軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

七百八十一話 タマモの花畑と天樹マンション

ついに始まった花畑の造営、種に妖精が魔力を込め、その魔力を込めた種をみんなで花畑予定地にまんべんなく蒔く。それはとても楽しいイベントだった。無事に種まきが終わり、ドリーの登場。花畑予定地がついに本物の花畑に変身した。

「ん? なんだか凄く甘くていい香りが……」

完成した花畑に見とれていると、鼻に届く甘い匂い。

これってもしかして花の香り?

日本で感じたことがある香りと比べると段違いに強くて甘い匂い。

強い匂いは不快を覚えることも多いのに、この香りは違う。甘いのに爽やかで魅了されてしまいそうな香り。

この香りの香水があれば大人気……いや、甘い香りが本能を刺激してくるタイプの香りだから逆に危険か。

「いいにおいー」「キュキュー」「あまい」「くくぅ」「くいたいぜ」「……」「あうっあうっ!」

「本当に良い匂いだな。実家の食堂で使えないか?」

「いい香りです。この香りの蜜を紅茶に入れたら美味しそうですね。いえ、紅茶の香りが負けてしまうかもしれません」

「すごくあまいにおい!」

「キッカ、このにおいすき!」

俺も結構匂いに引っ張られているけど、ベル達やジーナ達もかなり意識をもっていかれているな。

まあ、それも当然か。妖精の花蜜酒の香りも危険なくらいに素晴らしかったが、この香りの方がダイレクトに伝わってくる。

妖精の花蜜酒が大人の香りだとすると、この花畑の香りは老若男女全ての甘いもの好きを魅了する香りだ。

「ふふ、すごいでしょ、これが妖精の力よ!」

ジューン姫がドヤ顔で胸を張っているが、確かに凄いので納得の気持ちしかない。

「ジューン姫、もう花の蜜の採取は可能ですか?」

一刻も早くこの甘い匂いを漂わせている蜜を味わいたい。

「んー。急激に生長させた後だし、一晩くらいは時間を空けた方が良いわね。その方がしっかりとした濃い花の蜜になるわ」

これだけの香りをバラ撒いていてまだ先があるだと!

「でもまあ、あなた達の気持ちは理解できるわ。みんな、蜜を採ってきてあげなさい」

驚いている間にジューン姫が話を進めてしまう。ジューン姫が妖精に指示を出すと、妖精達が近くの花に向かい花に向かって手を伸ばす。

花の中からBB弾くらいの薄ピンクの玉がポコンと飛び出してきた。もしかしなくてもあれって花の蜜?

他の妖精達を観察すると色は様々、花の蜜は花ごとに色が違うらしい。

それにしてもBB弾くらいの大きさか……大きさとしてはそれほどでもないように思えるが、花の蜜と考えると衝撃的な大きさだと思う。

そしてあの花の蜜を採取する技。あれってたぶん花の種を運んでいた技の応用だよね。

妖精の生活の中心に花の蜜があるらしいから、花に関連する技術はかなり発展していそうだな。

そんなことを考えていると、妖精が目の前まで花の蜜を運んできてくれた。

「ありがとう」

お礼を言って花の蜜を受け取ろうとすると、妖精が首を横に振りながら俺から距離をとった。

え? からかわれた?

「裕太。それは花の蜜なのよ。液体を手で受け取るのは無理よ。口を開ければ放り込んでくれるわ」

ジューン姫の言葉に深く納得する。BB弾のようだと考えていたからすっかり固体だと思っていたけど当然液体だよね。

そして妖精に〝あーん〟されるのか。

妖精のサイズがサイズだから別に気にしなくてもいいのだが、どう見ても男の子な妖精に〝あーん〟されるのは微妙な気持ちになるな。

微妙な気持ちで口を開けると、妖精が花の蜜を口に放り込んでくれる。

口の中で花の蜜がパシャリと弾け、同時に強い花の香りと甘味が口に広がる。

妖精の花蜜酒と違いアルコール化していないので、花の香りと甘味がダイレクトに伝わってくる。

美味しい。間違いなく美味しい蜜なのだが、妖精の花蜜酒と比べるとコクというか深みが足りない気がする。

ジューン姫が言ったように収穫が早かったからか?

いや、それもあるのだろうが、一本の花から採った蜜だからか。妖精の花蜜酒は様々な花の蜜が混ざっていた影響か、香りが繊細で複雑だった。

その印象があるから物足りなさを感じたのかもしれない。

現にベル達やサクラは興奮して飛び回っているし、ジーナ達や大精霊も大満足な様子だ。まあ、大精霊は甘味に満足したというよりもお酒の原料として品質に満足した感じだけどね。

「ジューン姫、素晴らしく美味しい花の蜜でした」

子供の頃に吸ったことがあるツツジの花の蜜と比べたら段違いに美味しかった。ツツジの花の蜜のほのかな甘みも嫌いではないが、月と鼈くらいの違いがある。

精霊樹に集められるであろう花の蜜で、お菓子を作ったらみんな大喜び間違いなしだな。

「これからもっと美味しくなるから期待していいわよ」

「はい、本気で期待しています」

言葉通り本気で期待しているので真顔で返事をすると、ジューン姫は苦笑いし、カシュー君は厳しい目で俺を見てきた。

俺の本気が伝わったのだろう。

それにしても、花の蜜のお菓子か。イメージ的に和菓子よりも洋菓子に合う気がする。

ハチミツと似たような使い方でいいのだろうか? ハチミツの殺菌成分が花の蜜にあるか分からないし、ハチミツと混ぜ合わせることも考えるべきかな?

