軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

91.大天使ステラちゃん、王国一の大植物園ッ

ルイとそうして話していると、少し遅れて、ルイが載ってきた馬車より大きい四人乗りくらいの馬車が私たちのいる門まで来て、ゆっくり止まった。

中から、前にお泊まり会をしたときにルイのパジャマを届けてくれた執事さん風の男の人が出て来て、丁寧な態度で、良かったら中へ案内するよって言ってくれる。

私たちがお礼を言って四人乗りの馬車に乗ったら、ルイも一緒に乗ろうとした。

だけどそうしたら一人用の馬車の御者さんが寂しいんじゃないかなって私は 思って、だから私が一人用のほうに乗るねって言ったら、ルイとマルクスがそれは何か違うって言って、やっぱり来たときと同じくルイが一人用に乗って帰ることになった。

ルイは理解はしたけど納得はしてないって感じで、ぐぬぬってしてた。

ルイのお屋敷は侯爵令嬢のアリスのお屋敷にも負けないくらい広くて大きいお屋敷だ。

馬車に乗り込んだ私たちが見守ってくれていた門の守衛さんにお礼を言い終わると、御者さんの操作でお馬さんがゆっくりトコトコ馬車を引き始めてくれる。

門からお屋敷の玄関まで、庭園は広く綺麗に整えられていて、やがて前方に見事な蔦に覆われたシックな建物が見えてきた。

黒がベースの暗色の壁は几帳面なくらいに整えられ磨かれていて、それが自由に這う蔦と調和しているのがなんだか不思議で素敵だ。

夜にこのお屋敷を見ればきっと、一層雰囲気と合っているだろうなって思う。

「素敵なお家だねえ! 怪人バロンの隠れ家みたい!」

「なんだその怪人バロンって」

「黒くてね、マントと仮面をつけた、名探偵ケイニーのライバルなの」

「あ、知ってる! 名探偵ケイニーの推理散歩シリーズだろ、友達が読んでて、オレも借りて読んたぜ」

「そうなの! 犬の探偵さんケイニーが飼い主の人と一緒に活躍するの」

緑々しい蔦が屋敷の黒い外壁を覆う姿に、私が最近読んでいる探偵さんのご本の敵役の怪人を連想していると、マルクスもそのご本を知っていたみたいで盛り上がった。

ご本は読むのも楽しいけれど、アリスから知らなかった面白いご本を貸してもらえたり、こうしてご本のことを知ってる誰かとご本のことを話すのもとっても楽しい。

並走する一人用の馬車では、私たちの馬車側の窓に貼り付くみたいにして、ルイが何やらぐぬぬしながら私とマルクスがお喋りしてるのを見ていたみたいだけれど、お話に夢中になっている私はそれに気が付かなかったの。

◇ ◇ ◇

「刮目して見よ! これが我が家が誇る王国一の大植物園ッだッッッ!!」

「ほわあ〜〜」

「すっげ……」

「これは……なかなかに壮観ですね……」

ルイが両手を広げて胸を張り、私たちに宣言する。

マルクスもチャーリーもびっくりして固まり、私は、思わずお口をぽかんと開けて、目の前に広がる緑を見上げていた。

ゆっくりと走る馬車がお屋敷に近づいてきた頃、馬車は不意に道を折れてその行き先を変えた。

私たちがお屋敷に向かっていると思っていただけで、最初から目的地はお屋敷じゃない敷地内のどこかだったみたい。

馬車はまるで、お屋敷の壁に這っていた蔦の根っこを目指すみたいに、お屋敷の裏へと回って庭の一角へと到着した。

馬車から降りて見えたのは、草花の咲き誇る庭園にあってもひと際草と木が生い茂る光景、もはや鬱蒼とした森って言ってしまえるくらいの、見渡す限り元気いっぱいに育った植物たちだった。

街で見たことがある花から、明らかにこの辺りの植生ではない枝ぶりのものまで、様々な木が、草が、花が、これでもかと元気いっぱいに生えている。

ルイによるとそこは植物園と呼ばれているみたいだけれど、それは人が手を入れて管理しているようにも見えなければ、自然に萌え芽吹いたようにも見えない、混沌とした有り様だった。

あまりに非現実的な光景を前に固まってしまっている私たちを前に、ルイは見せたいものがやっと見せられるとばかりにただただご機嫌だ。

私たちがルイいわく植物園の入口で呆然と立ち尽くしていると、風もないのに植物の蔓が突然一本『ブルンッ』と垂れ落ちてきて、目の前でビチビチ、新鮮な感じで揺れ出した。

「………ルイ様、ここは、入って大丈夫なのですか?」

「ん? なぜそんなことを聞く? 我が家の敷地内とはいえ、私の客人なのだからお前たちが気後れする必要はないぞ」

チャーリーがルイに大丈夫かなって聞いてみると、ルイはきょとんとして答えたし、さりげなくチャーリーが目線を送った先にいたここまで馬車を運転してくれた執事さん風の男の人───ルイのお世話係さんらしい、も、黙って笑顔で頷いてる。

