軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

43:芋くさ夫人、魔法を使う

あのあと、私とナゼル様はスートレナ領に戻ってきた。

ロカの街でワイバーンに乗り継ぎ、空からスートレナ領を見下ろす。

のどかな辺境に来ると、帰ってきたという気がしてホッと息を吐いた。

「到着ですね」

「うん、もうそろそろ屋敷だ」

やたらと大きな領主の屋敷と、庭でにょきにょき育った巨大な植物が見える。

今やうちの庭では、季節を無視した大量の植物が大きくておいしそうな実をたくさん実らせていた。

いつものように、ワイバーンから降り立ったナゼル様は、また私に向かって両手を広げる。何度やっても慣れないのだけれど。

ナゼル様の気持ちを知ってから、余計に恥ずかしくなっちゃったし!

私は今日も勇気を出してワイバーンから飛び降り、ナゼル様にしっかり受け止められるのだった。

「ところで、ナゼル様。今日はお仕事はお休みですか? 長旅でお疲れでしょう」

ずっと休みなく働いているナゼル様には、これを機に休憩して欲しいと思う。

それに、彼が屋敷に残ってくれるならば、告白のチャンスが増えるはずだ。

ヤラータ様の家では、結局何も言えないままだったし、道中もケリーが一緒だったし。

ワイバーンの上ではなくて、きちんと向かい合って好きだと言いたいし。

考えると、彼が屋敷にいてくれるのが一番都合が良いのだ。

「そうだね。今日はゆっくり、家でできる仕事に取りかかろうかと……」

ナゼル様が口を開いたところで、ケリーが「ヘンリー様がいらっしゃいました」と知らせに来てくれた。

「アニエス、どうしたの? 何か言いたそうだったけれど」

「いいえ、お気になさらず」

ナゼル様を休ませるのが、そして告白をするのが、こんなにも難しいとは思わなかった。

そのあと、執務室へ紅茶を運ぶと、ナゼル様とヘンリーさんが真面目な顔で話し合っていた。

「……というわけで、そろそろ魔獣の動きが活発化してくる時期なんです」

「そうか、ある程度の対策は済ませたけれど、被害の多い場所に柵を増やしてもいいかもしれないね。ちょうど、茎の強度が強い植物の改良が成功したところだから、アニエスの力を借りれば広範囲に柵を作れるよ」

私で良ければ、いつでも協力します。

紅茶とお菓子を並べつつ、二人の様子を窺う。するとヘンリーさんが話しかけてきた。

「アニエス様、このお菓子は?」

「うちの料理人、メイーザの新作です。サクサクのパイ生地の間に、ナゼル様が品種改良したヴィオラベリーのムースを挟んでいます」

さっそく菓子を口へ運んだヘンリーさんは、血色の悪い顔を輝かせた。

「素晴らしい! これらは、売り出すつもりはないのですか?」

「そうですね。今は手が回らなくて……」

ヘンリーさんは、我が家で出される料理やお菓子が大好きで、それ目当てで、よく屋敷まで仕事をしに来る。今日もそうだ。

ついでにいろいろ手を貸してくれるから、こちらも助かるのだけれど。

「でしたら、街にある焼き菓子専門店に委託してみては? レシピの使用料と、毎月の売り上げのうち何割かを収めるという契約で」

「メイーザに相談してみますね」

功労者の彼女には、レシピボーナスと、お給料アップの形で還元したい。

数ヶ月後、「メイーザのヴィオラベリーパイ」は中心街で大人気の商品になるのだけれど、それはまた別の話。

とにかく、今は魔獣対策だ。

辺境スートレナでは、年に何回か魔獣が活発化する時期がある。

ちょうど今が活発化の時期に当たり、中でも新月の夜は特に危険だとされていた。

その日が、迫ってきている。

「アニエスにも協力してもらった方がいいね」

「ええ。柵設置の手伝いと、被害が多い地域の民家の強化などをお願いしたいのですが」

ナゼル様とヘンリーさんの言葉を聞いて、私は「任せてください」と頷いた。

単純に、役に立てるのが嬉しい。

その後、さっそく、私は物質強化の魔法で魔物対策を進めることに決まった。

ナゼル様と一緒にワイバーンで辺境を周り、柵や家などを強化する。

けれど、数が数なので、徐々に魔力が減って疲れてきた。魔力の減少は疲労となって体に襲いかかるのだ。

でも、魔獣の被害に遭う人を一人でも減らしたい。

次の家へ向かおうと歩いたところで、クラリと体が傾ぐ。

……うう、人生初めての目眩。ヘンリーさんはいつも、こんな感じだったのね。

頭から地面に倒れ込みそうになったのだけれど、直前で何か柔らかい物に包み込まれる。

ばよーん、ばよーんと弾力のあるそれは、緑色の多肉植物だった。

「アニエス! 大丈夫!?」

少し離れた場所から、ナゼル様が焦った様子で駆けてくる。

「ナゼル様……この植物は……」

「俺の魔法。実体がないから、魔法を解いたら消えてしまうけれど」

彼が手を伸ばし、私を抱え上げると同時に、多肉植物はスウッと姿を消してしまった。

ナゼル様の操る植物の魔法は、とても便利だ。

「ごめんね。無理をさせてしまって」

「平気です。ナゼル様が魔法の使い道を見つけてくれたおかげで、こうして皆の役に立つことができるんですから」

「アニエスのスキルは、強化の幅が広すぎて、まだまだ可能性を秘めているね」

と言いつつも、「今日はここまで」という話になり……

私はナゼル様にさっさと屋敷へ連れ帰られてしまった。