軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

七百八十七話 なぜそうなる

ある程度妖精関連が落ち着いてきたので、迷宮都市や王都に顔を出すかと考えたことで、選択し辛い二択が発生してしまった。いつの間にか妖精が楽園に紛れ込んでいるリスクを負うか、しばらく楽園を出ることを諦めるかだ。どちらの選択肢にも不安があるのが悲しい。

「…………あー……、ジューン姫、そちらから妖精門を開けるようにしていただけますか?」

脳内で高速で議論した結果、妖精の門の開通をお願いすることにした。

「いいの?」

脅すような確認は止めてほしい。

「はい、お願いします」

脳内議論の結果、ある結論に落ち着いた。様子を見ようが入国? システムを考えようが、いつまでも不安はなくならない。

それならもう、抵抗することを諦めて流れに身を任せた方が胃に優しい。

というか、楽園はアクシデントに対応する能力が凄まじいのだから、事が起こる可能性に怯えるのではなく、アクシデントが起こっても問題にならないように解決すればいいだけだ。

具体的に言うと、不法入国した妖精達が問題を起こさないならスルー、問題を起こしたら確保して強制送還でいいだろう。

強制送還してもまた戻ってくるんだろうが、それはそれだ。

「裕太、諦めたわね」

「シルフィ。俺の決断を諦めで終わらせないでほしい」

たしかに諦めがないとは言えないけど、色々と考えたんだ。

「……まあ良いわ。私は基本的に裕太と一緒だから、他の大精霊に共有しておくわ」

「うん、お願い」

「で、裕太はなぜ急にこんな決断をしたの?」

シルフィと会話を終えるとジューン姫が質問してきた。

「今すぐに、という訳ではありませんが、しばらく人の国に出かける必要があるので、その時にずっと妖精門が閉じたままだと問題だと思ったからです」

さすがに妖精門を解放して直ぐに出かけるつもりはないけどね。だって怖いもん。

「あら? わざわざ人が居る場所に出かける必要があるの?」

心底不思議そうに首を傾げるジューン姫。なんでと言われても……あれ? 楽園に引きこもったままでもそこまで困らないのか?

「外に弟子も居ますし、買い物も必要なので……」

一瞬、メルやフィオリーナ、そして親しくなった人達のことを除けば、既に楽園に引きこもれる環境が築かれている気がして、ジューン姫の疑問に頷きそうになったが、さすがに異世界で引き籠り生活は寂しい。

あと、大精霊の力がいくら凄くても、楽園で手に入らない物はやっぱりある。特に迷宮のコアにはいつも助けられている。

「外にも美味しいお酒があるのよ」

「いや、それはシルフィ達の目的であって俺の目的とは違うからね?」

仲良くなった人やコアの便利さを再認識していたら、シルフィが独断と偏見満載な返事をジューン姫にしてしまう。

俺はそこまでお酒に狂ってはいない。

「お酒だけ? それ以外に美味しい物はないの?」

「そうね、裕太の作る食事の方が美味しいけど、めずらしい素材は迷宮の方が良い物が手に入るのよ」

「とるくのごはんおいしー」「キュー」「にんにくがすごい」「ククゥ!」「あいつはなかなかだぜ」「……」「う?」

俺の言葉がスルーされ、ジューン姫とシルフィの会話が続く中にベル達が乱入する。

うん、トルクさんの料理は美味しいし、ベル達はあそこの食堂でコッソリ食べるのも好きだもんね。

でも、さすがに君達の語彙ではジューン姫に通じないよ。あと、サクラ、分かった風に頷いているけど、君、トルクさんの料理を食べたことがな……いや、あるか。

トルクさんの料理って大量に作ってもらって保管してあるから、楽園でよく食べているもんな。

「へー、なかなかやる料理人なのね。え? 顔が怖いの?」

通じている……だと……。

慣れている俺でも理解するのを苦労するのに、王族だからか? 人の話を聞くことに慣れているのかもしれない。

というか、俺の存在が忘れられている気がする。

……まあいいか。

***

妖精門を解放してから三日。

「裕太、とりあえず楽園の外に出ようとした妖精を捕まえて風の繭に閉じ込めておいたわ」

妖精門の解放を決断し、それほど難しいことではなかったのか翌日には妖精が楽園に自由に出入りできるようになった。

まあ、既にこちらに妖精門が用意されており、それと繋げるだけだからすぐに開放できただけで、一からとなるとかなり手間がかかるらしい。

それを聞いた時に、ポロっとフェアリーリングを造ればいいだけじゃないの? と聞いたら、簡単に造れる訳がないでしょ! とジューン姫にガチギレされた。

大精霊達がサクッとフェアリーリングを再現してくれたから勘違いしていたが、そんなに単純な話ではなかったようだ。

凄い人がサラッとやっているから普通のことに見えるが、実は神業、的なことだな。

動画投稿サイトで、ここをこうしてですね、こうしてこうすれば、こうなる訳です。ね? 意外と簡単でしょ?

