軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

外伝 最終話 破局への秒読み

応接間の扉を開けると、メイドたちの作った茶菓子を食い散らかしていたニコライが、あたしに気付き口を開く。

「よう、また剣を新調するんだってな。この前、作ったのはわりといい出来だったぞ」

「たしかにいい出来だったけど、まだ改良できる余地はあったはず。ニコライが酒浸りじゃなかったらね」

「何度も言ってるが酒がいい剣を作るんだっつーの!」

「その言葉を否定できないのが、辛いところよね。素面で作らせた剣の出来悪さは、最初に作ってもらった剣を越えてたし」

「酒の神が、力を与えてくれるんだよ! 世界はそういうふうに作られている」

ニコライの言葉には呆れるばかりだけども、王都で一番の腕を持つ鍛冶師なのは、数年の付き合いで理解した。

彼が言うには、王国で自分と同じくらいの腕を持つ鍛冶師は、辺境伯ロイドの専属鍛冶師であるガウェインという人だけだそうだ。

フレデリック王に個人的に呼び出された時、辺境伯ロイドから献上されたガウェインという鍛冶師の剣を見せてもらったが、ニコライと同等かそれ以上の出来をした剣だった。

さすがに英雄と呼ばれる人の専属鍛冶師だなと思ったけど、あたしも『剣聖』に就任した以上、ニコライには王国最高の剣を打って欲しいと思っている。

「剣聖アルフィーネ専属鍛冶師としてニコライには、もっといい剣を打って欲しいと思っているのよ。だから、また新調するの」

「本当にそれだけの理由か?」

付き合いも五年になり、ニコライもあたしのことを多少理解してきたらしい。

ニコライは、じっとこちらを見つめてくる。

あたしが隠し事をしてると思ってるようだ。

「分かったわよ。ちゃんと言っておくわ。あたしの剣を新調するついでに、またちょっと腕の上がったフィーンの剣も新調した方がいいなって思っただけよ。これでいいでしょ!」

「なんだよ。フィーンへのご機嫌取りのためかよっ! そんなことで、剣を打たされるこっちの身にもなれよ」

「お金は十分に用意するわ。鍛冶師ニコライの最高の傑作を作ってよ! 王国最高の鍛冶師ならできるでしょ!」

「おまえ……また、自分勝手な話を……フィーンはその話知ってるのかよ?」

ニコライの目が、『またフィーンに内緒で勝手に話を進めてやがるだろう』って言わんばかりに鋭くなる。

言えば、もったいないって言うに決まってるから、言わないだけだし。

ずっと稽古してきてるから、フィーンの身体つきが変化してきてるのも知ってる。

だから、そろそろ身体の変化に合わせて、剣はもう少し重いものに代えた方がいい。

それにもうすぐ、あたしたちが冒険者になるため、この王都に来た季節がやってくるし、記念の剣に似せた最高品質の剣を贈ってあげたいだけじゃないの。

ニコライの責める視線に居心地の悪さを覚えたあたしは、当座の材料費を入れた革袋を彼の手に押し付けた。

「とりあえず、剣聖アルフィーネから発注だからよろしく! 剣の原型は、ニコライがあたしたちに最初に作ってくれた剣を手本にしてね。重さとか握りとかはあたしが確認するから!」

「お、おい! 受けるなんて一言も言ってないぞ!」

「依頼したからね! できなかったら専属鍛冶師をクビにするから! よろしく! ほら、早く立って!」

ソファに座っていたニコライを立たせると、応接間から追い出した。

ニコライもあたしとフィーンとのことを何か言いたそうだったけど、やっぱソフィーにも相談してみた方がいいかな。

ここ最近、ずっと忙しくて会えてないし、向こうもあたしが貴族になったことでなんか距離を置いてるみたいだし……。

ソフィーは色々と世間のことを知ってるし、フィーンとのすれ違いを上手く解消できる方法を知ってないかな。

でも、今会いに行くとあっちに迷惑がかかるのかも。

近かったはずのソフィーが、剣聖となり、貴族となったことで遠い存在になってしまったことをあたしは感じていた。

「とりあえず、自分でなんとかするしかないよね」

あたしはメイドを呼んで応接間の掃除を頼むと、自室に戻り剣を手にして中庭で剣の稽古をすることにした。

それから数週間、フィーンに内緒でニコライのところへ通いつめ、新しい剣の新調を進めていたが、その間もやはり依頼のことでフィーンと意見がぶつかり空気が悪くなることが続いた。

