軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

七百四十八話 お説教か?

お城の秘密の部屋と食料保存庫で伝説レベルのお酒を発見し、王様達の度肝を抜いた。そこから伝説レベルのお酒、妖精の花蜜酒を巡るタフな交渉が始まるかと思いきや、王様が譲歩してくれて要求をそのまま受け入れてくれたうえに、写本だがお城の蔵書まで提供してくれることになった。

「ふいーー、さすがに少し疲れたよ」

宿に戻りベッドに倒れ込んで愚痴を呟く。

ジーナ達もベル達も今はお出かけ中で一人なので、多少だらしない格好をしても俺の威厳は下がらない。

「裕太、出して!」

シルフィが予想通りの要求をしてくる。

「出しても良いけど飲まないよね?」

「飲むわよ!」

一瞬の躊躇もなく断言するシルフィ。

「他の大精霊達が怒らない?」

俺は絶対に怒ると思う。普段は寛大な大精霊だが、お酒に関しては冗談が通用しない。正直、どの大精霊が怒っても怖いのだが、万が一ドリーとヴィータが怒ったら俺は耐えられる気がしない。チビる。

「……間違いなく怒るわね。でも、一つくらいなら大丈夫よ。私が探して手に入れたんだもの」

いや、俺もそれなりに苦労したからね?

「シルフィが逆の立場だとして、貴重な妖精の花蜜酒だけど、私が探したから先に一つ頂いたわって言われて納得できる? あと、その一つを飲み干した後に素直に止められる?」

「無理ね」

どっちが無理なんだろう? 納得できる方か、素直に一つで止める方か、または両方か……。

「じゃあ他の大精霊を全員召喚しましょう。みんなで呑めば問題ないでしょ?」

「問題しかないよ。シルフィ達の姿は見えなくても酒樽は見えるんだから、何かの拍子で見られたら問題になるよ。そんなの気にしながら飲むのは妖精の花蜜酒に申し訳ないと思わない?」

正直、今のシルフィのテンションを見ていると、警戒がおざなりになる危険性がとても高く思う。

嫌だぞ、王都であの精霊術師、宿で一人でバカみたいに酒樽を空にしていたなんて噂が立つの。あ、でもミスリルの容器だから酒樽とはバレないのか?

「申し訳なくまでは思わないけど、確かに環境としては楽園には劣るわね」

「そうだよ、ここだと制限があるけど、楽園ならおつまみだって氷だってなんだって出し放題だよ。あと、俺も宝探しに参加したんだから、妖精の花蜜酒二個と劣化妖精の花蜜酒一個は俺の物にするからね」

「え? 裕太はそんなに呑まないでしょ?」

「呑まないけど俺が受け取ったお酒なのに持っていなかったら、貴重なお酒を一瞬で溶かしたバカになるよね?」

公で手に入れた物だから、情報が拡散しないとは限らない。貴重な物だから、何かしら交渉を持ちかけられることもあるかもしれない。

そんな時に、全部呑んじゃいました、てへっって言うの?

俺だって恥という概念を装備しているんだ。保険は掛けておきたい。

「お酒は呑んでこそでしょ」

裕太は何を言っているのかしら? という顔をしてシルフィが言う。こちらのセリフだ。

あと、お酒にはコレクションの役割もある。地球のお酒はよっぽどのことがない限り放出しない覚悟だ。

それに、薬やアイテムの性能をアップさせるという効果もバカにはできない。何かの折に妖精の花蜜酒が必要になるかもしれないから、死蔵することになったとしてもシルフィ達に呑みつくさせる訳にはいかない。

「貴重な物は後世に伝える責任もあるんだよ」

たぶんだけどね。後世に伝えるべきものなんてこの世界に来るまで一つも持っていなかったから分からない。

まあ、今は魔法の鞄の中に国宝級の逸品がゴロゴロしているのだけど。楽園に博物館も造るか?

あ、でも、お酒は飾れないな。

精霊が強盗をするとは思わないが、飾っているお酒の前で立ち止まってピクリとも動かなくなるような気がする。

ただ、博物館は悪くない。展示品をちゃんと管理できる状況が整うことが最低条件だけど、図書館と博物館がある村とかカッコよすぎるだろう。美術館も造っちゃうか?

「伝えるなら一個あれば十分よね?」

「何事にも予備は必要なの」

まあ、博物館も美術館もここを乗り切ってからの話だな。シルフィに押されて妖精の花蜜酒を全部失えば、博物館が完成した時の収蔵品が一つ減ってしまう。

……お酒の錬金箱があれば、妖精の花蜜酒って作れるのかな?

