作品タイトル不明
採点中の先生
さかのぼること数年前。
「おお、今年も優秀な奴らが入ってきたな」
ドーラン王国魔法学校での教室の割り振りは、主に校長がおこなっている。
そして今年で勤続20年になるレオニダス・ボードンの教室はほとんどが貴族の子どもで構成されていたのだが、入学初日からその名簿を見た時、思わず頭を抱えた。
平民がたった二人。しかもその中で一番成績の良い者と一番悪い者(入学試験の成績)を同じ貴族の教室に入れたのが校長の狙いなのかは謎だった。……どうか、無事みな仲良くやってほしいものだ。
子ども達がドーラン王国魔法学校に入学し、初めての試験を終えたそのあとは、教師達の採点待ちになる。
自分の教室の採点を行っていたボードンは解答用紙を一枚一枚裁いていきながら、生徒達の答えに感嘆していた。
「さてサタナースは……ああ、そうきたか」
ナル・サタナースの解答用紙を見て思わず笑みを浮かべてしまう。
世界で一種類しかないと言われている、骨の再生まで回復が可能になる薬草は何かという問題だ。
正解はピロケットという薬草なのだが、サタナースの答えはこうだ。
『先っちょに黄色い丸っこい花のついた葉っぱが長くて根っこが青いやつ』
確かに特徴は合っている。
問題は薬草の「名前は?」とは書いていなかったので、これはどうしたものかと彼の答に迷うものの、半分正解ということで採点をつける。
いやはや生徒の個性というものが見えてくるようだ。
次はナナリーの解答用紙を採点したボードンだが、それは今までに少ないほど見事に全問正解、また模範的な解答で清清しかった。
魔法も得意そうな女子生徒なので、今後が楽しみだとこれまた笑みを浮かべる。
その調子で次の採点対象である彼女の隣の席、アルウェス・ロックマンの解答用紙に手をつけたボードンだったが、採点しようと一問目を見た瞬間固まってしまう。
『答え・ピロケット
ピロケットが答えですが、この問題は名前とは書いていないので特徴も書き記しておきます。他にもそこを突く生徒が現れるかもしれないのでお気をつけください。』
「これは同じ採点でいいものか……」
「なんです? あら、凄い回答の量だわ」
教師室の隣の席である治癒の教師プリスカ・パパドプロスは、眼鏡を押し上げてボードンの手元にある解答用紙を覗き見る。
そこには驚くほどに、全ての解答欄を黒で埋めつくさんと文字がびっしり書きつめられていた。
「校長に満点以上の採点をしても良いか確認だけとろうかと」
「あの試験時間でこれほどに穴をついてくる生徒は過去に見たことがないですね」
「満点の生徒が他にも一人いるんだが、うーん」
「この解答をされてはしかたありませんよ。今回は」
しかしこの後の別の試験では。
『水に関連する魔法陣を描きなさい』
『答え・(魔法陣) 綴りが間違っています』
『大陸の最北端に住む民族の名は?』
『答え・リュケン。
ですが最新の情報ではリュケンではなくマジャイという海族に近い民族がさらに北で存在しているようです』
「あらあらあら~」
「ボードン? 大丈夫か?」
プリスカと同僚の教師に挟まれて苦笑される。
ボードンもボードンで、毎回の試験で戦っているのであった。
「私のどこがいけないんでしょうか!!」
「ナナリーはいつも百点満点だ」
このやり取りも六年間変わることはなかった。