軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ラフィリアのライバル。

訓練場に向かうラフィリアはご機嫌だった。

久しぶりにエレンと遊べると、訓練に気合いが入る。

防具を着けて愛用している訓練用の槍の具合を確かめていると、横から不快な声が聞こえてきた。

せっかくの高揚していた気分が台無しだとラフィリアは眉を寄せた。

「ゲッ、もしかして今日の訓練相手ラフィリアかよ!」

「……カール」

最悪だと騒ぐ青年は、学院でラフィリアに注意してきた騎士学の生徒だった男だ。

一年前に学院を卒業し、騎士見習いになった。領地での訓練場で時折こうして会うことがある。

再会したのは一年前。ラフィリアが父からここの訓練場を使うことを許可して貰った初日で再会した。

カールを含む、新卒の騎士見習い達はラフィリアの姿に驚いた。

まさか公爵令嬢であるラフィリアが、学院を途中退院したとはいえ女騎士を目指しているなど想像していなかったに違いない。

既に腹をくくっているのか、明け透けな物言いをするカールの態度にラフィリアは少しばかり好感を持っているのは内緒だ。

一年前のラフィリアは、既に現役の女騎士を複数相手に一人で戦うことが出来るほどの才能を発揮していた。

これを知ったカール達が変な悲鳴を上げたのはご愛敬だろう。

サウヴェル直属の部下達は今までの先入観を捨て、ラフィリアの才能に惚れ込んでサウヴェルの目を時折盗んでは英才教育を施している。

そうなればラフィリアの相手が務まるような相手は自ずと限られてきたが、こうして時折新人達と訓練を交えて平等な扱いをしているのだった。

「ふふふ、今日は機嫌が良いの。カールが相手なら本望だわ」

ラフィリアは笑顔で片手に持った槍をひゅんひゅんと回していると、カールの顔色がだんだんと悪くなっていった。

ヴァンクライフト家の血を引く者達の戦い方には共通点があると噂がある。

それは誰しもが戦闘狂で、笑いながら戦うのだ。

こうなったら覚悟するしかない。

カールだけではなく、周囲の者達も青ざめながら訓練が始まったのだった。

***

午前中の話し合いが終わり、エレン達は昼食を食べる為に食堂にいると、息を切らしたラフィリアが入ってきた。

「ラフィリア」

騒がしいとサウヴェルに窘められるが、訓練が長引いてしまって慌ててしまったのだろう。

特にエレンやロヴェルは殆ど食べないので食事時間も短い。

「間に合って良かった!」

そう言って椅子へと座るが、心なしか髪も濡れたままの気がする。

エレンはラフィリアの元まで行って、魔法でふわりと髪を乾かした。

「生乾きはダメだよ、風邪引いちゃうよ」

「へへ……つい。ありがと、エレン」

二人でにっこり笑い合うと、それを見守っていたサウヴェルとロヴェルが仕方ないなとばかりに苦笑していた。

昼食の席にはヒュームとリリアナはいない。彼らは治療院で働いているので、屋敷から昼食用のバスケット受け取って、そちらで食べているそうだ。

ヒュームとリリアナは、あれからずっとヴァンクライフト家で世話になっている。

時折イザベラのお節介はあるものの、紆余曲折を経て、サウヴェルとリリアナはゆっくりと互いに歩み寄っている。

お互いパートナーとは色々とあったので、直ぐに結婚……とはいかなかった。

特にリリアナには元々そんな気など全くなかったので、サウヴェルはラフィリアの事を相談する話し相手から友人へと、段々と歩み寄っていったらしい。

慎重に慎重を重ねるサウヴェルの態度に、時折イザベラがじれて爆発している。

そんな様子も微笑ましいと使用人達にも見守られているのだ。

暫く情緒不安定だったラフィリアもここ二年で落ち着いたので、最初こそ戸惑ってはいたものの、新たな父の相手を苦笑しながらも見守っているらしい。

そして時折、リリアナと一緒にご飯の用意を手伝ったりと良い関係を築いているようであった。

昼食を食べながら、エレンは午前中に話していた内容を思い出していた。

この優しい空気を壊さんとする影の存在に、エレンは苛立ちを感じていた。

二年前、相手はこの家を恨んでラフィリアに対して報復していたのだ。

目的がロヴェルなのかエレンなのかの判断しようがないが、自分達がこの家に属している以上、この家に何かしらのちょっかいはかけてくるだろう。

(腹黒さんの思わく通りに動くのは癪ですけど……)

