軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

25.大天使ステラちゃん、お手紙を渡し終える

お医者の先生にお膝から降ろしてもらって、ダニーの立っているところに行った。

ダニーはまだ怪訝そうに、不思議そうにしていた。

「ステラ、なにしてたんだ?」

ちょっとぶすむくれたダニーの言葉に、お医者の先生から注意の声が飛んだ。

「ダニー、話し方が前に戻ってるぞ」

「わ、そか。すみません、ステラお嬢様」

「ふふ」

私はそれがおかしくて笑っちゃった。

それから、ダニーに教えてあげた。

「あのね、お手紙を読んだんだけどね、お医者の先生の似顔絵が似ていなかったの」

「はあ?」

今日のダニーは、まだ使用人モードになりきれていないみたい。

後ろから、「嬉しくて取り乱したんですからね! 絵もすごくお上手ですよ!」ってお医者の先生がフォローをしてくれる。

お医者の先生は、いつもこんなふうに優しくて、私はそんなお医者の先生がだいすきなの。

私はお医者の先生のほうを振り向いて「ありがと、お医者の先生。練習するから、次も受け取ってね!」ってお返事した。

「あのね、ダニー。ダニーにもお手紙があるのよ」

私は、ダニーに向き直って、お手紙の入った封筒を出した。

「手紙って、切手貼って出すやつだろ?」

ダニーはあんまりお手紙を書いたりもらったりしたことがないのか、なんだか不思議そうに私の持っている封筒を見ている。

「そうだよー。今日は直接渡すから、切手は貼ってないけどねえ」

「ふうん?」

まだお友達の喋り方のダニーだけど、無意識みたい。

お医者の先生を見ると、もう一度お手紙を読んでくれてるみたいで、気づいていなかった。

私はお友達の喋り方のダニーも、ダニーらしくて好きだから嬉しいなあ。

「はい、これ、ダニーへのお手紙よ。読んでみるから聞いててね」

「ん。おう。ありがと」

ダニーは、笑顔になってくれた。

ダニーへのお手紙はちょっとたくさん書いちゃったから、頑張って間違えないように読み上げようって、気合を入れる。

「“ダニーへ。

はじめてのおともだちのダニー。

ポーギーといっしょにおともだちになってくれて、ありがとう。

おいしゃのせんせいにいじめられていない?

なにかあったらそうだんしてね。”」

「ごっほ! ごほ! げほ!」

後ろから、お医者の先生のむせる音がして、私はびっくりした。

「お医者の先生! 大丈夫?」

「あ、いや、ごほっ、あの、私は、一度部屋を出ましょうか……?」

お医者の先生を見ると、まだお手紙を読んでくれていたみたいで、手には手紙を持ってくれている。

むせちゃって涙目だ。

眉もへちょって下がってる。

後ろからポンって肩を叩かれた。

ダニーだ。

「ステラ、何言ってんの」

笑ってるけど、呆れたお顔だ。

「え?」

私はわかんなくてコテって首を傾げた。

「手紙、もう一度読んでくれるか?」

「うん! “ダニーへ。はじめてのおともだちのダニー。ポーギーといっしょにおともだちになってくれて、ありがとう。おいしゃのせんせいにいじめられていない? なにかあったら……あ!」

私は慌ててお医者の先生を見た。

お医者の先生は、がくんって首を下げてうなだれている。

「わー! 違うの、新しい家族のことでも、なんでも相談してほしいって意味で、お医者の先生がいじわるするなんて思ってないの!」

ダニーがおかしそうにしている。

「変なとこで抜けてるよなあ」

そう言って面白そうに笑ったダニーは、それから優しい笑顔になった。

「いじめられてねーよ。ほんと、これ以上ないくらい、良くしてもらってる」

その優しい笑い方は、少しだけお医者の先生に似てる気がした。

それから、ダニーはお医者の先生のほうを見て、お医者の先生とのことをお話ししてくれた。

「──それから、この間の祭りの日も、何をしたいか聞いてくれたし。俺とポーギーが村にいたときにしてたことを話したら、じゃあ、それもやってみようって言ってくれてたんだ」

