軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アウトーーーーッ!!

光と共に弾け飛んだ鎖。幾重にも巻き付いたそれが解き放たれた瞬間に地響きが辺りへと伝わっていく。それらは地震へと発展し、地上にいる者達をも震え上がらせた。

地上にいたカイ達も驚く。だが平然としたヴァンの態度に、周囲の者達はヴァンの力が地響きを引き起こしたのだと錯覚した。

『……陽動は上手くいったようだ』

「! なら、無事に……」

『救出されたのだろう。我はもう行く。後で落ち合おうぞ』

そう言うとヴァンは転移して消えた。

広場に立っているのはカイだけだ。周辺の者達は地震に立っていられず呆然とこちらを見ていた。

「すっ……すっげーーーー!!!」

一人が叫ぶと、それを皮切りに大騒ぎになる。騎士学の同級達が駆け寄ってきてカイを取り囲んだ。

「わ、ちょ……」

もみくちゃにされながらお祭り騒ぎだ。

自分もエレンの元へと駆け付けたいが、自分が移動すれば皆も付いてくるだろう。

カイは我慢してもみくちゃにされていた。ヴァンはもしかしたらこれを見越して逃げ出したのかもしれないと気付いて少しだけ恨めしく思ってしまった。

遠目で確認していた王家の者達や教師達は目の前で起こった事が信じられなくて絶句していた。

学院始まっての快挙だ。目の前で起こった出来事は歴史に刻まれるだろう。

「あ、あの精霊は……?」

あんな大型の精霊など見たことが無い。広場では大騒ぎになっていて収拾がつかなくなってきていた。

ガディエル達は皆羨ましそうな顔をした。

精霊の呪いが無ければ、自分達もあの儀式に参加していただろう。

広場の高揚した騒ぎと比例するかのように悲しみが胸にじわじわと広がっていく。

王家の先祖が起こしたこととはいえ、理不尽だと思う気持ちが捨てきれなかった。

(あのように精霊と共に在れれば……)

脳裏に浮かぶのは精霊であるエレン。何度か話した事はあるが、エレンの顔色からはこちらを警戒しながら話している姿しか見たことが無い。

近付けば逃げられる。触れようとして拒絶された。唯一嬉しかったのは、熱に魘されたガディエルを心配そうに見ていた姿。

もし、王家との確執が無ければ、精霊の呪いがなければと思わずにはいられなかった。

(無い物ねだりという奴か……)

ガディエルは鬱々とした溜息を吐いた。

***

目の前で起こった出来事に、バルファは今朝方まで起きていた問題が吹き飛んだような錯覚がした。

高揚する気持ちはそのまま笑い声となって口から出てくる。

「くく……くはっははは……!!」

ご先祖様が残された遺産の一つに「精霊の奇蹟」というものがあった。

それは受け継いだこの学院の城に施されているという術で、精霊との交信の手助けや魔法の底力を上げるというもの。

精霊との契約ができる確率の高い学院は他国からの留学も多い。

この事態は学院の名を上げる格好の話題となるだろう。学院の功績だと陞爵されるかもしれない。周辺諸国からもきっと注目を浴びるだろう。

バルファは笑いが止まらなくなっていた。

その異様な笑い声を消すかのように、後ろから一つの拍手が聞こえてきた。

その拍手はどういうわけか耳を支配し威圧感を感じる。思わずその場にいた者達が後ろを振り返ると、そこにはいつの間にいたのか、王家直属の黒いマントをした近衛兵達と、王国騎士団を束ねている団長等がずらりと揃い、その中心には陛下が平然と立っていた。

甲冑に身を包み、王国の印が施された最高位を示す赤いマントは、王を血に濡れてでも守るという意味がある。王のマントは白。染まりやすいその色を身を挺してでも守るという意味もあり、赤は団長を務めるサウヴェルのみに許されている色であった。

