軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第6話:同居

「フーカはどこで寝泊まりしてるんだい?」

ある日の探索で、アーノルドはふと疑問に思ったことを聞いてみた。

「普通に宿屋さんだよ。ギルドで紹介してもらったの」

「うちで寝泊まりする気はない? 宿泊料と食事代がタダになるだろう?」

何となく思いつきで口にしたことだった。

が、アーノルドは言ったあとでしまったと思った。

女の子に何てことを。

おかしな意味に取られなかっただろうか?

「ありがたいけど、いいの?」

「あ、ああ。一人で食べる食事はつまらなくてね」

アーノルドは我ながら言い訳臭いと思ったが、フーカは共感してくれた。

『あたしもお兄さんのこと好き』と言われてから、変に意識してしまっているのだ。

フーカは別に恋愛関係的な意味で言ったんじゃないだろうに。

フーカは大きく頷きながら言う。

「わかるわかる。お兄さんは一人で御飯食べてるの?」

「母さんがいる時は二人なんだけど、今は旅に出ているから。まったくどこまで行っているのやら」

「使用人の皆さんだっているよね?」

「使用人とは食卓をともにしないものなんだ」

「ふうん。貴族ルール?」

「まあそんなところだね」

「ありがとう。じゃあお世話になるよ。お兄さんの素材の取り分を多くすればいいかな?」

「えっ? いいんだよ。気を使わなくても」

フーカのように気軽に話せる女の子に会ったのは初めてだった。

アーノルドが王子だとフーカが知ってからも、態度は変わらなかった。

単純にフーカがいれば楽しいだろうと思っただけだ。

それなのにこんなことで気を使われてどうする。

「何だか悪いみたい」

「いやいや、逆だよ。フーカのほうが魔物に多くダメージを与えてるじゃないか。それなのにいつも成果は山分けだろう? 僕が気持ち悪いんだよ」

「そお? あたしもお兄さんが前衛でいてくれてるから、すごく助かってるんだけどな」

「貢献度はフーカが上だよ」

フーカは借りを作るのが嫌なんだろう。

こういう言い方がいいと、アーノルドは悟った。

「じゃ、遠慮なくお世話になるよ」

「よかった。毎日が楽しくなりそう」

「お兄さんはどうして冒険者なんかやってるの? 王子様なのに」

これはアーノルドが王子と知ってからずっと、フーカが疑問に思っていることだった。

王族から騎士や宮廷魔道士というのは例があっても、冒険者というのはアーノルドが初めてだったから。

フーカが変だと思うのももっともだ。

「自慢じゃないけど、僕は剣の腕も魔法の力にも結構自信があるんだ」

「うん。お兄さんほどの魔法剣士は見たことない」

「ありがとう。剣と魔法の両方を生かそうと思うと、騎士でも宮廷魔道士でも不足でね」

「そうなのかー」

ウソではないが、真実でもない。

騎士でも宮廷魔道士でも、王家の監視下にあることに変わりはない。

アーノルドは違う道で自分の存在感を示したかったのだ。

それが市井の冒険者だった。

「フーカに出会えてよかったよ」

「えへへー」

「これからもよろしくね」

――――――――――

「ただいま」

「これは奥様。お帰りなさいませ」

アーノルドの母、元王宮女官のケイシーが旅から帰ってきた。

ケイシーは活動的な女性なのだ。

そんなところが王に愛されたという言い方もできる。

「あれ? 家の中の様子が変わったんじゃない? 気のせいかしら?」

「さすが奥様です。実は……」

執事はケイシーにフーカのことを説明した。

アーノルドの連れてきた冒険者の女の子で、最近家に同居していると。

ケイシーは興味津々だ。

「へえ? フーカちゃん、辺境出身の一三歳ね。奥手のアーノルドが女の子を連れてくるなんて珍しいこと」

「はい。そして何とフーカ様は、風の神ゼフノボレロスの加護を受けているのですよ」

