軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

子離れと親離れ。

ロヴェルの声と同調するように、部屋の温度まで下がってきた。

(まずい!)

エレンは咄嗟にガディエルとロヴェルの間に躍り出て、ガディエルを取り囲むように石壁を造り出した。

とたん、器用にエレンを避けた位置から石壁に向かって複数の氷の矢が突き刺さった。

「父様!」

「どきなさい、エレン。それはとーさまが消してあげるから」

にっこりと笑ったロヴェルにゾクッと悪寒が走るが、エレンはロヴェルを睨みながら叫んだ。

「お姉様方!」

「え? わたくし達?」

「あ、あら、何かしら……?」

「双女神の境界へガディエルを避難させてください!」

「まあ」

「し、仕方ないわね」

双女神も急いでガディエルを転移させる。双女神の境界にはオリジンの力も通じないので、ロヴェルが手出しできないのは分かっていた。

「チッ」

舌打ちを隠そうとしないロヴェルは、そのままエレンに言った。

「エレン、どうして隠すのかな?」

「父様がガディエルを殺そうとするからです」

「当たり前じゃないか。勝手に娘と契約するなんて」

「契約は私自身の問題です。自分で決めます!」

「どうしてよりにもよってあいつの息子なんかと……ッ!」

ロヴェルにとって、テンバール王族はそれほどまでに嫌う相手だ。

こればっかりはロヴェルの幼少時代からの確執なので、エレンもとやかく言える立場ではない。

「エレンを助けた礼は半精霊化として支払っただろう。エレンの契約は別だ!」

ロヴェルはエレンの契約の意味を知らなかったのだろう。それ以上の要求にエレンが応えてしまったのだと怒っている。

「あなた、エレンちゃんとの契約は半精霊化のために必要なの」

「何……?」

オリジンが「説明をしていなかったわね」と申し訳なさそうに言った。

「あなたとわたくしが契約し続けているように、半精霊化をしても魂は人間のままなの。それだと、今度は半精霊化した身体の力と魂の力が釣り合わなくなるのよ。だから女神の契約が必要だったの」

「なら、別にエレンじゃなくてもいいじゃないか!」

そう叫んだロヴェルの指先は双女神に向いている。それを見たエレンもきょとんとした顔をして、「……確かに」と思わず呟いて双女神を見た。

話の流れではエレンが契約して当然のような流れだったが、双女神が契約できない理由があるとは聞いていない。

「あら、話の矛先がこちらへ来てしまったわ」

「ええ~? だって、ねぇ?」

何やら双女神がもじもじしている。

エレンが首を傾げていると、ヴァールがヴォールにつんつんと肘打ちをしていた。

まるで、言っちゃいなさいよ、と促している様だった。

「エレンちゃんと契約した方が、ロヴェルが面白いかなって思ったのよ」

と、満面の笑みでヴォールが言った。その横でヴァールも大笑いだ。

「お前らああああ!!」

激怒したロヴェルが双女神に向かって氷の矢を放つ。

「だってこうでもしなきゃ、エレンちゃんは自分の気持ちに蓋をして自覚しないんですもの!」

「そうよ! おぼっちゃんもそうなる未来を望んでいたのだから、わたくし達は手助けしただけに過ぎないわ!」

矢が来る場所がわかるのだろう。二人はひょいひょいと氷の矢をいとも簡単に躱していく。

「ふざけるなぁぁぁぁ!!」

「きゃ~~ロヴェルがおこよ~!」

「きゃ~~逃げるわよ~~!」

楽しそうにしながら双女神は転移して逃げていった。

「くそっ! 逃げ足だけはいつも早い!」

「もう。そういうロヴェルこそ手が早いわ」

お姉様達に矢を向けちゃダメじゃないとオリジンがロヴェルに「メッ!」と注意していた。

双女神に言われた言葉を聞いて、エレンは自分の胸を押さえた。

確かに言われたとおり、エレンは恋をするという目線でガディエルを見ようとする気持ちを意図的に蓋をしていた。

相手はヴァンクライフト家まで関わってくる。

呪われているという理由を免罪符にして、今まで関わらないようにしていたのだ。

だが、なぜか精霊祭の時に限ってガディエルの声がエレンの耳に聞こえてきた。

何年も、何年も。

ガディエルの純粋で真摯な声に負けて、エレンはこっそり覗きに行っていた。

きっとあの時にはもう、エレンは無意識の内からガディエルの事が気になっていたのだろう。

「エレンッ!」

「ひゃっ」

ロヴェルの声に驚いたエレンは、自分が思考に逃げていたのだと気付いた。

「契約を解除しなさい」

頭ごなしに言われて、エレンもムッとする。

「嫌です」

「エレン!」

「私は、」

ガディエルが言ってくれた言葉を思い出しながら、エレンはじっとロヴェルを見つめて言った。

「ガディエルと共に歩んでいきます」

真剣なエレンの表情に、ロヴェルは目を見張った。ロヴェルの横にいたオリジンも「まあ!」と驚いている。

「な、な……」

「父様」

「なに、かな……エレン……」

動転しすぎているのか、動揺が隠せないロヴェルに向かってエレンはにっこりと笑った。

「子離れして下さい。私も親離れしますので」

ひくっと口元が引きつったロヴェル。

自身の行動がエレンの成長に関しているという注意を双女神から受けている。

こういった一連の行動が、エレンの成長を阻害する原因なのだ。

エレンが成長するためにも、ロヴェルがここで子離れすることが一番大事だった。

それが痛いほど分かっているだけに、ロヴェルはもう何も言えなくなってしまった。

呆然とたたずむロヴェルをオリジンに任せて、エレンも転移する。

ガディエルを避難させてくれた双女神にお礼の品を持って行こうと、ヴァンクライフトへと向かった。

***

エレンの真剣な表情を見てしまったロヴェルは、真っ白に燃え尽きているかのようだった。

かなりショックを受けてしまった様子のロヴェルを見て、オリジンは苦笑する。

「あなた、言われてしまったわねぇ」

「そんな……そんな……エレンが……」

「わたくしもすぐにとは言わないわ。でも見守ることも大切ではなくて?」

「オーリ……」

ロヴェルがくしゃっと顔を歪ませた。崩れ落ちて膝立ちになってしまったロヴェルの頭を、オリジンが優しく抱きしめて撫でる。

「これ以上とやかく言えば、嫌われるわよ?」

ロヴェルの肩がぎくりと跳ねる。それだけはどうしても避けたいらしい。

「隙を見て殺すのは……」

「バレたら嫌われるだけじゃ済まなくなるでしょうね」

「うう……早く殺しておくべきだった……」

物騒な事を呟きながらも、今までにないほどにロヴェルは落ち込んでいた。

今までの様子を黙って見守っていたアークは、エレンの言った意味が分からなくて眉間に皺を寄せていた。

ついには縋るような目線をオリジンに投げながら聞いてきた。

「ともにあるくってどういう、いみ?」

エレンの言葉に、アークなりの不安を感じたのだろう。

「結婚するってことかしら?」

今、この場ではかなりの地雷となる言葉をオリジンは容赦なく投下する。

案の定、ロヴェルとアークはショックのあまりに倒れたのだった。