軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十三話 夜の王都の月明かりに

テオドール少年が続ける。

「クローデリアお姉様が断罪されそうになったとき、セラフィナの『 祝福共有(ブレス・シェア) 』が、呪いを広めるものだと気づきました。僕、クローデリアお姉様のように武芸はできないのですが、魔法感知能力には自信があるんです」

あのとき、テオドール少年もいたのか……。あの、ただ光が出ているだけに見えた魔法の正体にすぐに気づいていたとは……。レーヴェンハイト公爵家は何だかすごい人材ばかりだな。

「それでお父様にそのことを報告したら、少ししてその日のうちに大司教様がいらして……そのまま連れて行かれてしまったんです。大司教が僕を『孤児院の子だ』って言うと誰もそれを疑わないんです。僕はそれが『名喰い』の禁術だとすぐ気づいたんですが、もうなす術はありませんでした。僕を聖教会には置いておきたくなかったようで、そのまま僕は王都の商人に預けられてしまいました」

テオドール少年は悔しそうにそう話すと、レーヴェンハイト公爵婦人が話を引き継ぐ。

「レーヴェンハイト公爵は王政府にすぐ報告して、聖教会の調査に乗り出そうとしていたのですが、一歩遅く、動きを気取られてテオドールが先に『名喰い』されてしまったようね。それで皆、テオドールのことも、テオドールの報告内容も忘れてしまったのね」

そして最後にテオドール少年がもう一度口を開く。

「『 名喰い(ネーム・イーター) 』は使うたびに使用者の寿命も削る禁術です。大司教様はそれだけの覚悟を持って術を使っていたはずです。でも、ユウマ様に罪を見抜かれて、クローデリアお姉様に斬られたのも、大司教様の寿命がもう残っていなかったせいかもしれませんね」

公爵令息がモブ平民兼奴隷に「様」をつけるのはやめてください。

「まあ、ともかく、こうして皆様が元通りになられたのはよかったですね! お料理もとてもおいしかったです。いろいろとお話もお聞かせいただいて大変ありがとうございました。では、俺はそろそろお暇します」

「あら、そう? 公爵にもご紹介したかったのに残念だわ。あの人忙しくって、帰りが遅いのよね」

モブ平民を公爵御本人に紹介するなんてちょっと狂っていますよ、という言葉を飲み込む。

「残念ですが、俺もいろいろ奴隷ならではの仕事とか、いろいろありまして……」

「じゃあ、家まで送ってあげるわ」

クローデリアが俺に言った。

「俺が送るって言ったのに、送ってもらうのは申し訳ないですよ。王都ももう平和になりましたし、一人でも安全に帰れます」

「自分の奴隷を守るのが主人の義務なんだから遠慮してはだめよ」

わけのわからない理屈だな。

「そうね、送って差し上げなさい。こう見えて、とても強い娘なのよ」

レーヴェンハイト公爵婦人も言うが、娘さんの強さはよく知っています。

さて、本当の最後の締めくくりは、物語のもう一つの中心にいた、クローデリアと俺の帰り道。

その夜、王都はとても穏やかだった。

万が一、夜盗に襲われたところで、クローデリアがいれば何も問題ない。彼女の存在はいつも心強い。

俺たち二人は何も話さず、夜風を心地よく感じながら道を進んだ。

やがて、俺の家に到着した。

「クローデリア様、護衛いただきありがとうございます。お気をつけてお戻りください」

俺の言葉にクローデリアは頷く。しかし踵を返す様子もなく、すぐに去ろうとはしなかった。

「少しだけいいかしら。……断りを入れる必要もないわね。あなたは私の奴隷さんで、私のすることを拒否する権利はないのですから」

そう言うと、クローデリアが俺をそっと抱きしめた。

……俺はただの平民なんですから……。こんなところ人に見られたら断罪されちゃいますよ……。

周りを見回すが誰もいない。まあ、今だけはいいか。

「私のことを、あなたがずっと忘れないように」

クローデリアが小さく呟く。

「俺は二度とクローデリア様のことを忘れませんよ。どんな強力な禁術を使われようが大丈夫です」

クローデリアは俺の体に回していた手をほどき、微笑んだ。月明かりに照らされたその笑顔は、とても美しかった。

無数の「聖女の笑顔」が溢れかえる平和な世界なんかよりも、たとえ諍いがあろうと、たった一つでもかけがいのない笑顔がある世界のほうが、俺はずっと好きだと思った。

そしてこの翌日、クローデリアが失踪し、また新しい「断罪」の物語の幕が切って落とされることになる。