軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

七百三十九話 意外な提案と駆け引き

マリーさんとの交渉。コンプライアンスに問題がある発言が多々あったし、まだ未使用なマッサージチェアを失うことになったが目途はついた。後は今後のことを考えてマリーさんをできる限り虐めるだけだ。別にアレだよ? ベル達に教育に悪い言葉を教えた復讐じゃないよ?

「身も心も金銭でも駄目となると……えーっと、裕太さんの方から報酬に何が欲しいとかそういうリクエストはありませんか?」

マリーさんがおそるおそると言った様子で質問してくる。

「残念ですが今は特にこれが欲しいという品物はありませんね。というか欲しい物は大体手に入れていますしマリーさんにお願いしています」

お酒とか本とかは注文済みだ。まあ、お酒に関しては俺が欲しいというよりも大精霊達の為の注文だが。

「冒険者である裕太さんに上質な装備はいかがでしょう?」

「迷宮産の最高峰装備以上の物を用意していただけるんですか?」

「うっ、無理です」

そもそも俺は装備に拘りがない。シルフィ達に頼めば攻撃は通らないし、立派な装備を手に入れても肝心な場面ではベル達が自然の鎧を推してくるから活用する場面が少ない。

あと、そこら辺の高級装備でマッサージチェアと並ぶと思ってもらっては困る。

「で、では、ポルリウス商会で確保している王都や迷宮都市の物件はいかがですか? 両方とも一等地の自信がある物件です」

おふ、都会の一等地を出してきたか。その響きだけで一瞬心が揺れてしまった。だが……。

「王都も迷宮都市も滞在期間が短いので物件を所有してもほとんど利用価値がありません」

賃貸しにして不労所得に憧れないこともないが、不労所得が必要ないほどの財産があるから良く考えたらそこまで魅力を感じない。

そもそも王都に物件を所有したら、なにかしら柵が生まれそうだよね。迷宮都市の方は割と滞在しているけど、トルクさんの宿屋は居心地がいいのでわざわざ物件を所有する意味は薄い。

あと、簡単には頷かないという俺の意地もある。簡単に掌で転がされたらマリーさんに舐められるからな。

「うう……裕太さん厳しいです……」

熾烈な戦いだったが、なんとか勝利した。

悩みながらも色々と報酬を提示してくるマリーさんだが一番危なかったのは、王都と迷宮都市の歓楽街の紹介状。

ベリルの最高級のお店もある意味では紹介制みたいなお店なのだが、マリーさんが提示したのはお金持ちが秘かに楽しむ会員制&紹介制のお店。

一瞬某侯爵子息、まあ、ガッリ子爵なんだけど、あの集団がしていた危ない遊び関係かと疑ったが、そういうのとは違う健全? な秘密のお店への入場チケット。

心が荒波に翻弄される小舟のごとく揺れ動いたのは仕方がないことだと思う。

あまりの誘惑に、全然そんなのに興味なんてないんだからね! と、ツンデレのごとく断わってしまったくらいだ。

その紹介状がホームの迷宮都市や近場の王都ではなく他国だったら危なかった。世間体が自制心を強化してくれなければ負けていたかもしれない。

だが俺は負けなかった。

「もう提示できる報酬はないのですか? そうなると俺としても目玉になる品を出す訳にはいかなくなりますね」

ふはははは、シュンとするマリーさんを見るのはとても気分が……あれ? なんだかマリーさんをいじめるのが楽しくて否定しまくっていたが、最終的に合格してくれないと王様に対しての申し訳が立たなくなるのでは?

マリーさん、頑張って!

ここからの俺は優しいから頑張って!

俺の願いもむなしく、マリーさんはうんうんと唸りながら動かない。

調子に乗って逆にピンチになってしまった。

「お話し中に失礼します。マリー、悩む前に品物の確認をさせていただいた方が良いのでは?」

ソニアさんが話に割って入ってきて、現状を動かすアイデアを出してくれた。そういえば後で見せるって言って忘れていたな。

「そうでした、裕太さん、王妃様に献上する品物の確認をさせてください」

「仕方がありませんね」

内心ではホッとしながらも上からの立場を維持する様に許可を出す。こういう細かい力関係が大切なんだ。

マリーさんは喉元過ぎれば熱さ忘れるというか、利益を目前にすれば溶岩でも呑み込むタイプだが、それだけ貪欲だからこそ、俺がちょっと機嫌を損ねていることを理解している……はず。

これで次から気軽に面倒事を持ってこないように……なればいいなー。

儚い願望を胸に自信のマッサージチェアを魔法の鞄から取り出す。

「……裕太さん、王妃様に拷問器具を献上するのはちょっと……」

ぶっ殺すよ?

***

「さて、結論を聞かせていただきましょうか」

至高の癒し場の応接室でマリーさんとソニアさんと対面し回答を促す。

俺のマッサージチェアを侮辱したマリーさんに懇切丁寧にマッサージチェアの素晴らしさを説明し、しっかりと理解させた。

ただ、その説明が長すぎたのでその後は解散、交渉は翌日に持ち越しとなった。

自分に都合が悪くなるとはいえ、ハンパな回答では俺のお気に入りのマッサージチェアを渡すことはできないよ?

「むふふ、裕太さん覚悟してください。このマリー、裕太さんが拒否できない回答を用意しました。まあ、裕太さん自身で回答を満たすことは可能だと思いますが、裕太さんの性格的に私の提案を受け入れるはずです。そう、たとえこの世界で初めての魔道具が対価になるとはいえです!」

マリーさんのドヤ顔がウザい。昨晩まで結構シュンとしていたはずなのに、どういう性格をしているのだろう?

