軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

*閑話 ある日の彼と彼女(六年時・アルウェス視点)

僕を睨みつけた挙げ句今にもツバを吐き出しそうな顔をしたヘルに、これのどこが良いんだか、と彼女に熱い視線を送る男爵息子を見た。

こんな野蛮な生き物は野生にだってそうそういない。

何年かかっても手懐けられない動物は火山に生息している火吹狼とこのヘルぐらいだろう。

間違っても飼うことはお勧めできない。

五、六年時の授業で週に一度行われる、生徒同士による攻守魔法一対一対決の時間。

今回は魔法を使い相手の手首についている腕輪を奪いあうという内容だった。何度も行われている授業だからか、始めの頃より全員和らいだ表情で競技場の地面を踏めていることだろう。

この大きくも閉鎖的な空間は、魔法を存分に使っても良いというところだけが唯一の長所と言っても過言ではない。

僕はいつものように心体を和らげ、担当教師に言われた通り対決相手である生徒の前に立った。

それぞれの生徒が、決められた、腕輪を奪う対象を見る。

「絶対に負けるもんですか!!」

和らいだ表情で挑めているだろう生徒達の中で、そんな様子とはかけ離れた鼻息を鳴らす女子生徒がただ一人。僕の目の前でふんぞり返って立っている。

どこからそんな獣のような声が出るのかと思わずにはいられない野太い声。

水色髪の野生動物、もといナナリー・ヘルが、相も変わらず昨日と変わらず今日も変わらずそこにいた。

「今日もうるさいね君」

「ふん。その態度を今日こそへし折ってやるもんね」

「その態度も大概どうかと思うよ」

「ああ言えばこう言う!」

いい加減その荒々しい態度を一度は止めたらどうかとは思うが、それを言えばまた面倒なことになりかねないのでその様子に心から漏れた笑みを浮かべると、それをどうとったのかキィィー!と地団駄を踏んで顔を真っ赤にしていた。

随分一人で忙しそうに、楽しそうにしている。

彼女は少々思い込みの激しい節があるが(大抵その思い込みは当たっているのだが)、そこも突いたら突いたで面倒臭くなることは分かりきっているので、この六年その様子を大人しく、時に激しく魔法を行使し観察していた。

そしてまた面倒なことに六年間席が変わることもなかったので、よく観察が出来た。

これほど自分に突っかかってくる人間はいない。

彼女がそうなった原因がもちろん自分にあるのは分かりきっており、諸悪の根源であることも自覚はあるのだが、このままいけば果ては死ぬまで勝負を仕掛けてきそうな勢いである。

もっともその頃には、お互いより良い伴侶を見つけて落ち着いていてほしいところなのだが。

「っあ!?」

「はい、終わり」

彼女が構えに入る前に、忍ばせておいた蔓を指先で操り腕輪を頂戴する。

いきなりのことに何が起きたのか分からないのか、相手は地面に尻餅をついた。

碧眼を覆う長い睫毛が揺れている。

驚いた時に瞬きを三回するのは彼女の癖だ。

「え、何今の。私の腕輪いつのまに」

「蔓の魔法だけど」

「まさか透明の? だって蔓の呪文に透かし魔法をかけるのって打ち消しあっちゃうんじゃ――ハッ!!」

この様子だと、ヘルは蔓の魔法をまた必死に覚えるんだろう。彼女の性格からして多くとも三日間は本の虫、放課後は競技場で思う存分がむしゃらに納得のいくまで魔法を完成させるに違いない。そういう人間だ。

かくして浮かんだその光景にまた笑いが漏れた。

しかしそれをやはり悪いようにとったのか、再びヘルは「いーまーにーみ~て~ろ~!!」と地べたを這いつくばるような声を出して睨み付けてくる。

威勢は変わらず良い。

いつまでも地面に腰をつけている彼女に、たまには親切でもしてあげようと手を差し出す。

そしてそれを羨ましげに見つめてくる同教室の男爵息子には、あとで女性の好みを正してあげようとこれまた親切心ながら思った。

これのどこが良いんだか。

差し出した自分の手を見て問いかけた。