軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

新天地での出会い

が、アクティで待ち受けていた事態は、彼女たちの予想を遥かに超えていた。

「……はい? イサークからいらしたのは、第三王女ではなくて第一王女だった、と?」

顔合わせ兼集団お見合い会場での出来事を聞いたマルガレータの口から、すっとんきょうな響きが上がる。

「そのようだ。何でも第一王女サーラベル殿は、問題の妹姫に婚約者を奪われたとのことらしい。ただ、アクティ国王ご夫妻へ忌憚なく事実を述べていらしたところからすると、彼女もなかなか芯のあるお方と見える。早々に第三王子殿下に見初められたゆえ、わらわのライバルになることもあるまい。この際、彼女と親しくなりがてら、第三王子殿下ともども陛下を射止めるための協力者となっていただきたいものよ」

と理由をつけてはいるが、単純にガブリエラはサーラベルを気に入ったということらしい。

そのようなわけで一週間後、熱を出したというサーラベルが回復した頃を見計らい、ガブリエラが訪問したいという旨を伝えるべく、マルガレータは見舞いの品と手紙を携えてサーラベルの部屋へと向かうことになった。

「……あら?」

向かう先の廊下で、眼鏡をかけた長身長髪のアクティ人男性と、明らかに異国人らしい白い肌の侍女が付かず離れずの距離で談笑している。

男性はガブリエラと同じ年頃で、侍女の方はマルガレータの年齢に近そうだ。侍女はイサーク風の装いからしてサーラベル付きだろう。となれば目の前の青年とは出会って間もなく、恋人というわけではないのだろうが、その割に距離感が絶妙だ。こう、いつでもすぐにエスコートできる体勢と言うか、どちらかが手を伸ばせば簡単に触れ合える距離なのに、あえてそうしていないような……第三者からすると、主にいい意味でむずむずする。

(……いけない。仕事仕事)

できればもう少し二人の様子を見ていたいが、そんなことをしていては日が暮れる。ここでサーラベルの侍女と会えたのはむしろちょうどいい。マルガレータは頭を切り替え、カップルに声をかけた。

「お話し中失礼いたします。少々よろしいでしょうか? 私はバルト公国第一公女ガブリエラ殿下が侍女、マルガレータと申します。そちらは、イサーク王国のサーラベル王女殿下にお仕えする方とお見受けしますが……」

「あ、はい。私はサーラベル殿下の侍女で、イリーシャと申します。こちらは第三王子アリフ殿下の秘書官でいらっしゃるカラム様です」

「初めまして。カラム・イル・ディーロだ」

イル・ディーロ、つまり「ディーロ家の男子」を意味する名乗りだ。これが女性ならエル・ディーロとなる。王族だとまた別の法則があり、国王はウル・アクティ、王太子はウォル・アクティを名乗る。その他の王子ならば「アリフ・ウィル・アクティ」、王女だと「クラセナ・ウェル・アクティ」のようになるのだとか。少々ややこしいが、基本は男女でミドルネームが変わるだけ、王族のみ特例ありと理解しておけば間違いない。

ちなみに嫁入りや婿入りをした者の姓に変化はなく、建国以前から変わらず夫婦別姓で、生まれた子供はその家の姓を名乗る形となるらしい。今のところマルガレータには関係ないが。

できることならイリーシャとカラムの関係を突っ込んで聞いてみたいけれども、初対面かつ仕事中にしていいことではない。

どうにか自重しつつ本題を告げれば、イリーシャが案内を買って出てくれたので同行することにした。

必然的にカラムとは別れることになり、去り際に感情の読めない視線がマルガレータに向けられた。

「……秘書官様のご機嫌を損ねてしまったようです」

「あら、そんなことはないと思いますよ。カラム様はああ見えて気さくな方ですし」

「いやー、それは君に対してだけだよ、イリーシャちゃん」

「!?」

いきなり割り込んできた背後からの声に、マルガレータの心臓が跳ねた。

隣のイリーシャは半歩離れつつそちらを振り向き、とても分かりやすく半目になる。

「神出鬼没はやめてくださいと、私は何度も言いましたよね、スラン様?」

「あはは、そうだね。でもほら、こんな美人さんと可愛いイリーシャちゃんが一緒にいるんだから、両手に花のシチュエーションを是非味わいたくてさ」

「花たちの意思を無視しないでください。……でもまあ、紹介しないわけにもいきませんね。えー、こちらがバルト公国第一公女殿下にお仕えしているマルガレータさんです。マルガレータさん、こちらの軽い男性はアリフ殿下の護衛官のスラン様。ちなみに顔立ち以外は全く似ていませんが、カラム様の双子の弟君だそうで」

「は、初めまして。ガブリエラ公女殿下の侍女をしております、マルガレータと申します」

「よろしく、マルガレータさん。ちなみにないと思うけど、もしガブリエラ姫様がアリフ殿下狙いでいらっしゃるとしたら、殿下はサーラベル姫様しか眼中にないから速やかに諦めてくださるようお伝えしてほしいな」

場合によっては門前払いのような宣告をされたが、その仮定は外れているのでマルガレータは素直に否定した。ガブリエラからも公言して構わないと許可を得ている。

「それでしたらご安心ください。主ガブリエラ殿下は、国王陛下の第五妃となることを切に望まれておいでですので」

「へえ? 確かにそうらしいって情報はあったけど」

ガブリエラと国王は先日、交流の一環としてのお茶会で話をしたので、その時のやりとりが伝わっていたということか。アクティ側のスランが知っているのは分かるが、イリーシャにも全く驚いた様子がないのは意外だ。

