軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

七百三十一話 恐るべしポルリウス商会

ハンモックの量産を頼むついでに色々と気になっている部分を確認しておこうと早めに迷宮都市を訪問したのだが、到着してトルクさんの宿にチェックインしただけで気になる要素が追加されてしまった。今回の訪問が平穏に終わるか少し不安になってきた。

「ふぅ……とりあえずハンモックの量産はお願いできたし、今回の一番の目的は済ませることができた」

できたのだが……不安が増加して心が重い。

朝食を済ませてマリーさんの雑貨屋に注文に来たのだが、二人とも王都に滞在していて不在だった。

注文は従業員がスムーズに受け付けてくれて、毎回この調子の方が助かるかもなんて思いもしたのだが、マリーさんどころかソニアさんまで不在の理由を従業員に聞いて心が重くなった。

マリーさん大活躍、忙しくて人手が足りなくなり、ソニアさんが雑貨屋の従業員を引き連れて王都に応援に向かったとのこと。

王都にもポルリウス商会のお店があるし、俺の卸す素材関連で王都の人員を増やしたと世間話ついでに聞いた覚えがある。それなのに人手が足りないって、どれだけ大暴れしているんだろう?

普段なら問題が起ころうがマリーさんの自業自得で済ませられるんだけど、今回の件は俺が巻き込んだ一面もあるから放置し辛いのが嫌だ。

……早めに様子を見に来て正解だったと考えよう。

迷宮都市で用事を済ませたら王様との交渉がてらマリーさんの様子を見て、制止するか他人のフリをするか決めようと思う。

「師匠、どこにいくんだ?」

いつもは向かわない方向に歩き出したからか、ジーナが不思議そうに話しかけてくる。

迷宮都市では行くところが決まっているから、いつも行かない方向に向かうと確かに疑問に思うよね。

迷宮都市訪問前から考えていた、ジーナ達のお洒落計画、俺が商談している間にジーナ達には雑貨を見て回ってもらいコッソリ従業員にお洒落なお店を教えてもらっていた。

あとは、内緒でお店に到着して問答無用で選ばせようという作戦が初手から躓きそうになっている。

「…………あー、ちょっと面白いお店を従業員さんに教えてもらったから行ってみようと思ってね」

別に今回はサプライズを狙ったと言う訳ではなく、弟子達の性格上、事前に相談すると確実に遠慮されるし、説得したとしてもお店で本当に欲しいものよりも無難な物や金銭的に負担が掛からない物を選ぼうという心構えを作りかねないタイプなので、素の反応を引き出すためにできれば内緒にしたいと思っている。

実際、前にメルの服を用意した時には、成長途中に良い服をうんぬんということでジーナ達の服は見送りになったしね。

「へー、基本他人任せな師匠が自分で出向くなんて珍しいな。どんな店なんだ?」

ジーナが地味に俺の心を抉ってくる。

いや、別に偉そうに他人任せにしている訳じゃないんだよ? ただ、何か知らない間に頼めば大抵なんとかなる環境が整っていたから、有り難く利用させてもらっているだけなんだよ。

ちょっと迷宮都市で無茶をしたり恩を売ったりしていただけなのに不思議だよね。まあ善意で動いてくれるのはトルクさん達やメルくらいで、他は利益と恐怖で便宜を図ってくれている感じだけどね。

利益の代表はマリーさん達や料理ギルドで、恐怖の代表は冒険者ギルドかな?

まあ最近は冒険者ギルドも恐怖と言うよりも利益に変化している気がしなくもないけど……リシュリーさんが地味に強いんだ……ギルマスは空気だけど……。

「えーっと、行ってみてのお楽しみということにしておいて」

「ふーん、まあ師匠がそういうのなら楽しみにしておくよ」

いや、そんな、しょうがない師匠だな、どうせサラ達の為なんだろ? 的な顔をサラ達を見ながらしないでほしい。見抜かれ過ぎていて恥ずかしいよ。

あと、いってみてのたのしみーとか言いながら飛び回っているけど、話し合いの席に一緒について来ていたからベル達は話を聞いていたよね。

……まあ、いいか。ベル達に関しては話を理解していなかった可能性もあるし、俺が分かりやすい性格なのは事実だから弟子に色々と見抜かれることを嘆いても時間の無駄だ。

でも、弟子達の為でもあるけど、その弟子にはジーナも含まれているんだけどね。

父親と兄の過保護な悪影響でお洒落に興味がないジーナ、君にも着飾る喜びを教えてあげよう。

教えるのは俺ではなく、そのお店の店員さんがだけど……やっぱり俺、他人任せだな。

***

「いらっしゃいませ。裕太様ですね、お待ちしておりました」

ちょっと高級で、地球で考えるとブランドショップのような雰囲気を漂わせるお店、その雰囲気に気圧されて店の前で戸惑っていると、店員さんが店の中から出てきて迎え入れてくれた。名前付きで。

どういうことだ? 名前が知られている方だという自覚はあるが、初見の店で歓迎されるタイプの名前の売れ方ではないはずだ。自分で推測していて少し悲しくなってきた。

「え、えーっと、はい、ありがとうございます?」

「ああ、申し訳ありません、驚かせてしまいましたか。実はポルリウス商会の方から事前に連絡がありまして楽しみにしていたものですから、本当に失礼しました。ですがご安心ください、しっかり皆様に合う品を選ばせていただきます」

