!?

「なぜだ!? みんなで強くなって騎士になりたいって、みんなでなろうって言ったじゃないか!?」

オレは大きく叫ぶが、「お前の言うこと、無茶苦茶だよ」と一人が「行こうぜ」と言い、みんな去っていってしまった。

どうしてこうなるんだ。

どうしてみんな騎士になるのを諦めてしまう?

どうして母さんもみんなも分かってくれないんだ。

オレはこんなに頑張っているのに。

強くなるために。騎士になるために。

しばらくそうして落ち込んでいたオレは、肌を焼くような殺気を感じてそちらを振り返った。

混乱しながらも、体は訓練している形の通りに構えの姿勢を取る。

ドッドッドッドッ

心臓がうるさい。落ち着け。落ち着け。

キョロリと殺気が放たれた方向を見渡すと、そこには清楚なお嬢様然としたちいさな少女と、その付き人だろう背の高いにこやかな少年がいた。

少女は剣を構えたオレにびっくりしており、隣の少年を見上げている。

「そちらの少年、君は随分筋が良さそうですね。強くなるための 標(しるべ) が欲しくはありませんか?……どうぞこちらへ来てください。お嬢様がお呼びです」

先ほどの殺気はこの少年の物らしい。

オレは試されたということだろうか。

強敵、もしくは高め合える存在になるかもしれないと少し浮き立つ気持ちで、鼓動が静まるのを待って彼らの元へ歩み寄った。

+ + +

少年はあくまでお嬢様に侍っているようで、人払いのされたベンチへ案内すると弁当の給仕に専念していた。

話をしてみたお嬢様は変なやつだと思った。

オレが何になりたいのかと聞いてきたくせに、何度騎士になるのだと言っても「どういう?」「どうなりたいの?」とズレたことを言われる。

その度に何を聞かれているのか困って考え、そうしているうちに、少しずつ少しずつ、ズレているのがオレのほうではないかと感じ始めた。

どうしてだ? いつからこんな?

オレは、騎士になりたい。

それは間違いない。

理由だって話せる。

父ちゃんが格好いいからだ。

でも、騎士って何なのか、騎士になって何をやるのか、全く考えたこともない自分に気が付いた。

まるで、オレがそれに気付くようにと導かれるようになされる、心の深いところに突き刺さるような質問に、オレは何度も言葉に詰まり、それでも考え、答えを出す。

少しずつ、少しずつ、己の考え方が矯正されていくのを感じた。

オレが言葉に詰まるたびに弁当を「美味しいんだよ」とすすめ、答えるまで待っていてくれる。

彼女の言葉は優しくオレに染み込んで、彼女といるこの場所が、感じる風がとても心地よくて、オレの固く閉じていた思考が少しずつ解かれ暴かれていくことがなんだか気持ちよくて、気付けば最近ささくれ立っていた気持ちは鳴りを潜め、随分素直な気持ちになっていた。

初めオレは彼女の名前を聞いて、大商家の娘というだけで、体を鍛えることもなく後を継げるのだろうと意地悪な気持ちでいてしまった己を恥じた。

彼女はオレと同じように彼女の父親を尊敬し、その事業を、その 志(こころざし) を尊敬して、毎日勉強に励んでいた。

彼女が言う「どうなりたいのか」という「将来の夢」の話が、他人事でなく自分も考えなければならない事だと気付いた時、付き人の少年が軽く笑いかけてきた。

これが彼の言う「強くなるための 標(しるべ) 」であると分かった。

彼女がオレと近い境遇にあること、しかし年上のオレよりずっと考えていること、そしてオレを励まし褒めてくれることが嬉しくて、思考はまだまとまらないままだけど、弁当から卵焼きを食べて「美味しいな」と言ったら、彼女も嬉しそうに笑ってくれた。

