軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

23:芋くさ夫人のお悩み相談室

私とケリーは、重要度の高い部屋から掃除を始めた。

「ふう! 厨房と洗濯場の掃除完了!」

「思っていたよりも、厨房が簡素で助かりました。使用人のエリアは、ものが少ないみたいで……」

「本当。必要最低限って感じ……自分たちが使うエリアにはゴテゴテと金ぴかの飾りをたくさん置いているのに」

「そういう領主は多いと聞きます。厨房の設備が壊れていないだけマシかと」

「使用人が雇いづらい理由にも関係していそう。それにしても、もう夕方か……二カ所しか掃除できていないのに」

二人でこの屋敷全部を綺麗にするのに、どのくらいの時間がかかるのだろう。

「ケリー。今日の掃除はここまでにして、ナゼル様をお迎えする準備をしましょう」

「そうですね。とりあえず、夕食の用意は私が」

「ケリー、料理ができるの?」

「いいえ。朝昼と同様、出来合いの品を買ってきます。以前、離れで食事を作ったことがあったのですが、ナゼルバート様に『今後は料理禁止』と厳命されてしまいましたので」

え、なんでそんな命令を!? ケリー……一体、何を作ったの?

「やっぱり、料理人は欲しいですね」

「……そうね」

ケリーは街に降り、私はダイニングセットの準備をする。

これも、エバンテール家のメイドがやっていた仕事を真似しておけば大丈夫だろう。

「ナゼル様、お酒は飲むかな?」

昨日ヘンリーさんが手配してくれた食事と一緒に何本かワインが混じっていた。

ワインとナゼル様……良い……!

「飲むかわからないけれど、一応出しておこうっと」

そうこうしているうちに、当のナゼル様が仕事から帰ってきた。

「アニエス、ただいま」

「おかえりなさいませ、ナゼル様。お仕事お疲れ様です。もうすぐケリーが食事を持ってきてくれますよ」

いつも通りの完璧な美貌だけれど、どことなくナゼル様の元気がない気がする。

「アニエス、ごめんね。苦労をかけて。俺が辺境へ連れてきてしまったばっかりに」

「急にどうしたんですか、ナゼル様。私は、実家よりもこっちのほうが楽しいですよ? むしろ、実家にいたときのほうが苦労の連続でしたよ?」

重いドレスや痛い靴での生活に始まり、顔を合わせば婚約婚約と責められ、嫌われながらパーティーに参加させられ、失敗すれば殴られる。

うわぁ、改めて思い返すと最悪だ!

「エバンテール家にいた頃と比べれば、全てにおいてどうってことないです。それより、先にお酒でもどうですか? ヘンリーさんが昨日用意してくれたものらしいのですが、結構良さそうなワインですよ」

「うん、いただこうかな」

私はそそくさとワインを入れ、ナゼル様に差し出す。

「ありがとう、アニエス」

美しく微笑んだナゼル様は、そのままぐいっとワインを飲み干した。

「おお、ナゼル様、素晴らしい飲みっぷりですね……」

ワインって、そんな飲み方をするものだっけ?

「アニエス、もう一杯もらってもいい?」

「あ、はい。どうぞ」

どんどんワインを消費していくナゼル様。

ほんのりと頬が赤いのは酔っているからだろうか。これ以上は注がないほうが良さそうだ。

「ナゼル様、ワインはここまでです。残りは明日以降のお楽しみにしましょう」

広いダイニングの中、ささっとワインを隠した私は、彼の隣の席に腰掛ける。

離れにいた頃、ナゼル様は飲酒をする人ではなかった。

これは……仕事で何か嫌なことがあったに違いない。父がそうだったから。

父のように酔って周りに当たり散らさないのは、さすがナゼル様だと思うけれど。

「ナゼル様、私で良ければお話を聞きますよ。あまり役に立たないですけど」

酔いが回っているのか、ナゼル様はいつもと比べてぼーっとしている。そんな彼は、苦しそうな表情を浮かべながら、ぽつぽつと私に話をしてくれた。

普段なら、私なんかに仕事の話はしないかもしれない。

けれど、今はワインのおかげで、彼の口は少しだけ軽くなっていた。

「……ふんふん、なるほど。そういうことですか」

酔って要領を得ないナゼル様の話を、頭の中でまとめてみる。

ケリーが教えてくれたとおり、私たちはこのスートレナ領内でアウェイな状態らしい。

それは、ナゼル様の職場でも同様で、追放されたとはいえ辺境のために頑張ろうとしていた彼に、「何もしないでくれ」と頼むような有様だったらしい。

あげく「今までの領主様と同じように、屋敷で優雅に過ごしてくれたらいいです」と言われたという。

「今までの領主って、全く仕事をしていなかったの? 屋敷で優雅に何をしていたのかしら?」

謎すぎる……

私は、ナゼル様がスートレナ領について、たくさん調べていたのを知っている。彼が、この領地を良くするために準備していたことも。けれど……

「何をするにも協力が得られないとなると、厳しいですよね~」

「うん……方法を、考えなきゃ……」

私もナゼル様と一緒に仕事ができれば良かったのだけれど、古き良きエバンテール侯爵家の令嬢教育は、ひたすら良妻賢母を目指すものだった。

勘当されてからは、ナゼル様の持っている本を読むなどして、調べ物をするようになったものの……まだまだ、あまり役に立てていなくて歯がゆい。

だからといって私には、このままナゼル様を放っておく気はなかった。

「そうだ、ナゼル様! 前に辺境のために品種改良をした苗、荷物の中にありましたよね。ここで植えてみませんか? 現地できちんと育つか調べたいって、おっしゃっていたでしょう!? それなら、今の状態でもやれると思うんです!」