ただ、マッサージチェアに関しては高評価。

世界で初めて発見された可能性が高い魔道具ということと、その性能の素晴らしさに興奮していた。

まあ、性能といっても全身のコリが解されるのと回復魔法的な効果が体の隅々まで浸透することだけなんだけどね。

コアにマッサージチェアのリクエストをしている時、最初は地球の最高峰のマッサージチェアを再現しようとしていた。

俺は仕事の合間の休憩に電気店のマッサージチェアに座りに行くほどのマッサージチェア通。かなりの拘りをもってリクエストをしたのだが、それが完成に近づいた時に俺は思った。

ここ、ファンタジーな世界なんだし、魔道具なんだからファンタジーな機能も追加できるんじゃね? と。

コアに確認したら追加できるとのこと、そうなったら地球のマッサージチェアとファンタジーを融合させなければ真のマッサージチェア通とは言えない。

最初はとんでも効果な機能を付けようと考えたが、それではマッサージチェアとはいえず、マッサージチェアに似た何かでないことに気が付き、マッサージチェアのアイデンティティを極限まで伸ばす方向に計画をシフトした。

そして完成したのが究極ともいえるマッサージチェア。

ちょっとやり過ぎた感があり、回復効果がコリを癒すどころか内臓の隅々までいきわたり、病気は範囲外とはいえ怪我に関しては細胞の損傷にすら対応できるレベルに……つまり、不老は無理だが寿命は確実に伸びる。ヴィータのお墨付きだから間違いない。

まあ、王妃様に献上となると、美容効果も考えておけば良かった気もするが、細胞が修復されるのに肌のダメージが修復されない訳がないので問題ないだろう。

ふふふ、魔道具というかもはや神器レベル、これをお酒と交換しようとしている俺は確実に馬鹿なのだが、まあ、その辺りは王様に苦労を掛ける代償と認識しているから構わない。

そんな神器ともいえるマッサージチェアに釣り合う品だと? よかろう、厳しく審査してくれる。

この宿の名前と同じく某漫画で至高を目指す芸術家の男レベルで厳しく審査してやる。泣いても知らないからな。

「聞かせていただきましょう」

気合を入れてマリーさんに回答を促す。

「迷宮都市にですが、精霊術師ギルドを開設します」

ん? どういうこと?

ドヤ顔のマリーさんに詳しく話を聞くと、色々と腑に落ちた。

まずこの国では精霊術師ギルドはすでに消滅状態。他国でもローゾフィア王国等の精霊術師に関りが深い国以外はほぼ活動休止中。

冒険者ギルドに商業ギルド、鍛冶師ギルドに料理ギルド、たぶん魔術関連のギルドもあるのだろう。でも、精霊術師ギルドはほぼ消滅状態。魔術関連ギルドの一部門にも精霊術は含まれていないらしい。

そんな悲しい状態の精霊術師ギルド。

それをマリーさんが迷宮都市限定とはいえ復活させてくれるとのこと。

箱物からギルド職員、開設に必要な手続きにいたるまで全部ポルリウス商会もち。しかもポルリウス商会が財政危機に陥らないかぎり経営を続けてくれるとのこと。

これは確かに断り辛い。

マリーさんは俺の思考を考え、欲望を満たすよりも目的を達成させる方が効果的だと考えたのだろう。精霊術師の立場向上を願っていることも知られているしね。

マリーさんの言うとおり、自分でやろうと思えばできなくはない。できなくはない……が、資金はともかく運営の手間と責任が怖い。

精霊術師の立場向上を考えると、受け入れざるを得ないのか?

マリーさんのドヤ顔を見ると、理屈では受け入れるべきだと分かっていても拒否したくなる。

しかも、マリーさんにとってはそれほど悪い話ではないところが憎らしい。

箱物と人件費等で確かに費用は掛かるが、迷宮都市の精霊術師は割と受け入れられ始めている。そこに影響力を持つというのはそれなりに利益に繋がる可能性はある。

それくらいの計算は確実にしているだろう。

「……………………分かりました、受け入れ……アレ? 精霊術師ギルドの復活なら、別にマリーさんに頼まなくても、献上品を対価に王様と王妃様にお願いすればいいのでは?」

それなら下手をしたら国中の精霊術師ギルドが復活するかも。いや、さすがにそこまで迷惑を掛けるのは申し訳ない。まずは迷宮都市でお願いしたいところだ。

「ズルです。裕太さん、それはズルです。私達が一生懸命考えた回答なのに、それを他に回すのは道義にもとりますよ!」

俺の呟きにマリーさんが過剰に反応する。

「でも、後ろ盾は強い方が安心ですよね?」

王様が後ろ盾とか、この国の中なら無敵だろ。

「でもそうなると貴族も経営に噛んでくることになりますよ。それは良くありません」

……あー貴族かー。俺が噛んでいるのにそんな馬鹿なことをと思わなくもないが、貴族となると理屈が通用しない可能性がある。

無責任に放置したら最初はともかく時間経過で好き勝手やりはじめそう、というか確実にやる気がする。それならポルリウス商会に任せた方がマシか。だが、すぐにその方向で受け入れたらマリーさんが調子に乗る。

明日の王様との面会前くらいまで悩むふりをして焦らしまくることにするか。なんか悔しいし。