軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

七百八十六話 二択

妖精達の楽園食堂訪問。ルビー達が妖精達の為に用意したメルヘン空間は半分ほどしか生かせなかったが、妖精達は真剣に食事を楽しんでいる様子だった。その間に甘味ガチ勢の妖精達の未来に不安を覚えたり、ベルのマナーに少し問題を感じたりしてしまったが、一応問題は起こらなかったと思う。

妖精達が本格的に仕事を初めて十日が経過した。

今のところ、変わり者の妖精が集まると聞いた時に想像したようなトラブルは起きていないが、小さなトラブルは頻発している。

研究目的の妖精が属性地域に興味を示し、熱さにやられたり暗闇で迷子になったり、光に目をやられたり、行方不明になったり、30銅貨をすぐさま溶かして賃上げを要求してきたり、妖精界に帰りたくないと駄々をこねたり、ジューン姫を無視して怒りを買ったり、丸ウサギにちょっかいを出して捕獲されたり、いつの間にかグァバードに騎乗して集団で爆走していたりetcetc……うん、凄まじいトラブルはなかったが、小さなトラブルが多すぎる気がする。

まあ、そのトラブルの大半はシルフィ達が解決してくれたけどね。

大精霊にかかれば行方不明や帰還拒否の対処なんて簡単だ。大精霊の目にかかれば、狭い楽園で隠れ切るなど不可能。

すぐに発見、捕獲、妖精門にポイッで解決だ。

ただ、その度にジューン姫の機嫌が損なわれるのが困る。既に三度の迷子紐装着が実行されている。

二日程度迷子紐装着が義務付けられ、ようやく解放。その日か翌日には再び迷子紐が装着されることになる。

そしてジューン姫はプンスコしながら妖精達を監督し、カシュー君を振り回し、俺も振り回される。

そもそも、妖精は飛べるし、飛んだ方が圧倒的に速いのに、なんでいうことを聞かないグァバードに騎乗して爆走する必要があるんだ?

というかいくら変わり者だと言っても、危機意識が欠如し過ぎではないだろうか? 妖精が臆病という話はどこに行った?

そして、実は甘味に魅了された妖精達の方が厄介だったりする。

勉強熱心で食に情熱を注ぐ上級精霊組からはとても評判が良い。こちらは甘味に魅了されているだけで根は一般的な妖精に近い。

甘味が関係している時や仕事をしている時は、その臆病さはあまり表に出てこないのだが、それ以外は臆病な一面が出てしまう。

賃上げ要求の時など、俺に直接賃上げ要求をするのが恐ろしかったらしく、俺を見張るように周囲を飛び回り、そして俺が視線を向けると一目散に視界から消えてしまう。

何がしたいのかと甘味をおとりに話を聞こうとしたが、甘味を一心不乱に食い尽くしている間は俺の話を聞いてくれないし、食べ終わると臆病な一面が復活してしまい逃げてしまう。

