軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

受付嬢三年目編・大会三日目

三日目は予定が変わり、競技場の上にある舞台での試合をする予定が、舞台の不具合で観客席のあるこの競技場で行われることになった。

不具合が修復しなければ明日も観客席のある場所で行うらしいが、中止になってしまうより良かったと券を買いに来ているお客さんを見ながら笑顔を向ける。

『四回戦目――』

今日も我先にと人々が押し寄せてたくさんのお金を落としていったが、試合が始まる前に人の波は去り、私達もあとは昨日同様受付の席に待機するのみだった。

試合も始まっている。

先輩や裁判院の二人は今日も競技場の中で活動していて、組合表の発表にも立ち会っていたり、お助け札の確認などしていたりと私達より動くことが多そうだった。

お助け札とは、これからの試合で一組につき一度だけ使える切り札のようなもので、二十枚の中から昨日の先着順に札を一枚だけ選ぶことができる。

札にはそれぞれ違うことが書いてあり、例えば自分達に不利な状況になった時、【相手の時間を十秒止める権利】を発動することが出来たり、【助っ人】を呼んだりできるなど、窮地に陥った場合に行使できる権利で危険を回避するという、三日目からの面白い規則であった。

ハーレは昨日の順位に添ってなので三番目に引いていた。一番はヴェスタヌではなくドーラン王国騎士団だったので、なんとしてもハーレの皆には最後の最後で一番をとってもらいたい。

映写機から流れる声は今日も気合いが入っている。

確率は低いけれどもしかしたら今日はハーレと騎士団が戦うかもしれないことになる。

対戦表にはまだ四回戦目までの組の名前しか載っておらず、ギリギリまでどこの組みと戦うことになるのかは分からないようだった。

四回戦目は他国から来た組同士の戦いだった。

試合の内容は指示された同型同士で戦いあうというもので、競技場の中心に浮かんだ巨大な丸い時計のような板にそれぞれの型を現す紋章がでたら、その指名された型の魔法使いが戦う。

全部で三回勝負。

二つの型ずつ指名され、地と雷の紋章が板に出たら、その型の魔法使いが二人一組で戦い、相手も含み四人で戦うことになるので、全員が一回ずつ戦う。

先に二勝したほうが勝ちだ。

『四回戦目はロストアバンティオ・海の泡が勝利!』

勝敗はどちらかが戦闘不能になるまで行われ、治癒魔法の使用は禁止。

『さて次、五回戦目の戦いは―――』

なのでどれだけ負傷を追わずに相手を攻められるかが鍵となっている。

『ハーレ魔導所対ドーラン騎士団!』

……。

「え?」

対戦表にはハーレと騎士団の文字がある。

「ええ?!」

「自動的にあの組合表が判断してるんだろ? それにしてもここで戦わせるのか」

ヤックリンさんはもうちょっと組み方どうにかならないのかと渋い顔をした。

まさか本当にあたってしまうとは。

ここで負ければどちらかが次の戦いに挑めないことになる。

『さぁどんどんいきましょう! まずは初戦!』

戸惑っていても試合はどんどん進む。

『雷・風』

最初は雷と風の組み合わせで、ケルンさんとモルディナさんが男騎士相手に戦う。

二人は合わせ技、竜巻に電撃を纏わせて相手の負傷を狙ったりと着実に攻撃を仕掛けていっていた。

しかし途中まで相手の隙をついては攻撃を仕掛けるなどして有利な状態に持っていけてはいたが、「男の意地はどうした!!」という騎士仲間からの声援を受けてか女に負けられないと思ってなのか、それからは騎士にぐいぐいとこちらが押されてしまい結果的に負けてしまった。

二人が戦闘不能になるまで戦うので、地面に倒れた先輩達をゾゾさんが治癒魔法をかけに行く姿が映る。

「きっついな」

「次にあれが……ロックマンが来たらどう」

『次は――――火・氷!』

ぶち当たった。

「……」

「……」

私とヤックリンさんは無言になる。

別に自分達の仲間の力を信じていないわけではない。さきほども接戦であったし、向こう側の一人を戦闘不能にもしていた。実況も『ハーレは優秀な人材の集まりですからねぇ、わかりませんよ』と言っていたし。

けれども奴が出てくるとなると話はまったく違うものになる。

『騎士団からは、我らが火の魔法使いアルウェス・ロックマン、氷の魔女ムイーシア・ヘルドラン』

試合が始まり、向こうの組からはロックマンともう一人が出てくる。

自国の騎士団とあってか観客の声援が凄まじい。

『ハーレ魔導所より、火の魔法使いバンデロ・ドリッキー、氷の魔女ディーン・プロイシス』

こちらの組からもハーレから一人ずつ出てきた。ディーンさんとバンデロ先輩が映写機に映る。

二人は試合が始まると、後ろに下がり相手の出方をうかがっていた。

ここはもう是非とも二人に勝ってほしい。

「アルウェス様ー!」

「勝ってくださいましー!」

競技場の舞台の両端にはそれぞれの組が待機をしていた。対戦者用の席もあるのでそこに座っている人もちらほら見られる。試合が始まれば砂埃や攻撃の魔法が観客席にいかないようにと防御の膜が張られるので、四人以外は早々に待機席へと引き上がり自分の仲間達を見送った。

