軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

七百十六話 人事を尽くして

メルを連れてフィオリーナさんに会いに行った。最初は女性冒険者にビビられ、フィオリーナさんには警戒されつつ感謝されたが、メルの登場でかなり雰囲気が柔らかくなった。そこでもっと安心してもらうために、メルとフィオリーナさん、二人だけの時間を用意してみた。なんとかフィオリーナさんの警戒心を解いて精霊術師の道に引きずり込みたい。

村や建設現場を見回り、そろそろ良いかと事務所に足を向ける。

視察の結果は悪くなかった。

人が増えたことで活気が出ており、下準備の段階だが木材の加工や地面の均し、様々な作業が行われており、それをベル達やジーナ達が楽しそうに見学している姿にはホッコリした。

村の方では畑で精霊術師講習一号生のお爺さんとも出会い、少しだけ話もした。

お爺さんはサラ達年少組に目を細め、孫に対するように話しかけていた。どこでもお年寄りは子供に甘い。

視察というよりも田舎の散歩を楽しんだだけで終わってしまった気もするが、楽しかったし本題はフィオリーナさんの警戒心を解くことだから構わないだろう。

事務所に戻りドアをノックする。

さて、フィオリーナさんの警戒心は少しくらい薄れてくれたかな?

「あ、えーっと、どうぞお入りください」

ドアを開けて出迎えてくれたのは、俺が見知らぬ女性冒険者。マリーさんが追加で雇ったフィオリーナさんの護衛だろう。

それでも、俺のことを少しは聞いていたようで、ちょっと引き気味に中に迎え入れてくれた。

女性冒険者から伝わってくる感情は拒否や嫌悪というよりも、未知の物に対する恐怖のように思える。

俺のことを他の冒険者から聞いて、対応に迷っているのだろう。これは王都での俺の評判が向上する兆しと捉えていいのだろうか?

まあ王都での評判向上よりも、まずは目前のフィオリーナさんの好感度向上だな。

あれ? 今朝挨拶した時と比べると、俺に向けられている視線に興味の色が浮かんでいる気がする。

もしかしなくても、メルが良い仕事をしてくれたのかもしれない。

「フィオリーナさん、メル、お待たせしました。十分に話せましたか?」

「は、はい、おかげさまで楽しい時間を過ごせました。ありがとうございます」

「私も楽しかったです。ありがとうございます、お師匠様」

美女と可愛らしい少女(成人済み)にお礼を言われるのは嬉しい。

「それなら良かった。ならそろそろお暇しようか」

メルのお陰でフィオリーナさんの警戒がかなり薄れたようだし、ここでグイグイ行くよりも控えめな印象を与えた方が効果的な気がする。

「あ、お師匠様、フィオリーナさんが建築に役に立つ精霊術について聞きたいそうです。構いませんか?」

おお、メルの話術って実は凄いのか? 警戒を緩めてくれるだけではなく、精霊術に興味まで抱かせるなんて。

よし、ならばここで一気に精霊術師の素晴らしさをアピール……いや、駄目だ。今の勢いでいったら、オタクが推しについて熱く語る展開になってしまう。

その熱量は確実に素人を引かせてしまうから、ここは落ち着いて上司にプレゼンをする気持ち……では緊張感が増すな。

保険の外交員が愛想よく保険を勧める感じでプレゼンしてみよう。

「うん、構わないよ」

最初で挫折した。保険の勧誘は受けたことがあるが、あんな流れるようなプレゼンを自分でやろうとしたら、話の入りかたすら分からなかったよ。

「では、フィオリーナさん、お師匠様に質問してみてください」

「あ、はい、あの、精霊術には契約する精霊の属性によってできることが随分違うと聞いたのですが、建築に適した属性というのはどの属性なのでしょう?」

最初は簡単な質問だな。

「やはり土や植物に関係する精霊が適して……ん? でも、風も加工には役に立つし、火だって廃棄物の処理には役に立つ、命の精霊だって現場作業員の怪我の治療や体調管理に役に立つし……あ、水も土壌の水分調整や水圧で木材の加工もできるよね……あれ?」

あと、俺の周囲にいる精霊で考えると、光と闇と雪か。

この辺りは流石に建築関係にそれほど影響を与えない感じかな? いや、光でレーザーとか闇の刃とか氷の刃とかもできそうだな。得意不得意は置いておいて、資材の加工くらいはできる気がする。