「そうなんだ。そうなんだねえ」

私は、なんだか胸があったかくなった。

ダニーとポーギーは、お医者の先生がパパになって、どうしてるのかなあって気になっていたから。

私は、ダニーに聞いてみる。

「じゃあ、ダニーはお医者の先生のこと、好き?」

「……」

ダニーはすぐには答えなくて、ごくって一回飲み込んでから、口を開いた。

「ああ! 大好きな、“父さん”、だ!」

ダニーの大きいお声にちょっとびっくりしていると、ガタッって大きな音がした。

お医者の先生のほうからしたその音に、お医者の先生のほうを見ると、立ち上がったお医者の先生がびっくりしたお顔をしていた。

「ダ、ダニー……、今、なんて…………」

そう言ったお医者の先生の目はまん丸になってダニーを見ていて、お口もハクハク、開いたり閉じたりしている。

ダニーは恥ずかしそうに、ぷいってお医者の先生からそっぽを向いた。

「……大好きだって言ったんだよ、“父さん”」

「っ! ダニー!!」

ダッと、お医者の先生が走りだしたと思った途端、たった二、三歩でダニーのところに来たお医者の先生は、滑り込むように床に膝をついてしゃがむと、ダニーをガッチリ抱きしめた。

「っぐえ、苦しいよ、先生」

「もう一度、もう一度呼んで」

「苦しいってば、父さん」

「ダニーっ!!」

お医者の先生が、感極まったようにダニーを抱きしめる。

ぎゅうぎゅうのダニーは苦しそうで、なのになんだか嬉しそう。

それから、またお医者の先生は泣き出した。

今度は、もう我慢してるみたいじゃない、叫ぶみたいな泣き方だ。

私は慌ててお医者の先生の頭を撫でる。

膝立ちでダニーを抱きしめて、ダニーの肩あたりに巻き込むみたいに顔をうずめるお医者の先生はわんわん泣いている。

「よしよし」

私は一生懸命背伸びしてお医者の先生を撫でる。

ダニーは少し苦笑いしてる。

やっぱり、嬉しそうなお顔だ。

「父さん、ほら、ステラもよしよしって」

私が頭を撫でて、ダニーがお医者の先生の背中の手を、さするみたいに動かしている。

それから私は、ダニーの目も赤いことに気が付いた。

「あ! ダニーも泣いてる! よしよし、よしよしだよぅ」

「わ! 俺はいいよ!」

「ダニーも涙出てるもん!」

私はお医者の先生を撫でながら、反対の手で同じく泣いちゃってたダニーの頭も撫でる。

大忙しだ。

お医者の先生はわんわん泣いて、それから私たちを見て泣きながら笑って、それからやっぱりまた大声で泣いた。

それから、お医者の先生が泣き止むまでしばらく、私は両手で二人を撫でて、バランスを崩して転ばないように一生懸命だったの。

+ + +

「なんでマルクスとルイまで泣いてるのぉ?」

落ち着いてから、そういえばずっとマルクスとルイを待たせてたって思ったら、二人はそれぞれお鼻を赤くしていてびっくりした。

「な、泣いてない!」

ルイにすぐ否定されたけど、お鼻をすすってるし、お目々が赤いから泣いてるみたいに見える。

「はあ……」

マルクスは、ため息みたいに息を吐いて「よかったなあ」って言って涙をぬぐい、それから一度鼻をすすった。

お医者の先生によると、ダニーがお医者の先生のことを“先生”や“お医者の先生”なんか以外で呼んでくれたのは初めてだったんだって。

ポーギーからはお仕事が終わったら“お父さん”って呼ばれてるそうだから、ダニーに“父さん”って呼ばれて、お医者の先生は嬉しかったんだねえ。

せっかく家族になれたから、パパの呼び方で呼べたほうが嬉しいもんね。

良かったなあ。

私はすっごくあったかい気持ちになった。

今は、私とマルクスとルイがソファーに座って、その向かいにお医者の先生、その隣にダニーが座っている。

お医者の先生がダニーの頭を撫でようとしてたけど、ダニーが恥ずかしがって嫌がったから、今はダニーの肩を抱き寄せるみたいにして撫でている。

「あのね、みんなお揃いの飾りボタンもあるのよ」

私は、忘れていた飾りボタンを出して机に置いた。

私とポーギーがふんわりピンクなお花のだったから、お医者の先生とダニーには、同じふんわりピンクのお花と、白いお花が一緒に入っているやつにした。

