軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

七百八十四話 厳重な酒蔵とお給料

妖精達が働きに来て二日目。一部の妖精に迷子紐が装着されているなど早朝からアクシデントがあったが、妖精達のお仕事は順調に進み、俺も妖精の花蜜の可能性や、妖精達の仕事の手際を確認できて満足できた。

「そろそろ終わりね」

ジューン姫が妖精達が働くお花畑を見ながら、作業の終わりが近いことを教えてくれる。

凄まじく広い花畑なのだが、採取作業はお手の物なのか妖精達は午前中で仕事を終えてしまうようだ。

ちなみに、今日のジューン姫は作業に参加せず、現場監督のようなポジションに落ち着き、働く妖精、特に迷子紐装着の妖精達を集中的に監督している。

王族としてなのか分からないが、昨日集合を無視されたことにプライドが傷つけられていたようで、無意味にビシバシ指導していた。

まあ、監督されている妖精達が変わり者の集まりなので、あまり効果があるように見えなかったが……俺としてはしっかり監督して妖精達を大人しくしてくれた方が安心できたんだけどね。

「ちょっと行ってくるわ」

ジューン姫が仕事が終わった妖精達を引き連れて花畑の中心に向かう。

なにをするのかと見守っていると、妖精が空中で踊り始め、時間が経つと花畑中を飛び回り始めた。

なにをしているんだ?

「妖精の魔力が花畑に降り注いでいますね」

俺が疑問に首を捻っていると、傍に居たドリーが妖精の行動を教えてくれる。

ああ、花の種に魔力を込めたように、花に魔力を注いでいるのか。妖精の魔力が花を染めれば染めるほど花蜜の質が良くなるようだし、これは大切な作業だな。

そうなると最初に集まって踊っていたのは、妖精達の魔力を混ぜ合わせる為で、花畑を飛び回っているのはその混ざり合った魔力を花畑中に拡散しているのだろう。

飛び回っている中にベル達やサクラ、ふくちゃん達まで居るけど大丈夫なのかな?

採取作業中はともかく、今は魔力で花を染める儀式っぽいので不安だ。問題があれば注意してくると思うが、後で確認はしておこう。

「ジューン姫、魔力は大丈夫でしょうか?」

「? 大丈夫だけど、どうかした?」

「いえ、精霊樹の脇芽の方に魔力を注いでいただくタイミングを考えていまして」

サクラの精霊樹の脇芽は現在それなりの数になっている。

ただ、失敗したと思ったのが、道の整理のついでにベル達に植樹をお願いしていたこと。

種みたいな形で妖精の魔力を込めるのであれば、植樹する前にまとめて魔力を込めてもらえばよかったと反省している。

「ああ、そういうことだったわね。……私の魔力は残っているけど、魔力が少ない子達もいるし、精霊樹の脇芽となると今からは難しいわね」

やっぱり精霊樹の脇芽は普通の花の種と違って特別なようだ。

「では、準備が整ったら、その日は花畑の管理を休んで脇芽の方に集中してもらう感じがいいですか?」

「んー、蜜の採取は魔力が少なくなっても問題ないけど……無理をすることになるから、その日はそちらに集中した方が良さそうね」

「なるほど」

もう少し詳しく話を聞いて、きちんと予定を決めた方が良さそうだな。

***

現在植樹中の桜並木をジューン姫に見てもらいながら、色々と質問させてもらう。

やはり植樹する前にまとめて魔力を込めた方がやりやすかったらしく、少し苦言を呈されてしまった。勢いで植樹してしまったのはやはり失敗だったな。

でも、タマモが働いているのも見て、ベル達が羨ましそうにお仕事をねだってきたので仕方がなかったんだ。

結果、今日以降の精霊樹の脇芽はまとめて魔力を込め、既に植樹を済ませた精霊樹の脇芽は、花畑の管理の後に無理のない範囲でコツコツと染めていくことになった。

幸いなのが、精霊樹の脇芽と言えど、一度染めてしまえば以降はそこまで魔力が必要なく、花畑と同時に管理が可能なことだ。

一通りの相談が終わり、全員でサクラの精霊樹に移動する。

「サクラ、お願いね」

「あう!」

精霊樹の根元に到着しサクラに声を掛けると、元気に返事をして精霊樹の根元に向かう。

サクラが精霊樹に手を触れると、幹がうねうねと波打ちぽっかりと穴が開く。

ここがサクラが用意してくれた花蜜の貯蔵室。

開閉はサクラに頼まなければならないのが手間になるが、いずれ妖精の花蜜酒になると考えると保管形態はしっかりしておきたい。

精霊は信頼できると俺は思っているが、お酒に関してはその信頼が揺らぐことも否定できないから管理は厳重にしておかないとね。

サクラの警戒をくぐり抜けて精霊樹からこっそりお酒を味わうのは無理だろうと、シルフィも少し嫌そうな顔で太鼓判を押してくれたしね。

ちなみに、サクラの精霊樹の脇芽から採れる花蜜を保管する部屋も既に作ってもらっている。

その保管庫の前にジューン姫が立ち……浮かび、収納から取り出した花の蜜をポイポイと投げ込んでいく。ちょっと雑だと思ったのは内緒だ。

ジューン姫の作業が終わると、他の妖精達も続いて同じように花蜜を投げ入れる。

こら、ベル達は花蜜を採取していないでしょ。後ろに並ばないの。

「みなさん、お疲れ様でした」

「別に疲れていないわよ?」

仕事が終わったので労わりの言葉を掛けたのだが、その言葉にジューン姫が首を捻る。

それはジューン姫が監督役で、魔力を込める時以外はヤジを飛ばしていただけだからでは?