オレにもオレの家族にもこんな笑顔が必要だと思った。

オレよりもずっとちいさなステラに相談するように色々な話を聞き、時には聞いてもらい、ごちそうになった弁当が空になる頃にはオレの心はずっと軽くなっていた。

+ + +

それからオレはまたステラに会えるだろうかと噴水の広場へ行くことが増えた。

集合場所だったそこに集まっていた友達の姿は今はもうない。

みんな近所に住んでいて家も知っているが、この間の喧嘩のことが思い起こされて、どう謝っていいのかどう関係を修復していいのか分からず、オレは彼らを探すことはなかった。

そんなある日、いつもより早い時間、父さんが夕食の時間に帰ってきて「茶会への招待が来た。家族での招待だ」と言った。

もう近頃は母ちゃんも父ちゃんに口を出すのを諦めて、一緒に過ごせる一日の中の短い時間を静かに過ごすよう努めている様子だった。

父ちゃんが一方的に言った言葉にも母ちゃんは「分かったわ」と淡々と答えていて、オレはそれがすごく嫌だった。

でも、オレが強くなって騎士になることで、きっと母ちゃんも認めてくれて前のような家族に戻れると思っていた。

その日はせっかく父ちゃんがいるのに、オレは何を話せばいいか分からず、とても静かな食卓だった。

毎日毎日これまで通り体を鍛えて、剣を振って、そうしてやって来たお茶会当日、行く先がステラの家であるジャレット家であると知ってオレは内心大喜びしてしまった。

彼女が、オレ達が父さんに話を聞くチャンスをくれたんだと思ったのと同時に、またあのにこやかなステラと同じ時間を過ごせるということが嬉しかった。

彼女の家に向かう道中も馬車の中は静かだった。

母さんは最近ずっと物思いに耽って落ち込んでいるようで、オレともギクシャクしていたし、珍しく騎士服以外で正装した父さんも黙ったままだ。

ジャレット家へ着いたとき、感じのいい執事服の青年が門で案内をしてくれたが、すぐにあの時の付き人を連れたステラが迎えに来てくれた。

ステラが突然エスコートしてくれと寄ってきたときは、なぜ自分はエスコートを教わっていたときにちゃんと聞いていなかったのかと後悔したが、久しぶりに面白そうに笑った母さんが見れて嬉しかった。