それから、ルイは「こっちだ!」って言って、待ち切れないみたいに私とマルクスの手を取ってぐいぐい引っ張った。

「ああこらルイ、転ぶから、ほら、手を離して前を向けよ。オレたちもちゃんとついてくからさ、案内よろしく。とりあえず、なんか平気そうだし、行ってみようぜステラ」

「うん! お願いね、ルイ」

「ふ、フン! 遅れてはぐれるなよ!」

引っ張るルイの力は弱くって、私もマルクスもびくともしなかったけど、逆にルイが転んでしまいそうで、心配になったマルクスが止めて前を向こうよって言う。

マルクスがルイの背中を押し案内を頼むと、ルイが先頭、私とマルクスとチャーリーはルイの後ろに続いて植物園の中へと入っていき、その後をルイのお世話係さんが後ろを見守るようについてきてくれる形になった。

私たちは、狭い通路までわさわさと元気いっぱいに伸びている植物たちをかき分けて、背の高いチャーリーは垂れている蔦や葉をくぐるように避けながら進んでいった。

見たこともない、色も形も様々な植物は新鮮で、たまにルイが「ほらそこ、実がなったばかりなんだ!」とか、「あの植物はここでしか見れないぞ!」とか「バッタもいるんだぞ!」とか言って、目を輝かせながら指差し教えてくれるのがすごく楽しい。

その度マルクスはルイに前を見ろとか、転ぶぞとか言って支えてあげてて、そのうち私もマルクスもすっかり植物園の中をワクワク探検しているみたいな気持ちになって、そうしてしばらくみんなで進んでいると、やがて開けた場所に辿り着いた。

見れば、耕された畑のような地面と鉢植えが区画分けされて並んでいて、その真ん中には庭師のおじいちゃんの小屋によく似た、けれど造りのしっかりした屋根付きの大きな小屋が建ってる。

簡易な柵だけだった先程までとは違うその場所に私たちがキョロキョロしていると、同じように周囲を見回したルイの顔が一点を見て輝きを増したのが分かった。

何か見つけたのかなと思って私がルイの視線を追うと、そこには作業中らしく作業着姿で、地面にしゃがみ込んで土といくつかの鉢植えをいじっている女の人が一人いる。

「母上!」

嬉しそうに呼んだルイの声に、のんびりとした動作で振り返った女性───ルイのママで、ルイのパパの宰相ニール・レッグウィークさんの奥さんだろう彼女は、被っていたツバの広い麦わら帽子がずれたのも気にしない様子で、私たちに向けて「おー、来たんか」と、緩いお返事をしてくれたんだ。

「この人が私の母上だステラ。母上、こっちがステラです」

「はじめまして、ステラです、五歳です!」

「おー噂のステラっち。ルイからお話はかねがね、よろ~」

初めましてをしたルイのママは、大きな垂れ目が眠たげに見える、優しそうな女の人だった。

ルイのママはお膝を抱えて座ると、私と目線の高さを合わせてから軍手を外し、伸ばした右手で私の頭をなでこ、なでこ、と何度か撫でてくれる。

「ふへ、かわい。あーしのことは、あーたんって呼んで」

「うん! よろしくねぇ、あーたん」

「おけまる」

ルイのママはあーたんっていうらしい。

あーたんは、全体的にポヤーっとした印象の人だけど、不意に眠そうな垂れ目をいたずらに細めて笑う瞬間があって、それがすごく魅力的だ。

「なあルイ、それで大発見って、この植物園での話なのか?」

「よくぞ聞いてくれたなマルクス!」

マルクスがお手紙に書いてあったことが気になったみたいでルイに聞くと、ルイがまた一段と目を輝かせる。

ルイは「フッフッフッ……」って思わせぶりに笑ってから、右手をゆっくりと自分の顔にかざす様に当て、顔の半分を手で覆ったポーズを付けて私たちに向けて言い放った。

「この植物園の存在こそが、私の大発見ッだッッ! なんと、我が家の庭には、植物たちの楽園があったのだッッ!!」

バーンと、効果音が鳴りそうな様子で言ったルイに、私はよく分からなかったけど、きっと何かすごいんだなあと思ってパチパチと拍手をする。

そしたら、あーたんと目が合った。

私を見て『ん?』 ってお顔をしたあーたんは笑って、それから私と同じように拍手をして見せてくれる。

私とあーたんが二人でニコニコでそうやって拍手をし合ってると、マルクスが「え? それじゃあ………」とポツリと呟くのが聞こえた。

ルイの言葉に呆気に取られていたみたいだけど、お目目をぱちぱちさせたマルクスは、何かに思い当たったみたいに言う。

「ルイ、お前、自分ちにこんなにでかい植物園があるの、今まで知らなかったのか?」

沈黙。

堂々ポーズを決めていたルイは、マルクスからの問いかけにお顔にかざしたままだった片手をゆっくりと下ろすと、徐々に丸めた背で一つコクンと頷き、小さなお声で「うん」って言ったの。

