軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

サウヴェルおじさまのイメチェン。

私の言葉に呆然とするのはアリアだけではなかった。サウヴェルもまた、呆然としていたのだった。

「私達親子は陛下に呼び出されました。話題は必ず貴女の事になる。貴女がアギエルさんと同じ立場になるのなら、陛下は笑顔でもちかけるでしょう。”なんとかしてあげようか?”と」

「な……なんとかって……」

「さあ? なんでしょうね。とりあえず手っとり早いのは私達の視界から消す事でしょうか。サウヴェルおじさまがまた独り身になれば、陛下は自分の手駒として相手を見繕い、見合いの席を用意できるわけですし……」

「いや……いやあああ!!」

アリアは恐怖の余りにがくがくと震え、目に涙を浮かべた。

「それらの危険を犯してまで、とーさまに不純な想いを向けますか? ああ、その前に私達親子が制裁を下しますが」

既にアリアは首を横にぶるぶると振っていた。

「アリア、貴女がサウヴェルをずっと支えてくれていたのは知っているのよ。サウヴェルも貴女に支えられていた。アギエルが消えて、やっと貴女と結婚できるとサウヴェルはとても嬉しそうにしていたのに……。ロヴェルを一目見て恋に落ちる女はとても多いわ。貴女もその一人になってしまったのは仕方ない事なのかもしれない。だけど、サウヴェルへの想いはもう無くなってしまったの?」

悲しそうに涙を拭うイザベルの姿に、アリアは違う! と叫んだ。

「違うわ! 違うの!! そんなつもりなんてなかったの。ただ素敵なお義兄様ができたのが嬉しかっただけなの……!! 私はサウヴェルを愛しているわ!!」

「貴女の主張と女神が下した断罪には差があり過ぎる気はしますが……。では、とーさまに向けるその嫌な目線を先ずはお止め下さい。あと言い訳は止めておじさまに謝罪して下さい」

「あ……あなた……ごめんなさい……」

サウヴェルは酷く困った風で溜息を吐いた。

「アギエルが居た時、お前に支えられたのは事実だ……。お前が、ラフィリアがいなかったら、俺は耐えられなかったかもしれない……」

誰もが黙ってサウヴェルの言葉を聞いている。

「俺は……俺は、アリアを信じたい」

まるで自身に言い聞かせる様に呟いたその言葉に、アリアが感激する。

「あなた……!!」

だが他の面々は黙り込んだままだ。一度裏切られれば、疑惑の目で見てしまう先入観が出来上がってしまっていた。

「まあ、いいでしょう」

私の言葉は一気に視線を集めた。

「私の言葉はアリアおばさまに対する警告です。そして、女神ヴァールの断罪も警告止まりです。貴女の今後は周囲に見られていると思って下さいね」

私がにっこりと笑うと、アリアはホッとしたような顔をした。

「もし、サウヴェルおじさまを今後、裏切る事でもあれば相応の覚悟は持って下さい」

「ええそうねぇ。その頃には断罪の証もハッキリしているでしょうし……。だけどこれ以上、家の醜聞は嫌だから本当の事を公表しなければならないわね」

イザベラは穏やかに言うが、それは平民であるアリアにとってすれば、公爵家が敵になるという宣言と同じである。

ヴァンクライフト家の領地に住んでいる者にしてみれば、領主の怒りを買えばどうなるかくらい想像にたやすい。

それはアリアの家族全員が処罰の対象であるという事である。

「そ、そんな……」

「あら。貴女がしでかした事なのよ? 本来ならば今の時点だってサウヴェルが折れなければ離婚と賠償金が発生するわ。貴女のお家が払える額ではないけれど。あ、ラフィリアは跡継ぎになるから返せないわね」

イザベラの言葉にようやく現実を知ったのか、真っ青になるアリアがいた。

「アリアおばさま」

私が呼ぶと、アリアはハッとしてこちらを見る。

「私達からとーさまを奪うのであれば、私達親子は容赦しません。じわじわと潰しますのでご覚悟下さいね」

私がにっこりと微笑むと、アリアは我慢の限界だったのかあっさりと気絶した。

***

父とイザベラにぎゅうぎゅうに抱きしめられる。

アリアを寝室に担いでいったサウヴェルが戻ってきた。

その顔はどこかスッキリした様な顔をしていた。

「サウヴェルおじさま!」

「ああ、エレン。済まなかったな……まだ8歳の子にこんな話をさせるなんて……」

「いいえ、私が言わずにはいられなかっただけです。……余計な事をしてごめんなさい」

しゅんと落ち込んでスカートを両手でぎゅむっと握っていると、サウヴェルは苦笑して私の頭を撫でてくれた。

「エレン、ありがとう。このままだったら、家族は分裂していたかもしれない。俺もアリアも……兄上も」

ハッと顔を上げると、サウヴェルは優しそうな笑顔で微笑んでいた。

「遅かれ早かれこうなっていた……のかもしれない。早ければ早いほど、その分覚悟も出来るし決断もたやすくなるだろう。これで良かったと思っているよ。エレン、ありがとう」