とにかく夢が広がる。

とはいえ、このまま妄想に耽溺している訳にはいかない。視界の隅でタマモがずっとソワソワしているからなんとかしてあげないと。

「ドリー、次はタマモの番でいいのかな?」

「ええそうですね。タマモ、あそこがタマモに任せる花畑のスペースですよ」

俺が声を掛けると花の蜜を味わい微笑んでいたドリーが、タマモに管理場所を教える。

まあ、ここから見えているから、分かっていたんだけどね。

場所は花畑の入口側で、桜の並木道から少し離れた一角にスペースが用意されていた。おそらく、タマモが移動しやすいようにと考えてのことだろう。

「くぅ!」

タマモがテンション高くシッポフリフリで返事をした後、俺をつぶらな瞳で見つめる。早く行こうよってことだな。

「タマモ、分かっていると思いますが、今のあなたではこの一角全てを私と同じように咲かせることは難しいです。花のことを考え、しっかり丁寧に育てるのですよ?」

「くぅ!」

タマモが張り切って返事をする。タマモは一気に植物を成長させるのは難しいけど、段階を踏んでしっかり美味しいお野菜を育ててくれるから、花だって立派に育ててくれるはずだ。

ああ、なるほど、タマモのスペースが並木道から見ると死角になっている場所なのは、景観を考えてのことなんだな。

色とりどりの花畑の中にある茶色一色や緑一色は目立つから、ファーストインパクトを考えると見えない位置が無難だ。目立つ位置だとタマモの焦りにも繋がりそうだし良い判断だと思う。

「くぅ!」

そんなことを考えていると、タマモが俺に一鳴きして自分の管理地の真ん中に向かう。

「くぅぅぅぅ!」

タマモが大きく鳴くと、茶色の地面からピョコンと緑色の芽が飛び出してくる。

ドリーが育てるように一気に生で生長するのも見ごたえがあるけど、こうやって徐々に育っていくのを見守るのも乙な物だな。

それでも普通と比べたら段違いに早い成長なんだけど、まだ風情を感じる。タマモが花を育てる時はできる限り同行して、花畑の成長を見守ることにしよう。

***

「「「おー!」」」

タマモの仕事を見守り、盛大に褒めた後に妖精専用の天樹マンションに移動した。

精霊樹の脇芽である桜並木の方の成長は明日に回した。

先に休憩所を紹介しておかないと紹介する前に大部分が消えてしまいそうに思えたからだ。

ここが皆さんの休憩所で、いずれは住居になる場所ですと紹介すると、集団の七割が突撃していった。

残り三割は警戒して様子を窺っている。

比率が逆転しているが、この三割が普通の妖精に近い性格なんだろう。つまり、信頼し相談するべきなのは残っている妖精達の方。比較的まともの妖精だけど甘味に釣られてしまったタイプの妖精だな。

しっかり顔を覚えておこう。

あ、残っているメンバーにヘーゼルが残っている。よく見るとマルメロにガッチリ襟首を捕まえられている。

やはりマルメロは頼りになるな。その好奇心旺盛な幼馴染を抑え込む手腕を他の妖精まで拡大させてくれることを切に願う。

だって、まとめ役の代表なはずのジューン姫がすでに天樹マンションに突撃しちゃっているんだもん。

辛い立場なのは理解しているが、カシュー君にはもっと頑張ってほしい。

まあ、そんな妖精達と一緒にベル達も突撃しちゃっているんだけどね。

俺もしっかりしないといけないが、ベル達は天樹マンションの施設の説明を買って出てくれているはずなので問題ない……はず。

使いやすいアメニティもできるだけ用意したし、たぶん気に入ってくれるはずだ。

「いかがでしたか?」

シルフィ達やジーナ達、ラエティティアさんと話しながら待っていると、だいぶたってからジューン姫が戻ってきた。

途中で様子見をしていた妖精達を迎えに来てくれたし、優しく気を使える部分があるのは確かなんだけど、自由奔放という言葉がピッタリな姫様なんだよな。

「なかなか良いわよ。天樹を住家にできるなんて妖精界でもめったにないから、連れてきた妖精達も喜んでいるわ」

「それなら良かったです。足りないものがあったら言ってください。できる限り準備します」

ジューン姫が言うように戻ってきた妖精達もまんざらではなさそうな顔をしている。たしかに気に入ってくれているのだろう。

問題なのは戻ってきた妖精達の数が明らかに減っていることだ。その中にヘーゼルとマルメロの姿もない。

マルメロでもヘーゼルを抑えきれなかったらしい。

この後は妖精界に戻るまである程度自由に行動してもらう予定だから構わないが、期待しているマルメロが絶対ではないと知ったのは少しショックだ。

「……では、帰還まで楽園を自由に見て回ってください。楽園の外は危険な魔物も出ますし、楽園内でも肉食獣が出るエリアがあるので、その辺りは注意してください」

妖精に自由行動を告げるのは怖いが、今後のことを考えるといつまでも付き添っている訳にはいかない。

あとは……シルフィ頼みだ。