私も二人に心の中で頑張れと声援を送る。

バンデロ先輩は開始早々、あちらが仕掛けて来る前にその場から姿を消す。七色外套の呪文を唱えたのだろう。

対してロックマンともう一人は動くことなく、どこから敵が来るのかを見定めているようであった。

『隠れ方がうまいね』

そうは言うけれど、奴はある一点から視線をそらしていない。それに何かを目で追いかけているようだった。

手には炎を宿している。ロックマンはユーリを召喚すると同時に、その視線の先に炎の弾丸を放った。

すると弾丸の先にいたのかバンデロ先輩の七色外套が解かれ、ロックマンの炎を防御の膜で回避した。

最初に仕掛けたのはロックマンのほうだった。

あくまで女性を傷つけることはしないのか、男であるバンデロ先輩しか奴の眼中には入っていないらしい。

なので自然にディーンさんの相手は同じ氷型の魔女であるムイーシア・ヘルドランになる。

『モルジブ王国出身のムイーシア・ヘルドランはかなり優秀な成績で去年ドーラン王国魔法学校を卒業しています。魔力の高い氷型の力を持つと言われておりまして、地元ではたいへん有名だそうですね! それに超絶美人!』

『アルウェスも始祖級の魔法使いですし、貴重な戦いですわ』

ムイーシア・ヘルドラン。名前は聞いたことがないけれど、南のほうでは有名な人なのらしい。魔力が高いといわれる、しかも有名になっているほどの氷の魔法使いなんて初めて見るので、氷の魔女としてはかなり気になる。

始祖級と呼ばれる人達は魔力が高いと言われる人達の中でも特に抜きん出ている人達を指す言葉で、知っている限りではボリズリーさんが地の始祖級と呼ばれていたり、あとはあいつ、ロックマンがそう呼ばれていたりしている。

『私より強い氷の魔法使いやアルウェス隊長より強い火の魔法使いなんて見たことないわ。この試合、勝ちも同然じゃない』

目の前に立つディーンさんに、ヘルドランという人は笑顔でそう言い放った。

気の強そうな彼女は漆黒の腰まで伸びた髪を片手で払い、誇らしげな表情でで相手を見つめている。

自分の力に物凄く自信があるのだろう。

実際負けたことはないのかもしれない。

しかし自信があるのは嫌いじゃないが、他人を見下しているような態度は少々気に食わない。

確かに彼女は美人ではあるけれども、うちのディーンさんも超超超絶美人だ。解説者の若干贔屓目の実況に頭から角がはえそうだが、ディーンさんには頑張ってほしいところである。

ロックマンとバンデロ先輩がやりあっている横で、こちらも動きをみせる。

ディーンさんが槍状の氷を空中にいくつも出し、相手に向かって乱射攻撃を仕掛けた。

ムイーシア・ヘルドランという女性騎士も負けじと地面を凍らせ、下から盾にも攻撃にもなる鋭い針をいくつも出している。

「大丈夫ですか? 今救護室まで行きますから!」

受付の目の前にある入り口から、女の人が騎士の肩にもたれ掛かりながら出てきた。映写機から視線を外して女性を見れば、体調が悪そうで、顔が青白くなっている。

「どうしたんですか?」

「あ、ええ。貧血で倒れてしまったようで、治癒魔法でも直らないので救護室まで……おーい! 誰か一人来てくれ!」

『ディーン!!』

『はぁ……はぁ……』

バンデロ先輩の彼女を呼ぶ声に、再び意識を映写機に向けた。

『ハーレ魔導所、ディーン・プロイシスが倒れました! しかしこれは体調不良でしょうか……?』

『貧血症状がでているようですわね』

ディーンさんが女性騎士の前で倒れている。さきほどまで軽快に戦っていたのにどうしたのだろうか。

自力での回復は望めないと判断したのか、バンデロ先輩がロックマンとの戦いを一時中断し、彼女を横抱きで抱えて脇に退く。

皆で話し合っているようだがどうするのだろう。

『札を使うわ!』

ゾゾさんが札を高らかに上げた。

『【代理】を行使します!』

審判の人にそう言ってゾゾさんは白い札を渡す。

『代理は同型でなければなりません。外から誰を喚びますか?』

ハーレが使ったのはお助け札だった。使用しなければ札は四日目の明日まで使うことが出来るが、ここで使ってしまうみたいだ。けれど確かにここで負けてしまえば明日の試合に出ることは出来ないし、優勝という文字さえ危うい。

ハーレが引いていた札は【代理】だったようで、こんな状況ではあるけれど良い札を引いていて運がついている。

「ディーンさんは大丈夫でしょうか」

それにしても彼女が心配だ。

貧血症状が出てしまうと魔法が扱えない。倒れるまであそこにいたのなら立っているのもやっとだったに違いないのに。

「ヘル、お前どうした?」

「え?」

「身体が透けてますよ!」

裁判院の人が映写機と私を交互に見ている。

「ヘルさんまさか……」

え、どういうことですかと声をかける間もなく、次に私の見る景色は一転する。

「ハーレが代理の札を使いました!」

ヤックリンさんと裁判院の二人は横にいない。

冷たくて美味しい紅茶が入っていた樽もない。

「――――騎士団頑張れー!」

「いいぞヘルドランー!」

映写機から見ることしかできなかった観客席。

気づいたら目の前には体調がすこぶる悪そうなディーンさん。それを抱えるゾゾさん。その後ろにはアルケスさんやハーレの皆に、対戦者席に座るボリズリーさんやヴェタヌ騎士団の面々。

「は?」

私は競技場のど真ん中に座り込んでいた。