「……えーっと、お給料的な物をお渡ししますので、一列に並んでください」

妖精達が花蜜の全てを納品したので、お給料タイムだ。あ、ジューン姫が先頭に来るんですね。

「えーっと、お仕事お疲れ様でした。ありがとうございます」

お礼を言って小袋を渡す。

中に入っているのは銅貨三十枚。妖精達にとっては重い物だが、収納があるから大丈夫だろう。

三十枚という金額も結構悩んで決めた。楽園でお金を使う場所は少ないし、あんまり多くお給料を支払うとお金が余って働く意味がなくなりかねないと考えたからだ。

まあ、個人のお給料以外にも妖精界に提供する物もあるから、トータルで考えるとお給料的に問題ないはずだ。

「おお、働いてお金をもらったのは初めてかもしれないわ!」

ジューン姫が凄く喜んでいるが、その言葉は王族としてどうなの?

「ジューン姫は初めて働いたんですか?」

聞いてはいけないことかもしれないが、ジューン姫は楽園側の妖精の責任者なので、その、無職の社会進出の足場にされるのはちょっと困る。

そういう場合は責任が少ない場所から始めてほしい。

「いえ、働いているわよ。でも、私は王族だから働いてもお金は貰えないのよね。全部歳費で賄っているから無給労働よ」

なるほど、そういうことなら納得だ。あと、たぶんその歳費とやらは税金から出ているはずだから、無給労働とはちょっと違うと思う。

とりあえず喜んでくれて良かったよ。妖精の税金てどうなっているんだ? 花蜜か?

変なことを考えつつ喜ぶジューン姫に移動してもらい、次にカシュー君にお給料を渡す。自分が貰えると思っていなかったのか酷く驚いているのが面白い。

「……ふん、働いた対価だからな、受け取っておく」

ツンデレ……いや、カシュー君はいっさいデレがないからツンデレとは違うな。ツンだ。

俺が渡したお給料も最初は明らかに拒否しようとしていた。ジューン姫が喜んでいたし、これからお給料をもらう妖精達のことを考えて受け取った感じだ。

カシュー君以外は、全てを織り込み済みで楽園に働きに来ているので喜んでお給料を受け取ってくれた。

で、最後に並んでいたベル達には、とりあえず口にクッキーを放り込んでおいた。

別にお小遣いとしてお金を上げてもいいのだけど、妖精達がしっかり働いてくれたからお給料が発生した訳で、ここでお金を渡すのは違う気がしたからだ。

まあ、ベル達もクッキーで大喜びしてくれているから問題ないだろう。

「では、お茶会の時間まで自由行動で構いませんか?」

お給料の支払いが終わり、笑顔のジューン姫に確認する。お茶会は外せないようなので、妖精達が楽園を満喫している間にお茶会の準備を……いや、さすがにお金をどう使うかが気になるから、最初の方は様子を見ることにしよう。

「ええ、それで構わないわ。では、みんな、自由行動を許します。ですが、呼んだらちゃんと集まること。いいですね?」

ジューン姫が妖精達に指示を出し、妖精達が納得したところで妖精達の自由行動が始まった。

自由行動になっても、迷子紐から解放される訳じゃないんだな。

なるほど、指示でも再確認していたが、呼びかけを無視されたのがかなり頭にきていたようだ。

そんなジューン姫もさっそく飛び去って行く。カシュー君を置き去りにして。慌てて追いかけていくカシュー君には頑張ってほしいと思う。

「今日はみんなで楽園食堂のご飯を食べようか」

いつもお昼は家で食べるのだが、今日は心配なので楽園食堂でご飯を食べることにする。

いつもと違う行動に歓声を上げるベル達とサクラとマルコとキッカ。

ジーナとサラが歓声を上げないのは、俺が妖精の行動が心配で楽園食堂に行くことを理解しているからだな。心配性だな、的な目で見られて少し恥ずかしい。

おっと、恥ずかしがっている場合じゃないな。気が早い妖精が既に楽園食堂に突撃している可能性がある。

できるだけフォローしないとな。

まあ俺達が楽園食堂に行くとルビーの負担が増すことになるのだが、最悪席だけ空いていればごはんは魔法の鞄から取り出せばいい。

なぜなら楽園食堂はルビー達の趣味のようなものだからだ。

営利団体で行えばひんしゅくを買う行動でも、楽園食堂であれば許される。

ちなみにルビー達にもお給料的な物が発生しているのだが、基本的に俺が迷宮都市などで購入してきた物の中から気に入ったものを購入することに使われている。

「あー……」

楽園食堂の中に入ると、遊びに来ている精霊達に紛れて、結構な数の妖精達が注文カウンターに並んでいるのが見える。

甘味の誘惑に負けて外の世界に飛び出してきた妖精の行動力を少し舐めていたのかもしれない。

注文を受けているのはオニキスだ。

特に問題が起こっている様子はないが、さすがに少しやり辛そうだ。

今日から妖精が自由行動になることも事前に伝えておいたし、対策を練ると言っていたから大丈夫だとは思うが、やはり勝手が違うのだろう。

いつでもフォローに入れるようにして見守るが、注文の列の先頭でプリンのトッピングについて熱心に質問しているのがジューン姫なんだよな。制止に入るべきなのだろうか?