作品タイトル不明
41話 魔族化
夜。
本部長が宿を手配してくれたので、ご厚意に甘えることにした。
宿へと向かって歩いていたその時だ。
『若様、尾行されております』
路地を曲がったところで、背後から殴り掛かられる。
その攻撃をしゃがんで回避し、バックステップで距離を取る。
ランの忠告と、先読みスキルのおかげで、避けることができた。
「だれだっ?」
「ちっ、今の良く避けたじゃあねえかぁ……」
暗闇の奥から、がたいのいいハゲ頭の男が出てきた。
「あなたは、バガミールさん。いきなりなにをするんですっ?」
「決まってるだろぉ? 邪魔者の排除だ」
こきこき、と指を鳴らしながら、ぼくに近づく。
「さっきはよくも恥かかせてくれたじゃあねえか。お礼に地獄へ送ってやるぜぇ」
『やめておきなさい。若様との実力差を先程思い知ったでしょう?』
ランの警告を聞いて、しかしバガミールさんがにやりと笑う。
「あれは俺様の本気じゃあねえ」
ポケットから、何かを取り出す。
赤黒い、目玉みたいなものだった。
『妙な気配を感じると思ったら……エレン、気を付けるのじゃ』
頭の上で、カレンがこわばった声で言う。
彼女が警戒するなんて、なんなんだあれは。
バガミールさんは赤黒い目玉を飲み込む。
そのとたん、彼の体が膨れ上がる。
「本気を出した俺様の実力におそれおののきなぁ、がきぃ!」
先程よりも膨れ上がった筋肉を、ぼくに見せつけてくる。
「おるぅううらぁ! 死ねぇええええええ!」
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精霊使いの能力が発動します。
状況打破に適した精霊を呼び出します。
スキル【護身術(S)】を入手しました。
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襲い来る巨木のような腕を、しかしぼくは、正面から受け止める。
パシっ。
「な、なにぃいい!?」
そのままぼくは背負い投げをして、バガミールさんを宙に放り投げた。
大きな音を立てて、彼が背中から落ちる。
「い、いてえ……なんでだ!? パワーアップしたのに! どうして勝てねえ」
『当然じゃ。いくら腕力を鍛えようと、スキルを封じられている貴様の攻撃が、エレンに通じるわけがないのじゃ』
カレンが冷ややかにそう言い放つ。
「もうやめましょう。同じ冒険者同士で争うなんて意味が無いです!」
「うるせえ! 同じ括りにいれるな! 俺様の方が上なんだ!」
立ち上がって、バガミールさんが連打を放って来る。
それを護身術で全部受け流し、また投げ飛ばす。
「くそ! くそくそくそ! 俺様は強いんだ! 誰よりも上に行くんだぁ!」
立ち上がったバガミールさんは、ポケットから大量の、さっきの目玉を取り出す。
『い、いかん! おいやめろ! そんなにたくさん摂取したら!』
ざらざら、と目玉を飲み込む。
「う、ぐ、ぐごろぉおおおおおおおお!」
突如、バガミールさんの体から、黒い嵐が吹き荒れる。
『若様!』
ランがぼくの前に立ち、風の結界を張る。
嵐は地面や壁をえぐり取っていく。
ややあって、そこには、6本腕の化け物がいた。
『魔族化しよった……』
「ま、魔族だって!?」
聞いたことがある。
とても強大な力を持つ、残忍な種族だって。
「ぐ、ぐがははは! どぉおおだぁああああ!」
バガミールさんは腕を振る。
それだけで、近くの建物が倒壊した。
「なんて膂力なんだ……!」
「スキルがどうしたぁ! 魔族(きょうしゃ) となった俺様に、スキルなど不要ぅう! うははははははぁ!」
ぎろっ、と彼がぼくをにらんでくる。
「邪魔者は消すぅううううう! 今までのようになぁああああ!」
「今までのって……どういうことだっ?」
邪悪に笑ってバガミールが言う。
「お前のような将来有望な奴をよぉ、今まで何人も消してきたぜぇ? 俺様の地位を保つためになぁ」
「そんな! なんてひどいことするんだ!」
