軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

七百七十八話 プンプンのその先

妖精の先遣隊を出迎え開催した顔合わせのお茶会。既に三人程行方不明になっているが、構わずお茶会を進める。途中でキッカに妖精の友達が出来そうで心配になったり、餡子がジャムであるか否かに悩んだりと色々あったが、とりあえず妖精達としっかり顔合わせをするために挨拶をすることにしよう。

さて、どのような順番で挨拶をするか。

甘味に夢中な妖精達は後回しだな。あの妖精達はおそらくお茶会の最後まで滞在してくれる。カスタードクリームに顔を突っ込んでいるが……まあ、それだけ美味しいと思ってくれているということだ。たぶん。

ノモスとドリーが話している研究者グループも後回しで大丈夫だろう。ノモスとドリーの興味が尽きていない様子なので、フィールドワークに出かけようとしても阻止されると思う。

そうなると……うん、見覚えがある妖精も居るしあそこにしよう。困っているっぽいしな。

「こんにちは。私の名前は裕太。この楽園の責任者をさせてもらっています」

怖がらせないようにゆっくりと近づき、少し離れた場所で目線を妖精の高さに合わせてから声を掛ける。

猫とのコミュニケーションを応用した方法だが、それほど間違っていないはずだ。いや、猫の場合は視線を合わせたら駄目だったかな?

まあ、その辺りは言葉も通じるのだから大丈夫だろう。

そして俺が声を掛けたのは、到着早々飛び出して行こうとしていた妖精と、その妖精が飛び出すのを阻止していた妖精。

なぜこの二人に声を掛けたかというと……。

「あら、裕太ちゃん。あのねー、この二人、とっても仲良しなのよー」

ディーネに絡まれて困っている様子だったからだ。

この二人、可愛そうなことにディーネの恋愛センサーに反応してしまったようで、根掘り葉掘り質問されていたらしく少々ぐったりしている。歓迎の席のはずなのに、なんかすみません。

それにしてもディーネの恋愛センサーは当てになるのだろうか? これまでも何度か発動した記憶があるが、それが恋愛に発展した記憶もない気がする。

でも、この二人はどうだろう? たしかに俺にも親密なように見えなくもない。

「……俺はヘーゼル、ここに花蜜集めと好奇心を満たしに来た妖精だ」

多少疲れている様子だが言葉通り好奇心が強いのか、その瞳は強く輝いておりディーネに絡まれながらも意識は外に向いているようだ。

おそらく男の子……いや、妖精も年齢が分かり辛いから、成人男性として対応することにしよう。

働きに来ているくらいだから、それなりの年齢なはずだ。

「…………私は……マルメロ……」

カシュー君と違って敵意は感じないが、強い警戒心は感じる。ディーネだけではなく、新たに登場した俺にも怯えているようだ。

「裕太ちゃん、この二人は幼馴染なのよー。そして、楽園に来ることを決めたヘーゼル君が心配でマルメロちゃんも一緒に来たのー」

ここからどう警戒心を解くか悩んでいると、ディーネが情報をくれる。

ディーネってお姉ちゃんを自称しているが、性格的にはお節介なおしゃべりおば……お姉さんだよな。

なぜ最後に思い直したのかは秘密だ。

しかし、ディーネのお節介が初めて役に立った気がする。俺なら妖精からたったこれだけの情報すら得られなかった可能性が高い。

そして納得したことがある。

このマルメロという妖精の女性。おそらく彼女が妖精のスタンダードだ。

俺に対して恐怖を隠せず、そして全力で警戒する様も事前に聞いていた話にかなり近い。

彼女単独だったら、確実に今この場に来てなかっただろう。幼馴染のヘーゼル君が参加してくれたおかげで妖精のスタンダートである彼女が分かったのはありがたい。

「そうなんだ。幼馴染同士での参加、ありがとう。不安かもしれないけど、この楽園の安全は約束するから楽しんでください」

本当なら色々と話したいのだが、ディーネに散々絡まれた上で俺にまで絡まれたらマルメロさんが持たない。

話しを早々に切り上げてディーネを回収して撤退するのが吉だろう。

彼女は貴重なスタンダードの妖精。つまり、臆病だが真っ当な妖精ということで、楽園や俺達に慣れてくれたら、楽園に来る妖精の良心になってくれるかもしれない。大切にしなければならない相手だ。

……ん? 安全?

楽園が安全なのは確実だと思っていたが、森には肉食動物も放ってある。あれ? もしかして危険?