◇ ◇ ◇

「この植物園は、あーたんがお世話をしているの?」

「んー、だいたいは? 土とかー、何をどこに植えるーとかはあーしが選んでて、あとは屋敷の人たちがちょいちょい手伝いに来てくれてる。あーし辺境育ちだかんね、こんぐらいの土いじりならラクショーの大得意」

「大得意なんだ、すごい」

「ふへ、すごいっしょ。なんか、ステラに褒められるとテンション上がんね。まだここでしかうまく育たない薬草とかもあるから、あとで見せたげる」

「わぁい」

あーたんは作業中だったからか上下つなぎのダボッとした作業着を来ていて、体や鼻の頭なんかのあちこちに土汚れがついちゃってる。

だけどそれを気にした様子もないあーたんは、すぐに植物園を案内してくれるって言って、私がさっきまでしていた作業はもういいのって聞いたら、土の混ぜ具合を新しく考えるときのフィーリング? っていうのが、園内をぐるぐる歩いてるといい感じになるから丁度いいって言って、案内をしてくれることになった。

あーたんのお話してくれることはたまに難しくて分からないこともあったけど、植物に詳しいあーたんに説明をしてもらいながら植物園の中を見て回るのは面白くって、楽しくって、あーたんと一緒に歩く植物園はたくさんの発見があって、なんだかもっと色付いて見えるみたい。

ルイも、私たちと一緒にあーたんのお話を聞きながら、なんだか鼻高々に誇らしげにしていて、いつも以上にルンルンで嬉しそうだった。

「こっちがお水を好きな子がいるところでー、こっちが温かいお日さまが好きな子がいるところ。だいたいだけど、あーしがイイ感じじゃない? って思うところに配置してってる感じ。あとは、こっちのほうは 他所(よそ) で栽培がうまくいってない子たちで、うちで預かって、さっきみたいに土を混ぜてみたりして、色々試してってる感じかなー」

「へえー、そうなんだ! なんか、ルイの母ちゃんってすげえんだな!」

「んーー? そんなことないよ〜。言っても、タダの趣味だしぃ」

ワクワクでいっぱいになったマルクスがあーたんをすごいって言ったんだけど、何故だかあーたんは誤魔化すみたいにへらっと笑って返した。

その笑い方が何だか困って見えて、声のトーンもちょっとだけ下がってるみたい。

私が不思議に思っていると、あーたんがルイのことをチラリと見てから少し言い淀み、それから口を開いた。

「んーと、あーしはさぁ、考えるのとか苦手なんだよね。実家も、なんか軍隊とかやってて脳筋って感じだったし。だから植物のこと詳しいかって言われたら、大した事ないっていうかぁ。にーくんやルイみたいに、ちゃんと勉強して 植物(このこ) たち育ててるわけじゃないんだよねー」

そう言ったあーたんは「あ」と言うと、「 ちなみに『にーくん』はルイのパパね。ニールだから、にーくん」って、笑って付け足してくれる。

そうやって言ったあーたんは、またさっきまでのいたずらな雰囲気で嬉しそうに笑っていて、あーたんは『にーくん』のことが好きなのねって分かった。

「あーたんは、 にーくん(ニールさん) やルイがお勉強ができるのがすごいって思うんだねぇ」

「ふへ、ステラってあーしのこと、何でもお見通しって感じ。そーそー、にーくんもルイも、二人とも勉強とか? 研究? とか?? そういうの、ちゃんとできて凄いっていうか、あーしには絶対無理っていうかぁ」

私が感じたことを言うと、あーたんは垂れ目をへにゃっと緩めて、嬉しそうに笑ってくれる。

その笑顔がすごく幸せそうで、私も嬉しくなった。

その時ふと、私とあーたんの会話を聞いていたルイが、不意を突かれたみたいなお声を出した。

「えっ……? そ、そうなのですか? 母上」

私が声の主を見れば、ルイが、びっくりしたお顔であーたんを見てる。

何でって思ってるのがお顔に書いてあるみたいな、ポカンとした困惑顔だ。

普段は何でもズバズバ言うルイが、今はどうしてだか何を言っていいか分からないみたいで、私はどうしたんだろうと思いながらルイの言葉の続きを待つ。

すると、ルイはしばらく言葉を探すみたいに視線を宙に彷徨わせてから、やがて決心したようにゴクンと口の中を飲み込んで言った。

「私が植物園の存在を知ったとき、私は父上に聞いたのです。父上は、植物園を取り仕切る母上のことを、こうおっしゃいました。『彼女は、私よりずっと賢く、いくつもの功績を残している鬼才だ』と……。 けれど、母上は学問が苦手……? ではまさか、まさか父上のあの言葉は、私を母上と近づけるための、ただの嘘、だったのですか………?」

必死にそう言ったルイは、信じていたものに裏切られるのを恐れるみたいな、泣いてしまいそうなお顔をしていたの。