軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

31:芋くさ夫人は面接官(中)

動揺している私を気遣って、ケリーが淡々と女性に対応してくれる。

「とりあえず、この場にいる全員の自己紹介をお願いします。そういう決まりですので」

「なによ、平民風情が偉そうに! あんた、私を落としたら、ただじゃ済まさないわよ!」

「奥様には、きちんとお伝えします」

伝えるも何も、ここにいますからね。

「フン! いるのは平民ばかり。私が侍女に選ばれるに決まっているわ」

「自己紹介をお願いします」

ケリーが真顔でリピートした。どんなときでも冷静な顔ができる彼女はすごい。

「レベッカよ、キギョンヌ男爵家の三女。十九歳」

他の面接者はドン引きしているけれど、戸惑いながらレベッカに続く。

「ネーリスです。家事見習い、二十七歳です」

「マリリンです、酒場勤務。三十歳、給仕をしています」

「モーリーナです、猟師。三十七歳、猟と肉の解体、掃除が得意です」

二組目のメンバーの面接を終える。

レベッカ以外が萎縮してしまって、可哀想だったな。

同じ調子で、三組目と四組目の面接も完了した。

「アニエス様、お疲れではありませんか?」

「まだ、大丈夫。ありがとう、ケリー」

「では、二次面接を行います。まずは、一次の合格者を発表しましょう」

頷いた私は、合格者を読み上げようとし……ふと、扉の向こうに目を向けた。

「あ、あれ……?」

小さく開いた扉の隙間から、ナゼル様とヘンリーさんが、こちらを覗いている。

心配して、様子を見に来てくれたようだ。ちょっと恥ずかしい。

気合いを入れ直し、私は合格者の名前を読み上げる。

合格者は二次面接に進み、不合格者は帰ってもらう予定だ。

「メイド採用試験の一次合格者は……モッカ、パティ、メイーザ、ローリー、マリリン、モーリーナ、ミニー、パンジーです。合格者の方は二次面接がありますので、この部屋に残ってください。名前を呼ばれなかった方は、今回はご縁がなかったということで……」

「ちょっと! どういうことよ!」

話を遮って叫んだのは、男爵令嬢のレベッカだった。彼女は、ずんずん私に近づいてくる。

「ねえ、私は? 私は侍女に採用されるのよね?」

「今回はメイドの募集ですので、侍女は採用しません」

「は? ふざけないでよ。メイドの分際で私に指図するんじゃないわよ! いいから、さっさと私を侍女にしなさいよ! 私はキギョンヌ男爵の娘、レベッカなのよ!?」

えー……そんなことを言われても、困るのだけれど。

「それはできかねます」

「お黙りなさい。さっさと、芋くさ女に会わせなさいよ! だいたい、私がわざわざ来てやったのに、顔も出さないってどういうことなのかしら? 見た目も芋なら、脳みそも芋なのね」

脳みそが芋って言葉、始めて聞いたな。ああ、もう、どうしよう。

「グズなメイドね! 言うことを聞かないと、こうよ!」

レベッカが大きく片手を振り上げる。打たれると思った私は、とっさに目を閉じた。

――大丈夫、お父様ほどの威力はないはず。

けれど、いつまで経っても衝撃は訪れない。恐る恐る目を開けると……

そこには、腕を振り上げたままの体勢で固まるレベッカと、私を庇うようにして立ち、彼女の手首を掴むナゼル様がいた。

「この屋敷での暴力沙汰は見逃せないよ」

「あっ……あなたは……」

ナゼル様の顔を見たレベッカは目を見開いた。彼が誰だか見当がついたのだろう。

しかし、彼女は反対の手で私を指さし言葉を続けた。

「そこのメイドが悪いのですわ! 平民の分際で、私に向かって偉そうに指図するなんて。クビにすべきです! ねえ、旦那様。私を侍女として雇ってくださらない? きっと、ご満足いただけますわ」

レベッカは、上目遣いでナゼル様を見つめている。私への態度と違いすぎるんですけど。

「君を侍女にはできない」

「なっ……どうしてですの! あんな平民より、私を侍女頭にするべきですわ!」

今度はケリーを指さして叫ぶレベッカ。対するナゼル様は冷静だ。

「どんな立場であれ、簡単に他人に手を上げる人物は採用できない。それから、妻を侮辱する人物もね」

自分の「芋」発言を聞かれていたと知ったレベッカは、僅かに動揺し始めた。

しかし、すぐに持ち直し、体をくねらせながらナゼル様に訴える。

「私、奥様よりも、旦那様を満足させてみせますわ。ですから、お傍に置いてくださいませ」

「お断りだよ。私は妻だけを愛しているんだ」

ナゼル様が即答し、大事そうに私を抱きしめる。

ひゃぁああ! ……じゃなくて。

「ちょっと、ナゼル様!」

事情を知らない他の面接者の皆が、めちゃくちゃ戸惑っていますよー!

「ごめん、アニエス。俺がもう限界なんだ。君が傷つけられるのを、これ以上見ていられなかった」

アニエスという名前を聞き、面接に訪れた人々が動揺している。「アニエスって……奥様と同じ名前では?」、「もしかして……」などという会話も聞こえてくる。

――完全にバレた。