焦りを隠しつつ席を立ち、軽く頭を下げて二人から離れる。危険に思いついたのが席を立つ寸前で助かった。話の途中だったら焦りを隠せなかっただろう。

「ちょっと裕太ちゃん、お姉ちゃんはまだお話を……」

ディーネの襟首を掴みそそくさと退散、人気のない場所に移動する。

「シルフィ、シルフィ、聞こえる? 聞こえるなら返事をして」

シルフィは現在ジューン姫達と供にお酒グループに合流して話をしているので、合流して質問し辛いので遠くからこっそり話しかける。

今日のシルフィは妖精が来ているから、確実に楽園中の風を把握しているはず。なら俺の声にも気が付いてくれるはずだ。

「裕太、そんなところでどうしたの?」

予想通り声を掛けてすぐにシルフィから反応が返ってきた。

「実は―――」

肉食獣うんぬんについてシルフィに話す。

「ああ、それなら心配ないわよ。森の危険な動物は私が隔離してあるし、そもそも、妖精は森に住む存在だもの。隔離していなくても対処を心得ているわ」

おお、俺が気が付かない間にちゃんと手を打っていてくれたのか。あまり気が回らない自分としては知らないところでちゃんとフォローしてくれるのは本当に助かる。

「余計なお世話だったみたいだね。ありがとうシルフィ」

「どういたしまして。まあ、私が隔離したのも、来訪する妖精が変わり者だと聞いたからだし、裕太の心配も間違ってはいなかったわ。よく気が付いたわね」

ああ、シルフィも表面上は普段と変わらなかったのだけど、変わり者の妖精が集まることには警戒していたのか。

だよね。常識では計れないから変わり者扱いされる妖精達。しかもその方向は様々なようだから、中には獣への対処を知らない妖精や、知っていても無視して他のことに熱中し、獣に襲われるなんてパターンもありえる。

「あはは、まあ、本来は事前に気が付いておくべきことなのに、気付いたのが今だから反省しないとね」

日本で働いていた時も全てを完璧に、なんてことはできなかったが、身の安全に関わることは気が付きませんでしたでは済まされない。

しっかりルールを決めておこう。といっても今回の場合はやれることはそれほど多くない。楽園の森の一部に肉食獣が存在することの通告と、侵入は自己責任ってところだな。

妖精に働きに来てもらうとはいえ、さすがに護衛までは付けられないし、そこまでして働いてもらうのはお互いに不幸になりそうだ。

「そうね、私も事前に報告しておけばよかったのだけど、お酒の方に興味が向いていたから隔離したことを告げるのを忘れていたわ。ごめんなさいね」

「いや、手を打ってくれていただけで感謝だよ。普段は報告なしでも構わないけど、こういう特殊な状況の時は報告してくれると嬉しい」

楽園での生活に仕事のようなシステムは持ち込みたくないから、各々が気がついたら手を打つで構わない。そのことを共有するべきだと思えば共有すればいい。

ただまあ、今回は一応他世界のお客様を出迎える公式行事だから、もっとシステマチックにしておくべきだった。今更だけどね。

「分かったわ」

お互いに納得したところでシルフィとの会話を終わらせる。さて、安心したところで次の妖精の挨拶に……。

「裕太ちゃん。裕太ちゃんはお姉ちゃんの扱いが少し雑だと思うわー」

気持ちを切り替えようとしていると、俺に襟首を掴まれたままのプンプン状態のディーネが話しかけてきた。

そういえば焦っていたから襟首をつかんで引きずってきたんだった。そしてそのままシルフィと話していたな。

うん、これは確実に俺が悪い。

***

普段怒らない人が怒ると怖いというのはよく聞く話だ。

ディーネは普段はあまり怒らないが、偶にプンプンするのでそこまで怖くはない。でも、機嫌を戻すのは結構面倒だったりする。

具体的に言うと、お姉ちゃん呼びを強制されたり、ディーネのお姉ちゃんへの尊敬がなんやらとかいう戯言を真剣に拝聴する姿勢をとる必要があったりと、微妙に精神に負担が掛かることになる。

で……ようやくそんな苦行を乗り越えたのだが、お茶会の席には誰も居なくなっていた。

いや、まあ、お説教の途中でシルフィから、そろそろお茶会を終わらせて移動したいという提案が来て、それを承諾したから知ってはいたんだけどね。

その時にシルフィに助けを求めたのだが、ディーネの怒りを長引かせると厄介だからここでケリをつけておきなさいと見捨てられてしまった。

ディーネの怒りを長引かせると厄介らしい……俺はプンプン状態までしか見たことがないが、その先にシルフィが厄介と思うほどの怒りが控えているとなると大人しく叱られるしか選択肢がなかった。

ディーネのマジギレ……想像すると地味に怖いよ。

のんびりぽやぽやなディーネの本気の怒り。鉄砲水どころか大洪水すらあり得るのでは?

まあ、大精霊が怒りに任せて環境破壊をすることなどないと思うが、そういうことが可能な存在を本気で怒らせる危険性に改めて気が付けたのは僥倖だったと思う。

俺のディーネへの扱いは適当だったもんな。まあ、そのことにはディーネ自身にも責任があると俺は思うのだが、最低限の敬意は忘れないようにしよう。

本当に最低限だけど……ディーネの思考に本気で付き合うのはキツイし……。

さて、ディーネの怒りが収まったところで俺はどうするか。

「裕太、お説教は終わったようね。そろそろ花畑を育てたいのだけど、花畑予定地まで来られる?」

お説教が終わった瞬間を見計らったように……いや、シルフィだから確実に見計らっていたんだろうな。

「うん、すぐ行くよ」

言いたいことがないこともないが、これでも俺は楽園の主。妖精の花畑作成なんて一大イベントを見逃すのは沽券にかかわる。

「あ、シルフィ、ベル達やジーナ達は?」

みんなにもこういう貴重なイベントには参加してもらいたい。

「みんなもうこっちに来ているわよ」

あ、俺の説教終わり待ちだったんですね。ごめんなさい、急いで向かいます。