「えっ?」

神の加護を受けるという、伝説じみた話があることはケイシーも知っていた。

しかし実際に風の神の加護を授かった者が家に寝泊まりしているという。

「フーカ様はいつもニコニコとしている、可愛らしいお嬢さんでいらっしゃいますよ。なるほど、神の加護を受けるのはこういう子かと、一目で理解できるような」

「アーノルドとは冒険者活動で知り合ったのね?」

「さようです。フーカ様は風魔法相当の攻撃を持ち魔力に関係なく撃ち放題だそうで。現在旦那様とコンビで活動しております」

「アーノルドがねえ……」

アーノルドは王の庶子として難しい立場に置かれている。

そのため偏見で見られたり敬遠されたりすることが多く、冒険者としてもこれまでソロで活動していた。

アーノルド自身も他人に対してニヒルな態度を見せることが多かったし。

ケイシーは思った。

アーノルドはフーカのことをよっぽど気に入っているのだろうと。

精神的成長を促し、冒険者活動にもプラスならいいことばっかりね、と。

玄関のほうから声が聞こえる。

「「ただいま」」

「旦那様とフーカ様がお帰りになったようですな」

「まあ、元気な声ね」

冒険者活動から帰ってきた時のアーノルドの声なんて、いつも疲れを滲ませていたのに。

明らかにフーカがいい影響を及ぼしていると、ケイシーは思った。

「あっ、母さん、お帰り」

「お土産あるわよ。そちらがフーカちゃんね?」

「ケイシーさんだね? あたしはフーカだよ。お兄さんにはお世話になってます。にこっ!」

「わあ、可愛い!」

ケイシーはフーカを抱きしめた。

「フーカちゃんは一三歳なのでしたっけ?」

「そう。今年一四歳になるよ」

「アーノルドとは四歳差か……悪くないわね」

「母さん、邪推はよしてくれよ」

「あら、何が邪推なのかしら?」

ケイシーは笑う。

気難しいところのあるアーノルドが、気に入らない女の子なんかと冒険者パーティーを組むわけがない。

ましてや家に迎え入れるとは。

アーノルドの考えなんて見え透いているのだ。

「フーカちゃんは可愛いわあ。私には女の子がいないから。いつまでもこの家にいてくれる?」

「置いてくれるならありがたいなあ」

「わあ、私のことをお母さんと呼んでもいいのよ」

「えっ? ……じゃあお母さん」

「いいわあ、とってもいいわあ。フーカちゃんの本当のお母さんになりたいわあ」

「母さん!」

執事は吹き出しそうになった。

ケイシーがアーノルドをからかってることは明らかだったから。

しかし執事は未来に思いを馳せる。

アーノルドがフーカを娶るのはアリだ。

風の神の加護を持つフーカを妻とするならば、今後アーノルドの存在が脚光を浴びる可能性だってある。

そして何よりフーカはアーノルドにもケイシーにも気に入られている。

ならば温かい家庭になるだろうなと。

アーノルドが話題を変えるように言う。

「母さん、今回はどこへ行っていたんだい?」

「辺境の町ロセナってところよ」

「「えっ?」」

「フーカちゃんの故郷の近くかしら?」

「うん。あたしは去年一年間、ロセナの冒険者ギルドにいたんだよ」

「そうなの? 縁があるのね」

ロセナの冒険者は皆親切にしてくれたなあ。

フーカは懐かしく思い出した。

「でもさすがに冒険者ギルドは覗いてこなかったけれど」

「用がないもんねえ」

「でもロセナの町の老人達が妙なことを言っていたのよ。それで私も早めに帰ってきたのだけれど」

「妙なこと?」

「風が悪いのですって」

ロセナで風が悪いというと、凶悪な魔物が生息する大山脈からの強い風が続くことを指す。

かつてその風に乗って大山脈の魔物が辺境に現れ、大きな被害を出したことがあったのだ。

フーカは嫌な予感がした。

「ともかく母さんが帰ってきたんだ。今日はちょっと贅沢な食事にしようよ」

「「賛成!」」