軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

尻に敷かれるアルベルトおじさま。

今から14年前、カイはあのモンスターテンペストと同時期に産まれた。

結婚して直ぐであったアルベルトは、妻とそのお腹の子を守るため、主を守るため、討伐に決意を込めて妻に必ず帰ると約束した。

『……産まれてくる子に、父親の顔を見せるんだぞ……』

守らなくてはならない要。騎士団の団長であったヴァンクライフト家の当主に庇われ、その血を流させてしまった。

最期のお言葉を夫人に伝えると、あの方は涙を流しながらも笑ったのだ。「あの人らしいわ」と。その言葉に、どれだけ救われただろうか。

更に主であったロヴェルも力付き倒れてしまった。精霊界に渡ったまま帰ってこない主を待ち続けて10年。それはアルベルトにとって、とても長い年月であった。

残されたアルベルトは、自分だけでもこの家を守らなくてはならないと固定観念に囚われてしまった。

守れなかったアルベルトはあの時の無念が忘れられない。今もこうして家族と共にいられるのも、こうして過ごせているのも、全てヴァンクライフト家のお陰なのだ。

自分はあの時に役に立てなかったからと、今度は何としても役に立とうとして、足を踏み外しそうになった。それが4年前。エレンに助けてもらったあの出来事であった。

目先の事に、想いに捕らわれて大切なものを全て無くす所だった。

今度こそーーーーそう思いを胸に、息子と向き合って話をした。

***

識別救急についての話し合いを設け、新たに決められた事を治療師に伝達することとなった。

その日、サウヴェルとその護衛であるアルベルト、父と私、カイとヴァンで治療院へと馬車で向かっていた。

「アルベルトおじさまはご結婚されてたんですねぇ……」

馬車の御者台に通じている小窓から、私はひょっこりと顔を出してアルベルトをまじまじと見つめていると、馬の手綱を握っていた御者がそれを聞いて笑った。その隣に座っているアルベルトは頭を掻いて少し落ち込んでいる。

