軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

53:芋くさ夫人、救助活動をする

夜が訪れ、窓の外から魔獣の不気味な咆哮が響いてくるようになった。

避難所にはたくさんの人がやって来て、予備の部屋も開放している。屋敷の中は賑やかだ。

領民もそれぞれ魔法の力を使って、互いに助け合って過ごした。

ふと、私はジェニの様子を見に行こうと思って一人庭の外に出る。

屋敷の塀は強化してあるし、ワイバーンの厩舎も頑丈だけれど、ジェニが怖がっていないか心配になったのだ。静かな場所で休憩したい気持ちもあった。

「ジェニ、大丈夫?」

強化した木製の厩舎に入ると、ジェニは起きていた。いつもと違う雰囲気をなんとなく感じ取っているのか、桃色の体で落ち着きなく歩き回っている。

「よしよし、ここは大丈夫でしゅよ~」

ジェニを宥めようと、すべすべの体を撫でると、先ほどにも増してジェニがそわそわし始めてしまった。逆効果だった?

桃色のワイバーンは、小さく開いた入り口からしきりに外の様子を窺っている。

「外に何かあるの?」

厩舎の入り口から様子を見ると、街の方から人々の悲鳴が聞こえてきた。屋敷に近い場所だ。

「何事?」

中心街は強固な壁に囲まれているし、壁の周囲には魔獣を塀の中へ入れないための人員を配置している。壁を突破しようとする魔獣が現れても都度退治して、確実に人々を守っているはずだ。

にもかかわらず、魔獣が中心街へ入ってくる場合に考えられるのは……

「羽のある魔獣を、駆除係が取り逃した」

ナゼル様の植物に私の魔法を使っても、広い街全体をドーム状に覆うことはできない。ゆえに上はがら空きだ。

羽のある魔獣の多くは、新月の日でも魔力に酔いにくい。

飛ぶ際に障壁を生み出すなど、普段から魔力の消費が多いからだ。

代表的なのは鳥系の魔獣で、天馬やワイバーンなども同じだった。

ただ、何事にも例外はある。羽はあっても、あまり飛べない種類とか……

「一瞬だけ高く飛んで、壁だけ越えてしまったのかな」

屋敷や厩舎は全方位を強化していて、魔獣に壊されることはないが、街に住む人々の家はそこまで強くない。特にドアや窓の部分は脆いだろう。

「ジェニに乗って、危険にさらされている人を一人ずつでも屋敷の中まで運べれば……いや、危険か」

葛藤していると、ジェニが私の意図を汲んだようにバサバサと羽ばたき始める。

彼の目は、外にある何かを感じ取っている風にも見えた。

「わかった、行きましょう。危なくなったら、ジェニは空に逃げてね」

素早く準備した私は、ジェニにまたがって夜空に飛び立つ。

スートレナの新月の夜は、黒のインクをぶちまけたようにとても暗い。

けれど、魔獣に荒らされた家から火の手が上がっており、その光で辺りが照らされていた。

「ジェニ、あそこに着地するね」

私が指さしたのは、燃える家の近く。外に焼け出された人が二人いた。近くに魔獣の姿はない。

ジェニは速度を落として地面に着地し、私もジェニから降りて二人の方に走った。

「もう大丈夫です、立てますか?」

倒れていたのは、お世話になったことのある食堂、「花モグラ亭」の夫婦だ。二人は怪我をしていて動けないようだった。

「あ、あなたは、お屋敷のメイドの……」

私を見た二人が声を上げる。いつも街に出るときはメイドに変装しているのだ。

「とりあえず、屋敷へ向かいましょう」

二人をジェニの背中に乗せ屋敷まで運ぶ。三人乗りは難しかったけれど、スピードを出さなければなんとかなった。

屋敷に戻ると、私を発見したトッレが悲鳴を上げたが、すぐに怪我人を別室へ連れて行く。幸い避難していた人の中に医者がいた。

「まだ他に怪我人がいるかもしれないので、行ってきます」

「アニエス様!!」

トッレに続き、普段無表情のケリーも何事かという風に目を見開いた。

素早く駆け出した私は屋敷の入り口で待機するジェニに飛び乗って、再び街の方へ飛び立つ。

その夜、私は二十人以上の怪我人を救出した。

のちに、この日の出来事を感謝した人々によって、ワイバーンに乗った勇ましい領主夫人の像が広場に建てられ、恥ずかしい思いをするのだけれど……それはまた別の話。

ナゼルバートは馬を駆り、砦から中心街へ向かって走っていた。

街の中に魔獣が出現したと報告を受けたからだ。駆除係が取り逃したらしい。

となると、塀の中にいるナゼルバート自身が動く方が早い。

あろうことか、魔獣が暴れているのは屋敷の近くだった。

しばらく進むと、燃えている家の傍から魔獣の咆哮が聞こえた。近くで誰かと交戦している。

音のする方へ足を運ぶと、トニーが先に到着していた。

彼の魔法「俊足」で移動してきたのだろう。

「トニー、援護する!」

後ろから声をかけたナゼルバートは、鋭い棘を持つ植物で魔獣の動きを遮った。そこへ短剣を振り上げたトニーが突っ込み、とどめを刺す。巨大な魔獣は音を立ててその場に倒れた。

ナゼルバートはホッと胸をなで下ろす。しかし、トニーは険しい顔のままだった。

「もう一匹入り込んでいます」

「どこに?」

「二匹同時に追うことはできず、危険な方を優先したので見失いました。でも、あの魔獣なら、こちらに向かってきているはず」

「トニー、君は何か知っているの?」

尋ねれば、彼は迷ったそぶりで口を開く。

「俺はその魔獣を見たことがあるんですよ。以前、領主の屋敷で飼われていたやつだ。そいつは他の領民を襲わず、まっすぐ領主の屋敷を目指して来る。屋敷はアニエス様が魔法をかけているから大丈夫だと思うが」

「何やら事情がありそうだね。そういう話なら急いで屋敷へ行こう。詳細は移動しながら……ん?」

ふと上を見上げると、ワイバーンが飛んでいた。

「なんで、ここにワイバーンが?」

しかも、炎に照らされたワイバーンは見覚えのある個体で、その上には女性が乗っている。

「アニエス!?」

いるはずのない妻を見つけたナゼルバートは悲鳴を上げた。