「ああ、可愛らしいですね」

お医者の先生が、嬉しそうに目を細めてくれている。

「そうでしょう? ふふ、ピンクのお花はね、私とポーギーの飾りボタンのと同じお花なのよ」

「へえ、みんなお揃いだな!」

ダニーも嬉しそうに飾りボタンを手に取って見てくれている。

お医者の先生がダニーに視線をやって、「こら、言葉遣い」って注意したけど、笑顔のままだから全然怖くない。

ダニーも「あ!」って気づいたけど、お医者の先生に笑顔で返してる。

ダニーもポーギーもお医者の先生も、新しい家族が幸せそうで良かったなあって思ったの。

それから、ルイがおずおずとダニーに話しかけて、ご本のことやノートに書いてあったことを質問したりし始めた。

ダニーもおうちに来てからはたくさんお勉強を頑張っているから、ルイとお話ししたら楽しいかもしれないなって思ったら、やっぱり二人はお勉強のお話で盛り上がっていた。

私は、なんだかお医者の先生とダニーの様子を見ていて、パパとママに会いたい気持ちになっていたの。

隣のマルクスが私の様子に気が付いて、こそっと聞いてきた。

「あと、残ってる手紙は?」

「パパとママのお手紙」

「そうか」

マルクスはニカっと笑った。

それから小声で「喜んでくれるといいな」って。

私も笑って頷いた。

そのとき、お部屋の入口のほうから、声がかかった。

「お嬢様、お待たせして、申し訳ありません」

「チャーリー!」

現れたのはチャーリーだった。

なんだか急いできてくれたみたいで、息が切れている。

「チャーリー、もういいの?」

歩み寄って来てくれたチャーリーに手を伸ばし、ソファーから降りるのを手伝ってもらう。

「ええ、本当に、お礼もきちんと伝えられないままに、すみませんでした」

「ううん、喜んでくれたんでしょう?」

「それはもう!」

チャーリーのお声が大きくて、私は笑って「よかったあ」って言ったの。

よく見たら、私の手を取ってくれたチャーリーの手の袖に、キラっと何かが光った。

「あ! それ!」

「ええ。自分で付けたので不格好ですが」

チャーリーは嬉しそうだ。

すごく優しい目で自分の袖口を見て、それから私に見えるようにしてくれた。

チャーリーに渡した飾りボタンは、服に付けるとこんな風になるのね。

袖口にキラっとしていて、とっても素敵!

やっぱり、深い青と紫のお花がチャーリーによく似合っていた。

「素敵!」

「はい、ありがとうございます、お嬢様」

私たちは二人でとっても笑顔になった。

やっぱり、チャーリーが隣で笑ってくれているとほっとする。

それから、マルクスがそろそろ帰るって言って、まだまだダニーとお喋りしたそうなルイも連れて帰ることになった。

ルイが泊まりたいって言ったけど、明日はお勉強の先生も来るし、急に泊まったらルイのパパのニール・レッグウィークさんもびっくりするからダメだよって言った。

お医者の先生が、ダニーのご本を次まで貸してあげればいいって言ってくれて、そしたらルイも「次は私のお勧めの本を持ってきてやる!」って、次はダニーに会いに来ることにしたみたいだった。

ダニーも新しいお友達ができて嬉しそうだったから、良かったなあ。

二人を見送って、私はチャーリーと晩ごはんを食べるためにダイニングに向かった。

今日はパパも帰って来ていて、一緒に晩ごはんを食べられるみたい。

ダイニングに行ってみると、今日の晩ごはんはなんだかとっても豪華みたい。

すっごくいい匂いがするし、あちこちキラキラなの。

今日は、料理人さんや使用人さんたちが夢中になって、頑張りすぎちゃったんだって。

お祭りの香草焼きとは違うけど、鶏さんの香ばしい丸焼きみたいなのまである。

ダイニングのテーブルセットもいつもよりなんだか豪華で、大輪のお花が飾られていたり、食器もグラスもいつも以上にピカピカな気がする。

私は、ご準備してくれている料理人さんや女性の使用人さんたちに「なんだかすごいねえ、おいしそう! ありがとう!」ってお礼を言って、それからパパとママのところに行ったの。