体調を崩しながらも情報収集を怠らないサーラベルが凄いのか、ガブリエラの狙いを聞いても動じない程度にイリーシャが図太いだけなのか、何とも判断できなくて困る。

ともあれスランが何かを疑っていたとしても、マルガレータは純粋な見舞いの使者として来たのだと理解してもらえたようだ。

「そういうことなら、俺は本来の仕事に戻ろうかな。殿下は今、サーラベル姫様とご一緒なんだっけ?」

「はい。サーラベル殿下に王宮内をご案内なさりたいとのことで、今はこの客室棟の中庭にいらっしゃるはずです」

「じゃあ割とすぐそこだね。行こうか」

と、何故かスランとも連れ立つことになってしまった。

とは言え大した距離でもなく、早々に中庭が見えてくる。

天気がいいせいか中庭に面した廊下の窓は多くが開け放たれており、サーラベルとアリフらしき声が風に乗って流れてきた。

「……まさか、アクティで 我が国(イサーク) の国花アイリスを見られるとは思いませんでしたわ。それもあんなにもたくさん……気候的に向かない花だと思っておりましたのに」

「多少の品種改良はしてあるがな。薬効もある花だし、何より佇まいが美しい。あと一月半もすれば、あの凛とした淑やかな花が咲き誇る。うっかり触れるとこちらの手が毒にやられることもあるが、だからこそ心惹かれるとも言えるだろう」

……何だろう。これは単なる花の話だけではない気がしてならない。

イリーシャたちともどもそっと中庭を覗き込むと、輝く銀髪を背に流した絶世の美女が、これまた凄艶な美貌の男性の視線から逃げるように目をそらしたところだった。━━常々マルガレータは、大らかかつ臈長けたガブリエラを大地母神のようだと思っていたが、月の女神を彷彿とさせるサーラベル王女もまた別格の美姫なのだと一目で理解させられた。どちらの姫君も大層な目の保養であるという点は変わらないが。

「……その咲き誇る様子を、わたくしが目の当たりにできるかは分かりませんけれど」

「まあそうだが。俺としては是非、アイリスの開花を見届けてほしいと思っている。先ほども言ったように、サーラベルには王族専用の庭園も案内したいしな」

つまり、自分と結婚して王族になってくれという遠回しなプロポーズだ。……言うほど遠回しでもないかもしれない。

少しばかり性急すぎるような……と、無関係な第三者ながら心配になるものの、お見合い後の会話と考えれば行き過ぎとまではいかないかと考え直すマルガレータであった。

それはそれとしてサーラベルからは困惑が伝わってくる。男性側の浮気により婚約破棄となったばかりなのに、結婚前提で口説いてくるよく知らない男性を即受け入れろというのも無理難題だと、前半だけは同じ境遇にあるマルガレータにはよく分かる。

もっともサーラベルには恥じらう気配もあるので、全面的に嫌がっているわけでもないようだけれど。

同じく覗いているイリーシャとスランの感想はこうだった。

「うーん……アリフ殿下は言い回しが絶妙ですね。サーラベル殿下もはぐらかしきれないご様子ですし」

「アリフ殿下は言い寄られることは多くても、ご本人から口説いたことってそんなにないはずなんだけどねえ。あれは天性の才能なのかな」

そんな才能は果たしてどうなのだろう。

などと考えつつ見ていると、少し距離を取りたくなったのだろうサーラベルが、やや離れたところにあるベンチの方へ近づいていった。

が、不意にその足がふらつく。

「サーラベル!」

ふわりと銀髪が宙に舞い、危うくその場に崩れ落ちるかというところでアリフの腕が間に合った。

「あ、ありがとうございます、アリフ殿下」

「まだ体力が戻っていないか? 連れ回して悪かった。責任を持って部屋まで運ぼう」

「いえ、そんな。大丈夫ですわ。少し疲れただけで問題なく歩けますし、そこまでしていただくわけには」

「気にしなくていい。役得だ」

と、手際よく愛しい女性を横抱きにしてから、中庭の出入り口に向かうアリフ。

いけない、本来の仕事をしなくては。と、侍女たちは素早く動き出した。イリーシャはアリフとは別ルートでサーラベルの部屋に急ぐとのことなので、マルガレータは彼女に見舞品と手紙を預けてガブリエラのもとへ戻ることにした。ついつい覗き見をしてしまったこともあり、既に予定していた時間をかなり過ぎているから。

二人が去った後、残るスランは何事もなかったように主へ声をかける。

「あ、殿下。逢瀬もとい休憩は終了ですか?」

「ああ。……で。お前は侍女たちと何をしていたんだ?」

「嫌ですねえ、アリフ殿下。俺はれっきとした殿下の護衛官ですよ? つまり仕事の一環としてお二人の観察と、ついでに情報収集をですね」

しっかり気づかれていたことに嘘ではない言い訳をするスランだが、騙されてくれるアリフではない。

「ほお。ならば後で、報告書を提出してもらおうか」

とひと悶着未満があったものの、スランを従える形で目的の客室に向かったアリフは、侍女たち━━特に留守番をしていたマナの反対を押し切り寝室に足を踏み入れた。

スランとイリーシャは応接スペースに留まり、半開きになった寝室の扉を複雑な心境で見やる。

「サーラベル姫様は大丈夫なのかな?」

「体調でしたら問題ないと思います。むしろ、マナさんの方が心配かなと……」

「あー、確かに。マナちゃんのオーラが凄いことになってたしねえ。アリフ殿下が悪さしないといいけど」