「……独り身に見えますか?」

「うーん、そんな感じより、仕事ばっかりで女性っ気がないというか」

御者とサウヴェルが私の話を聞いて大笑いしている。御者はちげえねえ! なんて言っているので、ある意味当たっているのだろう。

「アルベルトさんの奥さんは肝が据わってる方でねぇ。アルベルトさんは尻に敷かれてるんでさぁ」

「おい、待て」

「事実でしょうに」

あっはっはと笑う御者にアルベルトは何も言い返せないらしく、溜息を吐いていた。

それを見つめながら、私は小窓にかじりついてほうほうと興味津々に話を聞いている。

「エレン、お行儀が悪いよ」

父がひょいっと私の脇を抱え上げ、父の膝の上に乗せられた。

馬車はゴトゴトと安定せず揺れてはいたが、こうして父が膝の上に乗せてくれるのでお尻は痛くない。

ちなみに馬車の中にいるのは父と私とサウヴェルとカイだ。

ヴァンは周囲を警戒して、馬車の屋根の上に姿を消して陣取っている。

軽くこの馬車を追い風で助けているのが分かった。ヴァンは優しい子なので、馬の負担を和らげているのだろう。

父は私の頭の上に顎を置いて、そんなにアルベルトのことが気になるの? と少し不貞腐れている。

あれから4年が経過していたが、父は一度根に持つと相当長いので仕方ない。

「だって」

気になるじゃないかと私の本心が騒いでいる。

あの頑固なアルベルトを尻に敷くなんて、相当な肝っ玉母さんなのだろうかと妄想が騒ぐのだ。

「あの……母の事をそう言われると少し恥ずかしいのですが」

カイも父親がいじられているのに少し気まずいらしい。

「やっぱりアルベルトおじさまは頭が上がらないの?」

「それはもうーーーー」

口を滑らせたカイは、ハッと己の口元を手で覆うが、もう遅い。私はにこりと笑った。

「そっかー。でもアルベルトおじさまならそんな人がお似合いだね!」

どんな人なんだろうと私は胸を馳せる。是非一度お会いしたいと思った。

そう思っていた事が、どうやらカイに伝わったらしい。

「今度、家に来ますか? 母をご紹介します」

「ほんとっ!?」

その言葉に飛びつくと、私を抱きしめていた父の腕が急に固くなった。

「母親に娘を紹介するだと……?」

またもや思考が飛んでいる父に呆れた目線を投げていると、カイは顔を赤くして慌てて言い繕った。

「ち、違います! そういう意味ではありません!!」

「お前にはまだ早い!!」

父の一喝が耳にきーんと響いた。耳が痛い。

「とーさま、うるさいです」

「ヒドい!!」

そんなこと言わないでと私をぎゅむぎゅむ抱きしめて頬ずりをする父がいた。

「……兄上はエレンに敷かれてますね」

サウヴェルの一言は馬車の中に響いた。

父もその言葉にぴたりと私に頬ずりしていたのを止めたのだが、何やら考え事をしている。

「エレンなら敷かれても良いかな」

にっこりと笑った父に、私はドン引きをしていました。

***

治療院に到着すると、治療院で働いている治療師や看護師がいつも総出で出迎えてくれた。

「出迎えるのは院長だけで良いと言っているのに……」

大々的に領主が来たぞと触れ回ってしまっている様なものであった。

特に私の存在を隠したい父達からしてみればそう思って仕方ないのだが、治療師達は純粋に父達を慕っていてくれているので治療師達の気持ちも分からなくもない。

「今日は大事な話し合いがある。さあさあ持ち場に戻りなさい」

サウヴェルが慣れた手付きでパンパンと柏手を打つと、治療師達は院長を残して一礼して去って行った。

「申し訳ございません」

「いい、気にするな。今日は大事な話がある。会議室を借りるぞ」

「承りました」

そして、皆で部屋の中へと入っていった。

「姫様、我は周囲を警戒してきますぞ」

突然ふっと姿を現したヴァンに、お願いしますとお願いした。

「何かありましたら必ずお呼び下さいませ」

「はい。ヴァン君も気をつけてね」

にっこりと笑いかけると、ヴァンに頭を撫でられた。そしてヴァンは姿を消したのだった。

少し後ろで二人の様子を見ていたカイは眉間に皺を寄せていた。

己もあの信頼に辿り着きたい。そうカイは決意するのだった。

***

領地のとある一角で、男達が話をしていた。

そこは裏路地で薄暗く、周囲に人の気配はない。

「ヴァンクライフト家に噂の薬師がいるというのか?」

「なんでも酷い人嫌いらしい。精霊じゃないかと噂もあった」

「どういうことだ」

「噂の薬を持ち出すのがヴァンクライフト家のお姫様だという事は裏が取れている。お姫様と契約した精霊が、薬を作ってそれをお姫様に渡しているんじゃないかと言われているんだ」

「……」

その噂の信憑性はとても高かった。

あそこの家には大精霊と契約を果たした英雄の存在があった。血脈的にその可能性があってもおかしくなどない。

「では、その精霊に言うことを聞かせるためにはお姫様が必要ということか?」

「……そうなるな」

「だがどうする? ヴァンクライフト家はある意味要塞に近いぞ。あそこのメイド達すら手練れだと聞く」

「いや、大丈夫だ。あそこのお姫様は薬を手ずから治療院に卸している。持っていくために町に出かけているらしいからな……」

にやりと笑う男の報告に、それを聞いていた男もまたにやりと笑った。

***

家庭教師からの課題をこなしていたラフィリアは、メイドからガディエル王子から手紙がきておりますと見慣れた封蝋が捺された手紙を差し出した。

「ガディエルから? 何かしら」

「……お嬢様、殿下を呼び捨てなど」

「うるさいわね。殿下なんて言ったらラスエルと被るでしょう? お友達なんだから良いのよ。私、ガディエル達から許されているの。口を出さないで下さる?」

つんとメイドの忠告を無視して、ラフィリアは手紙を嬉しそうに抱きしめる。

さっさと出ていってとメイドを追い出すと、ラフィリアはペーパーナイフで開封していった。

手紙を開けたラフィリアは書いてあった内容に目を見開き、そして顔を赤くした。

「ど、どうしましょう……何を着ていこうかしら」

自室である部屋には自分一人しかいないのにも関わらず、落ち着かない余りにきょろきょろと周囲を見渡した。

頭の中で持っている服の種類を思い出して、可愛く着飾ろうとして慌てた。

「だめよ、こっそりと抜け出すんだから……」

町娘の格好で可愛い服装。

ラフィリアは手紙を胸に抱いて、これからの出来事に胸を馳せていた。

***

風の流れから何かの音を聞きつけて、ヴァンの耳がぴくりと動いた。

その方角は町の外れの一角。ヴァンは目を細め、耳を澄ました。

暫く経って、眉間に皺を寄せてヴァンは何か考え事をしていた。

次の瞬間、突風が吹く。ヴァンはその風に身を任せてその姿を消した。