軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

七百十八話 急展開

フィオリーナさんに精霊術の実演を見せることになる。因果応報で恥を掻くことになったが、無事に実演を終えて弟子達にバトンを渡した。そのおかげか弟子達の実演は高評価だったようで、フィオリーナさんの感情は良い方向に傾いているように思う。

「それでどうでしたか?」

実演後、再び事務所に戻り落ち着いたところでフィオリーナさんに感想を聞くことにする。

まあ、事務所に戻ってくるまでにも色々とあったんだけどね。

実演後の惨状に女性冒険者達が言葉を失ったり、村の近くで轟音を立てていたから門番さんや村の人達を不安に陥れていたり、地味に迷惑を掛けていた。

訓練でジーナ達の実演は見慣れていたし、大精霊達の規模と比べると未熟としか言えなかったから気にしていなかったが、ジーナ達の精霊術も世間的には十分に強力なのを忘れていた。

改めて考えてみると、ジーナ達って迷宮の最前線で活動できるレベルの冒険者なんだよね。そりゃあ村人もビビるよ。

今後の関係もあるから、かなり真剣に謝った。

そんな回想を思い出している間も、フィオリーナさんは考え込んでいる。

感想を求めている訳であって、結論を求めている訳ではないのだが、もしかしたら誤解させてしまったかもしれない。

「あの、フィオリーナさん、別に今決めなくても良いですからね。弟子になるならないはゆっくり考えて結論を出してください。あ、無論弟子にならなくても仕事はちゃんと継続しますし、嫌がらせなんてせこいことはしないので安心してください」

「あ、いえ、違うのです。精霊術の実演をしていただいて、弟子入りさせていただきたい気持ちはほぼ固まっています。ただ、私に戦うことができるのか……足を引っ張ってしまいそうなのが心配で……」

おお、急展開。もうほとんど気持ちが固まっているらしい。

ただ、戦いに関して不安が拭えないのか。実演も結局戦闘の術を見せる感じだったからな。

もしかしたらフィオリーナさんは命の精霊に好かれるタイプなのかも……いや、警戒心バリ高だから、命の精霊はちょっと難しいか。

命の精霊は心が穏やかな人が好みのようだから、男性不信に陥る前のフィオリーナさんだったらピッタリだったかも。

ちなみに俺が命の精霊と契約できているのは、心が穏やかだからという訳ではなく、シルフィ達の紹介があったからだという認識だ。

言ってみれば、大精霊の保証つきで契約条項を突破した感じだと思っている。

「なんだそんなことか。師匠に任せておけば足を引っ張るなんてことにはならないよ。あたしも戦ったことなんてなかったし、キッカなんてこんなに小さいんだぞ。それでも立派に戦えているんだから、なんとでもなる」

戦いへの恐怖をどう克服してもらおうかと悩んでいたら、ジーナがズバリと切り込んだ。

「そうですね。私もユニスちゃんに迷宮に連れて行ってもらっていましたが、お師匠様に師事するようになってからの方が、安全に戦えるようになったと思います」

「キッカもさいしょはこわかったけど、もうだいじょうぶだよ?」

「そうだぞ、ししょうがいればだいじょうぶだ」

「はい。フィオリーナさんが仲間になってくれたら、私達も一緒に迷宮に潜りますから安心ですよ」

ジーナに続いてメル、そして驚くことにキッカが声をかけ、その後にマルコとサラも説得に加わってくれる。

みんな、俺がフィオリーナさんを仲間にしたいと思っていることに気が付いていて、協力してくれているのかもしれない。とても助かる。

仲が良いメルや年下のジーナ達に励まされたのが利いたのか、フィオリーナさんが強い視線を俺に向けた。

「……裕太さん、私は男性が苦手で戦闘も苦手で足を引っ張ってしまうかもしれませんが、私を弟子として鍛えていただけないでしょうか?」

予想よりも早くフィオリーナさんを弟子にすることに成功した。

まあ、自分の力というよりも、友人のメルと女子供であるジーナ達が問題なく過ごせている様子が決め手になった気がしないでもないが、弟子になってくれるのなら問題はない。

頑張って精霊術師のインフルエンサーになってもらおう。

「任せてください。しっかり戦えて建築にも活かせる精霊術師になれるように協力しますよ」

「ありがとうございます」

「なあ師匠、あのねえちゃんが、なかまになったってことでいいのか?」

「うん、フィオリーナさんが新たに俺の弟子になったから、マルコ達にとっては弟子仲間ということになるね」

「そっか、おれはマルコだ。ねえちゃんよろしくな」

「キッカ、よろしく」

「サラと申します。よろしくお願いします」

「あたしはジーナだ。よろしくな」

「私はフィオリーナと申します。みなさん、よろしくお願いいたします」

マルコの言葉から自己紹介が始まる。

そういえば警戒やらなんやらかんやらで、ちゃんとした自己紹介をしていなかったな。

とりあえず険悪な感じにはならなさそうなので、これからは仲良くやってほしい。

さて、挨拶が終わったら色々と聞かないとな。

今回は俺が注文主とはいえ、下請けが沢山居る工事が進行中なので、メルの時のように集中して鍛えるのは難しい。細かい打ち合わせが必要だ。

「じゃあ、明日からよろしくね」

詳細な打ち合わせが終わり、シルフィの意見を聞きながら訓練メニューを考えた。

フィオリーナさんはほとんど戦ったことがなく、魔力的には契約はできるが魔力の余裕が少ないようなので先にレベル上げをすることに決まった。

それに付き合うために、俺達もしばらく迷宮都市に滞在することになった。

なぜ王都ではなく迷宮都市に滞在するのかというと、王都は政治的に荒れているしマリーさんが狂喜乱舞しながら王都の縄張りを食い荒らしているはずなので、巻き込まれるのを回避するためだ。

