軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

受付嬢二年目編・4-2

「あれじゃない? 恋の逆怨み!」

「あーあ、言うと思った」

寮の広い浴場。そこのお湯に浸かりながら、ゾゾさんが興奮ぎみにハリス姉さんへと迫っていた。

話題はいわずもがな私とハリス姉さんで行った事前調査の内容についてである。

部屋の湯浴み場でもいいけれど、身体が疲れている時はやはり広い浴場でお湯に浸かるのが一番だ。もう髪も身体も洗い終わった私は、長い髪の毛を脳天で一つに纏めてお湯に浸かっていた。

「そういえば先輩達、恋人いらっしゃらないのですか?」

「いるわけないじゃない」

ちょうど同じ時間に居合わせたチーナも会話に混ざる。

チーナの質問に素早く答えたのはハリス姉さんで、隣にいるゾゾさんを半笑いしながら見ていた。眼鏡は曇ってしまうため頭に乗せている。

その様子をお湯に肩まで浸かりながらじっと見ていた私にも、ヘル先輩はどうですか! と期待に満ちた瞳でチーナが聞いてきたが、そんなことを聞かれても私も返す言葉は一つしかない。

「本当ですか!? ヘル先輩がいないなんて、びっくりしました」

「逆になんでいると思ったのか聞きたいぐらいだよ。チーナはいるの?」

「いません」

彼女はそう答えると、深く肩を沈めてお湯をブクブク吹いた。

「私、いつも一緒にいた銀髪の先輩と恋人同士なのかと思ってました」

純粋に不思議そうにそう言われる。一つに縛ったチーナの髪がチョンと跳ねていて可愛い。

私が銀髪と聞いて思い浮かぶのはサタナースただ一人。移動教室のときもよく一緒にいたから、目についたのかもしれない。

違う違うそんなんでは全然ないと否定すれば、チーナはそうなんですねとつまらなそうにまたブクブクとお湯を吹いた。

恋バナをしたかったんだろうに、それについての引き出しはあまり持っていないどころか寧ろ皆無なので申し訳なくなる。

「でもさぁ、女に恨みってやっぱり惚れたほうの男が振られたとかよね」

「そうは言えないんじゃない? ゾゾはそっち方面に意識がいき過ぎ」

「え~? んーん、絶対そうよ。酷いフラれかたしたんだわきっと」

確信がどこにあるのか知らないが、他人のそういうことについては勘が妙に鋭い人なのでたぶんそうなのかもしれない、とチーナのように肩をさらに沈めて、私はお湯をブクブクさせる。

「でもこればっかりは。惚れたもん負けっていうか」

「惚れた方が、負け……ですか?」

負けという言葉にピクリと耳が動いた私はお湯から口を離し、発言者であるゾゾさんに聞き返した。

「恋愛ってそうじゃない。先に好きになっちゃったら弱いもんよ」

「惚れた方が、負けですか」

なんて恐ろしいんだ恋愛ってやつは。恋愛にも勝敗があるなんて今の今まで知らなかった。初恋もまだな私だけれど、迂闊に人を好きにならないで良かったとホッとする。いつの間にか負けているなんて、そんな理不尽なことはない。

「もしかして私余計なこと言っちゃった? 言っちゃったわよね確実に」

「いえ、逆に勉強になりました」

「絶対嘘よぉ! 絶対また余計に 拗(こじ) らせた感があるもの! あのねナナリー恋愛っていうのは先に好きになっても別に負けじゃないのよ? それで相手が自分のことを好きになったら振り向かせたもの勝ちだし、惚れたもん負けっていうのは言葉のあやであって」

それからゾゾさんは話が飛躍して自分の好きな男性の容姿や性格を散々語ったあと、浴場にまで持ってきていた小さなお酒の瓶を片手に満足げに酒を仰ぎのみ、酔っぱらいながら「やっぱり惚れたもん負けよ~」とぶつぶつ言いながら私とチーナの手に引かれて寮の部屋へと帰ったのだった。