そんな言葉に何度騙されたことか。

料理のレシピ系はある程度信頼できるが、芸術系とか技術系は、どこが簡単なんだよ! と何度涙を呑んだことか。あの簡単は持っている人の基準だと確信している。

そんなこんなありつつも妖精門は解放され、そして当初の懸念通り変わり者の妖精はジューン姫に連れられ妖精界に帰った後に、また戻ってくる者も現れた。というか、ほとんどが戻ってきた。

で、最初は問題を起こした妖精を妖精門に放り込んでいたのだが、すぐに戻ってくるだけだと分かり、シルフィは風の繭、ディーネは水の玉、ドリーは植物の檻で翌朝まで妖精を閉じ込めることになった。

ちなみに、水の玉でも空気については問題ないらしく、そして土の檻や火の檻が無いのは、ノモスが面倒臭いと妖精の確保を断わったことと、火の中に閉じ込めるのはさすがに心臓に悪い光景だったからだ。

ノモスの面倒臭いという断わりだけど、たぶん、妖精が小さくて可愛らしい外見だから捕まえづらかったのではと推測している。

あと、イフの火の檻はね……火傷するようなことはないと聞いてはいたが、その光景が本当に心臓に悪いので止めておくことにした。

ちなみに、甘味好きの妖精も帰還後に戻ってくることが多々あるが、こちらは調理環境と素材を与えておけば厨房に籠っているので問題なかった。

という訳で、問題を起こす妖精を翌朝まで拘束できるようになったことで、今のところ楽園と妖精の交流にそれほど大きな問題は起こっていない。

まあ、拘束された妖精を見てカシュー君がプンスコしていたが、きちんと理由を説明し、その理由を真っ当だとジューン姫が判断したことで関係悪化は防がれることになった。

妖精の捕縛体制が整ったことで、人里に顔を出しても大丈夫な気がしてきた。

「裕太。妖精が一人、雪島で凍死し掛けているところを保護したわ」

大丈夫だと思ったのは気のせいだったらしい。

「なんでそんなことになるの? というか妖精は大丈夫なの?」

「ヴィータを向かわせたから妖精の体調に関しては問題ないわ。凍死し掛けた理由は、雪に興味を持って潜り込み、研究に熱中していつの間にか身動き取れなくなったからね」

「……身動きできなくなる前に捕獲できなかったの?」

雪に潜り込む気持ちは分からなくもない、でも、そんな危険な状況で我を忘れて熱中しないでほしい。というか、そこまで雪に熱中するようなことがあるのか?

等々、ツッコみたいことや疑問が多々あるが、その辺りは気にしても無駄なので対策に重点を置く。

ちゃんと対策しておかないと、再犯が起き、今度は間に合わずに妖精の氷像が完成なんてことになりかねない。

そうなったらさすがに妖精との取引が中止になる可能性が高い。

「そうね、今回は妖精の行動が予想外だったから間に合わなかったわ」

「予想外?」

シルフィの予想外ってお酒関連以外ではかなり珍しい。

「ええ、妖精は基本的に魔力的で頑丈な存在なのだけど……」

シルフィの言葉が途切れる。

凄く嫌な予感がする。

「もしかして、その魔力の守り的な効果が外れたの?」

「外れたというか、そういう守りにも使う魔力も全部雪の解析に注ぎ込んで維持できなくなったが正解かしら?」

なんだそれ。ガチャに家賃と生活費どころか命を担保に借金して資金を注ぎ込むようなことしてない?

「魔力を失うと妖精は小さいから環境の変化をもろに受けるのよね。さすがに予想外で間に合わなかったわ」

ガチャで貯金を溶かすどころか、宇宙空間で邪魔だから宇宙服を脱ぐようなことをしていた。

それは駄目だろう。でも、その駄目なことが分からない、もしくは分かっていても実行してしまうから変わり者なんだろうな。

「どうすればいいかな?」

立ち入り禁止にしても興味津々なら我慢できずに侵入しそうな気がする。

シルフィが居れば次から対処は問題なさそうだが、居ない時が不安だな。探知に関しては風の大精霊であるシルフィがずば抜けている。

楽園の外に脱走くらいならともかく、うっかり凍死しそうな場合だと間に合わない可能性を考えなければならない。

属性が近いディーネに頼むか?

ちなみに、雪島を管理している雪の大精霊には期待していない。あの大精霊なら、隣で妖精が凍死しかけていても、気が付きすらせずに眠っている可能性が高い。

「我慢させるのは無理ね。雪島を封鎖したほうが確実よ」

「封鎖って?」

「氷のドームで覆えばいいんじゃない?」

「なるほど、ん? そうしたら遊びに来る精霊達の利用も困るんじゃないかな?」

せっかく精霊達の為に用意したのに、利用されなくなるのは悲しい。

「裕太。精霊は実体化していなければ、物体を通り抜けられるのよ」

「……なるほど、それなら大丈夫……かな?」

普通なら安心できるはずなのだが、相手が変わり者なので大丈夫だと断言できない。

でも、さすがにこれ以上手を割くのは微妙。

……よし、決めた。

「シルフィ、凍死しかけた妖精を連れてジューン姫のところに行こうか」

なにが起こったのか、そしてこちらがどういう対策をとるのかを明確にし、これ以降の雪島での事故には責任が持てないことを伝えておこう。

妖精の変わり者の斜め上の行動で責任問題に発展するのはごめんだ。