軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

七百七十六話 順調なのか?

ジューン姫から明日、楽園で働く妖精達を連れて来ていいかと質問され、俺は迂闊にも大丈夫だと答えてしまう。いや、答える前にカシュー君に色々と下世話な部分まで質問して大丈夫だと判断したのだけど、やってくる妖精達が変わり者だと確定してしまったし、その変わり者の妖精と友達になれないかな? と期待に胸を膨らませているキッカも心配だし……やっぱり迂闊だったと思う。

不安で仕方がないが、しっかり準備をすればその不安も薄れるはずだ。

ベル達と戯れ終わり、ジーナ達は訓練に行かせる。

そして俺はドリーに話しかける。

「ドリー、タマモとトゥルの桜並木の作業が終わってからでいいから、少し相談に乗ってほしいんだけど大丈夫?」

「タマモもトゥルも慣れてきましたから大丈夫ですよ。サクラちゃん、精霊樹の脇芽をお願いね」

「あう!」

桜並木の作業も日課になりつつあるからな。サクラから脇芽を受け取り、流れるように作業が進んでいく。

タマモが道予定の場所の木々を移動させ、トゥルがその道を均し、そしてベル達が精霊樹の脇芽を植樹する。

作業というかイベントという方がピッタリかもしれない。

毎日少しずつ進んでいくイベントにチビッ子達は嬉しそうにはしゃいでいる。

この精霊樹の脇芽をドリーが育ててしまえばすぐに見栄えが良くなるし完成度も増すのだろうが、妖精の手が加わらないと本来の花蜜酒を採取する目的が果たせないので、妖精の到着が待ち遠しい……と思っていたのだが明日来ちゃうんだよな。

明後日、いや、五日後くらいでも良かった気もする。

「お待たせしました」

全ての桜並木造営イベントが終了しタマモを残してベル達はパトロールに向かった。タマモが残ったのは、ドリーのお仕事を見学するためだろう。ものすごくワクワクした目をしている。

「大丈夫、みんな頑張ってくれたから直ぐだったよ。それで相談なのだけど……」

ドリーにカシュー君から得た情報を伝えていく。

「だから、天樹の一本を妖精達の住居にしてしまおうかと思うのだけど、可能かな?」

イメージとしてはマンションのような感じ。

妖精が木を住家にしていることを聞いた時に思ったのが、妖精が気に入った木にバラバラに住みつかれる光景。

素人計画で楽園を運営しているので、今回のように急遽道を通したり、模様替えの為に大精霊達に頼んで土地ごと移動させたりすることもある。

バラバラに住みつかれて工事の度にその分散した妖精達と交渉なんてことになったら面倒だ。

ジューン姫の話ではしばらく通いとのことだが、変わり者の妖精が集まっているらしいから行動が読めなくて怖い。

いきなり初日に楽園に住むなんて言いだす妖精が居るかもしれないから、事前に手を打っておきたい。

ならば、臭い物には蓋という訳ではないが、面倒そうな集団を一ヶ所にまとめてしまおう。まとめるのであれば集合住宅が適切なはずだ。

ただし、変わり者の妖精達とはいえ、こちらが招いている側なので無様なことをしては楽園の沽券にかかわる。

そこで思いついたのが、天樹妖精マンション。

楽園の天樹も、エルフの国の天樹とまではいかないがかなり巨大だ。そして害獣が居ない聖域の快適な森の中で、精霊樹の傍という好立地。

そこにカシュー君から根掘り葉掘り聞きだした妖精に必要な設備を導入し、巨大な天樹そのものをタワーマンションにしてしまう。

今後のことも考えて部屋数も百ほど作っておくつもりだ。住まないにしても楽園の存在が受け入れられていけば、こちらに顔を出す妖精も増えるだろう。その時の宿代わりとしても活用できるし、休憩所として使える。

「と言う訳なんだ。天樹に負担なく実現できるかな?」

木を住家としている妖精の元々の住居を参考にしているから、おそらく大丈夫だとは思うが集合住宅となると問題が出てくるかもしれない。

まあ、さすがに地球のタワーマンションのように全個室オール電化の冷暖房、バス・トイレ付きでエレベーターも当然設置、なんてことまでするつもりはない。

トイレも沐浴場も男女別共同で適所に配置、エレベーターや冷暖房も無いから、天樹にかかる負担はそこまでではない……と思いたい。

別に穴を開ける訳ではなく、ドリーの力でそういうふうに天樹に形を変えてもらうだけだからね。

あ、あと、みんなで集まれる広場もあった方が良いかな?

