軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

46.大天使ステラちゃん、みんなでお料理

部屋の中の全員が自己紹介を終えて、みんなお互いに目配せで“今日はよろしく”ってお互いに挨拶をしてるみたい。

レミは緊張からかなかなか落ち着かないみたいだったけど、「慣れるから、慣れてみせるから」ってぎこちないけど笑顔で言ってくれた。

ルイだけは相変わらず一人でムッスリしてるけど、ルイは人見知りさんだから仕方ないかなあ。

私はぐるっとみんなを見渡して、嬉しい気持ちになった。

私はみんなと仲良しだから、みんながお友達同士になってくれたら嬉しいなあ。

みんなの様子を見て私がニコニコしていると、料理人さんのサッチモがみんなの注目を集めるように明るい声を出した。

「さあ、今日は美味しいおやつを作っていただきますからね。張り切っていきましょう」

「頑張ろうねえ」

サッチモの声に続いて私も声を上げると、みんな口々に「頑張ろう」とか「おう」って返してくれた。

みんなのやる気を感じた私は、早速とばかりに椅子からぴょんっと飛び降りた。

ダニーとポーギーに目配せすると、二人は承知したとばかりに部屋の隅に置いてある予備のエプロンが入った籠の元に行って籠を持ってきてくれる。

そして私は駆け出した。

「チック!」

「どうしたお嬢さん」

駆けてきた私に驚くチックの手を取り、チックのいた壁際から中央のテーブルまでぐいぐい引っ張っていく。

みんながなんだなんだと視線を寄越す中で、ダニーとポーギーが籠から予備のエプロンや頭につける帽子を出してくれた。

「チックしゃがんで。今日はいそがしいからねえ、ボーっとしてちゃダメだよう」

「腕を上げてくださいチックさん。紐を通します」

「チックさん、もう少し小さくしゃがめますか? 届かなくって」

「おいおい、どうしたってんだ」

混乱気味のチックに私たちは声をかけてしゃがんでもらう。

私、ダニー、ポーギーに囲まれる形で何事かと慌てたチックだったけど、ダニーとポーギーがエプロンを着せようとしていることに気づくと大人しく頭を低くして腕を肩紐に通し始めてくれた。