「サウヴェルおじさま……」

鼻がつんとする。だが私はもう一つ謝罪しなければならない事があった。

「ごめんなさい、それだけじゃないんです」

「……どういうことだ?」

「かーさまは女神です。双女神は、かーさまの姉に当たる女神なんです」

顔をくしゃくしゃにしながら言うと、サウヴェルは目を見開いた。

「かーさまの身内の結婚式だと見守っていて下さった様なのです。それで……アリアおばさまが、妹の夫に懸想している事が分かりました。だから女神達はアリアおばさまに激怒したんです……」

本来ならば懸想位では断罪など起きない。

この世界の貴族は政略結婚も多い。アギエルとサウヴェルの関係だってそうであった。

それがこれほどまでに大事になるなんて、普通ではありえないのだ。

「……双女神が?」

「アリアおばさまは女神を怒らせました。家の事業にはアリアおばさまを参加させることはおやめ下さい。家を潰しかねない事態になりかねません」

息を飲むサウヴェルとイザベラとローレンの姿に胸が痛くなる。

「私がいるので家は大丈夫だと思います。ですが、アリアおばさまの周辺はこれからも荒れるでしょう」

申し訳なさそうに言う私に、忠告をありがとうとサウヴェルは微笑んだ。

ああ、なんて良い人なのだろう。

こんな人がいつも理不尽な目に遭うなんて可哀想過ぎる。私はこっそり女神達にお願いした。

どうか、サウヴェルおじさまに幸せが訪れますように。

ふと、遠くで「了解したわ、エレンちゃん。任せて!」という声が聞こえた気がした。

(……あれ? もしかしてヴォールお姉さま?)

