作品タイトル不明
第七十一話 ユウマ・クレイの断罪(後編)
王太子レオンハルトが俺の断罪に持ち出したのは、一つの魔道具だった。
レオンハルトの手のひらに収まるほどの薄い黒銀色の魔道具で、剣の柄のような形をしていた。中央には赤黒い溝が走り、表面にびっしりと刻まれた古代文字には、不気味なおぞましさがあった。
「レオンハルト様……それはまだ試作品ですので……」
宮廷魔導士と思われる者がレオンハルトを止めようとする。
「うるさい! 俺が実験してやるのだ。ありがたく思え!」
残忍な笑みを崩さぬまま、レオンハルトが魔道具をかざし、俺に見せる。
「これは『 名喰い(ネーム・イーター) 』という魔道具だ」
「名喰い」……。かつてグレゴール大司教が使用した、あまりに残酷な禁術だ。
その禁術は対象の真名を奪い、その名に関わる記憶も記録もこの世から完全に消してしまう……。
「これは魔道具だ。つまり、『名喰い』禁術の副次効果で寿命を奪われる術者はいない。この魔道具を壊したところで、『名喰い』の効果も永遠に解けないのだ」
つまり……レオンハルトが執行する刑により、俺は「ユウマ・クレイ」の名前を永遠に失うということだ。俺は「名喰い」の恐ろしさをよく知っている。あの恐ろしい禁術を魔道具にしてしまうとは……。王政府は狂っている……。
そして俺は、皆の記憶から消されなければならないほどの悪人ということなのか。
この異世界に転生してから、ずっと「ユウマ・クレイ」としてこれまで生きてきた。愛着のある名前だ。 それが失われ、二度と取り戻すことができない……。
俺はただのモブ平民で、人に記憶されるべきことなどしてきたわけではない。しかし、それでも大切にしたい記憶はたくさんある。どんなモブであろうと、俺は人間なのだ。
クローデリア……大切な、唯一無二の俺の相棒も、俺のことを忘れてしまうのか……。
急に強い寂しさを覚え、自然と涙が溢れた。
あまりに残酷ではないか……。
「ははは。今さら泣くほど後悔するか。これは愉快だ。
散々、王太子の俺をバカにしやがって。この不快な記憶ごとおまえを消し去ってやる」
レオンハルトが魔道具「名喰い」を俺に向けた。