「なあステラお嬢さん、俺は上着は脱いでるし腕まくるくらいでいいんじゃねえか? それに、これはちょい恥ずかしいんだが……」

「ダメだよチック! お料理するときは、汚れてもいいようにエプロンを付けて、髪もまとめないと」

「あー、ちょ、使用人の子、えっとポーギーか? 待て、待ってくれ。頭は自分で付ける。自分で付けるから」

言いながらもわちゃわちゃとエプロンを着せられたチックは、そのままぐいぐいと頭に被せられそうになっていた帽子をポーギーの手から引き抜くようにして手に取った。

まずはチックにエプロンを着せていくそんな私たちを見て、みんなもそれぞれ椅子から降りてわいわい集まってくる。

「ピンクだ」

「意外と似合うな」

「お似合いですよ、チック様」

「おいこらチャーリーお前、お前、いい笑顔してさっきからアレだぞコラ。そんで様付けやめろっつってんだろうが」

マルクスがチックが着せてもらったピンクのエプロンをまじまじと見て呟けば、ルイは感心したように顎に手を添え『ほう、なかなか』とばかりにウンウン頷く。

同じくそばまで来たチャーリーが言ったのも誉め言葉だったけど、チャーリーの言葉だけは照れ臭かったのかチックは素直に喜べないみたいで文句を言った。

立ち上がったチックの背中側に回ったチャーリーが、ダニーとポーギーが着付けてくれたピンクのエプロンを整えている。

ほどけないよう背後でリボンをぎゅっと引き絞るチャーリーにチックは何か小声で言って、二人で一言二言何かを話してるみたいだった。

大人の人の中でも体の大きいチックと並ぶと、いつもは大きく見えるチャーリーも小さい子みたいに見えてちょっと面白いなあと思う。

二人のお話はチックが冗談を言ってそれをチャーリーがかわしているみたいな楽しそうな雰囲気で、さっそく仲良しさんになれたみたいで良かった。

さっき自己紹介の時に隣同士だったから、きっとお話ししたりしてお友達になれたんだね。

エプロンにヨレなどがないか一通り確認したチャーリーは「できましたよ」と声をかけながらチックの腰のあたりにポンと触れて支度の完了を知らせる。

それからダニーとポーギーの頭をよしよしと撫でて、なかなかうまく着せられていたと褒めてあげていた。

ダニーとポーギーは二人で顔を見合わせてえへへって嬉しそうにはにかんでる。

チックも二人に視線をやって「ありがとな」と言ってから、手に持つ“帽子”を改めて見た。

帽子をヒラっと振りながら私に顔ごと向けて口を開いた。

「これも付けろって?」

「うーん、チックはねえ、おひげが隠せないよねえ」

「お嬢さん? おーい、聞いてくれ」

私がチックの出で立ちを見て考えているのに、チックは手に持った帽子を何度も振る。

調理の時に使う帽子は、髪の毛が落ちたり調理の邪魔になったりするのを防ぐために被るものだ。

ドーム状の形の布の端に紐が通してあって一周ぐるりと絞れるようになっている。

帽子のようにすっぽり被ったあと、布の内側に髪を全部入れて最後に髪が出てこないように絞って身に着けるお帽子だ。

色はもちろんエプロンとお揃いのピンク。

調理するぞって本格的な感じが格好いいし、しっかり髪も覆えるからとっても良いと思うんだけど、チックは渋いお顔だ。

「俺もお嬢さんたちと同じンじゃ駄目なのか?」

「んー、いいよう」

私たちが被る白い頭巾を見ながら言うチックに、少しだけ考えたけど別にそれでもいいなあと思って答えた。

隣で見ていたレミが「いいんだ」って言う。

いいよう、チックだけ特別なのもいいかと思ったんだけど、みんなで同じ格好をするのも嬉しいもんね。

チックはあからさまにホッと息を吐いてから帽子をポーギーに返した。

代わりに渡された三角の布を受け取って一瞬ぎょっとしたけどどこか観念したように頭に巻いてくれた。

色はもちろんピンクだ。

「おひげはねえ、やっぱり難しいからそのままでいいよう」

「そりゃありがとな。はあ、なんだってこんな格好をするんだか」

再びフゥと息を吐いたチックはのっそり歩き出そうとした。

先ほどまでいた壁のあたりに戻って待機しようと思ったみたいだ。

けれど、私はそんなチックのズボンをぎゅっと掴んで引き留める。

「チック、こっち! こっち!」

「ん?」

「チックはここだよ!」

「あ、おい。危ないからほら」

そのまま誘導するように引くと、チックは足元でぐいぐいズボンを引っ張る私の背に手を添えるように上体を屈め、私を足から離すように移動させてから付いてきてくれた。

私の案内の元、ピンクのエプロンを着たチックは私たちが座っていた机の幅が狭くなっている側に一人立つ形になる。

特別な日には“お誕生日席”って呼ばれるその場所からは、全員の顔が見えるだろう。

今日の主役が位置取るのに一番ぴったりな場所だ。

チックの隣に立った私は胸が膨らむくらい息を吸う。

それからしっかり声を張ってみんなに呼びかけた。

「今日の主役はチックだよ! みんなでチックのおやつ作りをお手伝いしようねえ」

「はぁ!?」

チックが驚きの声を上げ、一拍置いてからみんなの「おー」という掛け声やパラパラとした拍手が起きた。

今日は、みんなでチックを囲んでお料理をするのだ。

寂しんぼで落ち込んでいるチックにみんなで世話を焼いてあげて、最後はみんなで作ったものを食べたらきっとチックも嬉しくなるから。

「チック、お料理頑張ろうねえ。みんな手伝ってくれるからねえ」

「お嬢さん、え、ちょ、マジか。思ってたのと違う。あー、だからこんなエプロン着せられたのか俺」

「そーだよう、チックったらなんだと思ってたの」

チックの反応がおかしくってくすくすって笑って、それから私はダニーとポーギーに向かって「ねー」と同意を促した。

ダニーはにこにこ笑顔で「だな」と言ってコクっと頷いてくれる。

ポーギーも「お世話がんばりますっ」って胸の前で両手を握ってやる気十分だ。

やる気満々の二人に嬉しくなる。

他のみんなも見てみるけど、みんな私のほうを見ていて楽しそう。

私と目が合った料理人さんのサッチモが顎をさする仕草で「えー、それでは」って言って、早速みんなに今からすることの指示を出していってくれた。

「これから厨房スペースへ移動いたします。班分けもいたしますので、みなさんそれぞれチックさんのおやつ作りのお手伝いをお願いしますね」

「「「はーい!」」」

サッチモの言葉の後にみんなの声が重なって、チックも諦めたみたいに「はあい」と言った。

その後はサッチモが小麦、牛乳、卵と、順々に今日使う予定の材料を挙げていって、食べれないものがある子がいないか確認してくれた。

もし食べれないものがある子がいたら作るおやつを変える予定だったみたいだけど、幸いみんな平気みたいで良かった。

今日思いつきでみんなを集めちゃってからサッチモには色々今日の会の事を考えてもらったから、終わってからちゃんとありがとうしなきゃだ。

+ + +

「おー!」

「すげー」

移動した広い厨房スペースはきちんと整頓されていてシンプルな、なんていうか、つるつるピカピカな輝きに包まれている空間だった。

調理台も、火を使う設備も、調理器具や食材がしまわれている場所も、ひんやりしていそうな石や金属の素材で出来ていて、まっすぐ平面を組み合わせて出来上がってるみたい。

私たちがキラキラのお目々になって厨房を見渡していると、先導して厨房に入っていたサッチモがこちらに向き直り両手を広げた。

「ここが、ジャレット家のお屋敷の厨房。調理をする場所です。厨房で一番大切なのは『安全』です」

サッチモのお声はよく通って、みんなサッチモの言葉に聞き入っちゃう。

「『安全』とは、食の安全。悪いばい菌を持ち込まない、増やさない工夫がこの厨房にはたくさんあります。ここに入る前、みなさんに調理服を身に着けていただいたり髪をしまっていただいたのもそう。何か所も用意された大きな流しもそう。それに、調理台や床に至るまで、ほとんどの場所が直線的で、頻繁に清掃するのに困らないような作りになっています」

