軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

79:弟のプライドと優秀な相談員

私がポールのいる客室へ足を運ぶと、すでに彼は起きていた。

独特の丸みを帯びた白銀色の髪に、エバンテール家の男性が身につける衣服はそのままだ。メイドさんたちがあれこれ世話を焼いてくれたようで、ベッドの横にはジュースや軽くつまめる食事が並べられている。

ポールは私が部屋へ踏みこむなり、肩を怒らせて詰め寄ってきた。

なにやらまだ憤慨している様子だけれど、私はエバンテール家を勘当された存在だ。

私に何を言っても、効果がないのだけれど……

気を失う前、彼は私のせいで両親がおかしくなったと話していたが、二人がおかしいのはもともと。

実家にいた頃もそんな気がしていたし、彼らと距離を置くことで、よりそれが鮮明になった。

「ポール、あなたは何しにここへ来たの? お父様やお母様も一緒なの?」

「うるさいな、何をしようと僕の勝手だし、これはもともと姉上のせいなんだ! 姉上が勘当されるような真似をしたから! う、ううっ……もう嫌だ」

怒鳴るポールの目から、涙がぽろぽろ溢れてタイツを濡らす。

いつも強気だった弟の泣き顔を前に、私はひたすら困惑して後ろに立つナゼル様と顔を見合わせる。

「何があったの、ポール?」

しかし、ポールは怫然として口を割らず、こちらを睨み付けるだけだ。

話が進まず困っていると、ナゼル様が「俺に任せて」と言って微笑んだ。

「ですが、ナゼル様にエバンテール家の面倒事を押しつけるわけにはいきません」

「いいから、いいから。アニエスは部屋に戻っていてくれるかな?」

ナゼル様が手を伸ばし、私をあやすように頭をポンポンと撫でる。

「……わかりました。けれど、困ったことがあればすぐに呼んでくださいね」

「うん、了解」

部屋を追い出された私は悶々としながら自室に向かう。あんな状態の弟をナゼル様に任せてしまい、気が気でない。

途中、廊下で待機していたケリーがついてきてくれた。ケリーはポールとの事情を察したように頷く。

「アニエス様、そう気を落とさず。ナゼルバート様なら大丈夫です」

「でも、弟の相手を押しつけてしまったわ」

「どういった事情かはわかりかねますけれど、近しい相手より他人の方が話しやすいこともございます」

腑に落ちない気持ちを抱きつつも、私は素直に頷き自室の扉を開けた。

クッションのきいたソファーに腰を沈め、頭を悩ませる。

「それにしても、誰がポールをここまで連れてきたのかしら?」

両親が一緒かと思ったが、閉鎖的なエバンテール家はむやみに他領へ出かけたりしない。

かといって、弟が一人でスートレナへ来たとは考えられないし、彼に手を貸すような使用人もいないだろうし……

答えが出ずにうんうん唸っていると、ポールと話し終えたナゼル様が部屋に入ってきた。

すぐにソファーから立ち上がり彼を出迎えるが、ナゼル様は私を横抱きにしてソファーに戻ってしまった。この体勢は一体。

ナゼル様の太股の上に横を向いた状態で乗せられ、いろいろと落ち着かない。

「あの、ナゼル様、ポールは?」

「話は聞いてきたよ、彼も様々な悩みを持つ年頃みたいだ」

私はナゼル様から、弟が環境の変化に戸惑っていると告げられた。あれだけエバンテール家に忠実だったポールが、実家の方針に疑問を抱き始めたらしい。

だからこそ、今まで散々「エバンテール家の方針に逆らう不出来な姉」と罵ってきた私には話ができなかったのだ。

パーティーを出禁にされたエバンテール家だが、弟だけはのちに出禁を免除されたらしい。そして、パーティーに顔を出したところ、過去の私と同じような目に遭ったのだとか。

「ポールはアニエスが勘当されたせいで全てがおかしくなったと、君に責任を押しつけたいようだったけれど、それは違うと伝えておいたよ。誰かのせいにしなければ、今までの自分が否定されたことに耐えられなかったのだろうね」

「ナゼル様……」

私は横座り状態のまま、頼りになる夫を見つめる。

なんて優秀な相談員ぶりなのだろう。やはり、彼は何をやっても完璧にこなしてしまう。

「それから、ポールをここへ連れてきたのは、話を聞く限りベルトラン殿下とラトリーチェ様のようだ。まだ商人ごっこを続けているらしい」

「ラトリーチェ様って、たしか……王子妃殿下だったような?」

「そう、ベルトラン殿下の妻で、甲斐甲斐しく病気の夫の世話をする献身的な女性だと貴族の間ではもっぱらの噂だった。けれど、なかなか癖のあるご夫人みたいだね」

「ベルトラン殿下の奥様ですものね。ポールが一人でここまで来られるわけがないので疑問だったのですが、変な相手に利用されたわけではなくてよかったです……しかし、殿下はいずこへ?」

「俺にもわからないが、この調子だとまた顔を合わせるだろうね」

第一王子の話をするとき、ナゼル様はどこか遠い目になるのだった。