軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

122話 女神ユゴス、主に見限られ追放される

時は少し遡り、勇者エレンによって、転生者ハジメが敗北した直後のことだ。

いつもの白い、何もない空間にて。

女神ユゴスは、魔法の水晶を覗いていた。

「く……くくく……! ぎゃーっはっはっはぁ! 負けてやーーーーんの!」

ボサボサ髪で、歯茎をむき出し、ゲラゲラと笑う。

その姿からは、かつて彼女にあった気品がまるで感じられなかった。

「ざまぁ見ろバァアアアアアアアアアカ! ぎゃーはっはっはっはぁあああ!」

腹を抱えて地面に寝転び、高笑いをする。

……だから、彼女は転生者【ハジメ】が、この世界から消えたという事実を、水晶で目視できなかった。

「さってとぉ……次は誰をエレンに仕向けようかしら」

立ち上がって凶悪な笑みを浮かべる。

水晶玉に触れると、空中に無数の写真が浮かび上がる。

そこに写っているのはみな転生者だ。

ユゴスが招き、力を与え、この世界に放り投げた存在である。

「そうよぉ~……なにも転生者はサブローたちだけじゃあないわ。この世界には無数のチート能力者たちがいるのよぉ~ん」

うけけっ、と魔女のように笑う彼女を、いったい誰が女神と思うだろう。

「そうよ、まだたった数名エレンにやられただけで、私にはこの無数の転生者達がいるぅ……! チャンスはこの数だけあるのよぉ……!」

血走った目でユゴスは、上空に浮かぶ写真を達を見やる。

「どーせ転生者なんてモテない冴えないくそ童貞ばっかりなんだからさぁ。一発やらせてやるって条件で、こいつらをエレンに仕向けてやるんだからぁ~」

……と、ユゴスが調子に乗っていられたのは、そこまでだった。

フッ……! と上空に浮かんでいた無数の、転生者達の写真が……いっせいに消えた。

「はれ……?」

ユゴスが間抜けな顔で、上空を何度も見やる。

「う、うそ……なんで? 転生者達が……き、消えた? あんなにいたのに……? どうして……?」

と、そのときだった。

「それはね、僕がみーんな消してあげたからだよ」

遙か上空で、足組みをする美女がいた。

「お、おまえはぁっ!」

「そ、エレン大好き精霊王ルルイエさんだぞっと」

華麗に着地してみせると、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべる。

「いやぁ、いいねその負け犬の根性丸出しの顔。最高に惨めだね♪」

「う、うるさぁあああああああああい!」

ユゴスがルルイエに殴りかかろうとするが、しかし、それを華麗に避けてみせる。

「てめえ……! 転生者を消したってどういうことだっ!?」

「てめえって。おいおいちょっと初期とキャラかわりすぎじゃない? 追い詰められておかしくなったのかな?」

「質問に答えろぉおおおおおおおおお!」

ユゴスがまた殴りかかろうとするが、ルルイエに足払いされて転ける。

「そのまんまだよ。君がせこせここの世界に招いていた転生者達を、元の世界へと返してあげたのさ。全員残らずね」

「は? へ……? 全員……?」

「そ♪ のこらずみーんな」

呆然とした表情で、ルルイエを見上げる。

「うそ……嘘嘘嘘! そんなの嘘だぁあああ!」

「ほんとだって。自分で確認してみれば?」

ユゴスは立ち上がると、水晶玉を食い入るように見やる。

「いない! ないないない! 転生者がどこにもいない! あ、あんなにたくさんいたのにぃいいいいいいいいいい!」

水晶玉でいくらこの世界を見渡しても、帰ってくるのは、ルルイエの言っていたことが真実だという情報のみだった。

「貴様ァ……! どうやってぇ!?」

「君から剥奪した転生者の召喚権限を使っただけだよ」

「わ、私の……私の力を勝手に使うなぁ! それは私のだぞぉ! 返せ! 返せよぉお……!」

ユゴスは半狂乱になってルルイエにつかみかかろうとするが、ひらりと避けられる。

「無様だねぇ、権限はあっさり奪われる。用意したとっておきの転生者はあっさり僕のエレンに倒される。残りのザコ転生者は全て失う」

くすくす……とルルイエが笑う。

「笑うなぁああああああ! 笑うなよぉおおおおおおおおおおおおおお!」

「しかも転生者達を動かす方法が自分の体を売るとかさぁ、女神としてのプライドないわけ? 人間を超越した存在が聞いて呆れる俗物っぷりで笑えないんだけど」

「う、う、うがぁああああああああああああああああああああ!」

子供のようにユゴスは泣き叫ぶことしかできなかった。

手持ちの 転生者(カード) も、女神としての能力も失った。

もう、彼女にできることは……ない。

「さ、どうするのこれから? そんなに失態を重ねて、はたして君の【主】とやらは許してくれるのかなぁ?」