結局ジューン姫に調査を依頼したら、賃上げ要求とのことで、しかもジューン姫ももっとお給料が欲しかったらしく、先頭に立って賃上げ交渉してくることになった。

妖精の糖分の過剰摂取を心配していた俺は、ヴィータを呼んで健康の面から説得を試みたのだが、ここでまさかのヴィータの裏切り。

妖精は魔法生物的な一面を持っており、糖分で体を壊す可能性は低いとのこと。

それでも体を壊す可能性はゼロではないし、なにより、これから長く働いてもらいたいのに毎日限界まで甘味を堪能されては飽きられる可能性もある。

俺も本気になりお互いに交渉と妥協を繰り返し、なんとか銅貨四十枚での決着となった。

ようやく交渉が終わると、次は甘味に魅了された妖精達の労働交渉が開始することになる。

まだ働き始めて五日程度なのに、甘味に魅了された妖精は楽園食堂での労働を希望した。

俺やルビー達ももう少しゆっくり楽園に慣れてからと考えていたのだが、甘味に魅了された妖精達は花畑や桜の精霊樹以外にはそれほど興味を示さなかった。

というか怖がって遠くから観光しただけで十分、慣れるよりも甘味の技術を習得したいとのこと。

俺やルビー達も焦り過ぎな気もするけど、熱心なことは良いことだと受け入れることにした。

したのだが……ジューン姫の集合を無視する妖精が爆増する結果となった。

ちなみに、今もプンスコなジューン姫と共に集合に応じない妖精を楽園食堂に迎えに行く途中だったりする。

「まったく、あの子達は王族の命令をなんと心得ているのかしら?」

プンプンしながら文句を言っているジューン姫だが、表情に僅かに笑みが混ざっている。

それが何故かというと……。

「あなた達、また私の集合命令を無視したわね!」

小さい体なのに何をどうしたか、楽園食堂のドアを豪快に音を立てて開き、同時に叫ぶジューン姫。

「あ、姫様、これ、私が作ったんです。味見していただけませんか?」

そんなジューン姫の登場にすっかり適応し、甘味を差し出すポットリア。

「あら? また何か作ったのね? しょうがないから味を見てあげるわ。それが王族としての務めですもの」

スッとポットリアが差し出した甘味の前に着陸し、スプーンを手に取るジューン姫。

そう、完璧に懐柔されているのだ。姫なのに。

背後でカシュー君が凄く頭の痛そうな顔をしているが、同情しかない。

そして楽園食堂で修行中な妖精達だが、何故か迷子紐を装着されたことが一度もない。

ジューン姫が賄賂に陥落しているからだ。

修行中の妖精達はこうやってギリギリまで修行しつつ、その修行の成果物でジューン姫を黙らせるという、汚職の典型のような事態が毎日繰り返されている。

ここでひとしきり甘味を楽しんだ後に、満足気な表情でジューン姫が妖精界に帰還していくのが最近の日課となりつつある。

「さて、今日も一日が無事に終わった」

ジューン姫を見送り、ベル達と晩御飯を済ませて部屋に戻ってきた。

後は寝るまで自由な時間だが、そろそろ今後の予定を考えるタイミングでもある。

妖精達が楽園に慣れたのかは正直分からない。だが、毎日花畑の世話をして花蜜の採取、そしてサクラの精霊樹の脇芽を精霊の魔力で染める作業も順調だ。

ジューン姫が言うには、毎日元気に出かけ、甘味を手に入れて元気に戻ってくる変わり者の妖精達を見て、妖精界の臆病な妖精達の中にも楽園に興味を持つ妖精が増えているらしい。

料理修行の方も、甘味特化だが熱心に熟し、腕はまだまだだがそれなりに作れるメニューも増えているとルビー達が教えてくれた。

あとはこの変化にどう向き合うかが俺の課題だ。

未だにまったく安心できないのでフィオリーナに頼んだ建築物の進歩状況が気にはなるが、楽園を空けるのは少し怖い。

でも、妖精との関係を更に進めたら、次から次に心配が押し寄せてくることが確定しているので、今のタイミングでフィオリーナのところに顔を出しておくのも正解な気がしている。

……さて、どうしたものか。

楽園を空けるのは心配、フィオリーナに問題が起こっていないかも心配、メルにも会いたい。マリーさんは……まあ、彼女なら何があってもソニアさんとしぶとく乗り越えるだろうから平気か。

あ、そういえば農業を頑張っている植物の精霊と契約した人達の様子を確認したかったな。あ、あと、ダイエット組も気になる。

トルクさんがしっかり管理しているマーサさんは大丈夫だろうが、ドラゴン肉に釣られて無茶をしていそうなベティさんが心配な気がする。

……妖精との関係を進める前に、一度迷宮都市や王都に顔を出しておきたいな。

でも、そのためにこちらでの作業をストップさせる訳にもいかないし、心配だが妖精門の自由な開閉についてジューン姫と相談しないといけない。

ふぅ、妖精と関わりだして胃に負担が掛かることが増えたな。必要だと理解しているが、俺が望んでいる気楽な異世界の生活とは離れていっている気がする。

この問題をどう解決……あれ? 深く考えるまでもなく二択だな。

行かないか、妖精門を開いて行くかの二択だ。

大精霊が楽園産妖精の花蜜酒の生産量が落ちることに納得する訳がない。

いや、俺がそうすると言えば納得してくれるが、凄く残念に思うだろう。まあ、俺が精霊達が悲しむことを醸造所の制限以外でする訳ないから、結局二択だな。

……とりあえず、妖精門の行き来を妖精側もできるか確認して考えるか。

***

「―――という訳なんですけど、どうなんですか?」

妖精の全ての仕事が終わり、楽園食堂で甘味を貪り食って落ち着いたジューン姫に相談する。

「うん? そうね……こちらからでも妖精門を開くことを可能にすることはできるけど……うーん……」

「何か問題でも?」

「うちの子達が帰らない。もしくは帰ってもまた来る可能性が高くなるわよ?」

「ああ、外の世界に興味津々な妖精の方達ですね」

あの妖精達ならコッソリ戻ってきてもおかしくない。

「いえ、甘味作りに夢中の子達もよ」

「え?」

たしかに限界まで修行しているけど、ジューン姫が迎えに行けば素直に帰っていたが?

「あの子達、妖精界に戻っても甘味が作りたいと訴えて、私も協力して施設を準備しているのだけど、器具や食材が不満で納得がいかないようなのよ。突発的にこちらにやってくる可能性は否定できないわ」

「……妖精門の前に警備兵を配置していただくことは?」

「無理ね。兵士の配置は私の権限にないもの。宰相もいまだに私の行動に顔をしかめているし、仮に兵士を配置したら私がこちらに来るのを邪魔されそうだし……」

そこが本音か。

でも、ジューン姫が来られなくなるのは俺も困るな。

騒がしいし胃痛の原因になることもあるが、こちらに来ている妖精達をコントロールしている面も否定できない。

つまり、諦めるか、妖精達が突撃してくるのを黙認するかの話になる。

「うーん、妖精がいつの間にかこちらに来ているのって地味に怖いんだけど、俺もずっと楽園だけに滞在している訳にはいかないし……ん? あれ? 今は俺が妖精の花蜜酒を少しだけキノコに掛ければキノコが妖精門を開くようになっているけど、別に俺が作業する必要はないのでは?」

「裕太、忘れたの。それをするには私達に妖精の花蜜酒を預けなくてはいけないのよ?」

あ、そうだった。うっかり開門用の妖精の花蜜酒を呑みほした。そんな光景が目に見えたから俺が開門することにしたんだった。

結局二択か。本当にどうしたものか……。