軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

反省。

急に転移してきた父と私の姿に、イザベラとローレンは飛び上がらんばかりに驚いた。

「もおお! 吃驚させないで頂戴!!」

「お、お帰りなさいませロヴェル、様……?」

父の腕の中ですんすん泣いている私にイザベラとローレンが気付いたらしく、どうしたのかと目を丸くした。

「エレンちゃん一体どうしたの!? ら、ラフィリアに何かあったの!?」

「ラフィリアは無事だ。エレンが頑張ったからな」

「……ならどうしてエレンちゃんは泣いているの?」

「ラフィリアに泣かされた」

「ど、どういうこと!?」

父は寝室へと向かいながら、ローレンに指示を出した。

「これからサウヴェルと共にラフィリア達も一緒に帰ってくる。殿下達も一緒だろうから部屋の準備をしておけ」

「は、はい!」

父の言葉でローレンや使用人達が慌てる。それでも私が泣いているのが気になるのか、ずっとこちらをちらちらと伺い、気にしてくれていた。

それにも目をくれず、父はすたすたと寝室へと向かう。

寝室に入ると、父は暫く誰も寄越すなとローレンに命令し、私をだっこしたままベッドの端にすとんと座った。

そして私をぎゅっと抱きしめてくれた。

「ねぇエレン……」

父が抱きしめたまま、私に囁いてきた。

「どうしてそんなに早く大人になろうとするのかな……とーさまは寂しいよ」

「……とー、さま?」

「精霊だって成長を止めることなんて出来ない。いずれに必ず大人になってしまうんだよ? どうして今のままじゃダメなのかな……」

「……」

「大人になったら俺の元から離れていくんだぞ……? そんなの……そんなの……」

「……とーさま?」

何だか父の様子がおかしいと父の胸からそっと顔を上げると、ぷるぷると震えている父がいた。

「いやだあああああ!!!」

私を抱きしめたまま、父はベッドの上をごろごろと転がった。抱きしめられたままの私は、父と一緒に転がるはめになる。

「うきゃあああ!!」

「エレン~~!! 絶対お嫁さんには出さないからなぁあああ!!!」

暴走している父を止めようと、あっぷあっぷしながら父の頬を両手でぱちんと叩く。

すると、転がっていた父は「痛い……」と呻きながら止まってくれた。

「とーさまあああ! なんなんですか一体!?」

「……ふふ。泣き虫さん、涙は止まったかい?」

私がきょとんと父を見上げると、父はくすくすと笑っていた。

私の頭を撫でながら、父は優しい微笑みを浮かべていた。

確かに私は生前のコンプレックスを克服したかった。

これが不意に刺激されて思わず泣いてしまったが、いくらなんでも大人げないと今なら思える余裕が出来ていた。

「……止まりました」

「おや、今度は怒りんぼさんになってるよ?」

「とーさまのせいじゃないですかー!」

ぷりぷりと怒って父の胸をぽこぽこ叩くと、父はくすぐったそうに笑っていた。

「エレンは普段しっかりさんだから、めったに泣かないよね。泣き虫さんも可愛かったけど、怒りんぼさんも可愛いなぁ」

父は親バカを発揮してにこにこと笑っていた。

それに呆れながらも、私は自分を顧みて反省した。

生前、生きていた感覚がある私は分かっているはずだった。子供の時代が今しか無いことを。

子供の頃は大人になりたいとずっと思っていた。大人になっても昔とさほど身体が成長しなかった私は、ずっと「大人」に憧れていた。

転生して、今度こそ大人になれると思った。

だが、この身体は成長の兆しが遅くて、心の何処かで焦ってしまっていたのだ。

死んでしまえば「家族」も一瞬で無くなってしまう。

成長して大人になれば親元から離れるのを生前あれだけ経験していたのに、私は大人に憧れるあまり、目の前の父と母を蔑ろにしていたのだ。

「……ごめんなさい。私はとーさまとかーさまの娘で幸せです……」

また目に涙を溜めながら父にすがりついてそう呟くと、父は息を飲んで私を力強く抱きしめ返してくれたのだった。

***

暫く父に抱きしめられたまま、こてんと頭を預け、うとうととしていた。

そこへ、精霊の気配がして一気に覚醒する。

「姫様ー!」

焦ったヴァンがこちらへと転移してきたのだ。

「あの小娘め!! 姫様を泣かせやがって~~!!」

ぎりぎりと眦を釣り上げるヴァンに、私は目が丸くなる。

「姫様! 姫様!! 大丈夫ですか!?」

私を心配そうに見つめ、おろおろしながら周囲をぐるぐると回っていた。

「姫様! どうぞ!! 存分にもふって下さいまし!!」

虎に戻ってベッドに飛び乗ったヴァンは、どうぞと自ら横になって腹を見せる。

更に尻尾をたしーんたしーんとシーツに打ち付けながらカモーンと催促していた。

ヴァンの気使いに、私は嬉しくなって顔が綻んだ。

「ヴァンくーん!」

ぼふりとヴァンの毛並みに埋もれてもふもふを堪能していると、気付けば背後の父から黒いオーラが漏れ出ていた。

「俺のエレンを奪いやがって……」

エレンが珍しく甘えんぼだったのにと怒りを露わにする父の姿に、ヴァンがビクッと震えて青くなっていた。

「とーさまも一緒に堪能しましょう!」

私が笑顔で一緒にもふるようにと促すと、父はきょとんと一瞬目を丸くした。

次の瞬間にはエレンと一緒だねと笑顔になり、二人でヴァンのお腹を枕にしたのだった。

***

気付けばエレンはそのまま眠ってしまっていた。

ロヴェルはヴァンからゆっくりと離れると、ヴァンが目線でどうしたのかと問うてきた。

(しー……)

