軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

32.大天使ステラちゃん、シスターさんへのプレゼント

少し離れたところには、三人が様子を見るようにして待っていてくれた。

シドが二人よりも一歩前にいて、その後ろに手を繋いだレミとソラだ。

三人は、最初に会ったときと同じ並びだけど、今は三人とも高揚したような目で私を見つめ返してくれている。

私がパパとシスターのファウスティナさんに断って三人のところに行くと、三人ともアイデアのプレゼントのことだって分かってくれてた。

駆け寄った私に、何も言わなくてもみんな頷いてくれる。

三人とも、少し緊張しているように見える。

隣にいるチャーリーも見上げてみると、こっちを見ていたチャーリーはニッコリ笑顔を向けてくれた。

私もみんなに笑顔を返す。

「きっとファウスティナさん喜んでくれるよ!」

「おう」

「そうね」

「……」

シドはちょっと緊張してるみたいに、レミは嬉しそうに笑ってくれた。

だけど、ソラは見つめ返してくるだけだ。

「ソラ?」

お返事のなかったソラも、私がうかがうように名前を呼ぶと、少しだけ口元をほころばせて、コクンともう一度頷いてくれた。

三人と、チャーリーと一緒に、パパとファウスティナさんのところに戻る。

「あのね」

私とチャーリーが三人を連れて戻ると、シスターのファウスティナさんはすっと一歩退いた。

「?」

「どうしたんだい? ステラ」

パパは何かなって私たちを見てるのに、ファウスティナさんは見守るみたいに下がっちゃった。

なんで下がっちゃったのかな? って私が見てると、ファウスティナさんと目が合った。

ファウスティナさんは私にニコって笑ってくれてから、後ろの三人に視線をやった。

それから、ファウスティナさんはこっそり声で三人に声をかけた。

「ジャレット商会の商会長様ですよ。ご無礼のないようになさいね」

「?」

その言葉にキョトンとして、私は後ろにいる三人に振り返ると、揃って首を傾げた。

それから、何か誤解されてるかなって思って、もう一度ファウスティナさんを見た。

「ご用があるのはファウスティナさんにだよ?」

「まあ」

ファウスティナさんはびっくりしたみたいにお目々を丸くした。

そっか、パパにお話だと思ったんだね。

私は説明したかったけど、このお話はみんなからファウスティナさんへのプレゼントだ。

私が説明しちゃうのは違うなあって思って、どうしようかなってキョロキョロしてたら、パパがスッと私のそばに来た。

「ステラ、こっちにおいで」

パパがそっと肩に手を乗せてくれる。

「うん! パパ!」

パパの大きな手から、肩にじんわりあったかい温度が伝わってくる。

もっとそばにいきたくて、私はパパの足に突撃するみたいに抱き着いた。

パパは私の隣にしゃがむと、肩を抱いてくれる。

チャーリーが後ろに控えてくれたのが分かった。

シドがシスターに声をかけた。

「シスター……、えっと……」

三人とシスターが向き合っている。

シスターは困惑した様子ながら、「なにかしら」って言って、身を屈めて待ってくれている。

レミとソラの前に立ってシスターを呼んだシドだったけど、なんて切り出していいかわかんないみたい。

言葉が続かないシドは、助けを求めるみたいに振り返ってレミを見た。

ソラと手を繋いでいたレミは「私!?」ってびっくりした声を上げて、オロオロし始める。

それを見て、大丈夫かな、私も説明のお手伝いできるかなってハラハラしていた、その時だった。

思いがけない声が聞こえた。

「ぼくが、はなす」

その声は、ソラだった。

レミと繋いでいた手を離して、ソラがシドの隣に立つ。

同い年でも、シドより一回り小柄なソラがシドの隣に立つと、二人の体格の違いがはっきりわかる。

だけど、少し情けないお顔のシドと違って、ソラはいつもの無表情に少しだけ微笑みを乗せて、なんだか大人びて見える表情をしていた。

「ソラ?」

シドにとってもそんなソラは意外だったのか、隣に進み出てきたソラを見ている。

ソラは、そんなシドの服の裾をキュッと握って返した。

服を握るその動作はとても自然で、ソラはレミと手を繋ぐように、シドにもいつもそうやってつかまっているんだろうなって思わされた。

だけど、ソラは握った服の裾をすぐに離した。

それからシドよりも一歩前、シスターのファウスティナさんにひっつくぐらい近く、目の前に立つ。

「シスターにプレゼントをかんがえた。みんな、いっしょに」

「まあ、ソラ。まあ。まあ」

ファウスティナさんはそんなソラに驚き、それからみんなからのプレゼントって言葉にも驚いた。

びっくりしたお顔でキョロキョロと見まわすファウスティナさんに、シドがコクコクと頷き、レミが「そうなの」とソラよりも小さな声で応えた。

隣にいるパパが、「ほお」って、感心するみたいに声を出した。

私もパパに早くお話を聞いてほしいけど、ソラにおまかせしてみようって思うから我慢だ。

ソラは両手をまっすぐ前、ファウスティナさんに向けて差し出す。

ファウスティナさんがそうっとその手を取り、優しく両手で握ると、ソラは本当に嬉しそうに笑ったの。