あたしは剣聖として生活に不自由ない資金を得られる身分になったため、自分の意見を曲げず、フィーンが根負けして冒険者稼業を引退してくれるのを待っている。

ずっとあたしのそばにいてくれれば、フィーンも幸せになれるんだし、お金も苦労しないんだから、いい加減分かって欲しい。

フィーンへの苛立ちが、爪を噛む回数を増やし、彼への言葉を激しくさせていく。

分かってても止められない自分がいた。

「フィーン殿は、冒険者ギルドでも個人の実力を認められつつあるようです。主に依頼を一緒に遂行した白金等級の冒険者や金等級の冒険者たちが周囲にフィーン殿の腕前を話しているそうで、剣聖アルフィーネの世話係として白金等級に至ったという噂は嘘だったとの流れになっているそうです」

あたしはすでに冒険者を引退しているため、フィーンと一緒に冒険には出ていない。

そのため、執事のヴィーゴが気を利かせてくれて、フィーンの噂を色々と調べてくれている。

あたしは、フィーンが出かけていない時を見計らい応接間のソファで、ヴィーゴの報告を聞いていた。

「フィーン殿が冒険者を引退なされない理由は、自分への評価を高めたいという事情があるのかと思われます。自分はアルフィーネ様のおまけではないと認めさせたいのでしょうな」

ヴィーゴが冷静な口調で淡々と、フィーンのことを語っていた。

冒険者時代のあたしなら、一笑に付したヴィーゴの言葉だったけれど、今のフィーンの行動を見てると、そういった意味があるのかもしれないと思える。

フィーンは、あたしから離れたがってる? ……ってなわけないよね。

これまでずっと一緒に暮らしてきてるんだし。

すれ違いでできつつあるフィーンとの溝が、一抹の不安を感じさせる。

「最近では、なじみの冒険者ができたようでそれらの方と組み、次々に依頼を達成されております。もちろん、フィーン殿はあの性格なので、女性の方の人気――」

手にしていたお茶のカップをテーブルに叩きつけると、激しい音を出して割れた。

「誰がフィーンに手を出そうとしてるの! どこの女冒険者よ!」

「いや、手を出そうなどとは思っておられぬご様子。アルフィーネ様の恋人という触れ込みですので」

ヴィーゴは慌てた様子を見せず、淡々と事実の報告を続けた。

苛立ちで詰めを噛みたい衝動に駆られるが、ヴィーゴの前なので我慢を続ける。

「やっぱ、冒険者をさせるのは早く辞めさせた方がいいわね。ヴィーゴ、もう一度、ギルドマスターに圧力をかけておきなさい。冒険者フィーンに依頼を回さないようにと」

「ははっ、承知しました」

ヴィーゴを応接間から下げさせると、自室に戻り、いつものように隠した日記帳を取り出していく。

最近はずっとフィーンとのすれ違いについてのことしか書いていない。

本当なら、ここにはフィーンとの楽しい生活の記録が残っていくはずだったのに。

なんで、こうなったんだろうか……。

自分が思い描いていた未来とは違う現実を前に、心がずんと重くなる。

でも、きっとフィーンもニコライの最高傑作の剣をあげれば、冒険者辞めてくれて、あたしの訓練相手をずっとしてくれるはず。

だって、あたしたちはそうやっていつも暮らしてきたし、これからもそうやって暮らしていくはずだから。

あの記念の剣にはそういった意味も込めれているはずだしね。

あたしは部屋の隅で手入れを待つ、ニコライが最初に作ってくれたなまくらな剣に視線を向ける。

きっと、大丈夫。

ちょっとだけ、本当にちょっとだけ、フィーンと気持ちがズレちゃってるだけ。

修正をすれば、きっと前と同じ生活が戻ってくるはず。

あたしは、日記帳に自分の気持ちを書き記し、いつも通り、フィーンにも見つからない隠し場所にしまいこんで、背伸びをした。

「フィーン、ずっとあたしと一緒にいてね」

外伝 Diary of sword master Alfine ~剣聖アルフィーネの日記~ 完

そして、本編へ。