軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20.大天使ステラちゃん、自粛する

こんにちは。

私の名前はステラ。

今の私は、少ししょんぼり。

パパやママや、使用人のみんなにたくさん心配をかけちゃったから。

それに、ミシェルのママさんがいっぱい泣いてた。

どうしたらごめんなさいってちゃんと伝わるか、私は考えていたの。

+ + +

お祭りの日の翌日、馬車で街まで送ってもらった私たちは、ミシェルのママさんも私のおうちで待ってるからって、真っすぐおうちまで送ってもらった。

馬車が着いた途端、ミシェルのママさんが馬車の扉を開けて飛び込んできた。

「ミシェル! ああ、ミシェル! 無事? 痛いところはない? 怖かったでしょう」

ミシェルのママさんは、馬車の床に膝立ちになって、ミシェルを抱きしめた。

それから、体を離すとミシェルの顔を確認して、頬を何度も何度も撫でて、それからまた抱きしめた。

その間ずっと、ミシェルを心配する言葉と、それから一人にしたことを謝るのを繰り返してた。

髪の毛はボサボサで、服は昨日のお祭りの時に会った服のまま。

ずっと泣いちゃってたのか、お顔もあちこち真っ赤で、お化粧が溶けちゃったのか、泥んこ遊びしたあとみたいに目の周りや口元が汚れてる。

ママさんの勢いはすごくって、最初はびっくりしてたミシェルも、ママさんに体も顔も全部うずめて、二人で抱きしめ合ってた。

ミシェルは街が近づくにつれて、「謝る前に、ママに先に謝ってもらわなくちゃ!」って、ママさんを叱るんだって意気込んでた。

でもミシェルは、抱きしめられてママさんが一方的に話しかける間も、ずっと黙ってママさんの体に顔を押し付けていた。

「ステラ」

ママの声。

私、謝らなくちゃ!