「いいんだよぉ! 強者は弱者を踏み潰していい! それが世界のルールなんだからなぁああ!」
ぐっ、と身を縮める。
そして6本の腕を、超高速で動かす。
目にもとまらぬ連打が、ぼくに襲い掛かる。
「おまえは間違ってる……強い人は弱い人を守る! それが世界のルールだ!」
「ほざけぇええええ! そんな大口は、魔族化したこの俺様の拳を打ち破ってからやってみろぉ!」
ぼくはランを見やる。
「ラン、力を貸して!」
『かしこまりました、若様!』
ぼくは 神狼(フェンリル) のスキルを発動させる。
「【 風重圧(エア・プレッシャー) 】!」
突如、バガミールの体が地面にめり込む。
「な、なんだこれはぁあ!? 重い……うごけなぃいいいい!」
『強力な風を上空から発生させ、相手の動きを封じるスキルです』
「ぅ、うぉおお! う、動かねえ! なぜだぁ!? 魔族を止めるほどのスキルというのかこれはぁ!?」
『本来、風重圧にここまでの力はない。精霊使いによって 精霊(スキル) の力が増しているのじゃ。さすがエレンじゃ』
ばきばきと、バガミールが沈んでいく。
「ぐ、ごのぉおおおお!」
最後の力を振り絞ったのか、腕だけが持ち上がって、ぼくに向かって伸びる。
ぼくは風神の剣を取り出し、一閃させる。
一瞬で6本の腕が切断された。
「なんつぅー……圧倒的な力。おまえ……なにもんだぁ……?」
「ぼくはエレン。冒険者だ」
「おまえのような、冒険者がいるものか……この、化け物め……!」
バガミールのそばに、ぼくは寄る。
すっ、と手を伸ばす。
「は、はっ! 俺様を殺すかぁ?」
「そんなことはしない。おまえは、人間として、罪をあがなってもらう」
この人はぼく以外の冒険者も襲っていた、と言った。
騎士に引渡し、しっかりさばいてもらわないと。
「俺様を捕まえられると思ってるのかぁ? 魔族の再生力なめんじゃねえ。捕まってもすぐに脱獄してやるぜぇ! ぎゃははは!」
斬られた腕が、新しく生えてくる。
なるほど、ぼくが騎士に渡しても逃げるだけの力はあるといいたいのだろう。
「君を魔族から人間に戻す」
「は、はんっ! はったりだ! 魔族化した人間を戻した奴なんて聞いた事ねえ! できるわけがねえ!」
『ふん、愚か者め。このものを誰と心得る? エレンに不可能はないのじゃ』
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精霊使いの能力が発動します。
バガミールの【 魔核(イビル・エレメント) 】を破棄します。
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しゅぅうう……と、彼の体が見る見るうちに縮んでいく。
そこにいたのは、見る影もなく縮んだ、痩せこけた男だった。
6本腕は消えて、元の人間に戻っている。
『見事でございます若様! 魔族化した人間を元に戻すなんて!』
『素晴らしい力じゃな……しかしこれほどまでに強力とは。さすがエレンじゃ』
バガミールが、呆然と、自分の体を見やる。
「う、うそだぁ。前の、貧相な体に戻ってるだとぉ……う、うそだぁ、うそだぁ……」
『こやつどうやら、ドーピングであの筋骨隆々な体を手に入れていたようじゃな』
『不正で手に入れた体のくせに、よくもまあ誇れたものですね』
ぼくはランとカレンにこの場を任せて、騎士の詰所へと向かう。
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累積ペナルティを実行します。
→【拳闘士】のスキルを剥奪します。
→スキル【虚弱(S-)】を付与します。
→各種ステータスが大幅に減少します。
→etc.
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『貴様の体は、一生そのままじゃ。自分が見下していた人間と同じ目線で生きるがよい』
「そんなぁ……くそぉ〜……」