「お、おまえには関係ない! そう……主は、エレンを倒せさえすればお許しになってくれるんだ! そうだ、倒せば良いんだよ! どんな手を使ってもなぁ!」

「おいおい、どんな手を使うんだよ。何も残っていないくせに」

「うぐっ……!」

「うぐ、だって。ダサいねきみ」

と、そのときだった。

「…………」

すぅ……と白い空間に、黒い布を纏った人物が現れた。

「【フィーア】! フィーアじゃあないのぉ!」

それは、ハジメたち4人の転生者のなかにいた、最後の一人だった。

女神は暗闇の荒野に光を見つけたような、晴れやかな表情で、フィーアにすがりつく。

「フィーア! いや、フィーアさまぁ~ん♡」

気色の悪い猫なで声で、女神はフィーアを誘惑しようとする。

「ねぇん、フィーアぁ……♡ おねえさんと良いことしたくなぁい~?」

「…………」

「お願いをもし聞いてくれたらぁ、特別に女神の体をたぁっぷりと堪能させてあ・げ・る♡」

ハジメ達の調教によって、女神ユゴスのプライドはすっかりと地に落ちていた。

今の彼女は女神なんて上等なものではない。

男をたぶらかし利用する……まさに悪女だった。

「ねえフィーアぁ……エレンを倒してよぉ~……」

……だが、ユゴスは気づいていない。

今まで散々煽りつづけたルルイエが、ニヤニヤと底意地の悪い笑みを浮かべて、黙っていることを。

そして彼女は気づけなかった。

最後まで、目の前の【 転生者(フィーア) 】の、正体に。

「ユゴス。失望したぞ」

フィーアが、声を発する。

その瞬間……ユゴスの顔が、真っ青になった。

「あ……ああ……そ、その……お声は……」

ぺたんと腰を抜かして、ユゴスが声を震わせる。

「う、うそ……なんで……あなた……いや、【あなた様】が……ここに……?」

ゆっくりと、フィーアはフードを脱ぐ。

そこにいたのは……自分のよく知る人物だった。

「あ、【主】さまァ……!!」

フィーアと呼んでいた転生者は、実はユゴス達邪悪なる神々の統治者。

その本人だったのだ。

「ユゴス……おまえには心底失望したぞ。任務の失敗だけでない。なんだ今の、娼婦のような振る舞いは……?」

主は軽蔑のまなざしをユゴスに向ける。

「ち、違うのです主さまぁ……! これは……これはぁ……!」

「黙れ」

ユゴスが大きく口を開けていたのだが、突然何かの強い力によって、無理矢理口を閉じられた。

「むぐ……むぐぐぐぅ~……!」

「おまえの振る舞いには神としての気品も自尊心もまるで感じられぬ。俗な人間と今の貴様、いったいなにが違う?」

「むぐー! むぐぅー!!!!」

必死になって弁明をしようとするが、しかし主によって発言できない状況にある。

「ユゴス。おまえはもう不要だ」

スッ……と主が目を細めていう。

「ぷはっ! ふ、不要……? ど、どういうことですか……?」

「ユゴス、おまえを我らの組織から、追放する」

「……………………………………は?」

何を言われているのか、ユゴスは理解できなかった。

主はユゴスの頭に手を乗せて、ブンッ……! と力の源を吸い取る。

「つまりおまえはもう、女神でもなんでもない。ただの人間だ」

「にん、げん……この、私が……人間……ですって……」

じわりじわりと、絶望が身にしみていく。

「そうだ。おまえはもう女神でなくなった。どこへなりとも立ち去るが良い」

「い、いや……いやぁあああああああああああああああああああああああ!」

発狂したようにユゴスが叫び、主の足にすがりつく。

「いやですぅぅうううううううう! 主さまぁああああああああああ! 私は、私は女神であり続けたいのですぅうううううううううううううう!」

人間より遙か上位の存在でいること。

それがユゴスに残された、最後のプライドだ。

しかしそれすらも奪われ、人の身に落ちた。

彼女の絶望は、いかばかりか。

「知るか。おまえは神として不適格だ」

「いやぁ! いやぁああああああ! 戻してぇええ! 戻してよぉおおおおおお!」

子供のように泣きじゃくるユゴスに、煩わしそうに主が顔を歪める。

「消えろ」

フッ……! と視界が突如として切り替わる。

「はれ……? あれれれれ~……?」

ユゴスがいるのは、人間の町中だった。

何もかもを失った彼女は、みすぼらしい格好で、町の中にたっている。

「わたし……わたし……う、うひゃっ! うひゃひゃひゃ! あべりゃぁああああああああああ!」

路上に倒れ込み、彼女は狂ったように笑い続ける。

「……いやだぁ、なにあれ」「……きしょくわるっ、目を合わせないでおこう」

通行人達はみなユゴスに軽蔑のまなざしを向けて、自分を避けて通っていく。

「無礼だぞぉおお! 女神に対してその態度はぁ! 死刑だぁ! みーんな死刑にしてやるぅう! うひゃひゃっ! うひゃひゃひゃひゃぁああああああああ!」

だが、誰もユゴスに対して、神を見るような尊敬のまなざしを向けてこないのだった。