私は、外からの声に、ヒノサダさんの手を借りて馬車から降りた。

そして、ママに一直線に駆け寄り抱きつく。

「ママ! ごめんなさい!」

ママも一歩前に出て、ちゃんと私を受け止めてくれた。

涙が勝手に出てくる。

駆け寄っていく最中、みんなが私を待っていてくれたことが分かった。

お仕事のはずのパパも、おうちに残っていた使用人さんも、全員がそろっておうちの前で私を待っていてくれた。

みんな笑顔だけど、私のことを気遣うみたいな、心配そうなお顔をしてる。

いつから待っていてくれたんだろう、ママの手はすっかり冷えていた。

「ママ! ママ! ごめんなさい! 私、勝手に出かけて、危ないことして」

涙で目が熱くて、のどが熱くて。

頭全部が、中から膨らむみたいにカッカと熱を持って、フラフラする。

「ステラ、無事で良かったわ」

パパも、使用人さんも、口々に「おかえり」「おかえりなさいませ」って優しく声をかけてくれる。

ママは私を抱きしめてくれている。

頭を撫でてくれているこの大きな手は、パパの手だ。

「ママ、パパ、みんな! ごめ、ごめんなさい!」

私は、涙が止まらなくなっちゃったの。

しばらくして、パパが、「冷えるから中に」って、ママから私を優しく受け取ってくれた。

パパのお胸は熱いくらいあったかくて、いつもは片腕で私を抱えるパパは、今日は私を両腕で抱きしめるみたいに包み込んで運んでくれた。

「……パパ、怒ってる……?」

お返事がこわい。

でも、他になんて言っていいかも分かんない。

「ステラは、パパが怒ってると思うかい?」

パパのお顔をそっと見てみると、全然怒ってるお顔じゃなかった。

このお顔は。

「……心配してる、と思う」

「そうだよ。たくさん心配したからね。今日はお仕事はおやすみしたから、パパとママと一緒にいてくれるかい?」

「……うん」

パパは、私を一度も叱らなくて、「パパもママもステラを許しているから、ステラも自分を許してあげなさい」って言ってくれた。

パパもママも、その後も何度も抱きしめて、ずっとそばにいてくれた。

料理人さんが用意してくれた、蜂蜜の入ったホットミルクを飲んでいるうちに、私は落ち着いてきた。

私は、ミシェルたちを馬車にそのままにしてきちゃったことを思い出した。

パパを見る。

「パパ、ミシェルは……?」

「あのまま、家まで送ってもらったみたいだよ。店の方や村の方、ペトルチアさんにお詫びはするから、気にしなくていい」

「パパありがとう……」

私を抱えたままのパパは、私がちょっとでもしょんぼり顔すると、「飲みなさい」ってホットミルクを支える手を持ち上げるの。

私は虚を突かれて「はふ」ってなりながら、コクって、また一口飲む。

ぬるめで、染み込んでいくような、ほっとするお味。

両手で持っているカップはポカポカで、その手をパパが上から被せるようにして包んでくれている。

パパとママによると、ペトルチアさん、つまりミシェルのママさんは、私のおうちに泊まったらしい。

ママが、ミシェルのママさんを招いたんだって。

「我が家のほうが情報が入ってきやすかったから。私も彼女も落ち着かなくて、一晩中お話ししていたわ」

ママは苦笑いしてる。

「そうなんだ。私からも謝りたいんだけど、ママ、どうしたらいいと思う?」

「それなら、ミシェルさんのおうちに遊びに行ったときに、謝ればいいじゃない」

「!」

私は、びっくりしちゃった。

もしかしたら、もう遊んじゃだめって言われるんじゃないかって、心のどこかで心配してたの。

「いいの?」

「ええ、もちろん」

ママはにっこり笑顔だ。

「ママありがとうぅ!」

それから、私がお友達になったミシェルがどんな子なのか、パパとママにお話ししてあげた。

私と同じで一人っ子なこと、本当は姉妹がほしかったのも同じなこと、二つ上でお姉ちゃんみたいだってこと、それから花が好きでママさんが好きで友達がたくさんで。

ミシェルと手を繋いでたら夜も眠れた話もした。

その間、パパとママはとても優しいお顔でうんうんって、頷いて聞いていてくれていた。

+ + +

そろそろ寝る時間になって、お部屋のベッドの上で座っていた。

ベッド脇の明かりだけの暗いお部屋で、私はどうやったらパパやママや使用人さんに、ごめんなさいの気持ちが伝わるんだろうって考えていた。

その時、私の部屋のドアを、カリカリ、それからシャッシャッて、引っ掻くような小さな音がしたの。

少しして、とても小さいノックの音。

「ステラお嬢様、まだ起きてらっしゃいますか」

控えめなお声は、若い女性の使用人さんの声だ。

「はぁい」

「リリー様がご一緒されたいようですが、お入りいただいてよろしいですか?」

「え! リリーが!? うん!」

あの音は、リリーのノックの音だったのね!

間をおかずに、カチャッとドアが開いた。

ドアが開ききるのも待たず、白い、リリーの体がするっと入ってきた。

それを確認してから、女性の使用人さんは「おやすみなさいませ」って優しく言って、ドアを閉めていってくれた。

「リリー、もしかして心配して来てくれたの?」

リリーは、私の言葉には応えないまま、どこか慣れた様子で私のいるベッドに上がってきてくれた。

ポスンって音で飛び乗る。

リリーはベッドの上で座っている私のすぐ近くの場所をふみふみ、お布団の具合を確かめてから、ポジションを決めて横になった。

私の前には、リリーの背中。

一緒に寝てくれるみたい!

