軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

七百六十一話 交渉?

大精霊達の活躍で無事にフェアリーリングが復活した。妖精界への出入口はそれはもう幻想的でワクワクせずにはいられない冒険心をくすぐるものだったが、とても小さかった。元々こちらから妖精界に侵入するつもりはなかったので、扉を開いたまま待機していると、シルフィが妖精の来訪を告げた。

シルフィの静かにという言葉を体を動かすのは構わないと解釈し、凄くゆっくりと顔を妖精界への出入口に向ける。

小動物を相手にする場合、急な動きは相手を怖がらせるだけだからな。

ゆっくりゆっくり顔を動かし、視線が虹色の玉を捉える。

そこには虹色の玉からぴょこりと顔だけ出している妖精の姿が……あ、出入口ってそんな感じなんだ。

妖精のファーストインプレッションはなんとも微妙なものになった。

綺麗な虹色の玉から小さな顔が生えているカラフルな雪だるま。カオスだ。胴体と顔の比率もおかしいしね。

妖精の顔がせめて野球ボールくらいの大きさなら、色味を除けばなんとかバランスが取れるのだが、ピンポン玉かそれよりも少し小さいくらいだとちょっとバランスが悪い。

「こんにちは、妖精さん。私は風の大精霊のシルフィ。あなたは?」

シルフィが優しく妖精に話しかける。あ、妖精の顔が引っ込んだ。

シルフィにしては驚くほどにこやかに話しかけたのだが、元々シルフィは無表情タイプなので多少にこやかにしても妖精には通用しなかったのかもしれない。

妖精が引っ込んでしまったことに慌てて動き出そうとした俺やマルコをシルフィが手で制止する。

今動くのは悪手らしい。

小動物、それも警戒心が高い猫を相手にしている気分になるな。猫は確か上から見下ろしてはいけないとか、目を合わせてはいけないとか、色々と注意事項があったから、妖精にも似たような注意事項があるのかもしれない。

まあ、野良猫だと一日どころか一ヶ月同居しても仲良くなれない場合があるようだから、野良猫よりか警戒心が薄いことを願いたい。

少し待っていると、再び妖精が顔を出しバランスの悪い雪だるまが完成する。

「こちらから危害を加えるつもりはないわ。そのままでいいから少し話をしない?」

……………………結構長い沈黙の後に妖精が小さく頷いた。どうやら話はしてくれるらしい。

「妖精と精霊は聖域で結構仲良くしていたでしょ? そんなに緊張しなくていいわよ」

「…………知らない」

フルフルと首を左右に振り、ポツリと返事をする妖精。初めて声を聴いたが、少年のような声なので男の子? なようだ。

でも、こんなところに派遣されてきているのであれば、少年ということはないだろうし、妖精はある程度の年齢でも若く見えるのかもしれない。

「そう? まあ、妖精は長生きだけど、それでも精霊ほどではないから忘れちゃったのかもしれないわね」

妖精は長生きなのか。まあ、そんな長生きな妖精でも忘れるくらい時が流れていることに驚きを感じるが、フェアリーリングが埋まっていた地層を考えると仕方がないだろう。

かなり豊かな森だし、人の出入りもないから地層が積もっていくスピードが速そうだが、それでも相当な時間が流れているはずだ。

でもそうか、精霊と妖精は仲良くやっていたのか。まあ、お酒以外で精霊と妖精がもめる理由が見当たらないし、妖精は妖精の花蜜酒という強力な武器があるから、妖精の方が強い立場を築いていた可能性もあるな。

「……なぜ人間が居る?」

おおう、妖精のこちらを見る目が凄い。不信感の塊とはこのことだ。妖精と精霊の親交は忘れても、人間との悪い関係は忘れてくれなかったようだ。

善行は砂の上に書かれ、悪行は岩に刻まれるという言葉を聞いたことがあるが、その言葉は異世界の妖精相手でも当てはまるらしい。

というか、人間が妖精界へ引き籠る原因になったのだから、しっかりその辺りは伝えられていくよね。

「この人は裕太、私達大精霊の契約者よ。そしてその裕太の弟子のジーナ、サラ、マルコ、キッカね。信用できる人間だから警戒する必要はないのだけど、それは難しいわよね?」

コクンと頷く妖精。信用できないと頷かれるのは辛いが、俺だって初対面の相手を簡単に信用したりしないから文句は言えない。

で、この状況からどうやって妖精を誘致するのだろう? かなりの無理筋な気がする。

だって、シルフィの説明を聞いても微塵も不信感が薄れていないんだもん。

「ただ、裕太は死の大地の一部を開拓してそこを聖域にまで昇格させた人間なの。ついでに言うとその聖域には精霊樹も生えているし、エルフの国の精霊樹の思念体にも認められているわ」