「ソラ……」

ファウスティナさんが少しだけ赤くなった目元に力を入れるみたいにして、ソラの名前を呼ぶ。

そんなファウスティナさんをソラは微笑んだまま見つめ返して、それから言った。

「シドと、レミと、ステラと、チャーリーといっしょにかんがえた。きいて、シスター」

「ええ。聞くわ、教えてちょうだい」

それから、ソラとファウスティナさんは両手を握り合って、おでこ同士が触れるほど近くにお顔を寄せ合って、お話をした。

ソラのお話は、言葉少なだけどまっすぐで、すごく分かりやすかった。

シスターへプレゼントを用意したかったこと。

人手とお金を集める方法を考えたこと。

そんなアイデアをプレゼントにしようって話し合ったこと。

それから、そんなアイデアの中身。

「どうかな、シスター」

ソラはコテンと首を倒して尋ねた。

シスターはうんうんってお話を聞いてくれて、それから「ありがとう」ってお礼を言った。

「みんな、そんなことを考えてくれていたの……。ありがとう、素敵なプレゼントね」

ソラの手を握っていたファウスティナさんは、ソラを胸元にそっと引き寄せる。

それから顔を上げて、シドとレミを見て迎え入れるような仕草をした。

嬉しそうなシドとレミは、ソラに続くようにファウスティナさんの胸に飛び込んだ。

「シスター!」

「シスター!」

「いて」

ソラが二人に押しこまれる形になり、ソラは本当に小さく、痛くなんて感じていなさそうな淡泊な声を出した。

それがソラなりの『ここにいるよ』って自己主張みたいに感じて、なんだかソラらしいなと思った。

シスターのファウスティナさんが、三人を抱きしめているのを見ていたら、隣で同じように見ていたパパが、私に声を掛けてきてくれる。

「あの案は、みんなで考えたのかい?」

パパの声は少しだけ真剣みを帯びていた。

そんなパパが不思議で、私がお返事するのを忘れていると、パパは控えて立ってくれていたチャーリーを見上げた。

そんなパパに、チャーリーは教えてあげる。

「旦那様、ステラお嬢様はもちろん、みなさん意見を出し合っておいででした」

「チャーリーもだよ、パパ」

チャーリーの言葉に重ねるように、私も報告すると、パパはまた私を見てにっこり笑った。

「そうか。そうか。やっぱりステラはすごいね」

そう言って私の頭を撫でてくれた後、パパはチャーリーを見て「あの子たちも、チャーリーも、とても良いアイデアを考えたね」と言って笑った。

チャーリーは気恥ずかし気だったけど、ペコリと会釈して、「私にはもったいないお言葉です」って返していた。

三人を抱きしめているシスターのファウスティナさんの元にパパがゆっくり近づく。

三人を抱きしめたまま、近づいてきたパパに気づいたファウスティナさんが顔を上げた。

ファウスティナさんが何か言う前に、パパが口を開く。

「素敵な子どもたちですね」

「ええ、そうなんです。ステラお嬢様に感化されたのか、こうして思いやって言ってくれるだけで、嬉しくて」

目元の赤いファウスティナさんは、少し泣いちゃったのかもしれない。

嬉しくて涙が出ちゃうこともあるんだもんね。

喜んでくれてよかったなあって私が思っていると、パパがそんなファウスティナさんにさらに言葉をかけた。

「子どもたちの気持ちも素晴らしいですが、そのアイデアも実現可能なものだと思えるのですが、どうでしょうか」

「……! そんな」

パパの言葉に、ファウスティナさんはみるみるうちに目を丸くして口を開け、言葉にならないようだった。

パパは構わず穏やかな笑みのままで続ける。

「ステラも関わっていますからね。よろしければ、ジャレット商会と、こちらの孤児院の共同施策にしませんか? ひとつの、新しい試みとして」

ファウスティナさんがあうあうと、口を開け閉めしているのを見て、パパは「もちろん報酬などは結構です。今後のためにモニターさえさせていただければ」と付け加えた。

私はちょっと不安になって、パパの腕を引く。

「パパ、お商売にしちゃうの?」

三人からの、ファウスティナさんへのプレゼントだから、アイデアが、三人から遠くに行っちゃうのはちょっと嫌だなって思って聞いてみた。

でも、私のそんな心配はいらないものだったみたい。

優しいお顔のパパが言ってくれる。

「安心しなさい。そうならないように、お手伝いするんだよ」

それから私の頭を撫でてくれたパパは、説明してくれる。

「この手の新しいことを始めるときにはね、知識や伝手のある者の手助けがないとダメになってしまうことがあるんだ。僕はステラも関わったこのアイデアを、きちんと大切に形にしなければいけないと思った。だから、他の人がお手伝いを申し出る前に、ジャレット商会がお手伝いをしたいんだよ」

そう言ったパパは、驚いたままのファウスティナさんに向き直すと、もう一度優しいお声で「いかがでしょうか?」と声をかけた。

「ジャレット商会様が、そう言ってくださるなら……」

ファウスティナさんがお口をわななかせたまま、お返事をしようとしたとき。

バタン!

少し大きな音を立てて、救護院の側の扉が開いた。

「シスター! いらっしゃいました!」

扉が開くのと同時、白衣を着た受付の女性が慌てたようにそう言って入ってきた。