口元に人差し指を当て、このままエレンを寝かせておくようにとヴァンにお願いする。

ヴァンは了承したとエレンを守るように包み込んだ。

それを横目で確認したロヴェルは部屋から転移で扉の前に出る。すると、使用人達が扉の前に群がり、部屋の中をこっそりと覗きこんでいたのだった。

「……何をしている」

「……申し訳ございません」

ローレンがごほんと咳払いすると、そそくさと使用人達やメイドが解散していった。

どうやら泣いていたエレンが気になって仕方なかったようである。

「エレン様は落ち着かれましたか?」

「ああ、もう大丈夫だ」

「ようございました。所で旦那様とお客様がロヴェル様をお待ちです」

「ああ、今行く」

ローレンに促され、ロヴェルは客間へと急いだ。

***

ロヴェルがローレンと共に部屋へと入ると、そこにはサウヴェルとガディエルとその護衛達、それからアルベルトとカイが待っていた。

「待たせたな」

「兄上、エレンは……」

「ああ、泣き疲れて眠ってしまった。殿下、悪いのだが、取引の話は明日でもよいだろうか」

「あ、ああ。それは構わない」

「部屋はこちらでご用意しますのでどうぞごゆるりとお寛ぎ下さいませ」

ローレンの一礼にガディエルは分かった、世話になると返事をした。

「……兄上、ラフィリアが申し訳ありませんでした」

「全くだ。お前はもう少し家族を相手にした方がいいぞ」

「……返す言葉もありません」

「良い機会だ。じっくりと話し合え」

「はい」

「ところで、ラフィリアが受け取ったという殿下の手紙はあったのか?」

ロヴェルはソファーに座り、本題だとばかりにガディエルに話しかけると、ガディエルは目に見えて真っ青になっていた。

「やはりな。あの方はそういう方だ」

ガディエル達の様子を見て危惧していた通りだとロヴェルは笑う。その顔は冷めきった目をしていて、ガディエルとその護衛達は背筋に冷たい汗が伝った。

「ラフィリアを浚った男達は? それも陛下の差し金か?」

「違います! あの者達は王家とは関係ありません!!」

護衛のラーベが必死に弁解するが、ロヴェルは冷たく突き放した。

「お前達と繋がりが無いとどう証明するのだ? 手紙が王家の物だと証明できた以上、手を回していたと考えるのが当たり前だろう」

「…………」

ガディエル達は青くなっていた。ラフィリアの誘拐には王家が関わっていたと証明されてしまったのだ。

ガディエルはラフィリアに手紙を出していない。だが、ラフィリアが持っていた手紙は本物だったのだ。

ヴァンクライフト家の使用人やメイドは武術に長けているが、それはこの家が王家の右腕という裏の顔があるからで、その長けた技術は武術だけではない。

王家の紋章が施された手紙の偽物など、見抜けなくてこの家のメイドは勤まらない。

メイドは手紙が「本物」だったからこそ、ラフィリアへと渡されたのだった。

「陛下は男達と繋がっていない証拠を用意して私達が来るのを今か今かと笑顔で待っているだろうな……」

ロヴェルの呟きに、ガディエルはどういうことだと問うた。

「殿下、これが陛下のやり方なんですよ。だから私はあの方が嫌いだ。自分の子供すらも駒にしか見ない、あの方のやり方がね」

辛辣な現実を伝えるロヴェルにガディエルは己の立場を知ったのだろう。

「これは殿下への試練でもあるのでしょうね。本当にあの方は用意周到だ」

ロヴェルはテーブルに置かれていた手紙をピンッと指で弾いてガディエルへと飛ばした。

ひらひらと舞う手紙に、ガディエルは唇を噛みしめる。

「さて、殿下。エレンと交渉をされる際、エレンは伝えていた筈です。この誘拐に王家が関わっていた場合、相応の覚悟をして下さいと」

そう、あの時には既にエレンはこうなることを予測していたのだ。

その事に今になってようやく気付いたガディエルは思わず呻いてしまった。

自分より四つも年下の女の子が、狡猾な陛下の意図を余り無く汲み取っていた。エレンのその手腕に気付き、そして己と比べずにはいられなかった。

「殿下、気を付けて下さいね。私の娘は陛下と対等に渡り合うんです」

ロヴェルは座っていた足を組んでゆったりとした体勢をとって余裕を見せた。

明日の交渉を思って、ガディエルとその護衛達は顔を青くしたまま、ローレンに促されて去っていった。