軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

七百七十五話 下調べは大切

ジューン姫との打ち合わせも終わり、楽園は妖精の誘致と花蜜酒造りに向かって動き出した。といってもまだサクラに精霊樹の脇芽を用意してもらい、精霊樹と妖精の花畑を結ぶ桜並木を作り始めたくらいだけどね。あと、なんか遠くでマリーさんが悲鳴を上げている幻聴が聞こえた気がする。

「ねえ、こちらでもある程度人数が集まったから、明日あたりから連れて来てもいいかしら?」

最近日課となり違和感を覚えなくなったジューン姫との打ち合わせと言う名のお茶会。そんなまったりとした空間でジューン姫が爆弾を放り投げる。

労働争議が終わって三日程度しか経っていないのだけど、準備が整うのが早いな。

まあ聞いた限りでは平和っぽい妖精界でデモみたいなことが起こったくらいだから、それだけ俺が提供した甘味が妖精の欲望に火をつけたのだろう。

少し早すぎる気がしないでもないが、大精霊達も気合十分だし話が早いのは悪くないか。

「構いませんが、何人くらいですか?」

悪くはない話とはいえ楽園に好印象を持ってもらいたいので、こちらもできる限り準備をしたい。俺の魔法の鞄に眠る物資は膨大だが、妖精相手だと規格が合わないからしっかり準備をしておかないと手抜かりが怖いんだよな。

「うーん、現状集められたのは三十人程度だけど、多いかしら?」

三十人。旅行の団体ツアーくらいの規模だな。ジューン姫を見ていると信じられないが、妖精は臆病らしいからよくそれだけ集められたものだ。

ジューン姫を筆頭に妖精界の変わり者が集まったんだろう。予想はしていたが不安になってくる。

でも、この楽園の主として、妖精の花蜜で作る甘味を楽しみにしているチビッ子達の為にも俺は頑張らなければならない。

妖精の花蜜酒に関しては俺が頑張らなくても大精霊達が勝手に頑張るだろうから、規模を広大させようとしない限り深く考える必要はないよな。

あれ? そういえば妖精は泊っていくのか? そもそもトイレとかお風呂とかはどうなんだ?

ジューン姫はお茶会に来て飲み食いをしてそのまま帰還するだけだし、カシュー君は俺達を警戒するかジューン姫に振り回されているだけだから思い至らなかった。

……さすがに妖精のお姫様に妖精のトイレ事情を質問するのは不味いよな。

「……カシュー君、ちょっとこっちに来てくれるかな?」

「なんだ、なれなれしいぞ人間」

おおう、絶対に人となれ合わないと決めている野生の猫のような反応。

一般的な妖精はこちらの反応が……いや、偵察に来たことやジューン姫の傍に控えていることを考えると、護衛とか兵士のような役割を担っている可能性が高い。

そうなると普通の妖精はカシュー君並の警戒心を持ち、それでいながら一切こちらに近づかず、姿を確認した瞬間に猛ダッシュで消えていく野生の猫と考えるのが妥当か?

それって仲良くなるのが不可能では?

いや、だからこそ、ジューン姫が連れてくる三十人の妖精の接待が大切になる。

人間全ての警戒心を解くのは無理だろうが、ジューン姫だけではなく妖精界の変わり者だとしても同じ一般的な妖精と仲良くできている姿を見せることができれば、妖精界の妖精達も楽園の人間ならある程度大丈夫なのでは? と、警戒を緩めてくれるかもしれない。

「うん、なれなれしくてごめんね。でも女性であり王族であるジューン姫に聞くのは不適切だけど、沢山の妖精を迎え入れるためには聞いておかなければならない質問があるんだ」

お、カシュー君の表情が変わった。一理あると思ってくれたかな? とりあえず追い打ちをかけておこう。

「それともその不適切な質問を直接姫様に聞けと? もしくは楽園に来る妖精達の不便などカシュー君には関係ないということかな?」

少し厭味ったらしいかもしれないが、俺としては妖精のトイレ事情を姫に聞くなんて羞恥プレイはしたくないので、諦めて俺の質問に答えてくれ。

「あら? 私は不適切だろうと確認するべきことであれば、質問をされても気にしないわよ?」

ジューン姫が気にしなくても俺が気にするんですよ。

「……聞かせてもらおう」

「うん、ここだとジューン姫にも聞こえちゃうし、少しテーブルから離れようか」

シルフィにお願いして音を遮断するのが手っ取り早いのだが、それはそれで警戒されそうなので物理的に距離をとることにする。それで聞かれてしまったなら、まあ、仕方がないだろう。

