作品タイトル不明
176話 アドラ、病床の妻を見舞う【中編】
「……正解です。よくできました」
カルラは、自分が消滅するといっても、全然平気そうだった。
本当に、微塵も恐れていないのだろう。
「人は死ぬと肉体を失い、魂だけの存在となります。その後天へのぼり、天界で過ごすうちに前世の記憶を消去され、その魂を再び現世の肉体へと戻す。つまり、人間と言う存在は、たとえ死んだとしても、その魂が消えることはない」
「どーしただーりん、そんな子供でも知ってること急に振り返りだして。あれか? 総集編かい? 万策尽きたのかい?」
「カルラ」
ふざけている雰囲気ではないのに、カルラは常に人を茶化す。
それは、相手が暗い気持ちにならないように、という彼女なりの配慮だった。
「人間はつまり、ある意味不滅の存在なのです。死んでも魂はまた巡る。……けれどカルラ、霊力を失うと言うことは、魂の消滅を意味するのです」
二度と、生き返れない、そう言っているのだ。
「【こっち】の世界はいいよな。死んでもあの世っつーとこがマジであるんだしよ」
「あなたのいた世界では、なかったのですか?」
「そうなー、実際に見たやつは誰一人いなかったな。天国も、神様も。ネットにゃめっちゃあったけどさ」
くつくつ、とカルラが笑う。
彼女は特別な存在なのだ。
ゆえに、誰よりも強い。
「……ここで死ねば、あなたの魂は、郷里に帰れなくなる。それでもいいのですか?」
「かまいやしないさ」
即答だった。
微塵も、ためらわなかった。
「……消えることが、怖くないのですか?」
「あっはっは。バカ言うな。怖いに決まってんだろ。けど……ま、いっかなって」
満足げに、カルラは目を閉じて言う。
「前はさ、ずっと寝たきりでよ。外をまともに出歩けたこともなければ、恋人もいないし、毎日退屈で死ぬかと思ってたさ」
だから、とカルラが続ける。
「こっちに来たとき、健康な体を持って生まれて、アタシこう思ったんだ。二度目の人生を、全力で楽しむんだって!」
そこから、カルラは一度目の命が潰えるまで、全力で今を楽しんでいた。
それはまるで、一度きりで儚く潰える、打ち上げ花火のように。
「思い残すことって、もうないのよ。モンスター相手に無双し、イケメンげっとして子供もできたし。……それに、子供を守ってかっこよく死ねる」
にっ、とカルラが笑う。
「あっちいたときに、できなかったこと、ぜーんぶできた。だからもう、思い残すことはないのさ。満足して消えるよ」