軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

七百三十二話 流行の最先端

マリーさんの雑貨屋で商品の売買ついでに弟子達のファッションについて相談すると、良さ気なお店を紹介してくれた。しかも俺が店に到着する前に手を回してくれていたらしく、約二十店舗の服飾店の精鋭が集まるセレクトショップの走りのような手回しを……なんか凄いことになっている。

「いかがでしょうか?」

俺の相手をしてくれている店員さんと話していると、マルコが別の店員さんに連れられて戻ってきた。

こういう場面でも男の方が買い物の時間が短いのかと変なところで感心していたが、マルコの表情を見てその感心も吹き飛んだ。

あれだ、まだ子供なのに連休中に頑張って子供の相手をして限界を迎えてしまったお父さんのような顔をしている。

いわゆる虚無顔というやつだ。

大変だったんだねマルコ、なんかごめん。

「いかがでしょうか?」

聞こえていなかったと判断したのか、店員さんが言葉を繰り返す。そうだった、服を買いにきたのだから服に注目しないとな。

えーっと……俺のファッションセンスでは断言できないが、大正ロマンの次、昭和初期あたりのお坊ちゃまが居るようにみえる。

清潔感のある白シャツに紺の蝶ネクタイ、下はチェック柄の半ズボン、それをサスペンダーで吊るしている。

靴は革靴。シンプルな形で色は黒、光沢があり上品でハイソな印象を受ける。

白黒の映画に出てくる良いところの御子息的なファッション。似合ってはいる。とても似合ってはいる。

気温が高いこの大陸だから薄手の白シャツなのだろうが、肌寒い場所ならベストとかカーデガンとかが組み合わされそうだ。

これはアレだな、精霊の村の為に祝福の地の建物を参考にしに行った時と似たパターン。

この世界では流行の最先端でも地球のファッションで考えると古いってやつだ。

ただ……元が良いからとても良く似合っている。

マルコが虚無顔をしていなかったら、少しヤンチャで自信にあふれたお坊ちゃんが俺の目の前に姿を現していたはずだ。

顔が良いとなんでも似合う、そんな理不尽な言葉を俺は思い出した。

「うん、マルコ、とても良く似合っているよ」

俺がマルコに声をかけると、その声に反応したのかマルコが俺の顔を見る。その瞳に映るのは無……店の奥の更衣室で何が行われたのか不安になってくる顔だ。

まさか店員の中に重度のショタコンが紛れ込んでいて犯罪行為が……いや、さすがにシルフィがそんな行為を見逃すはずがないし、ウリだって契約者のピンチを黙って見ている訳がない。

ウリはまったりとマルコの頭の上で寝そべっているし、純粋にファッション的なあれやこれやで虚無顔にまで追い込まれたってことだろう。それはそれで怖いが、自分のコーディネートを頼まなかったことをホッとしている自分が居る。

薄情な師匠でごめんね。でも、次からちょっと良さ気な場所に出かける時に恥を掻くことがなくなるから勘弁してほしい。

「と、とりあえず、疲れているみたいだからゆっくり休むといい」

自分の隣にマルコを誘導して椅子に座らせる。店員さんに温かいお茶を用意してもらおう。いや、ミルクティーがいいな。こういう時は甘くてホッとする味が心と体の疲れを癒してくれるはず。

紅茶の葉とミルクと砂糖を提供し、ミルクティーをお願いする。

「アレ? そういえばシッポの穴はどうしたんですか?」

さすがに見本品で尻尾の穴を開けているものがあるとは考え辛い。でも、マルコを椅子に誘導した時に見えたお尻には違和感がなかったはずだ。

「はい、私が裁縫のスキルを持っていますので、位置をしっかり確認してその場で仕上げました」

マルコを連れてきてくれた店員さんが満足顔でそう述べる。

店員さんの位置確認という言葉にマルコが少しビクッとする。なるほどシッポの位置までしっかり確認されちゃったのか。虚無顔の理由が少し垣間見えた気がする。

とりあえずゆっくり休むといいよ。

憔悴したマルコに温かいミルクティーを飲ませたり甘いものを口に突っ込んだりしていると、ようやく店内に動きがあった。

マルコが戻ってきてからそれなりの時間が経過しているので、やはり女性は男性よりも着飾る部分が多いのだろう。

「おにいちゃん、おししょうさま!」

戻ってきたのはキッカ。

長時間の衣装選びで疲労もあるはずなのだが、キッカの表情に曇りはない。引っ込み思案なキッカが俺達から離れてこの明るさは凄いな。

男性と比べると女性の方がファッションに興味を持ちやすいと聞いたことがあるし、幼くてもキッカも女性だということかな?

あと、おそらくだが子供を相手にするプロフェッショナルな店員さんが面倒をみてくれたということもあるのだろう。

さすが各店舗から選び抜かれた精鋭だ、ある意味では難しい性格といえるキッカの表情をここまで輝かせるとは。

「キッカ、よくにあっているぞ!」

変なところに感心していると、隣から大きくキッカを褒める声が聞こえた。先程まで虚無顔を晒していたマルコだ。

さすがお兄ちゃん。自分のことには耐えられなくても妹のこととなるとその疲労さえ吹き飛ばしてしまうらしい。

おっと、まて変なところに感心していないで、今はファッションチェックのお時間だ。

えーっと、キッカのコーディネートは……ふわっ、かわゆい……。

これは凄いな。

青と白の大きめな水玉柄の、裾がふんわり広がっているタイプのワンピース。腰元には大きなリボン、足元は先が丸まったタイプの光沢がある黒の革靴、そして白のフリルが付いた靴下。