……この疑問は表に出してはいけない疑問な気がする。ひっそりと胸に秘めておこう。

***

王様との交渉を終えた翌朝、俺達はフィオリーナが活動している村にやってきた。

前回、しばらくこれない可能性があるということを村長に説明してからの早期訪問なので少し気まずい。

だが、王都の宿屋でのんびりしていると、マリーさんとソニアさんが襲撃してきそうなので早朝に宿をチェックアウトしたのは悪い選択ではなかったと思っている。

王妃様の女官さんにドナドナされていった二人は確実にマッサージチェアの説明をすることになるだろうし、そうなったら絶対に厄介事を抱えて戻ってくるに決まっている。

あと、昨晩はなんとかシルフィとの攻防に勝利して妖精の花蜜酒を守り抜いたけど、その代償としてシルフィの機嫌がそれなりに悪い。

早く楽園に戻って妖精の花蜜酒で宴会を開かないと、頼りのシルフィさんにそっぽを向かれてしまう。それは俺にとって死活問題だ。

大げさかもしれないが、精霊相手だとお酒問題は数代祟られそうなので誠実に対応するべきだと俺は思っている。

まあ、その代償として俺は若干眠い。夜中まで全力で抵抗したからな。

弟子達やベル達は元気いっぱいだが、まあ、あれだ、みんなまだ子供だからね。

ジーナも大人に近づいてはいるが、朝寝坊の至福を知らない間はまだまだ大人だと認める訳にはいかないな。大人は基本、朝が辛い生き物なんだ。

くだらないことを考えながら村に向かう。

「おはようございます。フィオリーナ達は居ますかね?」

いつもの訪問と比べると早い時間なので、顔なじみになった村の門番にフィオリーナが来ているか聞く。

「おお、おはようございます、裕太さん。皆さんもおはようございます。今日は早いですね。フィオリーナさんはすでにいらして働いていますよ。あの方はいつも夜が明ける頃にはいらっしゃいます」

門番さんがフィオリーナの出勤を教えてくれるが、夜明け頃に来るってことは起きるのは夜明け前ってことだよな?

工期を切っている訳ではないのだが、フィオリーナにどこかでプレッシャーを掛けてしまって急がせているのかも。

工事現場なんて焦ると事故の可能性に直結する場所なんだから、それは不味いぞ。ブラック労働、絶対にダメ。

あと、門番さん、ジーナ達にも挨拶をして、返事をもらってにこにこしているけど、実はその倍の人数から朝の挨拶を返されているんだよね。

ベル達もフクちゃん達も、自分達が皆さんに含まれていると信じているから、元気いっぱいに挨拶している姿がとても可愛らしい。

門番さんにもその可愛らしい姿を見せてあげたいくらいだが、まあ、それは不可能なので俺だけでホッコリすることにしよう。

門番さん達に頭を下げて、村の中に入り飯場に、いや、もう作業をしているんだから現場に直接向かうか。

現場に向かうと門番さんの言葉通り既に工事が始まっていた。

親しい人が居るとワチャワチャと飛びついていく家の子達だが、工事現場でははしゃいだら危険と知っているので大人しくしてくれる賢い子達だ。

「フィオリーナ!」

手が空いていそうだったので呼びかけると、こちらを向いたフィオリーナが〝お師匠様〟と笑顔で走ってきた。何かとは言わないが、とても揺れている。

「お師匠様、今日はどうされたんですか?」

笑顔のフィオリーナとテクトが俺達の前に立つ。もう大丈夫だろうとマルコとキッカ、そしてベル達とフクちゃん達がフィオリーナとテクトに突撃する。

みんな仲が良くて何よりだ。

「お師匠様、それで今日はどうされたんですか?」

一通り挨拶が終わり会話を仕切り直す。

「うん、王都に来る用事があったから顔を出したんだけどね―――」

挨拶だけのつもりだったが、問題を発見したからちょっと話を詰めようと思う。アレだよ、お説教に突入しちゃうかもしれないから覚悟してね。

「え? そうなの? でも、俺と修行している時はもっと遅かったよね?」

「それはお師匠様に送って頂いていたので、それに合わせてシフトを組んでいました」

「あ、そうなんだ」

お説教タイムかと覚悟していたのだが、朝一から仕事が始まるのは普通のことだったらしい。

理由は、朝の涼しい時間帯の方が働きやすいからだ。とても納得できる理由だ。修行中の時がイレギュラーだったんだね。

「無理して早朝から働いているんだと思ったんだ。勘違いしてごめんね」

「いえ、構いませんよ。仕事が楽しくて、残業しようとして怒られていますから、お師匠様の心配もあながち間違ってはいません」

謝るとフィオリーナから自主残業の暴露が飛んできた。周囲が止めてくれているようだから安心だが、俺からも注意しておこう。

「そんなに仕事が楽しいの?」

「はい! 余計なちょっかいがなくて全力で仕事に集中できるのがこんなに幸せだとは思いませんでした。あと、テクトが凄く協力してくれて思い通りに仕事が進むんです。体力が許すのであればずっと働いていたいくらいです」

フィオリーナがポジティブな社畜みたいなことを言いだした。

テクトが関わる内容のところだけ小声にしてくれたのでそれなりに冷静なようだが、逆に言えば大真面目に社畜な発言をしていることになる。

危険な気もするが、ハンマー商会の嫌がらせがなくなり、テクトによって仕事に技術革新が行われた結果だと思えば、楽しくなるのもしょうがない気がする。

これは残業しないことだけ念押ししておいて様子見かな。ある程度仕事熱が満足すればちょうどいい精神状態に落ち着くだろう。

***

「え? 裕太さん、チェックアウトしちゃったんですか? どこに、どこに行くか聞いていますか?」

裕太がフィオリーナと話している頃、とある宿屋にマリーの絶叫が響き渡っていた。

「ソニア、不味いです。裕太さんがどこかに行ってしまいました」

「不味いですね。マッサージチェアは王妃様に大層喜んでいただけましたが、扱いが難しくて気軽にサロンで公開できないとのこと、裕太さんに代わりの目玉になるような何かを教えていただければと思っているのですが……」

「困りました。サロン開催まであまり時間がありません」

「そうですマリー。裕太さんのことですから、王都に顔を出してフィオリーナさんのところに顔を出さないという選択肢はないはずです」

「なるほど、ソニア、すぐに馬車の準備を! 必ず裕太さんを捕まえますよ!」

裕太の知らないところで裕太は二匹の貪欲な狼に追われる身となっていた。