「カシュー、構わないわ。行ってきなさい」

ジューン姫が許可を出したからか、渋々俺についてくるカシュー君。離れる前に周囲に睨みを利かせたのは、おかしな動きをするんじゃないぞという牽制だろう。

写真でしか見たことがないが、不良の姿をした猫のぬいぐるみ? をほうふつとさせてちょっと可愛かった。そして、チビッ子達は睨まれたことすら気づいていないだろう。

そう考えると、頑張っているカシュー君が少し不憫に思える。

「この辺りでいいかな? まず、一つ目の質問だけど―――」

トイレ事情が一番重要だけど、この際だから聞けることは聞いておこう。食事の頻度とかも違うかもしれないからね。

「な。貴様―――」

「いや、怒るのも分かるけど、確認しておかないと駄目なことでしょ」

偶にキレそうになるカシュー君を宥めながら聞き取ったところ、妖精についてそれなりのことが分かった。

妖精は基本的にはトイレに行かない、という昭和のアイドルのような答えが返ってきたが、精霊もそうなので別に不思議ではない。

ただ、基本的にという言葉がついているように、食べ過ぎなどで吸収しきれなかったエネルギーは排泄という形で体外に放出する必要がある。

つまり、人間と比べたら圧倒的に少ないが、トイレは必要。

ジューン姫の場合は……言及はしないが、お茶会で散々飲み食いをしているし、お茶会が終わったら遊び回りそうなのにすぐに妖精界に帰っていくことを考えると、エネルギーをすべて吸収できていないのだろう。

つまり、先陣を切って楽園にやってくる好奇心が強そうな妖精達も過剰にエネルギーを摂取する可能性が高い。妖精用のトイレも作らないと。

仕組みは? 大きさは? と、細かくカシュー君を追求する。なんでこんな質問に答えないといけないんだと憤慨するが、下関連はしっかりしておかないとみんなが不幸になるんだよ。

結局ほとんどの質問が設備の確認で終わり、妖精についてはほとんど質問できなかった。

まあ、トイレが必要であること、お風呂は水浴びというかぬるま湯を好む事、食事の回数は決まっておらず、気が向いたら食べることなど、ある程度の情報は聞くことができたと思う。

お風呂がぬるま湯なのはサイズが小さいから熱いお湯だと直ぐに熱が体内に籠ってしまうからかな?

そしてすこぶる効率が良い妖精の体。

蜜をしっかり摂取すれば、三日程度なら食べずに全然平気らしい。ただ、食べることは娯楽でもあるので、基本的に毎日なにかしら食べては居るようだ。

うん、ジューン姫、確実に過剰にエネルギー摂取しているな。

カシュー君の話によるといきなり泊りではなく、通いから始めて慣れていくようなので、それなら対応できると思われる。

まあ、普通にこの状況で最初から泊りはないだろうと思っていたのだが、ジューン姫は予想外の行動をとるタイプだし、変わり者の妖精が来る可能性が高いのだから可能性を否定することはできない。

というか、楽園に来る妖精達が変わり者であることをカシュー君に断言されてしまった。

普通の妖精は興味があったとしても人間がいる場所に迂闊に足を踏み入れたりしないと言っていた。

カシュー君は命令で偵察に来たのかもしれないけど、君が仕える妖精王様のお姫様は迂闊に足を踏み入れて甘味を食い荒らしていますが?

まあ、無粋だから突っ込まないけどね。

「お待たせしました。食事や甘味は用意できますし、それ以外の施設も完璧にと言えませんが用意できると思います」

まだまだ聞きたいことがたくさん残っているが、さすがに時間がかかり過ぎている。最低限の聞き取りはできたと思うからテーブルに戻るか。

「ジューン姫、おそらく不快でない程度の施設を準備してお迎えすることは可能と思いますが、体のサイズや生態が違うので行き届かない点が出てきてしまうことは避けられそうにありません」

接待する側がぶっちゃけるのもどうかと思うが、種族うんぬん以前に体の大きさが違い過ぎるので事前に予防線は張っておきたい。

「ああ、細かいことは気にしないタイプの子達だから、そういうことは気にしなくて大丈夫よ」

それはそれで不安なのですが?

「……はは、そういうことでしたら、明日からよろしくお願いします」

「ええ、なら私もそろそろ戻ることにするわね。また明日、今日と同じ時間に顔を出すわ」

「はい、では、また明日」

色々と聞いたから、ジューン姫が素直に帰っていく姿を見ると、限界が近いのかな? なんて邪推してしまうな。

おっとくだらないこと考えている場合じゃないな。

カシュー君から聞いた情報を参考に、準備しておくことが多々ある。

ジューン姫が帰ったことでお仕事が終わったと判断して群がってきたベル達の相手をしながら手順を考える。

ん?

「キッカ、どうかした?」

ベル達と戯れている間に、キッカが近づいてくるのは珍しい。

「あのね、おししょうさま、ようせいさんがたくさんくるの?」

……あ、キッカは妖精と友達になりたいんだったな。

「う、うん、そうだよ、だいたい三十人くらいの妖精が来るみたいだよ」

変わり者の……どうしよう?

キッカが変わり者の妖精に苦手意識を覚えるならともかく、仲良くなってしまったら心配でしょうがないのですが?

ここは最初は様子を見るように伝えておくべきか?

いや、親が子供の友人関係に口を出すと反発されることがあると聞いたことがある。

ましてや俺は親ですらなく師匠……ん? 師匠の方が注意はしやすいのか?

……無理だ。控えめながらワクワクした様子のキッカにそんな理不尽なことは言えない。

ここは師匠としてしっかりと見守り、キッカに悪影響を及ぼしそうな妖精がキッカに近づいたら、師匠として間に入ることとしよう。

設備にも気を遣わないといけないのに、更に不安の種が増えてしまったな。

来訪を明日ではなく明後日にしてもらえばよかった……。