赤の革靴とかでも似合いそうに思うが、そこらへんはプロの判断が正しいのだろう。

小さくて可愛らしいキッカがお洒落をして、そこに狼のお耳とふわふわな尻尾がデフォルト装備されているのだから可愛いを通り越して……凄く可愛いに決まっている。

いかん、自分の語彙力のなさにビックリするな。でも可愛い。

「キッカ、とても可愛らしくて良く似合っているよ」

「……おししょうさま、ありがと」

ジロジロと見過ぎたからかキッカは久しぶりに俺に対する引っ込み思案が発動したようで、少しマルコの影に隠れながらはにかみつつお礼を言ってくれた。

なるほど……これが父性か。

世のお父さん方が娘を嫁に出したくない気持ちがとてもよく分かる。アレ? 前にも似たようなことを思った気がする。もう完全にお父さん気分だな。

最初は面倒をみて精霊術師の評判を上げてもらうだけのつもりだったのに、ドンドン深みにはまっている気がする。

これ、弟子達が独り立ちする時、耐えられるのか? 酷く不安になってきた。

「あの、何かご不快な点がございましたか?」

一人で勝手に未来に怯えているとそれが表情に出てしまっていたのか、店員さんが不安気に聞いてきた。

「いえ、素晴らしいコーディネートだと思います。大満足ですよ」

コーディネートについては本当に大満足だ。師匠である俺も、弟子であるキッカも大満足なのだから百点満点と考えていいだろう。

それにしても……衣装って大切なんだな。

社会人としてその大切さをある程度理解していたが、こういうファンタジーな世界でもマルコとキッカを見ているとその大切さが強く分かる。

戯れながらお互いに褒めあっている二人を見ると、まるで平穏で幸せな日常の一コマ。

ここに大きな犬が一緒だったら、昔の幸せの定番イメージだっただろう。まあ、居るのはウリ坊とマメフクロウなのだけどね。これはこれでとても可愛いからOKではある。

そしてマルコ、先程まで虚無顔だったのに、可愛らしい妹の姿に疲れを忘れたかのように満面の笑みになっている。もしかしたら可愛らしい妹にはビタミン的な栄養素が含まれているのかもしれない。

「かわいー」「キュー」「きれい」「くぅー」「なかなかやるな!」「……」

そしてそんな二人を囲んで興味津々な様子のベル達。もしかしてベル達までファッションに目覚めた?

……着られるのであれば俺の全財産をもちいても用意する所存ではあるが、はたして精霊が着ることができる服とか存在するのだろうか?

……あとでシルフィに聞いてみるか。

そんなことを考えていると、奥からサラが戻ってきた。

「サラおねえちゃんきれー」

「うん、すごいな!」

俺が声をかける前にマルコとキッカが感想を口に出す。俺から見ると可愛くて綺麗という感想になるが、年下のマルコ達からすると、確かに大人っぽく見えるコーディネートかもしれない。

サラが着ている服は濃い目のブラウンのワンピース。それだけだと地味に思えるが、エリと袖の先が白になっていて、清潔感と同時に少しの華やかさを感じさせてくれる。

ふむ、それでも店員さんが最初にお勧めする服としては地味目であることには変わりがない。

おそらくサラが自分でそう望んだのだろう。サラは装備とかでも地味目のを好む印象があるから間違いないと思う。

ただ、そんなサラの意見を踏まえた上で、大人っぽく可愛らしく仕上げてきた店員さんの腕には脱帽だ。

足元は少しヒールが高いサンダル。なんと言ったらいいのか分からないが、革紐で足首を縛るような感じのお洒落なサンダル。あるのかどうかは知らないがハイヒールが選択されていないところに拘りを感じる。

たぶん、サラくらいの年齢だとハイヒールよりもサンダルの方がマッチするのだろう。

そして小物。

マルコはサスペンダーと蝶ネクタイ、キッカはリボンだったが、サラの場合は余分な装飾が無駄と判断されたのか、左手の手首にシンプルな銀色のブレスレットが付けられているだけだ。

サラに可愛らしい装飾品を、という目的で今回の店を訪れたのだが、これはこれでアリだな。

「サラ、良く似合っているよ。今度その姿でヴィクトーさんのところに遊びに行こうね」

「あ、ありがとうございます、お師匠様」

キッカと同様に少しはにかむようにお礼を言ってくれるサラ。お兄さんにお洒落した姿を見せるのが恥ずかしいのかもしれない。でも、ヴィクトーさんも喜ぶはずだ。

うん、良い服屋を紹介してもらったな。今の迷宮都市の流行はレトロなガーリーって感じのようだけど、それがサラ達には良く似合うからタイミングも良かったな。

ワイワイとサラ、マルコ、キッカを褒めながら待機しているがジーナがいっこうに出てこない。何か問題でも起きたのか?

「あの、ジーナ、最後の一人はどうなっていますか?」

俺が店員さんに確認すると、店員さんが聞きに行ってくれた。そして少し困った顔で戻ってくる店員さん。

「あの、お客様は素晴らしいプロポーションをお持ちなのですが、その、綺麗な服を着るのが恥ずかしいとのことで、なかなか服が決まらない様子で、申し訳ありません」

……あー、あれか、お洒落に無頓着な人が陥る、お洒落にものおじしてしまう現象。

俺もどちらかと言うとそちらのタイプなので気持ちはよく分かる。これは、長くなるかもな。