「……精霊樹……」

お、妖精の俺を見る目が少し変わった。聖域やエルフの国に関してはそれほどピンときていないようだが精霊樹には反応を示した。

もしかしたら妖精界にも精霊樹が存在しているのかもしれない。精霊もだけど妖精も自然を大切にしそうだから、レアな精霊樹が存在してもおかしくないよな。

ん? 精霊樹が存在するのに妖精と精霊の親交が忘れ去られたということは、妖精界には精霊が居ない? ……ああ、妖精界は迷宮みたいに別の次元という話だったな。

契約者が居ない精霊が迷宮に入らないように、妖精界にも契約者が居ない精霊は足を踏み入れないのかもしれない。

妖精が若干の興味を示したことを見逃さないシルフィが、ここから怒涛のプレゼンを開始する。

聖域にはほとんど人間が居ないこと。ここに居ない人間で聖域に来る可能性があるのは今のところ二人くらいしか居ないこと。

開拓からそれほど時間が経っている訳ではないが、自然が豊富なだけではなく、精霊の村があることや、特殊な環境を整備しており精霊王に認められていることなど、妖精の興味を引きそうなことを積み重ねて説明していく。

シルフィってこんなに流ちょうに長文を話せたんだな。

普段は言葉もシンプルに纏めることが多いから、シルフィの気合の凄まじさを感じて少し怖い。

「ただ、話すだけでは納得できないと思うの。だから、今度はこの裕太の聖域にフェアリーリングを設置して、あなた達を招待したいと思っているの。構わないわよね?」

「…………」

シルフィの怒涛のプレゼンに妖精が無言のままコクリと頷いた。

「そう、納得してくれてよかったわ。じゃあ、次は明日にでも門を開くわね。あ、裕太、お土産があるんじゃなかった?」

「え? あるけど今渡すの?」

「そうよ、あんまり引き止めたら悪いでしょ?」

「……えっと、持てるかな?」

魔法の鞄から自信作のチョコレートの詰め合わせを取り出すが、あきらかに箱の方が妖精よりも大きい。

とりあえず妖精の目の前に差し出すと、虹色の玉の中から小さな手が出てきて箱に触れる。

すると、俺の魔法の鞄に収納するようにチョコレートの箱が消える。妖精もスキルか魔道具かは分からないが、収納できるすべを持ち合わせているらしい。

そして少し気になる……いや、とても気になるのは、妖精の瞳孔が漫画で言うグルグル目のように右往左往していることだ。

これ、あきらかに混乱状態だろう。

シルフィの怒涛のプレゼンに脳ミソがキャパオーバーしてしまった感じだ。

「今日は突然来たのに会いに来てくれてありがとう。また明日もよろしくね」

妖精は言葉も発せずにグルグル目のまま頷いて虹色の玉に消えていった。

ちょうどいいタイミングだったのか、妖精が魔力で維持していたのか、向こうからも閉じられるのか分からないが、妖精が帰ると同時に虹色の玉がゆっくりと形を失い消えていった。

「シルフィ、あれで良かったの? たぶんこちらの話をほとんど理解できていないと思うよ?」

ついでに楽園の良さはアピールしていたけど、誘致に関しては言葉にすらしていない。目的の半分、いや、三分の一も達成できていない気がする。

「良くはないけど、とりあえず明日に繋がったことに満足するしかないわ。妖精が精霊との関係を覚えていなかったのが予想外だったわね」

シルフィの計算には妖精と精霊の関係も計算に含まれていたのか。

子供の頃にとても仲が良かった友人。時が経って大人になり、久々に会って、騙すつもりもなくお互いにとって良い提案をしようとしたら、相手がほとんどこちらのことを覚えていなかった! みたいな感じか?

地味にショックな出来事だが、妖精の場合は世代交代が何度か起こっている様子だから、祖父母の友達がいきなり遊びに来た、くらいの反応になるのではなかろうか。それは戸惑う。

「じゃあ本番は明日ってこと?」

「いえ、今の様子だと明日明後日ではどうにもならないわ。楽園が安全なことを理解してもらって、徐々に警戒心を解いてもらう。誘致の話はその後ね」

「そうですね、その方が良さそうです」

「うむ、こちらをチラリと見た後は一切視線を向けんかった。かなり警戒しておると考えた方が良いじゃろう」

「そうだね、急ぎ過ぎると二度と姿を現さない可能性がある程度には警戒していたね」

妖精が帰ると、一切口を挟まなかったドリー、ノモス、ヴィータも会話に参加する。

警戒していたのはノモスの仏頂面に対してじゃないのかと思ったが、ドリーとヴィータも含まれているのであれば、俺の考えすぎなのかもしれない。

「でも、ようせいさんかわいかった。キッカもおともだちになれるかな?」

キッカが珍しく大きな声で質問してくる。

顔だけしか見えなかったが、人形が動いているようなものなので、幼女の琴線に触れたのかもしれない。

楽園にも沢山精霊が遊びに来て、キッカとも遊んでくれる子達が居るのだけど、その子達との反応とは少し違うな。顔しか見えていなかったけど、人形サイズが幼女心をくすぐるのかもしれない。

「そうだな、ひとがこわいみたいだからすぐにはむずかしいかもしれないけど、キッカがやさしくすればきっと友だちになれる。おれもきょうりょくするからだいじょうぶだ!」

おお、普段からマルコはキッカを大切にしているが、今日は特にお兄ちゃんっぽいな。マルコもグロウを気にしていた様子だったし、キッカの気持ちが深い部分まで理解できたのかもしれない。

これはなんとしても妖精の誘致を成功させて、キッカに妖精のお友達を作ってあげなくては……ジーナとサラも同じ気持ちだったようで、三人で視線を合わせて頷きあう。

予定とは全然違う結果になってしまったが、悪くない聖域訪問になった。戻ったら頑張って接待の準備をしよう。