軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

呪いの源。

目的地に転移したロヴェル達は、飛び込んできた光景に目を見開いた。目標がいる場所は森に囲まれていて視界が悪いはずなのに、今やはっきりとその存在が分かる程に周囲に呪いで満ちあふれているのが分かる。それはアギエル達がいる場所を中心に、黒い靄となって周囲に満ちていた。

まるで森が呪われてしまったかのような異様な光景に、ロヴェルと大精霊達は眉をひそめた。

「これは精霊の呪いか?」

「呪いが憑りついた魂に影響されたのでしょう。こうなってしまえば人間でいるかも怪しいですな」

大精霊の一人がぽつりとこぼした。これにどういう事だとロヴェルが大精霊に問うと、その例として少し離れた位置にいるガディエルをちらりと横目で見て言った。

「我々は確かに楽に死なせるものかと人間の王に術をかけました。それに同胞の無念と怒りが混ざり増幅されて呪いと化し憑いた。我々は子孫代々呪うなど出来ませぬ。それは呪いとなった同胞達が仕組んだ事」

「想いの力で浄化……。いまいち理解出来なかったが、そういうことか」

ロヴェルと大精霊の言葉が聞こえたのだろう。少し離れた位置にいたガディエルが近寄ってきた。

「呪いが……どうしたのですか?」

精霊の呪いは自身にもかけられている。自分自身は陛下から解放されるかもしれないと聞いてはいたものの、それが自分だけというのは余り嬉しいものでは無かった。

ガディエルの呪いが解かれるのであれば、親兄弟も是非にと願わずにはいられなかった。

ガディエルが近寄っても精霊達は逃げようとしない。これにガディエルは驚きつつも自身で少しばかり距離を置いた。

いつもならば大精霊達はテンバールの王族に近寄らないどころか嫌悪している。先日、それを様々と見せつけられたガディエルは慎重に距離を保っているのが伝わったのか、大精霊がその問いに答えた。

「呪われた子よ、見えずとも分かるのではないか? この森の異様さが」

「……はい」

「殿下?」

護衛達には森の異常さが分かっていなかった。ロヴェルや大精霊達が森を見て嫌な顔をしている中、主人であるガディエルの顔色が悪い事に気付いて眉をひそめた。

こちらの顔色が悪い事に気付かれたガディエルは慌てた。身内の後始末に出向いているのに、気を遣われてお荷物扱いされては困る。

「これから敵地の中心に行くのが怖いというのではない。なんと言えばいいのか……この森からとても嫌な気配がするのだ」

「殿下は見えずとも感じるのでしょうね。形はどうあれ、精霊と繋がっているのですから」

続けられたロヴェルの言葉に護衛達は更に困惑した。

「ロヴェル殿……どういう事ですか?」

「アギエル様達の呪いが増幅されているのですよ。呪われた者に近づけない範囲が森全体にまで広がっている」

「なんですと!?」

精霊達は呪われた者に近づけない事は聞き及んでいる。だが、この中で一番の戦力はやはりロヴェルと大精霊だった。彼等が近づけないということは戦力の低下に繋がると思ったのか、護衛達から困惑が見て取れた。

こうなってしまえば一から戦略を立て直す必要が出てくるだろう。サウヴェルもそう思って皆を一カ所に集めようとしたが、それをロヴェルが止めた。

「私が精霊達に結界を張るので問題無い。しかし殿下、あなたも近付いてはなりません」

「何故だ!?」

お荷物扱いされてしまうのではとガディエルは焦った顔をした。

「私の身内であり王族だ。民の上に立つ者として叔母上達の振る舞いは赦されない! だからこそ出向いたのだ!」

昔から罪を犯した王族への引導は、同じく王族が下すと決められていた。

だからこそ元を同じとするヘルグナーも、テンバールへの粛清を自らの手でと望んでいたのだ。

「殿下、お静かに」

しーっと人差し指を口元に当てるロヴェルの態度は騒がれて焦っている様子など全く見せず平然としていた。

だが大きな声を出してしまったガディエルは、素直にすまなかったと小声で謝った。

場所を移動するかと聞けば、大丈夫でしょうとロヴェルは返した。何か近付けば精霊達が教えてくれるとにっこりと笑う。

いたって冷静なロヴェルに気圧されたのか、ガディエルはロヴェルから一歩距離を取った。

ガディエルが近付いてはならない理由をどういう心境の変化か、横で見ていた大精霊が答えた。

「どうあれお主は精霊と繋がっている。その精霊が呪いに引き寄せられ、お主も無事ではいられまい」

「なっ……」

この事実に絶句したガディエルの後方で、護衛達が色めき立った。

「殿下、ここは待機を!!」

護衛達の勢いに飲まれそうになるが、ガディエルは何か方法が無いかと探る。そして何かに気付いてロヴェルに詰め寄った。

「ロヴェル殿、どうか私にも結界を!!」

精霊が守れるのであれば、己も守れるはずだとガディエルは懇願した。

これにロヴェルが目を細めて嫌そうな顔をした。それに少なからずガディエルはショックを受けるが、方法はこれしか残されていないだろうと必死に縋った。

それに負けたのか、ロヴェルは溜息をこぼしながら渋々と白状した。

「どの道、あなた方にも結界は施すつもりでしたよ」

「え?」

「この呪いの濃度は周囲にいる人間も危ういでしょうな」

大精霊の言葉に周囲にいた人間達の顔色が一瞬で悪くなった。

それを横目で見つつ、ロヴェルが溜息交じりで言った。

「殿下、何故モンスターテンペストが起きるかご存じですか?」

「な、なに……? いや、それは分からぬ。ただ200年周期で起きているとしか……」

急に話を変えられてガディエルは困惑した。だが、素直に答えた。何かとても重要な事ではないかと本能が告げていた。

「でしょうね。ご説明しますと、精霊と契約して使える魔法の力の源を魔素と言います。精霊は女神よりその力の恩恵を受けた存在です。全てのものが魔素から出来ているのです。それは植物も動物も人間も同じ。この世界はこの力で満ち、川の流れの様に巡回している。それが詰まって流れが滞ると、逃げ道を探して膨れ上がり爆発を起こす。それがモンスターテンペストと呼ばれる現象です」

鉄砲水の原理だ。更に一カ所にとどまった魔素は濃度が非常に濃く、生きとし生けるもの全てが影響を受けた。

「魔素に中てられた動物達が魔物なのです。それは人間とて同じ。モンスターテンペストの最前線に送られる者達が殆ど精霊魔法使いなのは、契約したからこそある程度の魔素に耐えられるという恩恵を受けるからです」

ロヴェルの説明に誰もが耳を傾けていた。この話の中で魔素という力と呪いとが結びつかないが、この様な緊張の場で関係の無い事など話さない事くらい誰にだって分かっていた。

「魔素は全ての源。ところで精霊の力は何でしたっけ? その力で、あなた方は呪われた」

ロヴェルのふざけた問いかけに、それが分かったガディエルが青ざめながら言った。

「魔素だ……」

「そうです。そして人間も魔素から造られている。だから影響を受けるんです。つまり呪いの影響は魔素の影響。人間に影響を及ぼす程の増幅された呪いという名の魔素の力……」

「まさか……ここは……」

「このまま放っておけば、アギエル様達を原因としたモンスターテンペストが起きるでしょう」

ロヴェルから予想外の言葉が放たれて、その意味を痛い程に分かっているテンバールの者達は、酷く青ざめた。