軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ハーレ就業編・7-10

「国王陛下のおなり」

片眼鏡をかけた老紳士が、細長い紙を掲げて口を開く。彼の言葉を聞いた大広間の貴族達は、その声に顔を上げて、階段の先にある壇上を見た。

大きな椅子の隣に其々王族の面々が顔を出す。

王、王妃、王子殿下、王女殿下。もちろんその中にはゼノン王子もいる。

マリスや他の貴族たちがそれに向かい頭を垂れ始めたので、私やサタナースも慌てて姿勢をかがめ始めた。

「今年もまた、無事に花の季節を迎えることが出来た」

広間に王様の重低音が響く。

「建国神プラマーナのもと、ここに健やかなる繁栄を祝福し、栄光なるドーランの輝きをその手に」

王様がそう言ったとき、マリスに肩を叩かれたので姿勢を起こす。彼女を見れば、右手を上にあげて杯でも持つようなしぐさをしているのが目に入る。何だろうと見ていると、貴女もやるのよ、と言われた。周りを見て見れば、皆一様に片手を上げて王様を見ている。

私は首を縦に振ると、親指と人差し指をくっつけてマリス同様杯を持つように右手を上げた。

「乾杯!」

王様が乾杯と言った途端、手に透明の杯が現れる。

杯の中には赤色の、ほんのり果実の香りが漂うお酒が入っているようだった。

祝杯の魔法、というのを本で見たことがあるが、このことか、と地味に体験できたことに歓喜する。

王族はそのままそれぞれ椅子に座りだした。

「アルマン王太子殿下もご立派になられていますな。早くご挨拶に行かねば」

「貴方、リースクリング伯爵より前に行かないでちょうだい」

「いえ気になさらず、男爵もどうぞ」

そして国王の前へ順番に挨拶に行く人たちがいた。ずらっと巨大な蛇のような列。

その列の長さ見る限り、これは時間がかかりそうだとお酒に口を付ける。

「王様も大変ね。あれだけの人数と挨拶なんて」

「隣にいる方、マルキン宰相が横でどこの誰なのかきちんと読み上げて補佐しているから大丈夫よ。アルウェス様も殿下達の警護の為に傍にいらっしゃいますし」

確かに何人もの、というか王国中から集まっている貴族達のことを一人一人一から十まで細かく覚えるということは、いくら王様でも無理な話だ。

列の先にいる王様、お妃様を見る。

お二人の横にある四つの椅子には、第一王子であるアルマン王太子殿下や第二王子であるノルティス殿下、第三王子のゼノン殿下に末子のミスリナ王女殿下が落ち着きを払った表情で座っていた。

そしてその横では黒い騎士服を着用した、昼間の姿と何も変わったところが見られないロックマンが立っているのが見える。左胸にはキュピレットの赤い花が一輪刺さったままで、もしかしてこいつはあの時から今の今までずっと仕事をしていたのかと口がポカリと開いた。

「長時間労働だと……」

「何か言いまして?」

頭を振ってマリスに何でもないと返す。

来ていると言うから、また視覚的にキラキラした服装でもしているのだろうと思っていた私は、口をすぼめて視線を床に向けた。

別に勝ち負けで全てを計っているわけではないけれど、こんなお祭り気分の日でもああやって仕事をしている憎き奴の姿を見ていると、今日一日楽しんで屋台などを回っていた自分に嫌悪感を持つと同時に、少しだけ、少しだけだがアイツの体調を危惧する自分がいる。

もちろんニケやゼノン王子、その他休みではない人間はたくさんいる。

けれど日頃宿敵として見ている、いや扱っているロックマンのあのような姿を見ると、悔しいような、背中が痒いのにそこに手が届かない歯痒い気持ちになった。

とりあえず明日からまた仕事頑張ろう。

「んー……?」

気分を変えようとチラと列の最後のほうに目をやると、見知った顔に気づく。あちらも私に気づいたのか、目を細めてニコリと笑った。私も軽く会釈をする。

最後尾にいたのはロックマン公爵その人だった。こういう時は一番はじめのほうにいるものではないのかと疑問に思ったが、それは自分の中だけの疑問に留めて雑談を交わしているマリスとサタナースのほうに意識を向ける。

「マリスは良いのかよ、あそこに行かなくて」

「ええ、もちろん行くわよ」

サタナースが人さし指を長い列に向けて、マリスはそれに頷く。

「だから貴女もいらっしゃい、ナナリー」

「私も!?」

彼女が血迷った発言をしだした。

「プッ、良かったな」

マリスの顔を凝視する私に、横にいるサタナースが他人事のように笑う。また腹が立ったが、コイツも道連れに出来ないだろうか。

「貴族ではないからと、せっかく招待を受けた身でありながら、国王陛下に挨拶をしない方が失礼よ」

「招待っていうか、マリスのおこぼれを貰った身というか」

「だまらっしゃい。サタナースも行きますわよ」

「俺も!? 嘘だろ!?」

あのサタナースがピシリと動きを止めて汗を流し出す。王様相手となると、流石のサタナースも余裕ではいられないらしい。これは是非ともゼノン王子の前でガチガチに固まるところを見てみたい、なんて性格の曲がったことを考える。

「アルウェス様はあちらにいらっしゃいますし、貴方を連れている余裕はないでしょう」

「じゃあなんで呼ばれたんだ俺」

「ゼノン殿下と会わせたかったのではなくて? 貴方達仲が良かったじゃない」

「まじか。あいつ意外と寂しがり屋なんだな」

「どういう解釈よ」

彼女に促されて、私とサタナースは彼女の後ろに付いて行く。

隣では、そうかアイツまじで寂しがり屋なんだなマジで、とサタナースがまだそんなことを呟いていた。それをゼノン王子の目の前で言ったりしないでよね、なんて戦々恐々としつつ、私は無言で歩いた。