臆病だと言っても妖精同士で怯えることはないだろうから、安心できる住家の中でなら集まって騒ぎたいと考えるかもしれない。旅行先ではハメを外したくなるものだからね。

「……なるほど、少し細かいですが可能だと思います」

ドリーが少し細かいというってことは、おそらく浮遊精霊や下級精霊では難しいってことなんだろうな。もしかしたら中級精霊クラスでも苦戦するかもしれない。

俺が大精霊と契約できたことって本当に幸運だったんだな。

「悪いけどお願いできる?」

「構いませんが、細かい指示はお願いしますね」

「…………少し待って、考えるから」

何も考えずにドリーに丸投げしたらブーメランとして戻ってきた。不味いぞ、お洒落な部屋の配置とか効率的な動線とかは専門外だ。

……今からフィオリーナのところに向かうか? いや、さすがに無理だ。

いきなり天樹タワーを公開してジューン姫達を驚かせようと思ったが、独りよがりになりそうだから止めておこう。

天樹の一部を簡易宿泊場にして、ジューン姫の意見を聞きながらタワーを作るか。妖精達が分からなかったら後日フィオリーナに設計を依頼すればいい。

「……とりあえず天樹の一部に部屋とトイレと沐浴場を一つずつ作るよ」

部屋を広めにして休憩所として使うことにしよう。

「分かりました」

シンプルなつくりをお願いしたから作業はすぐに終わった。これならタマモでもなんとかなりそうだったな。

俺って大精霊と契約できた幸運はあっても、それを活用する才能を持ち合わせていないようだ。悲しい。

さて、規模は縮小してしまったが、妖精の休息所は確保した。

楽園の観光プランは……ジューン姫の時のプランを流用すれば良いな。癖が強い妖精達の集団のようだし、精密な観光プランを用意してもどうせ無駄になる。

次は妖精達が強い興味を示している食事関連、特に甘味だな。

いや、今はルビーが忙しい時間帯だし、こちらは夜に回すか。これまで作った甘味を妖精サイズで大量に用意することにしよう。まあ、切り分けられる物限定でだけどな。

味が落ちるか見た目が悪くなる品はギリギリまでサイズダウンはするが、それなりの大きさで提供することになる。

あとはシルフィ達の仕事かな?

妖精の花蜜酒に関しては俺が手を出さなくても、シルフィ達が万全の態勢で臨んでくれるだろう。俺は制御するだけでいいはずだ。

まあ、その制御が一番大変そうだが……変わり者の妖精と大精霊達がミックスアップしたらどうしよう……。

***

「……なんか緊張してきた」

準備万端整えたから緊張する必要はないはずなのだが、胃の辺りがキュっとする。あれ? これって緊張ではなく単に胃にダメージが来ているだけでは?

あとでヴィータに診察してもらおう。

とりあえず胃への負担は忘れることにして、出迎えに集中するか。

歓迎セレモニーという訳ではないが、今回は楽園の主要メンバー全員に集まってもらっている。

といっても、ルビー達店舗経営メンバーは集まっていないが。なぜなら、歓迎早々癖が強い妖精達がお店に突撃する可能性を考慮したからだ。

本当なら大精霊とか人間である弟子達は妖精のプレッシャーになりかねないのだが、最初に顔合わせをしておかないと、三十人の内何人かと二度と顔を合わせない可能性すらある。

そしてここでしっかり全妖精を見極め、キッカが友達になっても問題なさそうな妖精も確認しておきたい。

……色々大変だな。

不安に思いながら妖精門の前に整列し妖精門を開くと、その瞬間ジューン姫が飛び出してきた。続いてカシュー君、その後に見知らぬ妖精達が続々と門から現れる。

もう少し心の準備をする時間が欲しかった。妖精が臆病という情報、本当に間違っていないんだよね?

「裕太。待たせたわね」

いや、妖精門を開けた瞬間でしたが? 正直、もう少しのんびりしてきてくれた方が良かったです。

「いえいえ、みなさんの来訪、心より歓迎します」

内心を隠しながら歓迎の言葉を述べるが、ジューン姫とカシュー君以外聞いていない気がする。

周囲を忙しなくキョロキョロしながら、ここが人間の住む世界かとさっそく観察を始める妖精。

テンションが上がり過ぎたのか、8の字飛行をしながら奇声を発する妖精。

歓迎のお茶会の為に用意した甘味を凝視する妖精。

さっそくどこかに飛んでいこうとして、隣の妖精に引き止められている妖精。

事前に聞いてはいたが、実際に目にすると妖精達の変人具合がしっかりと感じ取れる。これは手強い。下手をしたら幼稚園児の自由奔放さを越えているかもしれない。

まず、この全員を逃さずにお茶会の席に座らせることができるかだな。まあ、できなかった時の対策も考えてはいるが、できるだけ予定通りに事が運べた方がこちらの負担は少ない。

パンパンと両手を打ち付け、大きな音で妖精達の注目を集める。目の前の妖精のようなタイプは礼儀を守り丁寧に接しても無駄だ。

勢いで行動を制限し、有無を言わせずこちらの要望に沿わせるのが吉だ。

「みなさん、まずはお茶会の席にどうぞ。この楽園の美味しい食べ物や興味深いと思われるであろうものを用意していますので、ご確認ください」

そして食べ物と珍しい物で興味を引く。

この作戦が功を奏したのか、ジューン姫を筆頭に妖精達がお茶会の席に移動していく。

そして、空席が三つ……。

「ジューン姫、今回来訪された妖精は二十七人ですか?」

一応アクシデントにも対応できるように俺達の席を除いて四十人分の席を用意していたのだが、残りの十人分は魔法の鞄にまだ収納した状態だ。

「いえ、三十人で間違いないわ」

「……三人程足りないようですが?」

「遊びに行っちゃったみたいね」

いつの間に? シルフィに視線を向けると、苦笑い気味に頷いてくれた。場所はちゃんと把握してくれているようだ。

危険があればシルフィが捕まえているだろうし、そうなっていないということは自由にさせて大丈夫ってことだろう。そうであってほしい。

……ふう、全員での顔合わせは失敗。でも、二十七人も残ったのだから、順調だと思うことにしよう。