こんなの初めてでとっても嬉しい。

「リリー……っ! ありがとおぉ!」

私は嬉しくて、リリーに手を伸ばしたんだけど、ちらっと見てすっと避けられてしまった。

その体勢からでも体を捻れるなんて、リリーは体がとっても柔らかいのね。

「んふふ、リリー。だいすきよ」

もう一度、次はゆっくり手を伸ばす。

今度は、リリーは避けなかった。

二度、三度、ゆっくりリリーの背中を撫でる。

柔らかくて、温かくて、撫でている私のほうが気持ちよさに目を細めちゃう。

しばらくすると、ングルルルルルル……って、小さな音がし始めた。

ふふ、リリー、気持ちよさそうに目をつぶってる。

しばらくそうしていてから、私は、リリーに相談することにした。

「ねえリリー、私どうしたらいいかなあ」

リリーは目をつぶったままだけど、お耳はこっちに向けてくれている。

「なにか、おわびができたらいいんだけどなあ」

私が情けない声を出していると、ゆら、ゆらと、リリーはしっぽを布団の上に滑らせてから、おもむろに起き上がる。

それから、背中を高く持ち上げるみたいに、うんと丸めて伸びをしてから、軽いステップで床に下りた。

行っちゃうのかなって思って、ドアを開けてもらえるように、私もベッドから下りて使用人さんに声をかけようと思った時。

リリーは、私のお勉強の机にトンって飛び乗った。

それから、フンフン匂いを嗅いでいる。

机の上には、お勉強の先生が書いてきてくれたお勉強のためのテキストの紙が置いてある。

「リリー、それはインクで書かれているから、舐めてはだめよ」

言いながら私が机に近づくと、リリーはもう興味をなくしたみたいに机から下りていった。

「……あ、そうか! お手紙! お手紙ねリリー!」

リリーはちゃんと、私にアドバイスをしてくれたみたい。

リリーは、「もういいわ」って感じで、部屋のドアの前まで行って「ミ」って短く一音鳴いた。

リリーが出ていってから、ドアを開けに来てくれた使用人さんにお礼を言って、私はベッドにもぐりこむ。

布団をたくし上げるとき、触れたところが少しだけ温かくて、リリーがいたところだねって、嬉しい気持ちになった。

お手紙は、すごくいいなあ。

おうちで書けるし、ちゃんと気持ちを伝えられる。

“心配かけてごめんなさい”、“いつもありがとう、大好きよ”って伝わるように書いてみよう。

お礼とお詫びの気持ちを込めて、飾りボタンと一緒に渡そう。

+ + +

次の日は、朝ごはんの席で、みんなに少しだけ時間をもらってごめんなさいした。

それから数日は、家庭教師の先生がやってきて、私はいつもよりもっと、頑張ってお勉強した。

それから、ご飯の時間の合間や、寝る前の少しの時間はお部屋に戻って、みんなひとりひとりへのお手紙を書いて過ごした。

お手紙は、渡すまでは内緒にしたいから、チャーリーにも内緒。

チャーリーは私がお部屋にいる間は、ヘイデンや若い執事さんのお仕事を手伝っている。

お出かけしないでお部屋にいる私に、料理人さんがおやつを作ってもってきてくれたり、女性の使用人さんがお部屋にお花を飾ってくれたり、寝て起きたらお部屋の窓のすぐ外に魔法みたいに素敵な花壇ができていたりしたから、お部屋にいる間も全然さみしくならなかった。

お作法の先生は字の書き方も教えてくれるから、こっそりお願いして、授業時間の半分くらいをお手紙の添削の時間にしてもらった。

間違えた字は何度も書き直して、綺麗な字の練習もしたけど、お作法の先生は「ステラ様のやさしいお気持ちが出ていますから」って言って、文章や言葉遣いを変えたりはしなかった。

似た意味の言葉や言い回しはたくさん教えてもらえたから、次にお手紙を書くときは、もっと大人っぽいお手紙が書けるはず。

年に一回くらい、こうやってお手紙書きたいな。

年に一回っていつがいいかな。

毎年お祭りの日に渡すのはどうかな。

そうしてできたお手紙は、短い文章だけど、私なりに気持ちを込めて頑張って書いた。

今日はお勉強の先生の来ない日。

いつ渡そうかなって思っていたら、事情を知らないマルクスとルイが遊びに来ちゃった。

お手紙と飾りボタンを渡すまで、遊ぶのは我慢しようってなんとなく決めていたけど、二人にもそれを教えてあげておけばよかったなあ。

でも、これはいい機会かもしれないって思って、こっそり二人にはお手紙のことを話して、アドバイスをもらうことにした。

チャーリーにはまだ内緒だから、話し声が聞こえないように、一度廊下に出てもらう。

私が「チャーリーには、出ていって欲しいなあ」って言ったら、チャーリーは笑顔のままでしばらく動きを止めちゃって、息も止まっててびっくりした。

言い方が良くなかったなあって慌てて、「チャーリーに見せたくないの」って言ったら、やっぱり笑顔のままのお顔がどんどん青色になっていって、もっとびっくりした。

マルクスが「言葉の綾だ」「自信を持て」「事情があるはずだ」ってなんか色々言って、チャーリーはのろのろ動き始めてお部屋の外に出てくれたけど、心配だなあ。

チャーリーには、お手紙はみんなの最後に渡そうかなって思ってたけど、出来上がったらすぐに渡して事情を話そう。

さっそく、十六枚あるお手紙をマルクスとルイに見せる。

「どうかな?」

「私は手紙は書いたことがないからな。こんなもんじゃないか」

「ルイってば、もっとちゃんと見てよぅ!」

ルイは二枚くらいさっと見て、適当なことを言った。

興味無さそうなお顔のルイを、読んで読んでってせっつく。

マルクスはちゃんと全部見てくれた。

「絵も描いたらどうだ?」

「ほお、いいじゃないか。マルクスもいいことを言うことがあるんだな」

「どういう意味だよ」

ルイとマルクスは一緒に遊びに来るようになってからずいぶん仲良くなった。

マルクスはたまにルイにお勉強を教えてもらっていて、ルイは先生ぶっているけど、マルクスがお話しする街のお話やお友達のお話を、ルイが楽しみにしているのは見ていたらわかる。

