軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

112:芋くさ夫人の娘の縁談(ルーナ視点)1

幼い頃から、父に繰り返し聞かされてきた言葉がある。

「その魔法は決して人に……生きているものに向けて使ってはいけないよ。事によっては、今までと同じような生活ができなくなってしまうから」

最初、ルーナには父の言葉の意味が理解できなかった。

父は植物を生み出したり操ったりする魔法が使える。

兄は土を掘ったり地形を変えたりする魔法が使える。

母は不特定多数のものを強くする魔法が使える。

そしてルーナは……。

「手に触れた全てのものを弱くする魔法……こんな魔法、いらない」

ルーナは今年、十六歳になった。

辺境の領主の娘として育てられ、物事もかなりわかってきた。

だからこそ理解できる。

自分がこの地にとって、まったくの役立たずなのだと。

「お母様みたいに、ものを強くする魔法だったらよかったのに」

今のところ、堅い果実の殻を弱くして割るとか、道を塞いでいる大岩を弱くして割るとか……そのくらいしか使い道がない。

しかも両方、母の魔法で人を強くすれば解決できてしまう。

さらに、母はルーナと違って遠隔で魔法を使うこともできる。

ますますルーナの出番はない。

(そして、私の力は場合によっては危険視されるものだわ)

幼かったルーナは父の「人に向けて使ってはいけない」という言葉の意味がわからなかった。

だから、ルーナが力を使ってもいい対象は果物や岩や倒木くらいで……。

それが不満だったルーナは、初めて生きている対象に向けて魔法を使った。

生きている……畑の害虫に。

ルートカットクロウラーという、芋畑を荒らす害虫を捕まえたルーナは、こっそり魔法を試した。

「弱くなあれ」

すると、害虫は信じられないほど脆くなり、ルーナの手のひらの上で原形を留めない液体になった。おぞましい思い出だ。

あれ以来、ルーナは父の言いつけを頑なに守っている。

害虫の一件は、今でもルーナのトラウマになっていた。

そんなある日、ルーナに縁談が舞い込んできた。

お年頃になっただろうということで、婚約の打診が各方面から来たらしい。

皆、国に多大な影響力を持つ父との繋がりを持ちたいのだ。

すでに、一つ年上の兄の元には、ひっきりなしに令嬢の姿絵が送られてきている。

兄は辟易しているが、そろそろ相手が決まりそうだ。

(でも、お兄様はいいわよね~。スートレナに残れるし?)

ルーナはどこかへ嫁がなければならないし、それは他領の領主である可能性が高い。

この緩くて居心地のいい場所に、いつまでも留まってはいられないのだ。

(覚悟しないとね。幼なじみのクアトロだって従妹と婚約したって言っていたし)

ルーナに来た縁談は両親によって吟味され、厳しいふるいにかけられたものらしい。

そうして、父の部屋で見せられた絵姿は、一人の青年のものだった。

父の傍らには母も立っていて、ルーナの反応を窺っている。

「先方はとても乗り気だけれど、嫌だったらルーナの意思を尊重するわ」

「ええと、エルメ・デズニム……って、隣国に留学していた双子王子の片割れじゃないの!」

王妃と母の仲がよいので、ルーナは幼い頃、彼と遊んだことがある。

(でも、ある程度成長してからは会っていないし、そのうち隣国へ行ってしまったし)

とにかく今は交流がない。

「私、王太子妃とか無理よ?」

「大丈夫、王位は兄のマルク殿下が継ぐから。弟のエルメ殿下は臣下に下り、新たに領地を与えられる予定らしい。君の力が必要なんだってさ」

「そ、そう」

ルーナの役立たずな力が欲しいだなんて、物好きな相手だ。

「どうする? お誘いも来ているけれど……会ってみる?」

全く知らない相手よりは、幼い頃遊んだ相手の方が信用できる。できるが……。

記憶の中のエルメ王子はクソガキだった。

彼の魔法が「転移」なので、突然背後に現れ驚かされたりしたものだ。「転移」は一度行ったことのある場所なら、どこでも一瞬で移動できる便利な魔法である。

(そもそも、先方……エルメ殿下側が乗り気って、絶対に嘘でしょ?)

とにかく、父の立場を考えると一度はエルメ王子に会った方がいいだろう。

乗り気と言っているが、彼は確実にルーナを異性として見ていない。

(だから、心に正直に生きるよう、エルメ殿下を説得する!)

それに、新たな領地を彼と共に運営していくなんてルーナには荷が重い。自分よりもっと、相応しい人材がいるはずだ。そう、母のような……。

とりあえず、顔合わせをするのに同意し、ルーナは両親や兄と一緒に王城へ向かうことになった。