ふむふむと思いながら、私は「何回もお掃除するの?」と聞いてみた。

「ええ。料理の最中にも、食材を変えるごとに調理台を綺麗にしたりします」

サッチモの話では、例えばそのまま食べられるお野菜なんかと火を通さなきゃ食べちゃだめなお肉やお魚は一緒に切ったりできないから、それぞれ調理するごとに調理台や調理器具を拭いたり洗ったりして綺麗にするんだって。

皮や殻がついた食材を調理したあとは次の食材の調理の前に毎回手を洗ったり、手に怪我がある人は傷口にばい菌がいるから調理しちゃいけなかったり、そうやってばい菌が食べものに入らないように気を付けるのが『食の衛生』で『安全』なんだって教えてくれた。

「では、二番目に大切なのはなんだと思いますか?」

聞きやすい声でお話ししてくれていたサッチモが質問をして、ぐるっと見回した後にマルクスを視線で指した。

「う、 美味(うま) いこと、とか?」

「大正解! とっても大切なことです! 美味しいものを作ることこそ、料理の最終目標だと言ってしまっていいでしょう」

サッチモがパチパチパチパチとすごく速い拍手をして、マルクスはほっとしたお顔になった。

みんなもサッチモに続いてマルクスにぱちぱち拍手する。

あ、ルイもぶすっとしてるけどお手々は拍手してる。

良かった、ルイも楽しんでくれてるみたい。

「ここで一つ、私がステラお嬢様に教わった『美味しい』の極意をみなさまにもお話ししましょう」

「!」

サッチモが優しい笑顔で私を見た。

目が合って、私、サッチモに何かを教えたことあったかなって不思議な気持ち。

サッチモは私の様子にいたずら成功って感じのお顔で笑って、みんなにお話を続けた。

「私はずっと『美味しい』は味のことを指すのだと思っていました。けれど、ステラお嬢様に『美味しい』は毎日変わるのだと教えてもらったのです」

「毎日?」

「ええ、毎日。それどころか朝・昼・晩でも変わるでしょうし、もしかしたら今まさにこの瞬間にも『美味しい』は変わっていっているかもしれません」

「ええ!」

サッチモの話し方は抑揚に富んでいて、動きも大げさで、どんどんお話に聞き入っちゃうし、どういうことだろうってみんなが興味津々になっちゃう。

誰かがぽつりとこぼした言葉をサッチモが拾い上げてオーバーリアクションで返してくれるから、どんどん楽しくなってきちゃった。

「本当の『美味しい』は、食べる人次第なんです。だから、私たち料理人は知らなきゃいけない。この料理を食べる人はどんな人だろうって。辛いものが苦手な人にどんなに辛くて美味しいと思うものを作っても『美味しい』にはならないでしょう。お腹がいっぱいの人には、どんなに美味しく作ったって山盛りの肉料理は美味しく食べてもらえないでしょう」

「なるほど」

今のなるほどはお声でチャーリーだねって分かって楽しい。

私もサッチモのお話を聞いて、サッチモが私とお話ししたっていう時のことを思い出した。

「サッチモとはじめましてした時にしたお話のことだったんだねえ」

「ええ、ステラお嬢様。覚えていてくださって嬉しいです。お嬢様のあの時の言葉で、私は私が目指すべき『美味しい』を知ることができました。お嬢様に教えていただいた、『喉が渇いた人にはどんな優れた料理よりも一杯の水が勝る』という考え方は、今もずっと胸に刻んでいます」

「運動した後に飲むお水は美味しいもんねえ」

「はい、ステラお嬢様」

たしか、サッチモがうちに雇われることになって、とっても美味しいお料理を作ってあげるねって言ってくれて、そしたらサッチモとお料理や好きな食べ物、美味しいと思う料理のお話になったんだよね。

サッチモがどんな料理でも世界一おいしく作ってみせるって言ってくれたから、こんな時はこんな料理がおいしくて、別の時はこんな料理が食べたくなるよねってお話をして、サッチモとたくさん仲良しになれたいい思い出だ。

私もサッチモにつられて笑顔になっちゃう。

それから、ニコニコ笑顔のサッチモは、締めくくるようにみんなに言ってくれる。

「ですので、今日おやつを一緒に作って一緒に食べるみなさんは、お互いたくさんお話をして、観察し合って、たくさん仲良くなりましょう。『美味しい』を作るには、まずは食べる相手を知ることが大切ですよ」

「「「はーい」」」

みんなで元気にお返事する。

相手を知って、相手のことを考えて作ったお料理はきっと一番の『美味しい』お料理だもんねって私も嬉しくなった。