軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

45:桃色ワイバーンと間の悪い護衛

「トニー、領主夫人にワイバーンの騎乗をお教えして欲しいのだが」

中年の飼育員さんに指示され、トニーは嫌そうな声を上げる。

「ええっ! 俺ですか?」

「ワイバーンなら、お前が一番上手く乗れるだろう」

「だって騎乗の練習って、領主夫人を抱えなきゃならないじゃないですか! 俺、領主に殺されたくないですよ」

トニーは一体誰のことを言っているのだろう、ナゼル様は殺人なんてしないのに。

「ナゼルバート様は温厚な方だぞ」

そうだ、そうだ! と、私は心の中で飼育員さんに同意した。

後ろからついてきた護衛のトッレも大きな声で飼育員さんを支持した。

しかし、トニーは譲らない。

「俺、出迎えで領主夫妻にワイバーンを寄越したとき、オーラだけで焼き殺されるかと思いましたけど。夫人がワイバーン好きで、ご機嫌だったから命拾いしたようなもんですよ?」

「自業自得だろ」

私はまた無言で頷き、トッレは大声で「そのとおりだ」と怒鳴った。体だけでなく声も大きいな、この人。

「領主が愛妻家なのは有名でしょ、実際すごい溺愛ぶりなんですから。嫉妬で射殺されたくありません」

二人の話はまだまだ続き、それを聞いた私はナゼル様からの告白を思い出し、一人でドキドキする鼓動と戦う。

とりあえずトニーは、意地でも私にワイバーンへの騎乗を教えたくないらしい。初対面で意地悪をされたし嫌われているのだ。

立ち尽くしたまま会話に耳を傾けていると、後ろからドドドと足音が聞こえてきた。

トッレではないよね、ここにいるし……?

びっくりして音の響く方を見ると桃色のワイバーン、ジェニが建物の外に脱走していた。こちらに向かって一直線に走ってくる。

「ジェニ、勝手に外に出ちゃ駄目よ?」

焦っているとジェニは私の前で静止して、嬉しそうに体をすり付けてきた。か、可愛い……!

私も桃色の皮膚をナデナデした。

続いてジェニはレモン色の尻尾の先でトニーをベシベシッと叩き始める。

「えっ、どうしたの? なんでトニーを連打しているの?」

私とトッレはオロオロと慌てるが、飼育員さんはニコニコと笑うばかりだ。

「ジェニはワイバーンの中でも特に頭がいいから、私たちの会話がわかったのでしょう。アニエス様に騎乗して欲しいから、トニーにせっついているのです」

なんて良い子なの……! あとでニンジンをあげなくては!

ワイバーンは雑食で肉も野菜も食べるが、騎獣は野菜や豆を中心に与えられることが多い。ニンジンはワイバーンの好物だ。

叩かれ続けているトニーは諦めた様子で私に告げる。

「わかりました、教えればいいんでしょ。ただし、俺がやるのは基礎だけです。同乗して空を飛ぶ訓練は、ナゼルバート様に許可をもらってからにしてくださいね」

仕方がないので私は頷いた。ナゼル様、そんなことくらいで怒らないと思うのだけれど。

「わかりました。それではよろしくお願いしますね」

ジェニをヨシヨシしながら、私はトニーに応じる。

飼育員さんとトニーは、ジェニを宥めながら小屋の中へつれて行った。

あとには私とトッレが残される。

二人を追いかけて歩きつつ、私は彼に尋ねた。

「ナゼル様を否定されたときに大きな声を出していたけれど、トッレは彼が好きなの?」

トッレが嬉しそうにブンブンと首を縦に振って答える。

「騎士団にいた時代、ナゼルバート様には大変お世話になったのです。俺はあの方を尊敬申し上げております! 騎士の多くはナゼルバート様を慕っているのです」

「なるほど」

「とてつもなく強く、魔法を攻撃に転じる様は芸術的で、騎獣の扱いも素晴らしく……」

トッレは大きな体を震わせながら、ナゼル様がいかに天才的な活躍をしたかを延々と教えてくれた。本当に、あの人はなんでもできるな。

そのあと屋敷に帰って、執務室でナゼル様に今日のことを伝えると、騎乗の基礎練習は快く許可してくれた。

ただ、同乗して空を飛ぶ練習については……

「俺がやる。アニエスは絶対に他の男と練習しないように」

と、釘を刺されてしまった。

もしかして本当に、トニーの言うとおり嫉妬だったのかな。だとしたら嬉しいような恥ずかしいような。

私もナゼル様が女性と密着してワイバーンに同乗したら複雑な気分になるものね。ナゼル様、好き。

今こそ告白を成功させるときだと、私は口を開いた。

「あのっ、私、ナゼル様が……」

けれど、言いかけたところでまたしても邪魔が入る。

「ナゼルバート様、一緒に鍛錬でもどうですかな! 近頃体が鈍っているとお悩みでしたでしょう?」

勢いよく扉を開けたのは護衛のトッレだ。

……でもそれ、今でなくてもいいんでない?

トッレが部屋に居座っているので告白できそうにない。

伯爵家から帰って以来、何度かトライしたけれど、そのたびに間が悪く誰かが入ってきて中断してしまう。おかげで全く気持ちを伝えられない。

「うう……」

私はトボトボと執務室をあとにする。

明日こそは成功させるのだと固く心に誓いながら。