ポルリウス商会……つまり俺が店を聞いた従業員が事前に手を回してくれていたということか。

相談の合間に、ファッションとかよく分からないし、そういうのも含めてなんとかなる店があったらなー、みたいなことを笑いながら言ったけど、俺が本気でそう思っていることを理解して手を回してくれたらしい。

余計なことをなんて思わない。日本のファッションでも流行に追いつけないのに、異世界のファッションなんて未解決の数学問題レベルの難易度だ。

あの従業員さん、優秀だな。たぶんマリーさん達に振り回されている間に色々と磨かれていったのだろう。今度会った時にちゃんとお礼をしよう。

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

マリーさんのところの従業員さんが事前に頼んでいてくれたことを知ってずいぶん気が楽になった。

「では、皆様こちらに、準備はできております」

「え? 師匠?」

「お師匠様?」

「ししょう?」

「キッカもいくの?」

そして連れていかれる弟子達。それぞれにスタッフが付くようで戸惑うジーナ達を流れるように奥に連れて行ってしまう。プロだ。

「お弟子様方のコーディネートと聞いておりますが、裕太様もお選びになりますか?」

残ってくれた最初に俺達を迎え入れてくれた店員さんが質問してくる。

……どうしようか?

んー、今回は良いかな。一張羅は夜遊びの為に仕立てたし、そもそも着飾る機会が他に思いつかない。

あ、王様に会う時に……いや、安全だと分かっていても王様と会う時は高性能な装備で身を固めておきたい。どうせ案内されるのは落とし穴付きの部屋だし、精神的にも高性能な装備の方が強気で対応できるからね。

「今回は大丈夫です。必要になったら購入に来ますので、その時になったらお願いします」

「そうですか、ではその機会をお待ちしております」

少し残念そうな表情を見せた後、休憩スペースのような場所に案内してくれてお茶も出してくれた。

そのまま離れるのかと思った店員さんが向かいの席に座る許可を求められる。どうやらジーナ達の買い物が済むまで相手をしてくれるらしい。

一人にしてくれたらこっそりベル達と戯れて時間を潰すのだが、気を遣ってくれているらしい。ポルリウス商会の紹介だからだろうか? とりあえず許可を出して座ってもらう。この状況で嫌ですとは言えない。

「さっきコーディネートって言っていましたよね? 大人と子供、女性に男の子と性別も年齢もバラバラなのですが、全員のコーディネートできるんですか?」

沈黙は気まずいので先程疑問に思ったことを質問してみる。アクセサリーの類ならともかく、店員さんの言葉のニュアンスは全身のコーディネートを指していたように感じた。

この世界、服は基本オーダーメイドで、庶民は中古が普通な中世世界。都合よく全員をコーディネートできる在庫があるとは思えない。

「ああ、そのことですか。問題ありません、ポルリウス商会の方が手を回してくださり、いくつもの店に声をかけてくださったんです。性別年齢体形も聞いておりますので、それぞれの店から自慢の品を持ち寄ることになっております。最初は戸惑いましたが、私どももこの新しい試みに興奮しております」

…………え? これってもしかしてセレクトショップの初期形態みたいな感じになってない?

というか俺が相談してからそれほど時間が経っていないのに、なんでそんな新形態の準備が整っているの? 少し怖くなってきたんですけど。

なんかとんでもない事態になっている気がしたので店員さんに詳しく話を聞いてみたところ、やはりとんでもないことになっていた。

ポルリウス商会と関係が深い迷宮都市の服飾系の店、約二十店舗が呼びかけに応え集まってくれているらしい。

オーダーメイドが基本な世界といっても、見本やら何やらで服屋にもそれなりの商品が取り揃えられている。

二十の店舗が集まれば四人程度の全身コーディネートなら問題ないとのこと。しかもポルリウス商会から最優先で最上級のおもてなしをとの要請までされているらしい。

つまり、奥の方で戸惑う弟子達の声と同時に、熱心に、それでいて楽しそうに商品を勧める沢山の声が聞こえてくるのだが、おそらくその声の持ち主達は各店舗から派遣された精鋭たちの声なのだろう。

どれだけVIP扱いしているんだよ、馬鹿じゃないの? とも思ったか、ポルリウス商会に及ぼしている利益を考えると、これくらいの扱いも不適切と言えない事実に気づき自分のことなのに若干引いてしまった。

「えー、そのですね、みなさんが誠心誠意取り組んでくださっていることが分かり、それはとても嬉しいのですが、俺達は冒険者なのでお貴族様が身に着けるような服や装飾品では困るんですよね」

着るのは弟子達とはいえ、弟子達に貴族のような恰好をさせる師匠と言うのも勘弁してほしい。

「その辺りの事情もポルリウス商会から聞いておりますので問題ありません。今回持ち寄ったのは裕福な家庭の普段着から晴れ着相当の品ですので、華美すぎるようなことにはならないと考えております」

店員さんが凄く自信満々です。

問題ないと言われても、こんな大袈裟な事態になっている時点で俺的に大問題なのだが……まあ、お貴族様のような服じゃないならいいか。

自分がジーナ達の立場になったら逃げるの確定だけど、弟子達が良い感じに着飾られるなら俺も見てみたい。