軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エピローグ

結論から言えば、フロレンシア姫とレギオンの件についてジュール国王を言いくるめるのは簡単だった。

たった一言「これで兄上とフロレンシア姫の縁談はなくなるね」。サイラスが笑顔で言ったこの言葉だけで、あっさりと、レギオンさえ望めばブリオール国籍を有し、ヴェルディル侯爵家を再興する許可が下りた。そして彼は、この話を二つ返事で受けた。

調べたところ、レギオンは、亡くなったヴェルディル侯爵家の当主の伯母のひ孫だった。つまり、ぎりぎり六親等。国籍を移せば、侯爵家を継ぐ資格はある。

もちろん、今まで騎士として生きてきた彼がすぐに侯爵家の当主となれるはずもなく、しばらくは王家から指導役が一人つけられることになるが、領地に関してはしばらく王家でしっかり管理していたので別段の問題もない。それでももちろんしばらくは大変な思いをすることになるだろうが、フロレンシア姫との未来に可能性が見いだせたことで本人もやる気になっている。

あとは、レバノール国王の説得だけだが、その件に関してもおそらくうまくいくのではないかとオリヴィアは見ていた。

一度騎士と駆け落ちを図ろうとした姫である。他国に嫁がせることは難しいだろうし、国内の貴族相手でも多くは望めないだろう。そう考えると、ブリオールの侯爵家で、しかもフロレンシア姫を愛していることに間違いのないレギオンはかなりの好物件だ。思うところはあるだろうが、娘を愛する父として判断するのならば、断るはずがない。

「まあ、うまくまとまったようではあるけど、結婚は数年先かな。少なくともレギオンが侯爵として一人前にならないと許されないだろうね」

サイラスはフロレンシア姫がレバノール国に戻る馬車を見送ったあとでそう言った。

「それでも、永遠に別れることにならなかっただけましだろうよ」

今回の件でレバノール国王との交渉にあたってくれたアランが疲れたように言う。当初、フロレンシア姫を攫って逃げようとしたレギオンに対して、レバノール国王はひどく怒っていたようだが、それをうまくなだめてくれたのはアランだった。

オリヴィアは空に向かって大きく伸びをした。

「これで一件落着ですかね」

そう言って、城へ戻ろうとくるりと踵を返したオリヴィアは、背後に満面の笑みで立っていた王妃バーバラを見てひっと悲鳴をあげる。

(すっかり忘れてた!)

そう言えば、王妃にアランとフロレンシア姫の仲を取り持てと言われていたのだった。もちろんその頼みを受けた覚えはないが、こうも堂々とアランとフロレンシア姫の仲をぶち壊して姫とレギオンと結びつけようとしたオリヴィアに、王妃が思うところがあるのは間違いない。

サイラスも危険を感じ取ったらしく、慌てたようにオリヴィアの手を取った。

「あ、父上に呼ばれていたんだった! オリヴィア、急がなきゃね!」

サイラスの機転で難を逃れたオリヴィアは、サイラスとともに慌てて国王の執務室へ向かう。

そして、部屋に入るなり、サイラスは国王に向かって焦ったように言った。

「休暇を下さい。できるだけ長く! どこか遠くへ逃げます」

「は?」

アランとフロレンシア姫の縁談をぶち壊せてほくほく顔のジュール国王が、きょとんと首をひねる。

サイラスはつかつかと執務机まで歩いていくと、机上に両手をついて身を乗り出した。

「うまくいった暁には何でも言うことを聞いてくれると言いましたよね! しばらくオリヴィアと二人で旅行に行きます。母上の機嫌が直るまで戻ってきません」

いきなり旅行と言われてオリヴィアは驚いたが、確かに機嫌の悪そうな王妃にはしばらく近づきたくない。

「何が言いたいのかよくわからないが……、まあ、そう言うことなら都合がいいものがあるぞ」

ジュール国王は机の上に積んでいた書類の中から一通の手紙を発掘すると、サイラスに差し出した。

「フィラルーシュ国王の生誕祭の招待状だ、私のかわりに参加して、ついでにゆっくりしてくるといい」

「……それは休暇ではないですよね?」

「生誕祭なんて一日だけだろう。あとは休暇なんだからいいじゃないか」

体よく仕事を押し付けられた気もしなくもないが、しばらくフィラルーシュ国でゆっくりしていいというのはありがたい。

(南に西に、今年は移動ばっかりね)

手紙を握り締めて「仕事」と「休暇」の間で葛藤しているらしいサイラスが結論を出すまでそれほど時間はかからないだろう。

十中八九、フィラルーシュへ行くことになる予感がする。

(帰ったらお父様に相談しないといけないわね)

腑に落ちない顔で渋々頷いたサイラスと、にんまりと笑うジュール国王を見ながら、オリヴィアは微苦笑を浮かべたのだった。