「うーん、どの属性でもやり方次第で建築の手助けになるのは間違いないけど、建築として扱いやすい属性は土、風かな?」

フィオリーナさんが精霊と契約することになったら浮遊精霊からだろうし、属性が適しているのはその二種類だと思う。

「メルさんは植物も良いと言っていましたが、それは省かれるんですか?」

「植物は農作業に適しているのですが、建築を手伝ってもらうとなるとかなり高位の精霊と契約が結べないと厳しいですね」

下級精霊のタマモだって大きな木を育てるのは時間がかかるし、そもそも最初から建材に利用目的で育てさせるのは契約した精霊が少し可哀想だ。

「なるほど、簡単に木材を育てて収穫という訳にはいかないのですね」

「うん、それにポルリウス商会に俺が木材を大量に卸したから、しばらく木に困ることはないと思うよ」

卸したのは高級木材が基本だけど、普通の木材とトレードすることも可能だとソニアさんが言っていたから、ポルリウス商会が木材に困る可能性は低いだろう。

「ポルリウス商会に木材を? 裕太さんは林業もされているんですか?」

キョトンとした顔で質問してくるフィオリーナさん。自分の興味がある分野に集中していると、だいぶ警戒心が薄れるようだ。

「いえ、林業ではなく迷宮の山岳地帯から大量の木材を手に入れただけですよ」

そういえば地球の三大銘木を手に入れたんだったな。図書館を造る時は家具を銘木で作ってもらうかな? マホガニーの本棚とか、なんかとっても凄そうだ。

「迷宮産の木材はかなり質が良いので、あとでマリーさんに詳しく話を聞いてみます。それで土と風の精霊術はどんなことができるのですか?」

フィオリーナさんの興味が木材から土と風に移ったので、浮遊精霊の力で無理のない範囲の能力を教えていく。

「なるほど、基本的に職人さんの領分に足を踏み入れることになりますが、加工よりも現地の土地の状況や改良の方が私の職分に役に立つように思います」

あれ? 考え込んでくれるのは嬉しいけど、既に自分が精霊と契約するならという視点で考えている?

その考えは大歓迎だけど、自分に精霊術師の才能があるのを隠さなくていいのだろうか?

まあ俺にとって好都合な流れだから構わないか。

それにフィオリーナさんが土の精霊に魅力を感じているのも理解できる。

建築家にとって土地の強弱はかなり重要だもんね。

「はっ、申し訳ありません、考え込んでしまいました。……その、実は…………私も精霊術師になれる才能があるんです」

覚悟を決めた顔をしている時に申し訳ありませんが、知っています。

でも、この雰囲気だと知っていると言わない方が良いんだろうな。メルと目を合わせ、コクリと頷く。メルの察しの良さはとても助かる。

たぶん俺が居ない間に、メルが精霊術師の利点をしっかりアピールしてくれていて、フィオリーナさんの才能についても上手く話を合わせて興味を持たせてくれていたのだろう。

「なるほど、フィオリーナさんが知りたいのは、どのようにして精霊と契約するのか、契約したらどのように術を使うのか、その辺りでしょうか?」

隠し目的として、美人精霊建築家に俺の弟子になってもらい、精霊術師の地位向上と楽園の村の建物の管理なんかもお願いしたい。

「はい。今まで精霊術師の才能は隠してきたのですが、メルさんから今精霊術師の技術が上がり迷宮都市で立場を築きつつあることを聞きました」

メル、ナイスアピール。

「しかも、その力は身の守りにも大きく貢献してくれると。精霊術師の才能を負担に思い隠してきた身で恐縮ですが、精霊術師としての力を得たいと思っています。ご協力願えませんか?」

ああ、警戒心がハリネズミのようなフィオリーナさんが、意外と簡単に乗り気になったなと思ったが、身の守りという点にも魅力を感じたのか。

色々と身の危険を感じて護衛まで配置されているフィオリーナさんだから、危険から身を守れるというのは大きな魅力になるのだろう。

「もちろん協力するのは構いませんが、どの程度の精霊術師になりたいかで訓練の内容が変わってきますね」

「どの程度というと?」

「そうですね、先に色々と詳しく説明しますね」

まず、野良の精霊術師、これは問題が多々あるのでお勧めしないことを伝える。

続いて精霊術師講習の修行方法を説明する。これは融通が利かないが、数日の講習で詠唱や動作が必要だが、ある程度身を守れて少しは建築に関係する能力を得ることができることを伝える。

そして最後に、正式に俺の弟子になることについての説明。

俺の弟子という言葉で、フィオリーナさんの警戒心が急上昇したのが分かった。師匠権限で色々と嫌らしいことをされることを警戒したのだろう。

フィオリーナさんの男性不信は根が深い。

でも、この男性不信を乗り越えないと、フィオリーナさんを精霊術師のインフルエンサーにするのは難しい。

だが、王都に美女で精霊建築家なフィオリーナさん、迷宮都市に可愛らしい精霊鍛冶師のメル、そして自由に行動する美女精霊術師のジーナ、将来は美男美女が約束されていそうなサラ、マルコ、キッカ、精霊術師の発展の広告塔としてかなり強力な布陣になるので頑張りたいところだ。

「だいたいこんなところですね。選ぶのはフィオリーナさんですから、よく考えて決定してください」

俺の弟子になるメリットは精いっぱい伝えた。

人事を尽くして天命を待つというし、あとはフィオリーナさんの決断に身をゆだねよう。

「あの、お師匠様」

「ん? どうしたのメル? もしかして何か補足の必要がある?」

言い忘れたことがあったかな?

「あの、言葉だけでは伝わり辛いので、実際にどのようなことができるのか実演しながら説明したほうが良いのではないでしょうか?」

……メルの言うことも一理、いや百理くらいある。全然人事を尽くせていなかったな。

それにしても俺、今回かなり頑張っているな。

相手が男だったら、絶対に最初の方で見切りをつけているよな。結局俺は美人で母性が豊かな女性に弱いということか。凄く単純だ。