王の登場にその場に居合わせていた王家の者達や教師陣は何事かと青くなって一斉に臣下の礼を取る。

それに楽にしろと手を振って、ラヴィスエルは笑った。

「彼はロヴェルに次ぐ英雄の誕生となるのだろうか? 喜ばしいことだな」

広場の者達の歓声は止まずに更に激しさを増していた。こちらの様子に気付かない学院生達は興奮しきっていて、気付けないのだろう。

内心で冷や汗をかくバルファは一気に押し寄せてくる恐怖に混乱していた。

どうしてここに陛下がいるのか分からない。いつの間に来られたのかも不明だ。そんな先触れも無かった筈だと周囲の者達をちらりと見やるが、皆一様に驚いている風であった。

「ベルンドゥール、話がある。付き合え」

有無を言わせない陛下の態度にバルファは頭を下げて従うしかない。

陛下の一歩後ろ隣を歩く騎士団長は何故かこちらを睨んでいる。

バルファは騎士達に囲まれるように連れて行かれてしまった。

残された者達はいきなりの事に呆然とするばかりであった。

***

「アークにーさまっ!!」

ゆっくりと床へ落ちていくアークに手を伸ばすが、父に止められた。

床へと激突する前に母がアークを抱き止める。そして次々に姿を現す精霊達に囲まれた。

生命のレーベンと治療のクリーレンを筆頭にアークを癒していく。

精霊界に直ぐ様連れて行かずにこの場で治療を施すという事は、それだけ緊急を要するということだ。

精霊の儀式で更に消耗しているアークは、このままでは危ないと判断されたのだろう。

私が側に行きたいと父を見上げると、治療の邪魔はしてはいけないよと父の許しを得た。

アークに膝枕をしてその髪を撫でている母の元へと駆け寄ると、母が手招きをしてくれた。

「エレンちゃんのお陰でこの子は助かったわ。ありがとう」

母の微笑みに私はまた涙が溢れた。今度は喜びの涙だ。助けられたのだと実感がじわじわと湧いてきて胸を締め付けられる。

「良かった……」

溢れる涙が止まらなくて両手で拭っていると、母に抱き寄せられた。母と一緒に目を閉じたままのアークを見つめる。

鎖に繋がれていた瞬間を思い出す。王家の呪いが見せたあの光景と酷似していた。助けてと叫ぶ精霊の声が耳にこびり付いて離れない。

アークは助けを叫んでいないのに、私は姿を重ねて助けることに必死になっていた。

堕ちた精霊の魂は、私では助けられないと母は言っていた。そんな事は分かっていたが、何かをせずにはいられなかったのだ。

全ての出来事が重なって見えてしまう。これではいけないと私はまた涙を拭った。

「アークにーさま……」

そっとアークの頬を撫でる。治療が間に合ったアークの頬は青白い顔から次第に血色が良くなってきていた。

目を開けてほしい。無事を確認したくてそう思わずにはいられなかった。

「………っ」

気持ちが通じたのかと錯覚するほどのタイミングでアークの瞼が震えた。それに周囲は一気に喜びが満ちる。うっすらと開かれたアークの目は、自分を取り囲んだ精霊達の姿を映してぽかんとしていた。

「め……がみ……?」

「お寝坊さん。……探したわよ」

母もほろりと涙をこぼした。私も堪えきれずにえぐえぐと涙をこぼしてしまう。

「ちいさな……めが、み……また、泣いている……」

アークの手が持ち上がり、私の涙を拭った。

私は堪えきれず、アークの胸に縋ってわんわんと泣いた。

アークはゆっくりと上体を起こし、私を抱きしめてくれた。困った顔をして泣くな、と囁いた。

「アーク、わたくしの娘を助けてくれたそうね。ありがとう」

「……むす、め?」

「そうよ。わたくし、ロヴェルと結婚したのよ」

にっこりと笑うオリジンに呼ばれたロヴェルは娘を助けてくれてありがとうと礼をする。

「……けっ、こん」

「そのわんわん泣いている子はわたくしとロヴェルの娘よ。可愛いでしょう? あなたを助ける為に必死になってくれたのよ」

にこにこと笑うオリジンにロヴェルは苦笑する。ここで話すのもなんだから、精霊界に一度帰らないかと促した。

「めがみ……ちい、さな、めがみ……」

涙が止まらない私の両頬を挟んで、アークは私の額にキスを落とした。

びくりと震えた私は吃驚して涙が止まる。

目をぱちくりと瞬くと、アークはにこりと笑って言った。

「けっこん、しよ、う。わたしの、ちいさな、めがみ」

アークの発言に、周囲がぽかんとした。

私は目を見開いて、思わず反射的に叫んでしまった。

「アウトォーーーーーーーーーッ!!!」

***

一気に涙が止まった私は、こんこんとアークをお説教していた。

「いいですか? 私とアークにーさまは系統で言うとほぼ兄妹です!! 結婚できません!!」

「……どう、して?」

しゅんと首を傾げるアークにちょっと可愛いと思ってしまった自分がいた。

いかんいかんと首を振る。このままではアークは無事に精霊界に帰れない。主に父が原因で。

「は、な、せーーーー!!」

暴れる父を他の精霊達が必死に宥めて押さえつけていた。

「俺のエレンに近付くなーーーッ!!」

大激怒をしている父に溜息がこぼれる。母はお腹を抱えて大笑い中だ。

どうなっているんだこの状況。

「俺の娘は嫁にはやらーーーん!!」

父の叫び声が広間に木霊していた。

「アークにーさまは私のにーさまです!」

「にー、さま? わたしは、にーさま?」

「そうです! 私は妹です!!」

「そうか……」

「そうです!!」

「じゃあ、ちいさな、めがみが、おっきくなったら、けっこんしよう」

「だから私は妹です!!」

平行線のやりとりは収集がつかなくなってしまっていた。

母は笑い過ぎて涙目だし、父の憤怒の表情は怖いしでどうしたら良いのか分からない。

だけど、一気に悲しみから喜びの空気が辺りに満ちたのが分かって精霊達は笑っていた。

そんな中、とある気配がして私達精霊は広間の入り口の先である階段を凝視した。

精霊達に一気に緊張感が走る。

この気配は知っていた。どうしてここにいるんだろう。

「……陛下」

階段から下りてきた人物に思わず私が呟くと、此方を見た陛下はにこりと笑った。