どうやら見通されていた様だ。

***

「ところでエレンちゃん。王家に会うのはいつなの?」

「えっと……6日後? でしたっけ、とーさま」

「……うん。あーいやだいやだいやだ……」

とーさまの脱力した声が部屋に木霊した。

そんなに行くのが嫌なのかと呆れた目を向ける。それに気付いたとーさまが私に言った。

「エレンは知らないから平然としていられるんだよ。あいつは直ぐに揚げ足を取るんだぞ?」

「大丈夫ですよ、とーさま。陛下が負けなければ、その時はこの国が滅ぶだけなので」

辛辣に言う私に、父は苦笑した。

「……エレンはやっぱり俺に似たのかなぁ」

「そうかもしれません」

「えっ!? エレン、もう一回言って!!」

「とーさまに似ているなんて心外です」

「なんでーーー!??」

エレンはとーさまそっくりなんだよ~~そうに決まっているんだよ~~~と、私を抱きしめて父が呪詛の様に呟いている。正直うざい。

「そう……6日後なのね」

私達の会話は他所に、イザベラは何かぶつぶつと言っている。

どうしたのだろうと私は首を傾げた。

「ロヴェル! 暫くエレンちゃんは預かるわ!!」

イザベラの発言に、私と父は「は?」とハモった。

「王家にお呼び出しなら衣服を揃えないと……!! だれか、だれか!」

メイドを呼ぶイザベラに私と父は目を丸くした。

「さあ、業者を呼んで採寸しましょうね、エレンちゃん」

にっこりと笑ったイザベラに、私はひくりとおののいた。

***

業者に採寸をされてぐったりとした頃、あーでもないこーでもないと各種の布地を広げる業者とイザベラが話し込んでいた。

今の内だと抜け出すと、それに気付いたサウヴェルが苦笑しながら「すまないな」と謝ってきた。

「母上は娘が欲しかったんだ。だからあんなにも力を入れてしまうんだよ」

「おばあちゃまが?」

それを聞いてしまったら嫌だとは言えない。

だけど、私は自分だけで済ませる様なタマではない。

サウヴェルに笑顔を向けて、じゃあ、次はサウヴェルおじさまの番ですね、と私はいきなり話題を変えた。

「え……?」

「化粧係ー!! であえーー!!」

「は、はい!? ただいま!!」

「え、エレン……?」

「私だけがこんな目に遭うなんて理不尽だと思いませんか? だからサウヴェルおじさまも同じ目に遭えばいいと思います」

「え……」

その声にはまるで濁点が付いていると思うほどに低かった。

「とーさま! 二次被害に遭いたくなかったらサウヴェルおじさまを拘束して下さい!!」

「分かったよエレン」

父はにっこりと笑ってサウヴェルを拘束した。

「あ、兄上!? 自分が被害に遭いたくないからって……!?」

「許せサウヴェル。俺は娘には勝てない」

笑顔で断言する事かとサウヴェルの悲鳴が聞こえていた。

***

私はメイド係に指示を出す。

「お湯で絞ったおしぼりをおじさまの目元に当ててあげて下さい」

「はい!」

「え……目元?」

「サウヴェルおじさま、眠れていないでしょう? 隈がすごいですよ」

「あ……ああ」

アリアの事を考え過ぎて、一睡もできていないのだろう。

「目元を暖めると隈が軽減されるのです。気持ち良いので騙されたと思ってやってみて下さい!」

ベッドに横になり、恐る恐る目元を暖める。

暫くすると、サウヴェルが眠り込んでいることに気付いた父が驚いた声を上げた。

「え……こんな人前でサウヴェルが眠るなんて」

軍人であるサウヴェルは眠りが浅く、直ぐに目が覚めてしまう体質らしい。なかなか眠りにもつけないので、よく頭痛を起こしているとメイドから聞き出した。

「それはいけません。ストレスも酷いのでしょう。気持ちが落ち着ける物をご用意しなきゃ!」

使命感に駆られる。リラクゼーションに関する物を頭に巡らせていると、父が目ざとく気付いた。

「エレン、また何か企んでる……?」

「とーさま、心外です!」

ぷりぷりと怒るが、今はサウヴェルの事に集中しようと思った。

「とーさまは後でシメるとしてまあいいでしょう。化粧係、今から言う事を実践して下さい」

「は、はい……」

「……俺、娘にシメられるの?」

呆然としている父など放っておいて、サウヴェルのイメチェンを開始しようと思います!!

***

私は元来、童顔である。それをどうにか誤魔化そうとして、化粧を頑張っていた。

身長はヒールでごまかそうとしても、元が低すぎるので背は低いまま。だけど、化粧で幾らでも顔は変えられると思っている。

「眉毛の整え方は……小鼻から目尻の直線上が眉尻といって、ここまでが眉毛の終着点です。眉頭は目頭から少しだけ眉間寄りです。女性の場合だと目頭との距離は男性に比べて半分ほど短いです。あ、目尻の真上が眉山といいまして、真正面を見た目からこの間でカーブを作って下さい。……そうそう」

男性はストレートタイプが強さを表すが、サウヴェルの場合はコーナー&アーチという知的さや優しさを表す眉毛にする。

「化粧係は女性専用と思われがちですが、男性だって整えれば光るんです。眉毛や髪型だけで随分と印象が変わるはずです」

わたしがそう説明していると、他の化粧係やローレンがふむふむと頷いていた。

なぜじいじがここに……? と訝しげに思ったが気にしないことにした。多分、気にしたら負けな気がする。

その頃になってようやくサウヴェルが目を覚ました。

「……あれ? 俺は……」

「お疲れの様でしたので、少し眠っておりましたよ」

穏やかに返すローレンに、サウヴェルは自分で信じられないとばかりに目を瞬かせていた。

「さあ! 目が覚めたのでしたらサウヴェルおじさま、こちらへ!!」

前もって呼んでいた理髪屋を呼ぶ。

「え? え??」

訳が分からないままサウヴェルは私に促されるまま、髪を整える。その間も私は逐一理髪屋に注文していた。

全てが終わり、姿見の前で己の姿を見たサウヴェルが絶句していた。

「サウヴェルおじさま、かっこいいですー!!」

素晴らしいダンディなおじさまが出来上がった。

少し疲れた様な雰囲気が、逆に色気と変換されている。

これを一部始終見てたメイド達が黄色い悲鳴を上げて拍手をしていた。

少し整えただけで見違える程の変貌を遂げたサウヴェルに、周囲の目は一変していたのだった。

「え? え……」

周囲の様子に落ち着かない様子のサウヴェルに私は言った。

「やっぱりおばあちゃまの血ですね!」

そう、見違えたサウヴェルは、父と似た顔立ちを少しばかり醸し出していたのだった。以前の全く似ていない風貌とはかなり印象すらも変わっている。

「サウヴェルおじさま。おじさまにお髭は似合っておりませんので今後は処理して下さいね? 化粧係にも厳命します!」

私が断言すると、サウヴェルは「は、はい!!」と勢いよく返事を返してくれた。

さあ、お披露目が楽しみです!!

ですが、ずっと後ろで見守っていた父がぼそりと「玩具にされた八つ当たりかな?」と的を得た発言をしていたのが癪に障ったのは気のせいでしょうか。