俺が王都に滞在していたら、確実に仕事を押し付けられる上にエリックさんを接近させようとするはずだ。

それに加えて、フィオリーナさんのレベル上げも迷宮都市の方が都合が良いからだ。

今日明日はフィオリーナさんは今まで通り王都に戻るが、そこで護衛形態の変更などの準備を済ませてからはフィオリーナさんも迷宮都市で生活し、仕事の時間だけこの村に俺が……というか俺とシルフィが送り迎えする形にした。

俺達もフィオリーナさんも地味に大変だが、精霊術師としての基礎を作るまでの話だから、一ヶ月程度の話だとお互いに納得している。

「はい、お師匠様、これからよろしくお願いします」

妙齢のディーネタイプの美女にお師匠様とか言われると、なんだかとてもいけない気分になるのだが……フィオリーナさんは冗談が通用しない状況なので、真面目に対応しなければならない。

もしかしたらそこが訓練の中で一番大変なのかもしれない。

***

「お師匠様、みなさん、わざわざ出迎えていただいてありがとうございます。今日からよろしくお願いいたします」

フィオリーナさんを村に迎えに行くと、準備万端整えたフィオリーナさんが村の入口で出迎えてくれた。

「はい、これからよろしくね。フィオリーナさんもそんなに堅苦しい話し方をしないで普通にしていいからね。しばらく行動を共にするんだから、普通に接してくれ」

ちょっと緊張するが、弟子になったので堅苦しい話し方はなしにしたい。

「……分かりました。お師匠様も私のことは呼び捨てでお願いします」

「……分かった。えー、フィオリーナ、出発するけど準備はいい?」

「はい、護衛の冒険者の皆さんとは村で合流、解散の仕事形態に変更しましたので、このまま出発しても大丈夫です」

「分かった。じゃあ行こうか」

「あ、はい……あのお師匠様、ずっと疑問だったのですが、迷宮都市と往復するのですよね? どうやって移動するのですか?」

「ん、ああ、説明していなかったね。とりあえず歩きながら話そうか」

いきなり飛んで驚かせようと思っていたが……フィオリーナの性格上、先に説明しておいた方が良いかもな。

現に、人気のない方に歩いていくことで、眉を顰め警戒を始めている。

今回、一人で迎えにこようかと思ったのだが、念のためにジーナ達に一緒に来てもらって正解だった。

精霊が居るとはいえ、二人っきりで人気のないところに向かったらガチで逃げられた可能性がある。

メルも一緒だったらもっと安心させてあげられたのだが、メルは残念ながらお仕事だ。

「それで、移動方法なんだけど、目立たない場所から飛んで迷宮都市に行くんだよ」

「は? 聞き間違いかと思いますが、飛んでいくと聞こえたのですが?」

「聞き間違いじゃないよ。風の上位の精霊と契約すると、空を飛ぶことも可能なんだ」

最低でも中級精霊以上で、自由自在に飛ぶには上級精霊以上が無難らしいけど。

俺の言葉が信じられないのか、ジーナ達に視線を向けるフィオリーナ。

全員が頷くことで嘘ではないことを理解し、動揺するフィオリーナ。

「あ、あの、お師匠様、空を飛んで取り乱さない自信がないのですか?」

その気持ちは理解できる。

「大丈夫、町中を歩くよりも安全だから、すぐに慣れるよ」

シルフィに限ってミスはないから、町中で転んだり人や馬車にぶつかったりなんてアクシデントもないから、安全度で言えばかなりなものだ。

「え、ほんとにほんとですか?」

納得しても受け入れられないらしい。

「もう、飛ぶよ」

人目がないところに到着したのでフィオリーナと会話を重ねるよりも飛んでしまうことにして、シルフィに合図を出す。

「え? え? ほんとに? ほんとに浮いてる?」

「フィオリーナ、暴れないで大丈夫、力を抜いて風に身を任せるんだ」

「そそそ、そんなことを言われても」

気持ちは分かるけど、フィオリーナが暴れるとディーネ並みの母性も一緒に暴れちゃうから、俺の理性とシルフィの理性の限界を試すことになるんだよ。

「おねえちゃん、こうするんだよ」

キッカがフィオリーナにお手本を見せる。キッカはわりとフィオリーナに積極的に絡むな。もしかしてフィオリーナを後輩と認識して面倒をみてあげるつもりなのか?

……それはそれでアリだな。なんだか面白い。