じゃあ似顔絵を描くのはどうかなって話になって、私は練習のために大きな紙を出してきた。

一緒に遊んでいてわかったんだけど、マルクスは習ったこともないのにとても絵が上手なの。

マルクスは小さいときから剣術のお稽古が好きで、絵を描いて遊んだのは、私と遊んだときが初めてだったんだって。

マルクスの描く絵は特徴を捉えていて、不思議な魅力があって、マルクスが描いてくれたリリーの絵は、私の宝物になった。

色を塗るときもリリーの白い毛並みを黄色やピンクで表現したり、お互いのパパを描いたときも肌に緑をつかっていたりして、独特だけど、出来上がってみたら馴染んでいてすごく素敵なのよ。

マルクスも、私と絵を描いてから絵を描くのが好きになったみたいで、今度ルイと一緒に芸術の先生に教えてもらうんだって言っていた。

「どうかな、チャーリーに似てるかな」

「チャーリーは、こんな風に笑うのか? ……いや、ステラの前なら、笑うんだろうな」

マルクスは面白そうだ。

教えてもらおうと思ったのに、ただただ褒めてくれるから、なんだかくすぐったい。

ヘイデンの白い髪はどうしよう、とか、ダニーはお勉強のときの眼鏡も描こうって言いながら練習して、それからそれぞれの手紙に緊張しながら似顔絵を描いた。

すごく良い出来だ。

マルクスが褒めてくれるから、とっても上手にできたと思う。

私たちが絵を描いてる間、ルイは部屋の隅にいるリリーのそば、少し離れたところに座って、なにかずっと話しかけていた。

リリーは寝ちゃってるみたいだった。

それから、二人にも手伝ってもらって、飾りボタンと一緒に一人分ずつ封筒にしまったの。

「二人ともありがとう〜。じゃあ、チャーリーを呼ぶね」

「それなら、俺達は部屋から出るから、呼んできてやるよ」

マルクスがリリーのところにいたルイのところに行くと、「出るぞ」って言って引っ張っていく。

ルイは「あとちょっとだったのに」とか言って、不満そうにしながら立ち上げって部屋の外に向かう。

リリーを見ると、やっぱり寝ちゃっていて、お腹がゆっくり上下していた。

二人と入れ替わりにお部屋に戻ってきてくれたチャーリーに、向かい合う。

私のドキドキが伝わっちゃったのか、チャーリーはなんだか不安そう。

私は、チャーリー用の封筒からお手紙を取り出すと、お手紙を広げて読み上げた。

「“チャーリーへ。

いつもいっしょにおでかけしてくれてありがとう。

だいすきよ。わたしのひつじさん”」

チャーリーの目が大きく見開かれている。

チャーリーったら、お口もポカンって開いてる。

チャーリーのびっくりしたお顔、珍しいな。

私は、少しだけいたずらが成功した気持ちで、封筒から飾りボタンを取り出して、お手紙と一緒にチャーリーに渡した。

呆然としたまま受け取ってくれたけど、チャーリー喜んでくれるかな。

「あのね、チャーリー。それ、飾りボタンって言うんだって。ガラスに、深い青と紫のお花が入っていて、チャーリーに似合うかなって思ったんだけど、どうかな。私とお揃いなの」

私はまた緊張してきて、ソワソワしちゃう。

チャーリーは、飾りボタンを指でつまんで、びっくりしたお顔のまま光にかざすように持ち上げた。

チャーリー、すっごくお口開いてるよ。

私が心配して見ていると、チャーリーの体がスっと、落ちた。

ドッて音がして、チャーリーが床に尻もちをついた。

お手紙を胸に当て、飾りボタンを頭上にかざしたままのチャーリーは、絨毯の上、膝から力が抜けたように後ろ向きに転んで、それでもびっくりしたお顔のまま、飾りボタンを見ていた。

見間違いじゃなければ、チャーリーの目からすーって涙が流れている気がする。

「え? え? チャーリー、大丈夫?」

何が起きたかわかんなくて、私はびっくりしちゃう。

絨毯の上だけど、尻もちは痛いんじゃないかな。

もしかして渡しちゃいけないものだったのかなって、ちょっと思いそうになった時、廊下にいてくれたマルクスとルイが、尻もちの音を聞いて部屋の様子を見にきてくれた。

尻もちが、チャーリーなりの嬉しいリアクションだったってわかるまで、少しだけ時間がかかった。