綺麗な花々が咲き、美しく飾り付けられた白いテーブルセットと、そこで佇む美しい二人を見たときはこのまま一枚の絵になりそうだなと思った。

ステラが「パパとママよ」と嬉しそうに教えてくれて、なるほど、この青空のような青と白の衣装に身を包んだ家族は高嶺の花のようだと思った。

オレたち家族は綺麗な服を着ているものの、着ている生地も色味もてんでバラバラで、取り繕った父さんと暗い表情の母さん。

まるで家族の普段の姿が暴かれるようで少し気まずい気持ちになった。

席に付き紹介を終えたあたりから、オレは終始興奮しきりだった。

「私達はね、素敵なお父様のお仕事のお話がたくさん聞きたい同志なの!」

少しすました言葉遣いのステラが、オレが父さんに言いたくて言えなくて燻ぶらせていたことを全部言ってくれた。

このチャンスを逃してはいけないと思ったオレも、必死で彼女に追随してお願いしていると、ステラの優しそうな父親が「まずは私の仕事の話を」と話し始めてくれた。

心底嬉しかった。

これで父さんも話してくれるかもしれない、と思ったのも束の間、ステラの父親であるゲイリー・ジャレットさんの話はとんでもなく興味深いものだった。

驚愕し尊敬してしまう。

大胆だけど、理由を聞けばなるほどと思ってしまう手腕には、父さんも母さんも驚いて、色々と聞いては褒め称えていた。

彼の話はオレにもとても分かりやすくて、時々たまにイヤイヤ受けていた授業の話とリンクしたときなんかは、なんでオレはちゃんと授業を受けなかったんだとまた後悔した。

ステラの父親であるゲイリー・ジャレットさんの話は「周囲も豊かにして大切な家族の幸せを増やしたい」という夢の話でまとめられ、オレも父さん達もすっかり夢中だった。

ステラも「とっても素敵なパパなの!」と笑顔で、オレも嬉しくて楽しくて満面の笑顔になってしまう。

彼は次は父さんにもと促してくれて、いよいよ父さんの番になった。

父さんが慣れない様子で、しかし何度も言葉に詰まりながらもしてくれた話は、オレにとって驚きの連続で、オレが今まで訓練ばかり、鍛錬ばかりしてきたことを後悔させるものばかりだった。

今更、母さんがオレに忠告してくれていたことが頭を駆け巡る。

友達がオレに言ってくれていた意味が分かる。

母さんが反対していたんじゃない、友達が離れていったんじゃない、オレが突き放していたんだ!

父さんのしてくれる騎士の話は、オレの憧れるあの三歳の時の姿の何倍も、何倍もすごいものだった!

強くなればなれるなんて、オレはなんて馬鹿だったんだと思い知り、母ちゃんにもたくさん謝る。

母ちゃんも嬉しそうに少し瞳を潤ませ、久しぶりにオレの頭を撫でてくれて、その後は仕事について、市井と家族を守ることを熱く語る父ちゃんをとても綺麗な目で見つめていたんだ。

父ちゃんもオレの目を見て、伝わっているか確かめるように一生懸命言葉を尽くしてくれている。

ああ、オレの、オレの家族の幸せが戻ってきたんだって思った。

+ + +

ステラの家からの帰り道、馬車の中でオレと母ちゃんを抱きしめる父ちゃんは「すまなかった。愛している」とつぶやき、オレたちの頭に口づけを落とした。

ぐっと力が込められた腕がたくましくて温かくて、騎士が守るってこともこういうことかなと思った。

母ちゃんが「私もよ」と言い、「オレも」って笑って、オレたち三人は少し泣きながら帰った。

父ちゃんの話を聞いてから、まずオレがするべきなのは友達に謝ることだと思った。

馬鹿みたいに体を鍛えるばかりなオレに付き合ってくれて、騎士になろうって言ってくれていたあいつら。

騎士になってからも、ずっと高め合っていきたいあいつらと話をしなきゃって。

家に帰って父ちゃんと母ちゃんに一言断ると、そのままお茶会のやたら格好つけた服装で、あいつらの家を一軒ずつ回った。

ドアをノックするのに躊躇うけど、ステラが口に突っ込んでくれた甘い卵焼きの味を思い出せば緊張で握った拳は簡単に解けた。

「悪かった! お前らの言うこと何も聞いてなかったオレが全面的に悪い!」

「なんだよ、何その格好。てか、いい顔してんじゃん、泣いたの?」

「これはまた別だ」

アハハと笑って、思ったよりもずっとずっと呆気なく仲直りはでき、彼らはみんな「俺も悪かった」と気恥ずかしげに言ってくれた。

こんなに大切な 友情(もの) すら守れないところだったのかと、何が“騎士になる”だと、その日からオレは気持ちを新たに、前よりずっと前向きに鍛錬に、勉強に、遊びに打ち込むのだった。

いつか、ステラにオレの夢を語って聞かせることができるように。

ステラのことを、この国ごと守れるような立派な騎士になるために。

【マルクス】

(ゲーム「学園のヒロイン」登場人物紹介より)

主人公のひとつ上の先輩で十六歳。

騎士隊長の一人息子。騎士見習い。

腕っぷしが強く正義に厚いが、短慮なところがあり、なんでも力で解決してしまおうとするおバカなところがある。

いつも一人だった彼に主人公が近づくことで、はじめは突き放すものの彼女の優しさに、小さいときに出ていってしまった母からの愛の面影を見て少しずつ惹かれていく。

粗野な一匹狼。