エレンとロヴェルは互いに考えている事は同じだったらしく、話し合いをするまでもなく二人は陛下に会いに行くことを決めていた。

***

食事を終えると、ラフィリアはエレンの手を取って庭へと向かう。

しかし、その前にロヴェルが待ったをかけた。

「エレン、忘れ物だよ」

「え?」

庭に行くだけだとエレンが首を傾げると、溜息を吐くロヴェルの背後からカイが現れた。

「エレン様、お手をどうぞ」

そう言って、カイは手を差し伸べてきた。

既に片手はラフィリアと手を繋いでいたので、もう片方の手をカイの手に置いた。

するとカイはにっこり笑ってエレンの手をぎゅっと握った。

エレンは恐る恐るラフィリアを見る。

すると案の定、ラフィリアは不機嫌そうな顔をしていた。

「伯父様、お庭で遊ぶだけだから大丈夫よ」

ラフィリアが護衛はいらないと主張するが、ロヴェルはにっこりと笑った。

「なら一緒にカイも遊んでくれるかい?」

「俺も混ぜて下さい」

にっこりと二人は笑っているが、その主張は有無を言わせない。

ラフィリアも分かっているのか、溜息を吐きながらも仕方ないわね……と諦めていた。

なぜこんな風になってしまったかというと、半年ほど前の事になる。

ラフィリアと共に町に遊びに行った際、護衛であるカイとヴァンも同行していたのだが、その時は手は繋いでいなかった。

話に夢中になっていたエレンとラフィリアの目の前で、エレンは浚われたのだ。

いきなり目の前がくるんと回ったかと思うと、あっと言う間にエレンを抱えて走っていく男の人の腕の中にいた。

エレンは精霊ゆえに軽い。全力疾走する男の存在に一瞬遅れたカイ達が慌てて追ってくる。

エレンは突然の事に呆然としていたが、ふと目の前に迫っていた獣化したヴァンの激怒に気付いて、慌てて転移して逃げた。

エレンが逃げたと分かると、ヴァンとカイは男に容赦せず半殺しにしてしまった。

その時は事なきを得たが、それ以来、ラフィリアとカイは、エレンと手を繋いでいないと落ち着かなくなってしまったらしい。

更に最近では、どちらが仲が良いか、などといった言い合いまでやっている事がある。

これにはどうしていいか分からず、エレンは困った顔をしていた。

「エレン行こ!」

「う、うん」

ラフィリアとカイに手を繋がれて歩くのは良いが、エレンはコンパスが違うのでとたとたと小走りになる。

両手を背の高い者に繋がられると、何だか一昔前に流行した捕獲された宇宙人の様で複雑だ。

エレンが小走りになってしまっているのに気付いた二人は、歩くスピードを落としていた。

何だかんだ言いつつも、二人は優しい。できれば皆で仲良くしたいなあと思いながらエレン達は庭へと向かった。

***

芝生の上に用意していた布を敷き、エレンとラフィリアはそこに座ってお喋りに花を咲かせていた。

エレンはラフィリアの話に時折出てくる「カール」という人物が気になって仕方がない。

ラフィリアの口振りではどうにもライバルの様に見ているらしいが、話しているラフィリアは楽しそうなのだ。

しかし横にはカイもいる。カイの前で聞くわけにはいかないとエレンが生殺しにあっていると、いつの間にか話の矛先が先ほどの内容になっていた。

「どうして屋敷の庭にまで護衛が来るのよ。私はエレンとだけ話したいのに……」

やはりラフィリアは根に持っていた。

今やラフィリアも戦う術を持っている身であるから、不満に思う部分があるのだろう。

「才能があるようですが、身体能力は俺の方が上です。エレン様の護衛の座は絶対に譲りません」

カイはきっぱりと言う。

エレンは「護衛の座?」と首を傾げる。ラフィリアがエレンの護衛になりたいなどと、いつ言っただろうかと考え込んでいた。

先ほどの庭まではいらないという言葉から、自分がいるから不要だとカイに言っているようなものだったのだろう。

「違うわよ! 女同士の会話を男が聞いているのが不快という事よ!」

「でしたら外ではなく室内へ入られれば宜しいじゃないですか」

「部屋にいると今度はおばあちゃんに捕まるんだもん……」

そう、今度はイザベラとエレンの取り合いになるのだ。ラフィリアはどうもエレンを独占したかったらしい。

それに気付いたエレンが感激した。ラフィリア! と思わず飛びつくと、ラフィリアが一瞬驚いたものの嬉しそうな顔をした。

「今度叔父様にお願いしてお泊まりするわ。そうすれば一日中お話できるよね?」

「本当!? やったあ!」

二人で仲良くくすくすと笑い合っていると、今度は「我も混ぜて下さい」と獣化したままのヴァンが現れた。

「もっふ~ん!」

エレンは思わず反射的にヴァンに飛びつくと、ヴァンはにやりと笑った。

「姫様は我が大好きなのだ!!」

どうだと言わんばかりに尻尾をたしたしと地面に打ち付けていた。どうやら先ほどの会話を全て影ながら聞いていたらしい。ヴァンは自分が一番なのだと主張している。

エレンはそれらに気付かず、ヴァンに抱きついてすりすりともふっている。エレンは昔からヴァンの毛並みが大好きなので、これにはいつも勝てないとラフィリアとカイは渋面になった。

しかし、ラフィリアとカイは互いに目を合わせ、にやりと笑った。

「な、何をする!?」

突如、ラフィリアとカイもヴァンをもふりだす。

いたずらを思いついた様な二人の顔つきに、ヴァンは青ざめた。

「いつもエレンを独り占めできると思わないでよね」

にやりと笑ったラフィリアに首をくすぐられて、ヴァンはぐぬぬと唸っていた。

「な、なぜ我の急所を……!?」

思わず喉がごろごろ鳴ってしまう。

「エレン様、俺達も混ぜて下さい」

「うん、良いよ!」

思わずそう返事をしてしまった。これにヴァンが慌てた声を上げる。

「ひ、姫様……! こやつらに止めるように……」

「ヴァン君は人気者だね~!」

見当違いな返事を返してくるエレンに、ヴァンは青ざめた。

「さあさあ! 覚悟なさい!!」

「観念するんだな」

「ぎゃああああ!!」

「もふもふ!」

一人だけ状況をよく分かっていないようであったが、そんなやり取りをしながら皆と仲良く遊んでいた。