「パパ! ママ!」

「元気いっぱいだね。なんだい、僕の天使ステラ」

「ステラ、嬉しそうでとっても良いわね。何か持っているのかしら?」

私が近づくと、二人は私を見て笑顔になってくれる。

私は、チャーリーに繋いでもらっている手を一度ぎゅって握ってからゆっくり離して、それから二人に封筒を渡した。

「あのね、お祭りの日、たくさん心配かけてごめんなさい。みんなにプレゼントをご用意したかったの」

パパもママも顔を見合わせて、それから笑顔を向けてくれた。

「それでね! プレゼントの飾りボタンと、それから、ごめんなさいって、いつもありがとうって気持ちをこめてお手紙を書いたから、読んでくれる?」

「ああ」

「ええ、もちろん」

パパもママもお手紙をゆっくり開いてくれた。

私は二人にもお手紙を読みたくって、声を上げた。

「あ! あのね。それ私が読んでもいーい?」

「読んでくれるのかい?」

パパがおやって顔で私を見て、それからパパとママはお手紙を渡してくれた。

私は腕をまっすぐ伸ばして両手でお手紙を持つと、大きく息を吸ってお手紙を読む。

「“パパへ。

わたしのだいすきなパパ。

やさしくて、かぞくのためにがんばってくれて、

かっこういいパパがだいすきなの。

こんどはわたしがパパのためになにかしたいな。

なんでもいってね。”」

それからパパを見ると、デヘェって、すっごくデレデレの笑顔になってくれている。

私は手ごたえを感じて笑顔になった。

今度はママを見る。

「“ママへ。

わたしのだいすきなママ。

ママのピアノも、かいてくれるえもだいすきよ。

もっといっしょにいろんなところにもいきたいな。

ママのピアノもまたききたいな。

ママとしたいことがたくさんあるの。

ぜんぶいっしょにできたらうれしいな。”」

ママを見る。

ママもパパと同じ、デヘェなお顔だった。

こういうとき、パパとママはそっくりなの。

パパが、デヘェなお顔のままで、言ってくれる。

「ステラ、ステラはやっぱり僕の天使だね。ああ、もうずっとこのまま一緒にいたいよ」

「ママもだいすきよステラ。私の天使」

パパに続いてママもデヘェなお顔のままそう言って、両手を広げてくれた。

私はチャーリーから離れて、パパとママのところに駆け寄る。

ママが私を持ち上げてくれて、それから二人に両側から抱き締められた。

パパと私とママ。

ママが私を抱きしめて、そんなママごとパパはゆったり抱き締めてくれている。

むぎゅむぎゅで、あったかくて、とっても安心する匂いに包まれて、私は体中がなんだか満たされるみたいに幸せな気持ちになった。

そのままパパのお膝の上とママのお膝の上を交互に行ったり来たりしながら、私はちょっとせわしない晩ごはんを食べた。

もう一人でご飯も食べられるのに、パパもママもあーんしてきたり、二人でお口を拭おうとしてくるから大変だったの。

それから今日は、パパとママと一緒に同じベッドで寝ることになったの。

パパもママもそれがいい、そうしようって言って、すごく嬉しそうだった。

赤ちゃんに戻ったみたいで少しだけ恥ずかしいけど、私はパジャマに着替えて寝るためのご用意をしたあと、枕を持って、若い女性の使用人さんに手を引いてもらって、パパとママのお部屋を訪ねた。

「ステラ」

「ステラいらっしゃい」

「パパ、ママ!」

若い女性の使用人さんにおやすみのバイバイをして、お部屋に招き入れてもらう。

それから三人で、ベッドの上、パジャマ姿で今日のお話をした。

それから、晩ごはんの時に渡し忘れた飾りボタンを渡したり、パパと孤児院にはいつ行こうかってお話をしたりして、そしたらもう眠たいのが我慢できなくなって、私は目が開かなくなっちゃった。

パパとママのお部屋はとっても安心できて、私はすごく幸せだった。

ベッドの上、両側にはパパとママがいて笑顔で私を覗き込んでくれている。

「おやすみ、ステラ。僕の可愛い天使」

「おやすみなさい、ステラ。ゆっくり、ゆっくり大きくなってね」

眠りに落ちる直前、おやすみの挨拶をパパとママがしてくれる。

それから、順番におでこにキスが降ってきた。

くすぐったくて、嬉しくて、眠たくて。

私はすっごく幸せだなあって思いながら、大きなベッドの上でぬくもりに沈んで、溶けちゃうみたいにトロトロになってぐっすり朝まで眠ったの。